作品タイトル不明
『無限ガチャ』9月9日アップシナリオ
「エリオ殿にこの村の村長の座を譲ろうと思う」
「村長!?」
とある日、壊れた自宅を撤去後、建てられた豪華な新築のエリオ(巨塔教の聖女に認定された村娘ミヤの兄)邸に、彼が住む村の村長がわざわざ足を運ぶ。
エリオはテーブルに座った村長にお茶を出した後、用件を聞いた。
その用件は村長を譲るというものだ。
エリオは慌てて尋ねる。
「村長を譲るとはどういうことですか!? 村長はまだ引退するほど年老いてはいませんし、後を継ぐ息子さんも居ますよね? なのに自分が継ぐなんて……ていうかエリオ『殿』って。つい最近まで『くん』で呼んでいましたよね?」
「……エリオ殿、韜晦せずともいい。頭の良い君なら私が村長を譲ろうとしている理由も理解しているだろう? むしろ、あんなことがあった以上、君以外、この村の村長に相応しい者などいないよ」
「…………」
村長の指摘にエリオは思わず黙り込んでしまった。
彼自身、村長が言わんとすることが分かっているからだ。
では村長の言う『むしろ、あんなことがあった以上』の『あんなこと』とはいったい何か?
――時間は少々戻る。
☆ ☆ ☆
エリオが村の防衛リーダーで訓練指導員として若者達を指導していると、『聖鎧の勇者』と名乗る者が上空にあらわれた。
『聖鎧の勇者』モザは、『邪教聖女ミヤを出せ、匿っていないか?』と因縁を付けてきた。
エリオが代表して妹ミヤが戻って来ていないのと、匿っても居ないことを告げたが、彼は納得しなかった。
結果、村を襲い出したのだ。
エリオは防衛リーダーとして村の若者達を従えて対抗するが、レベル、所持するマジックウェポンの力、どれも相手が上。
一方的に攻撃されるだけだった。
そのせいか途中でエリオは意識を失う。
気づけば、『聖鎧の勇者』モザはその姿を消し、近くの平原はぼこぼこで激戦を思わせる痕だけが残っていた。
さらに傷を負った者達がいたはずなのに、気づけば治癒されていた。
村の建物が一部壊れ、吹き飛ばされた破片が畑をぐちゃぐちゃに、家畜小屋にも当たったらしく家畜の一部が死亡していた。
しかし逆に言えば被害はそれだけ。
村人に死者どころか怪我人すらいなかったのだ。
「いったいどうなっているんだ?」
エリオは首を傾げるが、スズの魔弾で眠らされた彼が、真実を把握することは不可能だ。
困惑しつつも、とりあえず、村人の安否確認、無事な建物が本当に問題ないかのチェック、被害状況の確認などやることは山積みだ。
エリオ達は困惑しつつも、自分達が出来ることをやるため動き出す。
翌日、昼過ぎ。
『聖鎧の勇者』モザに壊された村の復興中、エリオの知り合いが妖精メイドを従えて顔を出す。
「我輩は『黒の道化師』パーティーのゴールドという者だ! エリオ殿はいらっしゃるだろうか!」
「ご、ゴールドさん!?」
村人達は突然の来訪に混乱しながらも、エリオが代表して顔を出す。
聞き覚えの声のとおり、尊敬している師匠であるゴールドが村の外に立っていた。
その背後に、赤と青の髪色にメイド服姿のアイスヒート、他妖精メイドが控えていた。
アイスヒート、妖精メイド共に地上では見ない美女と美少女で、エリオや若者達は例外なく見惚れてしまう。
ゴールドが咳払いをして、エリオに対して簡単に説明する。
現在、エリオの妹ミヤは『巨塔街』に居る。
彼女とクオーネが身を挺して、『巨塔の魔女』が自称勇者達に狙われていることを知らせにきた。
お陰ですぐさま対勇者体制を取ることが出来た。
この村を襲った『聖鎧の勇者』を倒したのも『巨塔の魔女』の配下。
他の自称勇者達も倒し済み。
もう村、ミヤ達を襲う者はいないので安心して欲しい。
またミヤの功績を讃えて、『巨塔の魔女』が村の復興支援に乗り出した。
ゴールドはエリオと顔見知りのため、警戒を解くための要員として冒険者ギルド経由で『巨塔の魔女』に同行を依頼された。
ダーク(ライトの偽名)とネムムは別件で動いているため不在。
