軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

生存報告短編 アオユキの休日

『奈落』最深部の一室。

デフォルメされた猫の人形や壁には猫がモデルになった絵がかけられ、テーブル、ソファーも猫足で、全体的に猫で統一された部屋だった。

当然、ベッドも猫が元になったデザインをしており、その上でモコモコとした柔らかそうな毛布にくるまった部屋の主が、ベッドから顔を出す。

「……ふにゃぁ~」

まず目を引くのは青い髪だ。

次に彼女――アオユキは眠る際には裸で一切の衣服を着ない主義のため、布団の下から体を出すと生まれたままの姿をしていた。

自室で人目も無いため、布団から抜け出ると猫のように伸びをする。

まだ眠気があるため、猫手で目元を『くしくし』と撫でだす。

青髪で幻想的なほどの美少女だが、その仕草はまさに猫だった。

「にゃぁ~……」

アオユキは眠気を引きずりつつ、近くにある畳まれた衣服、下着、タオルを手に取ると、全裸のままベッドから降りてスリッパをひっかける。

向かう先は自室にある風呂場だ。

アオユキクラスになると自室に風呂場が設置されている。

普段はさっさと顔を洗って、仕事に出るが、今日は休日。

そのためいつもより大分遅くおきて、眠気覚ましにシャワーを浴びる余裕すらある。

アオユキは優雅に、ゆっくりと眠気を覚ますためのシャワーを浴びに風呂場へと足を向けた。

☆ ☆ ☆

朝には遅く、昼にはまだ早い時間。

アオユキはシャワーを浴びて着替えた後、朝食を摂るため食堂へと足を運ぶ。

中途半端な時間だが、彼女同様休日か、仕事のせいで食事のタイミングがずれたのか、数は少ないが数人の妖精メイド達が食事を摂っていた。

アオユキは彼女達を気にせず、プレートを手に取る。

「にゃ」

「(こくり)」

『奈落』最下層はカウンター内側に居る料理人(彼もカードから排出された)に、好みの料理を注文する。

メニューも貼ってあるため、アオユキは猫語で指さし、注文した。

料理人も無口で一つ頷くと素早く作り、皿へと載せて出してくる。

今朝のアオユキの注文は、サンドイッチに、特製サラダ、グレープフルーツジュースだ。

グレープフルーツジュースだけはカードで渡された。

プレートを手に空いている長椅子、長テーブルに座る。

「にゃ~」

両手を合わせて、挨拶後、一人優雅に食事を開始。

アオユキの食べる可愛い姿を、他妖精メイド達は邪魔しないように遠くから眺めるだけに留めていた。

ここにナズナが居たら、遠慮無く声をかけて勝手に隣に腰を下ろし話しかけていただろう。

うるさいのが苦手なアオユキからすればいい迷惑だ。

「アオユキ殿、お食事中、すまぬ。だがちょうど用事があったので、声をかけさせてもらいましたぞ」

アオユキが料理人特製サラダを食べていると、ゴールドが声をかけてきた。

彼女はサラダを食べる手を止めて、ゴールドを見上げた。

彼はアイテムボックスから、猫の木彫りを取り出すと、長テーブルへと置く。

「地上活動中に、見つけたので購入した猫グッズです。約束通り、お納めください」

「にゃ!」

静かな食事を望むアオユキだったが、嬉しそうに猫グッズを受け取り声を出した。

彼女はアイテムボックスに猫グッズをしまうと代わりに『奈落』最下層通貨を取り出し、ゴールドから値段を聞き、多少色を付けて渡した。

ゴールドはお礼を告げると、『奈落』最下層通貨を受け取りしまう。

「しかし、本当によろしいのですか? 確かに地上にも猫グッズはありますが、主殿の『無限ガチャ』から出てくる物に比べたら出来はまさに月とすっぽん。あのクオリティーの品物で、地上通貨代わりに『奈落』最下層通貨で支払って頂くのは多少心苦しいのですが……」

