作品タイトル不明
『無限ガチャ』コミックス11巻発売記念SS もふもふカフェ?
「ユメ姫様、ナズナ様、ご機嫌麗しゅうございます」
『奈落』最下層、廊下。
『UR 雷鳴の統括者 ウルシュ レベル5000』が歩いていると、ユメとナズナが手を繋ぎ、アイスヒートを従えて移動中だった。
ウルシュは自身より上位者であるユメのため、廊下の端により、通路を空けると頭を垂れた。
ウルシュの見た目は尖った大きな耳に、つぶらな瞳、短い足。胴が長い犬だが、頭部に天使の輪が浮かんでおり、ただの犬ではないことが一目で分かる。
ただ、その天使の輪すら彼の可愛さを引き立てる一要素にしか過ぎなかった。
だが、見た目は天使の輪を持つ可愛らしい犬だが、雷系攻撃魔術を極めた魔術師犬である。
『禁忌の魔女』エリーですら、雷系攻撃魔術においては一目置く人物だ。
なおかつ声が渋く格好いいため見た目とのギャップがあり、『統括者』の名の通り、他者の管理、指示、動かす技能にも長けているため『奈落』ダンジョンの管理統括を任せられていた。
『奈落』最下層でも、皆から敬意を払われている人物の一人なのだが……。
見た目が天使の輪があるコーギーのため、お座り、頭を下げる姿はまるで、主人から撫でられるのを待つ愛犬のように見えてしまう。
ユメとナズナはその見た目、もふもふに両指をわきわきさせながら、思わずウルシュに近づいた。
二人は思わず彼を撫でてしまう。
「ウルシュさん、やっぱりもふもふで気持ちいい!」
「ウルシュはもふもふで撫で心地が良いな! この撫で心地はもふもふの中でも上位だぞ!」
「…………」
ユメが遠慮がちに、ナズナは一切手加減なくもふもふを堪能。
そんな二人を背後に控えるアイスヒートが羨ましそうに眺めていたが、堪えるように我慢していた。
ウルシュはアイスヒートの態度に気づき、気を利かせる。
「アイスヒート様も遠慮無く撫でてくださって大丈夫ですよ?」
「……いえ、仕事中なので」
アイスヒートは葛藤しつつも、欲望に負けず、ライトに任された仕事を優先した。
ウルシュをもふもふする欲望より、ライトへの忠誠心が勝ったのだ。
ユメとナズナが満足するまで一通りもふもふすると、ウルシュにお礼を告げつつ去って行った。
撫でられて毛並みが若干乱れたウルシュだったが、自身で毛繕いしつつ身だしなみを整え直す。
その最中、彼の頭に天啓が舞い降りる。
「……これは意外と使えるかもしれませんね」
ウルシュは身だしなみを整えると最初の用事を済ますため再度、動き出した。
仕事を終えた後、思いついた案をライトに提出するため書類仕事に取りかかることを脳内にメモするのだった。
☆ ☆ ☆
「『配下モンスター達を雇用し、ストレス軽減を主目的にした憩いスペースの創造』をしたい?」
『奈落』最下層、執務室。
ウルシュがライトに提案を纏めた書類を提出した。
ライトが思わずタイトルを読み上げてしまった。
彼はページを捲り内容を確認していく。
暫しの間、執務室に紙がめくれる音だけが響いた。
「なるほど……普段、仕事がないアオユキのテイムモンスター達に仕事を与えつつ、『奈落』最下層メンバー達とのコミニュケーション、ストレス軽減をするための場を作ろうというのか」
「はい、その解釈で問題ありません」
アオユキのテイムモンスター……代表的なものだとフェンリル、フェニックス、ケルベロスなどは、基本暇をもてあましている。
たまに訓練に付き合ったり、抜け毛や切った爪などの素材提供、技能を使った特殊な仕事などを任されることはあってもそう多くはない。
普段は与えられたスペースでのんびりしていることが多かった。
だが、彼ら的にも『奈落』最下層に貢献するため、『何か定期的な仕事が欲しい』という訴えも上がっていた。
知能が高い故に周りが働いているのに、何もしないのは気持ちが落ち着かないようだ。
ウルシュはユメ、ナズナにもふもふ、撫でられたのと、アイスヒートが我慢している姿を見て、この『配下モンスター達を雇用しストレス軽減を主目的にした憩いスペースの創造』案を思いついたのである。
「もちろん、『奈落』最下層で働くことで強いストレスがかかるなどありえません。ですが、普段の生活を営めば、知らず知らずのうちに疲労やストレスが蓄積していくというもの。また以前、『無限ガチャ』から出た雑誌に目を通した際、『動物との接触によってストレスが軽減される』ことを知りました。故に今度も高いパフォーマンスを維持するためにも、試験的に『ストレス軽減を主目的にした憩いスペース』を作り出すのはいかがかとご提案させて頂いた次第です」
ライトはウルシュの見た目と相反する渋く格好いい声、堅い台詞回しのギャップに微苦笑を漏らしながら、了承する。
