作品タイトル不明
『無限ガチャ』月一アップSS シリカとモヒカン達
「いらっしゃいま――ひぃッ!?」
「へっへっへっ……邪魔するぜ」
『巨塔の魔女』が治める『巨塔街』。
その街の中でも『ある意味有名な店舗』で店番をしていた少女――ミルクが、扉の開く音に合わせて振り返り声をかけた。
その声は途中で、悲鳴によって中断されてしまう。
原因は店に入ってきた男達だ。
男達は全員モヒカンで、サングラスをかけている。
人種だが背丈も高く、筋肉もあり、肩パッドに革の衣服を好んで身につけていた。そんな輩が5人もぞろぞろと入ってきたのだ。
彼らから撒き散らされる暴力の臭いに、店番少女は思わず悲鳴をもらしても仕方ない。
テンパったミルクは、店の奥で別作業をしている少女――この店の主であるシリカに助けを求める。
「し、シリカさん! シリカさん! ちょっと、き、来てください!」
「どうしたの? 何か問題でも――ッ!?」
呼ばれて店の奥から姿を現したシリカも、店内にいるモヒカン達に息を呑んだ。
彼女は限界まで目を開き、唇といわず、全身が震え出す。
シリカは驚きの表情を作ったまま、思わず声をあげてしまう。
「も、モヒカンさん達!? どうして『巨塔街』に!?」
「へっへっへっ……まさか俺達の事を覚えてくれていたとはな」
「ちょっと用事があって『巨塔街』に寄ったんだが、あの時、助けた奴隷少女が店の主になったって聞いて、確認のために顔を出したんだ」
「元気そうで何よりだぜ!」
「ヒャッハー!」
「? し、シリカさん、お知り合いの方達なんですか?」
彼女は従業員少女の問いに笑顔で頷く。
「うん! わたしの命の恩人達だよ!」
シリカはためらいなく、断言した。
☆ ☆ ☆
「粗茶ですが、どうぞ」
「悪いな、わざわざお茶まで出してもらって」
シリカの顔を見たモヒカン達は、店内で品物を購入後、すぐに退散する予定だった。
しかしシリカ的には命の恩人をこのまま帰すなど出来ず、二階の住居リビングに上がってもらったのだ。
テーブルにモヒカン達が詰めて座り、シリカもお茶を出した後、空いている席に腰を下ろす。
席に座ると改めて、彼女はモヒカン達にお礼の言葉とを伝えると共に頭を下げる。
「改めてあの時、わたしを助けてくださってありがとうございます。お陰でわたしは『巨塔街』に来られて、店を持ち、『巨塔の魔女』様の下で安心して暮らしていくことが出来ています。これも皆さんのお陰です!」
「俺達はただ森に落ちていた主なしの奴隷を拾って、商人に売り払っただけだ。お礼を言われることなんて本来ないんだが……」
「いえ! あのとき、皆さんが助けてくださらなければ、わたしは確実にあの森で死んでいました! お礼を言うのは当然です!」
シリカに真っ正面から否定され、モヒカン達が助けてくれなければ死んでいたと断言された。
彼らは照れくさそうに頬を掻く。
「そう言ってもらえると、俺達としても悪い気はしない。まぁ、これも何かの縁だ。もし何か困ったことがあれば、力を貸すよ。俺達の出来る範囲でだがな」
「…………」
モヒカンリーダーが代表して、彼らの心情を告げた。
この言葉にシリカは笑顔で固まってしまう。
彼女は暫くすると、再起動。
ゆっくりと唇を動かす。
「……力を貸してくださるというのは本当ですか?」
「ああ、あくまで俺達の出来る範囲だが……何か問題でもあるのか?」
シリカの真剣な声に、モヒカン達が思わず身構えた。
彼女は視点の定まらない暗い瞳で愚痴り出す。
「問題と言うほどではないんですが……。実は、気付くといつの間にかわたしのような小娘が『魔女の金庫番』という二つ名で呼ばれておりまして……。まだ経験も浅いのに、生前の父より年上の男性達に一目置かれ、自分の何気ない言動が『巨塔街』の商業に影響が出るのが、辛くて……」
「お、おう、大変なんだな」
シリカはモヒカン達は命の恩人で、『巨塔街』の住人ではないため、『もし何か困ったことがあれば、力を貸す』と言われて、ついつい甘えてしまったのだ。
日頃、溜め込んでいる愚痴を彼らにガンガン吐き出していく。
シリカによる一方的な愚痴が洪水のように吐き出された。
この愚痴にモヒカン達は、逆らわず話を聞き続ける。
彼らがシリカの愚痴から解放されたのは、暫く経ってからの頃だった。
――無事、シリカの愚痴を聞き終えモヒカン達が、店を出た。
その帰り道、彼らは自分達が宿泊する宿に戻りながら、話をする。
「しかし、彼女も色々溜まっていたんだな……」
「久しぶりに知っている顔の様子を一目見ようとしただけなのに、あれほど愚痴を聞かされるとは……」
「まぁ俺達自身、愚痴を聞くぐらいしか出来ないって言ったら、『聞いてくれるだけありがたいんです! 他の人に言って耳に入ったら問題になりますから』って」
「彼女の気持ちは分かるな。急に望んでもいない偉い立場に立たされたら、愚痴ぐらいいくらでも出てくるよ」
「しかも『魔女の金庫番』ってもてはやされているけど、別に特別な権限を持っているわけでもなし。しかも、配慮する相手が自分の父親より年上の男だろ。そりゃ色々気を遣うわな」