「にゃにゃにゃ」

アオユキは『気にするな』と首を振った。

彼女は地上で冒険者活動をするゴールドに『地上で猫グッズを発見したら購入して欲しい。代金は「奈落」最下層通貨で支払うから』とお願いしていたのだ。

主であるライトや、あまり会話をしたことがないネムムに頼む訳にもいかず、結果、ゴールドに依頼したのだ。

ゴールド的にも、地上の市場で酒の肴、珍味探しは趣味のため、そのついでに猫グッズを発見、購入するのはたいした手間ではない。

とはいえ、地上の品物のため彼の指摘通りクオリティーは低い。

今回の猫グッズも農民が暇つぶしにあつらえたような木彫りだ。

それでも猫グッズコレクターであるアオユキ的には味があり、彼女的には珍品扱いだった。

他にも今まで絵、ハンカチの刺繍、木製椅子に彫り込まれた子猫など、発見、購入してはアオユキに渡していた。

「アオユキ殿が満足しているなら、我輩が口を挟むことではないな。失礼。では、我輩はこれで。また猫グッズを発見したら購入しておきますゆえ」

「にゃ!」

一礼し去るゴールドの背に、アオユキは『次回も頼む』と言いたげに声を上げて見送った。

そのままアオユキは食事を終えると、早速自室へと戻り、ゴールドから購入した猫グッズの木彫りをアイテムボックスから取り出し、並べる。

「にゃ~」

最初は木彫りを金属猫グッズコーナーに置いた。

次に猫のぬいぐるみなど柔らかい物が多い箇所に置く。

腕を組み、距離を取って眺めるが……。

いまいち納得できず、彼女は再び木彫り、金属猫グッズコーナーに戻した。

「にゃ!」

やはり素材的に、この場所に置くのがベストだと判断したようだ。

猫グッズの位置も決まった所で、ベッドに向かいダラダラと横になる。

気付けば、目をつむって寝落ちしてしまう。

「ふにゃぁ~……」

数時間後、アオユキは起きて再び体を猫のように伸ばした。

お腹がすいたので、昼食――というには遅い食事を摂りに、食堂へと向かう。

食事を終えると再び自室に戻って、眠る――のではなく、アオユキはテイムしたモンスター達が過ごすエリアへと向かう。

元々『奈落』ダンジョンは、洞窟型だった。

そこで、ダンジョンコアを解析後、ライト達が過ごしやすいように手を入れ出す。

アオユキが配下にしているモンスター達も、彼らが暮らしやすいように大幅に部屋を拡張し、『禁忌の魔女』エリーの魔術によって森、草原、川、沼、滝などを作り出した。

さらに『無限ガチャ』カードによって疑似的な太陽まで作りだし、時間になれば夕方、夜にすらなるようになっている。

そんな部屋にアオユキがモンスター達と遊ぶため顔を出したのだ。

「にゃー!」

アオユキが部屋に到着すると、大声をあげた。

暫くすると……フェンリル、ケルベロス、フェニックスなどモンスター達が、嬉しそうに駆け出し、顔を出す。

彼女を見つけると、体躯を彼女へと擦りつけ喜びを表現した。

アオユキは小柄ながら、フェンリルなど巨大な体躯にすり寄られても身じろぎせず、彼らの甘えを受け止める。

一通り、甘えを受け止めると、アオユキは声をかける。

「にゃ!」

自分を指さし、次にフェンリル達、最後に森などが広がる部屋を指さす。

『わふん!』

『ワォン!』

『クェェ!』

他配下モンスター達が『了承』を告げるように鳴いた。

声を収めると、アオユキは軽く準備運動をし、体をほぐす。

ほぐし終えると、彼女は森が広がる部屋の奥へと走り出した。

まだ本気ではないが、その速力はとても早くあっという間に小さなアオユキの体は森へと入り、隠れてしまった。

アオユキが駆けだして、きっちり10秒後――。

『わふぅぅぅんッ!』

フェンリルが代表して、遠吠えを上げると配下モンスター達は一斉にアオユキの後を追いかけて駆け出す。

配下モンスター達は誰もが全力で、アオユキの気配を探り、仲間達と連携し、彼女を追い込もうと動く。

早い話が『鬼ごっこ』だ。

ただしアオユキが逃げて、配下モンスター全員が鬼という変則的な『鬼ごっこ』だが。

一応ルールとして、攻撃はせず、体に触れられたらアウト。

地形を変えるような行動はしないなどがある。

下手に地形を変えるような攻撃をしたら、その修復が面倒なためだ。

最悪、『無限ガチャ』カードを使用するか、エリーに頭を下げて修復してもらう必要がある。

アオユキとしては、こんなことで『無限ガチャ』カードを使用するのは馬鹿らしく、ただでさえ忙しいエリーに迷惑をかける訳にはいかない。

結果、気付けばそういうルールが出来たのだった。

『クェェ!』

フェニックス達、空を飛べる者達が上空から眺め監視、アオユキの痕跡を探った。

森の中頃に微かな尻尾の端を捕らえたので、下で包囲網を縮めるがごとく動く仲間モンスター達に声をあげて知らせる。