「アオユキの配下達の声は僕の耳にも届いていたよ。どういう仕事を任せればいいか悩んでいたから、ウルシュの提案はまさに渡りに船だね。この憩いスペースは許可するから、ウルシュが責任者として、とりあえず試験的にやってみて。問題なく、評判がよければ継続するということで。必要な 物資(カード) があれば遠慮無く要請してね」
「寛大なご判断、誠にありがとうございます」
ウルシュはライトの決定に、深々と頭を下げた。
その姿はやはり頭を撫でられるのを待ちわびる愛玩犬にしか見えず、ライトももふもふしたくてうずうずしてしまう。
さすがに空気を読み、この場でウルシュをなで回すマネはしなかったが。
とはいえ、こうして『奈落』最下層に『配下モンスター達を雇用しストレス軽減を主目的にした憩いスペースの創造』――もふもふカフェが試験的にオープンすることが決定したのだった。
☆ ☆ ☆
もふもふカフェ、開店初日。
早速、ユメ、ナズナが世話係の妖精メイドを連れて姿を現す。
「うわぁぁぁっ、広いね! それにもふもふのモンスターさん達が一杯いるよ、ナズナちゃん!」
「だな! おお! テンションが上がるぜ! 全員、もふもふしような!」
「うん! 全員、もふもふしようね!」
「ユメ様、ナズナ様、お気持ちは分かりますが、はしゃぎすぎてはしたないマネはしないでくださいね」
ユメ、ナズナは年相応にテンションを上げたが、あまりに高すぎるため、今回二人の世話係の妖精メイドが釘を刺した。
二人は了承の返事をすると、手を繋いで早速、一番最初のもふもふ――巨大な白黒大虎に突撃しもふもふする。
白黒大虎は人工的に作り出した芝生の上で横になり、二人がもふもふするのを待ち構えていた。
ユメは白黒大虎の大きさに若干、怯えたが、それでももふもふには抗えず膝を芝について腕を伸ばす。
「わぁ、もふもふだよ~」
「肌触りいいよな! こいつ!」
ナズナは怯えることなど一切なく――むしろ、白黒大虎の方が彼女に若干びくついていた。
そんな初めてのお客様である二人を他もふもふの毛皮を持つモンスター達が、『早く自分も撫でて欲しい』と待ち構えている。
もふもふカフェに在籍しているモンスター達は、大型のものが多いためスペースは、学校のグラウンド並に大きい。
端にはテーブル、座席スペースがあり、疲れたら座って休憩することもできる。
販売所スペースもあるため、専属妖精メイドに金銭を払えば、飲食すら可能だ。
珍しい物だと、モンスター達に与える餌まで販売していた。
「ユメ、ナズナも来ていたんだね」
「にーちゃん!」
「ご主人様ももふもふしにきたのか!」
暫く白黒大虎を撫でていると、出入り口にメイを連れたライトが姿を現した。
ライトの姿を発見すると、ユメ、ナズナが笑顔で駆け寄ってくる。
「にーちゃん、あの白黒の虎さんのもふもふがね、とっても気持ちいいんだよ! にーちゃんも撫でてみて!」
「妹様の言う通り、本当にもふもふなんだぞ!」
「そうなの? それじゃ折角だから、僕も撫でてみようかな」
ライトはユメ、ナズナに両側から手を引っ張られて、白黒大虎へと近づいていった。
ライトが来たことで責任者であるウルシュが挨拶に出向こうとしたが、彼は空気を読み黙って三人を見送った。
こういう自然な気配りができるのがウルシュの美点である。
ユメ、ナズナにうながされて、ライトが白黒大虎を撫でる。
「わぁ、本当にもふもふで気持ちいいね」
「でしょ?」
ユメが自慢気に笑みを零した。
他モンスター達が、ライトに撫でられる白黒大虎を羨ましそうに眺める。
「ご主人様! こいつももふもふで気持ちいいけど、フェンリルやフェニックス、ケルベロスなんかももふもふで気持ちいいんだぞ!」
「そうだ! にーちゃん! 前にも話したけど、フェニックスさん、ケルベロスさんももふもふで気持ちいいんだよ!」
ナズナの提案にユメが同意し、ライトの手を掴み立ち上がらせ、引っ張り出した。
ライトは実妹、妹分に引っ張られ、微苦笑を零しながら、二人に付き合う。
そんな光景をウルシュ、メイ、妖精メイド達が尊いものを見るように眺める。
「この光景を見られただけで、『もふもふカフェ』を立ち上げて良かったです。苦労が報われた思いです」
「……ウルシュ、ご苦労様です」
メイはウルシュの渋く格好いい声で『もふもふカフェ』と口にされて、非常に強い違和感を覚えた。
しかし、それをまさか指摘する訳にはいかず、若干の間を置いて返事をした。
実際、ライト、ユメ、ナズナがもふもふモンスター達と戯れる姿が非常に尊いものだった。
こうしてライト、ユメ、ナズナが満足したこともあり、『もふもふカフェ』は『奈落』最下層で正式採用されることになったのだった。