作品タイトル不明
生存報告短編 今日のおやつは?
「う~~~ん……」
『奈落』最下層、購入売店の店内。
甘味類が置かれた棚を前にナズナが腕を組み頭を悩ませていた。
今日、食べるおやつを何にするのか考えているのだ。
「昨日は生どら焼きだったし、その前はチョコケーキだったからな……」
ナズナを含めて『奈落』最下層に所属するメンバーは賃金を受け取っていた。
当然、地上では使えない『奈落』最下層の独自通貨だ。
基本的に購入売店で、お菓子、酒、食料品、娯楽品など個々人が好きな物を買っている。
ナズナも渡される賃金から毎日、好きなおやつを購入して食べていた。
『欲望のままに散財したら、怒られる』という常識はあるため、一日に自分で決めた金額しか使わないようにしていた。
当然、1日で使える金額は小さくなり、無駄遣いなどできない。
その日の気分にあったおやつを購入しなければ、『おやつ選びに失敗した』という残念な気分で過ごさなくてはならなくなる。
故に、この選択は彼女にとって非常に重要だった。
ナズナは戦闘さながらの真剣な表情でカード化されたお菓子類を見て回る。
「う~ん、どれも美味しそうだけど、気分じゃないんだよな……」
だが、今日に限ってはどのお菓子も気分的にいまいちで、『これが食べたい!』という直感が働かない。
『そんな日もある』と割り切って、適当に選んでもいいが……。
「落ち着けあたい。投げやりになって適当におやつを選んだら絶対に後悔するからな! 今、あたい自身、どんなおやつを食べたいかしっかりと考えないと!」
面倒になって適当に選びそうになる気持ちを抑えつけ、ナズナは棚を見て回った。
ふらふらと回遊魚のように棚を見て回っていると――彼女の目にとあるカードが引っかかった。
「!? これだ! 今日はあたい、これをおやつにしよう!」
ナズナの直感が『ピン!』と働く。
彼女は笑顔でカードを手に取ると、レジへ向けて上機嫌に歩き出した。
では、ナズナが選んだ今日のおやつはというと……。
『奈落』最下層、食堂。
長椅子にテーブルが並び、朝昼晩になると、妖精メイド達や高レベルな者達も食事を摂るため混む。
しかし現在はお昼をだいぶ過ぎたおやつ時間。
休憩がてら甘い物を食べる妖精メイド達がちらほら居る程度だ。
別に食堂で摂らず、飲み物などをもらって自室でおやつを摂る者達もいる。
ナズナはそんな妖精メイド達に混ざってホット牛乳と、カードから顕現させた今日のおやつ……イチゴかき氷をお盆にのせてテーブルにつく。
食堂から受け取った金属スプーンを手に取りかき氷に手を伸ばす。
「くぅ~! やっぱりかき氷はイチゴが最強だな!」
ナズナは甘いイチゴ味の氷を口にすると、満面の笑みを浮かべて断言した。
さらに彼女は立て続けに、ホット牛乳を口にする。
鼻の下に白い牛乳を付けて彼女は幸せそうに己の選択を賞賛する。
「冷たいかき氷の後、熱い牛乳を飲む! 冷たいのと温かいのとのコンボが最高だな! これを選んだあたい、マジで冴えてるぞ!」
『奈落』最下層売店で、ナズナはかき氷棚に目を付けた。
そして、『イチゴかき氷を、ホットミルクと一緒に食べる』という案を思いついたのだ。
ホットミルクは食堂で頼めば無料で飲めるので、お金を使わなくてもいいというメリットがある。
他にも食堂ではコーヒー、紅茶、緑茶、麦茶、白湯、冷水などが完備されていた。
コップを返却するなら、お茶などを食堂でもらい自室へ持って行くことも可能だ。
もちろん、売店でお茶などのペットボトルなども売られているため、どちらを選ぶかは人それぞれだ。
「あれ、アオユキじゃん。アオユキも今日のおやつはかき氷なんだな!」
「にゃー……」
ナズナがアオユキの存在に気付き声をかけた。
彼女もナズナ同様、今日のおやつはかき氷気分だったらしくお盆にブルーハワイ、スプーンにホットミルクを乗せていた。
アオユキは自身の思考がナズナに似ていたのと、彼女に声をかけられたことに対して微妙な表情を作ってしまう。
ナズナはそんなアオユキの内心など気付かず、無邪気に指摘する。
「しかもブルーハワイって(笑)。かき氷の最強はイチゴ味だぞ。あたいはおやつにはうるさいからな! ちゃんとブルーハワイ、メロン、レモンなんかの全部の味を食べた上で、イチゴ味が最強だって結論を出したんだぞ!」
さらに彼女は悪意無く笑顔で語ってきた。
これにはアオユキも黙っていられず、思わず反論してしまう。
「――かき氷の味は、色と匂いが違うだけで全部同じ。人の好みに口を出す前にその貧弱な舌を改善したほうがいい」
実際、アオユキの指摘は正しい。
かき氷のシロップの味はただ色と香りが違うだけでどれも一緒だ。
目を閉じて鼻をつまんで食べたら、分かるだろう。
しかし、ナズナはアオユキの指摘に対して、
「あはははは! イチゴ味、メロン味、レモン味、ブルーハワイ味なんかが全部一緒のわけないだろ! アオユキもたまには冗談を言うんだな!」
「にゃ~……」
ナズナはアオユキの指摘を理解せず、冗談だと解釈してしまう。
アオユキは『これ以上、彼女に何を言っても無駄』という徒労感を覚え、思わず猫声で鳴いてしまう。
ナズナは楽しそうに笑顔を浮かべつつ、自身の隣を手で叩いて促してくる。
「それよりいつまでも立っていないで、ここに座れよ。一緒に食べようぜ!」
「にゃ!」
ナズナに誘われたアオユキだったが、これ以上、彼女に絡まれるのを嫌って、最初は食堂でかき氷を食べる予定だったが、自室に向かって歩き出す。
後ほどコップなどを返却すれば問題ないため、彼女は足早に自室へと向かった。
ナズナはそんなアオユキに対して小首を傾げる。
「? 食堂で食べていけばいいのに? どこに行くんだろう……まっ、いいか!」
疑問を抱いていたが途中で、かき氷を食べたい欲が強くなり、スプーンでイチゴ味の氷をすくい口に含む。
「むふうぅう! やっぱりかき氷はイチゴ味だな!」
こうしてナズナは幸せそうにかき氷を食べ続けるのだった。