ゴールドの後ろにいるメイド達は、『巨塔の魔女』によって派遣された復興支援隊だ。
以上がゴールドの説明だった。
ゴールドの説明を受けると、エリオはとりあえず納得し、村の代表者に彼らを会わせるため村へと入ってもらう。
エリオの案内で村長宅へ代表者としてゴールドとアイスヒートが足を踏み入れる。
妖精メイド達は村の外でとりあえず待機。
村長の許可が出たら、すぐさま復興支援活動をおこなうつもりだ。
村長宅に入るとテーブルを挟み、村長とエリオが、反対側にゴールド、アイスヒートが座った。
そして、ゴールドが先程エリオにしたように説明をおこなう。
説明を終えると、村長が頭を下げる。
「まさか偽勇者から村を守って頂けただけではなく、復興支援までして頂けるとは、『巨塔の魔女』様にはなんとお礼を言えばいいのか」
「お気になさらず、むしろお礼を言うのはアイスヒート達側です。ミヤ様の献身的行動がなければ何も知らず偽勇者達に『巨塔』を攻められていましたから。これはあくまでミヤ様に対して少しでもお礼を返すための行動とお考えください」
実際はミヤ達の警告がなくても、ライト達は偽勇者達の情報をすでに握っていた。
しかし、そのことを口にして、復興支援を受けるのが申し訳なく思われ、拒絶されても面倒だ。
なので、アイスヒートは微笑みを浮かべて当たり障りのない台詞を口にした。
第一、ライト側からすれば村への復興など、労力など微々たるもの。
むしろ彼からすればお世話になったミヤ、エリオの故郷の復興支援ができないほうが精神的ストレスが強くなる。
――またある意味、ライト自身、もう自分には故郷がない。ミヤ達の故郷を無意識に自分の故郷に重ねている部分もあるのだろう。
話を戻す。
この台詞に、村長は感激して再度深々と頭を下げる。
「ミヤちゃんの献身には私自身、頭が下がります。また『巨塔の魔女』様のお慈悲にも。『巨塔の魔女』様にはどうか村人一同感謝しているとお伝えくださいませ」
「必ずお伝えします。では、こちらが復興支援の目録になります。どうかご確認くださいませ」
『!?』
アイスヒートはアイテムボックスから復興支援の内容が書かれた紙を村長側に渡す。
また床には実際、復興支援金が入った中樽を置いた。
その行動にゴールド、エリオ、村長が驚き言葉を失う。
いち早くゴールドが再起動。
彼は隣りに座るアイスヒートに小声で問い質す。
(あ、アイスヒート殿!? なんですかあの復興支援金は!?)
(? 少なかったか?)
(逆です! 多すぎるのですよ!)
(支援金の金額は、ご主人様が ユメ様(妹姫様) を救助のお礼に、リリスへ渡した金額を参考にして、その時の金額の三分の一程度にしたのだが……)
普通の村に人種王国の国家予算を超える大樽の三分の一を渡すなど非常識だ。
しかし、アイスヒート的には地上で使用できる金銭など、玩具と一緒。また地上の国家と村など彼女からすればどちらも吹けば飛ぶ存在でしかない。
エリーから、ライトの世話になった者がいる村の支援を任されたから、気合いを入れて復興支援に来たのだ。
ただの地上の村なら、アイスヒートは別段何も思わないだろう。
問題は他にもあった。
村長が困惑しながら尋ねる。
「あ、あのこの村を護衛するレベル3000のゴーレムとあるのですが……。なにかの冗談ですよね?」
「? いえ、冗談ではありませんよ。レベル3000程度なら今後、偽勇者レベルが現れても皆様が逃げられる程度の時間は稼げると思ったのですが……。やはりレベルが低すぎましたか?」
「い、いえ、滅相もない!」
今まで、『巨塔街』からゴーレムなどを持ち出すことはなかった。
しかし、今回の一件で護衛を考えた場合、飲食せず不眠不休でも問題ないゴーレムが一番適している。なので今回は例外として村の護衛として選出したのだ。
アイスヒートからすればレベル3000など雑魚のため、村長の言葉を誤解してしまう。
彼女の返答に村長が慌てて首を横に振った。
この一連のやりとりにゴールドが頭を抱える。
アイスヒートの地上に対する無知さが露骨に出てしまった。