「かといって、商業関係の大人達も彼女を遠巻きに見ているだけで、相談に乗るわけでもないんだろ? もう少し、周囲の大人達が気を利かせて配慮してやればいいのにな」
あくまで『巨塔街』に住まない1冒険者側の意見だ。
商業側からすればまた違う言い分があるだろう。
なにより外部の冒険者、モヒカン達が口を出してどうこうできる問題でもない。
なので彼らはシリカの愚痴を聞くぐらいしか出来なかった。
……あくまで人種冒険者モヒカン達ではだ。
『奈落』最下層の住人であるモヒカン達なら話は違ってくる。
――彼らは後日、妖精メイド経由で『巨塔の魔女』エリーに時間を取ってもらえないかと連絡を取った。
話の内容は当然、『シリカについて』だ。
モヒカン達が『巨塔街』を出て、別の任務について数日後。
彼らの連絡を受けたエリーは、ようやく時間に空きが出来たので、モヒカン達に話し合いの場を設ける返答をした。
時間の指定を受けると、モヒカン達を代表してリーダーが、『奈落』最下層に一時転移。
会議室の一室でエリーと顔を合わせた。
妖精メイドの手によってお茶が並べられた後、モヒカンリーダーがまずお礼を告げる。
「エリー様、お時間を作って頂き誠にありがとうございます」
「構いませんわよ。それでお話とはいったいなんですの?」
「実はシリカ嬢についてなのですが……」
「シリカさん、ですか?」
エリーは当然、シリカが誰か理解している。
温泉を使った新しい商売を提案し、女性や子供でも出来る仕事を創造。
ライトも彼女の働きを褒めていたため、『シリカさんには今後も目を掛けていく』と彼に対して口にしたほどだ。
なので『シリカに自分が知らない所で、何か問題があったのか』と驚きの表情を作り返答してしまう。
モヒカンリーダーは、言葉を選びながらシリカの愚痴をエリーに聞かせる。
彼女がまだ少女にもかかわらず、生前の父親より年上の商業男性達に一目置かれ、その言動を注視されるのは辛いらしい。
『魔女の金庫番』と言われても、実際に後ろ盾があるわけでは無い、と。
「なのでもう少し周りの大人達が気を利かせて配慮した方がよろしいかと。優秀な少女ですから、こんなつまらないことで潰れるのは勿体ないというのもあります」
「なるほど……貴重なご意見ありがとうございますわ。確かに配慮が必要ですわね」
「おお! さすがエリー様! 分かってくださいますか!」
エリーはモヒカンリーダーの言葉を否定せず、素直に受け入れた。
彼女は何度も頷き、対処法を脳内に描く。
「むしろ、モヒカンさん達から指摘されるまで、シリカさんに対する配慮が足りていなかったことに気付いてあげられませんでしたわ。本当にお恥ずかしい……。すぐに対処させて頂きますわね」
「ありがとうございます!」
モヒカンリーダーはエリーから『どのような対処をするのか』と内容を聞かず、再度、お礼を告げて頭を下げた。
彼としても『エリーに任せておけば問題ない』と考えてしまっているのだ。
話し合いが終わると、モヒカンリーダーがお茶を飲み干し、地上にいる仲間達の元へ帰還。
エリーは早速、シリカに対する配慮のため動き出したのだった。
エリーのシリカに対する配慮はというと……。
☆ ☆ ☆
「シリカ様、今日から妖精メイドが1人、貴女様の部下として配属されることになりました。どうか手足の如くお使いくださいませ」
「……ありがとうございます」
シリカは引きつりそうになる顔を、無理矢理、友好的な笑顔にして妖精メイドを一名店に受け入れた。
なぜこんなことになってしまったのか?
今朝、訪れてきた目の前にいる妖精メイド曰く――。
本来、妖精メイドは、住人達の自立のため、店などの手伝いはしないことになっていた。
住人達の雇用を奪う意味は無いためだ。
しかし、『巨塔の魔女』が今までのシリカの功績や献身を高く評価しており、また彼女がまだ幼い少女ということもあり、後ろ盾もなく年上男性達に混じり商売をするのは『心情的に気後れする』と彼女が言っていたと耳にした。
気持ちは理解できる。
また『巨塔街』ではありえないだろうが、他領では商売敵の店に嫌がらせをする者達もおり、大人が誰も店にいないのはシリカの心情的にも負担がかかっていたのだろう。
なので今までの功績を讃えて、シリカの下に特例として妖精メイドを一名常駐させることが決定した。
妖精メイドは交代制で、シリカの一部下としてこき使って構わない。
名実ともに『巨塔の魔女』が後ろ盾についたことを表す意図もあった。
これで完全に『巨塔街』商業区のトップとなる。
「よ、妖精メイド様を部下に持つなんて! シリカさんってやっぱり凄い人だったんですね!」
「どうして……?」
従業員少女ミルクに驚かれ、褒められるもシリカ的には、さらにキリキリと胃が痛くなった。
一方、相談をして快諾してもらったモヒカン達は、既に『巨塔街』を離れているため、『巨塔の魔女』エリーの別方向に向かっている善意に苦しむシリカを知らずに『俺達、良いことをしたな』と晴れ晴れとした笑顔で地上任務に取り組んでいたのだった。