その知らせを聞いたフェンリル、ケルベロス、他モンスター達が連携して木々を倒さないよう気をつけつつ、現場へと向かうが、

「にゃ~」

アオユキは挑発するかのように隠れるどころか、その身をさらす。

「ワン!」

ひと鳴きし、フェンリル達が突撃する。

ケルベロスが後方へと回り込み、フェンリルと挟み込むように追い詰めようとするが、

一瞬、木々によって姿を視界から遮られると、そのままアオユキは姿を消してしまう。

フェンリル達が、驚愕し、困惑しつつも匂いや視覚、聴覚、気配からアオユキを探るが……どうしても見つけられない。

『ガウガウ!』

真っ白な体躯の白虎の雄叫びが響いた。

別働隊として、森出入り口に控えていた白虎が『アオユキ発見』の報を告げたのだ。

ついさっきまで目の前にいた筈なのに……。

フェンリル達がすぐさま引き返し、森を出ると、平野を全力で逃げ、白虎達の突撃を文字通り紙一重で回避するアオユキを発見。

加勢するためフェンリル達も突撃する。

「にゃ~」

アオユキはフェンリル達が加勢することに気付くも、危機感を募らせるどころか、挑発するような声を漏らす。

『ワフン!』と、下手な挑発に乗って突撃しないよう注意を飛ばしつつ、フェンリル達は有機的に動き、包囲網を縮めるが、アオユキを捕らえることは出来なかった。

そのまま彼女は川を飛び越え、大部屋を縦横無尽に走り回るのだった。

☆ ☆ ☆

鬼ごっこが開始して数時間後……。

「にゃぁ~」

『いい汗を掻いた』と言いたげに、アオユキは一人、汗を拭う。

その彼女の側に、バテて体力を使い切ったテイムモンスター達が息も絶え絶えに倒れている。

「あ、あのアオユキ様、皆様のお食事をお持ちしたのですが……」

「にゃ、にゃにゃにゃ!」

夕食の時間になったので、妖精メイド達が、テイムモンスター達の食事を持ってきた。

しかし、モンスター達は全員息も絶え絶えでバテているため、このまま食事を与えていいか迷い、アオユキに声をかけたのだ。

彼女は『問題なし。いつも通り対応頼む』と言いたげに声を上げると、その場を妖精メイド達に任せて部屋を後にする。

彼女も体を動かし、お腹が減ったので夕食を摂ろうと考えたのだ。

だが、汗を掻いたため先にお風呂に入ることに。

部屋のお風呂で汗を流すのもありだが、気分的に大浴場に入りたくなる。

アオユキは着替えとタオルを手にすると、大浴場へと足を向けた。

「おっ、アオユキじゃん! アオユキも風呂に入りに来たのか!」

「こら、ナズナさん! ちゃんと肩まで浸かって100を数えるまで上がってはダメじゃないですか」

「いいじゃん、ちょっとぐらい!」

先に『奈落』大浴場女湯へ入浴していたナズナが、アオユキの姿に気付き、ちょっかいをかけるため立ち上がろうとしたが、一緒に入っているエリーに止められた。

彼女はまだ風呂に入って、しっかり体を温めるため100数えていない。そのせいでエリーに止められたのだ。

「…………」

アオユキはナズナに声をかけられ、その存在に気づくも、一瞥して反応せずシャワー室へと入る。

まず入浴前に体を流そうとしているのだ。

しっかりと体を流した後、気配を消しつつ、ナズナの視界に入らない風呂場を選びその身をお湯へと沈める。

「にゃぁ~……」

頭にタオルを乗せて、両手両足を投げ出し、お湯の温かさに身を任せた。

口から自然と気が抜けた声が漏れ出てしまう。

同じお風呂に入浴する妖精メイド達がちらちら見てくるが気にしない。

視界の端でメイが、アイスヒートを連れてサウナに入って行くのを目にする。

「にゃ……」

一度、アオユキもメイの勧めでサウナに入ったが……。

熱い空気の中、じっとしているのは性に合わず、早々に出てしまった。

ナズナと同じ意見になるのは業腹だが、どうもサウナは苦手だった。

そんな事を考えつつ、しっかりお風呂を堪能した後、上がって着替えて夕食を摂りに食堂へと向かった。

夕食の時間がやや遅かったせいで人気が少ない。

アオユキ的にはちょうどよく静かに食事を楽しむ。

食事を終えて、自室に戻ると、ベッドに体を投げ出す。

「にゃぁ~」

お気に入りの猫人形を抱きしめて、ベッドの上でゴロゴロ寝転がる。

アオユキ的には至福のひとときだ。

他にも猫グッズを眺めたり、位置を変え、いじったりして楽しむ。

「ふみゃぁ~」

眠気が押し寄せあくびが漏れ出た。

アオユキは自然に任せて、そのまま明かりを消して、衣服を脱ぐとベッドへ潜り込む。

素っ裸で布団にくるまりながら瞼を閉じた。

敬愛するライトと顔を合わせることはなかったが、なかなか充実した休日だったと満足気に一日を振り返る。

そのまま眠気に任せてアオユキは、夢の中へと落ちていく。

こうしてアオユキの休日が終わりを告げるのだった。