(事前に我輩がチェックしていれば、こんなことにならずにすんだのが……)
しかし、復興支援金、ゴーレム、他目録も出した以上、今更引っ込める訳にはいかない。
そんなことをした場合、『巨塔の魔女』のメンツに傷が付く。
出した以上、受け取ってもらわない訳にはいかなかった。
「…………」
ゴールドがエリオに無言で申し訳なさそうに視線を送った。
エリオはゴールドの意図に気づき、頷くと村長へ促す。
村長は色々諦め、覚悟を決めて、改めて頭を下げる。
「ふ、復興支援のほど何卒よろしくお願いします……」
「お任せください。『巨塔の魔女』の名に誓って完璧に復興支援をして見せます!」
アイスヒートは張り切って笑顔で声をあげたのだった。
村長から許可を得た後、妖精メイド達を村に入れてアイスヒートは早速、復興支援に取りかかる。
壊れた建物はレベル500の妖精メイド達が人力重機として早々に撤去。
撤去後『無限ガチャ』カードで新たに建物を顕現した。
エリオの家も『聖鎧の勇者』の攻撃で壊れていたため、ミヤの功績も合わさり、他村民と違って豪華な建物が顕現された。
アイスヒートなりのサービス、気遣いだ。
ゴールドは再び頭を抱える。
『聖鎧の勇者』の攻撃で吹き飛んだ破片で死亡した家畜に代わり、こちらも『無限ガチャ』カードを顕現し補充。
地上の一般的な家畜より比べることが烏滸がましいほど色艶などが非常によかった。
後々問題が起きそうだが……。
とりあえず家畜が補充できたという事実は変わらない。
破片で荒れた畑も『無限ガチャ』カードで修復。
いざという時の治癒、非常食のマジックアイテムも補充し、防衛用ゴーレムを顕現したら復興支援完了だ。
一日どころか、数時間で終わってしまう。
この復興支援に村人達は、『巨塔の魔女』の凄さを間接的に実感した。
☆ ☆ ☆
――話は現在に戻る。
以上のことから、ミヤは『巨塔の魔女』に目をかけられている。
そんな彼女の兄を小さな村の一防衛リーダー程度に留めておくのは気まずい。
村長に押し上げるのは村の総意だった。
エリオ自身、もし自分が他村人と同じ立場なら『同じ事を言うな』と理解できるため、反論し辛かった。
(だからといって、突然、村長なんて大任を持ちかけられるなんて……)
エリオは思わず自分の胃が痛くなるのを実感してしまった。
(恐らくミヤも似たような状況に追い込まれて胃を痛めているんだろうな……)
兄妹故に、現在の妹ミヤの心情を簡単に想像することができた。
そんな妹の現状に同情の念を抱いてしまうが、現実逃避してもいられない。
とりあえず、意識を目の前に座る村長に戻し、返答をする。
「村長の言わんとすることは理解できますが……突然のお話なので、すぐに返答は難しいです。少し考える時間をください」
「分かったよ。だが、これは村の総意で反対者はいないことだけは理解してくれ」
「……わ、分かりました」
村長の言い分により一層胃が痛み出すのをエリオは自覚した。
村長が話を続ける。
「他にも村の若い娘、隣村から、エリオ殿へ嫁入りしたいという話が来ているのだが……。もし村長になるなら、独身で居続けるのも問題だし、よかったら何人か紹介したいのだが」
「申し訳ありません。自分には心に決めた人がいるので」
「そ、そうか。分かった。皆にもそう伝えておくよ」
結婚話になると、胃を痛めていたエリオは嘘のように凜とした態度で拒絶。
村長は彼の態度に押されて、それ以上の追求を諦めた。
できれば自村から、嫁を取って欲しいのだが……。とても口に出せる空気ではない。
(もし結婚するなら、スズさんじゃないとな……)
エリオは一人恋するスズの顔を思い浮かべ遠くを見つめるのだった。
「くしゅん!」
『くしゃみカ。誰カ相方ノ噂デモシテイルンジャナイカ?』
『奈落』最下層、廊下を歩いていたスズが突然、クシャミをした。
相方でマジックウェポンのロックがクシャミをした彼女をからかうように告げる。
スズは恥ずかしそうにハンカチを取り出し、鼻を押さえるのだった。