作品タイトル不明
『無限ガチャ』コミックス7巻発売記念SS
「ダンジョンのマップですが、この箇所がまだ埋まっていなくて……」
「なら次に潜った時はここを中心に探査するべきだね」
とある街で、僕とネムム、ゴールドは冒険者として活動。
現在はダンジョンに潜った後、酒場で反省会と次に潜った時の指針などについて話し合いをしていた。
一通りの話し合いを終えると、僕は改めてテーブルに置かれたダンジョンマップを手に取る。
「前から思っていたけどネムムって絵が上手だね」
ダンジョンマップの線も綺麗で、地図の脇についでに採取できる薬草、苔、鉱石の絵が描かれていた。
白黒にもかかわらず、絵が上手いお陰で、どういう物か一目で理解することが出来た。
僕に褒められたネムムが笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます、ダーク様。絵が得意なのは、色々と必要なので身についているのですよ」
(なるほど絵が上手いのは『UR アサシンブレイド ネムム レベル5000』……アサシンブレイドの特徴なのか)
口には出さないが胸中で納得した。
ネムムは最高峰の暗殺者技能を持つ。
たとえば狙う相手を第三者に伝える際、口頭で説明するより、似顔絵を描いた方が伝わりやすい。
故に暗殺者技能として、絵心があるらしい。
僕が褒めたことでゴールドが興味を持つ。
「確かにネムムは絵が達者だな。面白い、どれ我輩もひとつ描いてみるとしよう!」
「ゴールドも絵心があるの?」
「いや、ないぞ。ただ面白そうだから描いてみるのだ。折角だから主もやってみるがいい。何事も経験だぞ」
テーブルにある紙を一枚手に取り、鉛筆を手に描き出した。
僕もゴールドに勧められたのと、興味がわいたので折角だからひとつ描いてみることにした。
ゴールド同様に紙を一枚手に取り、鉛筆を走らせる。
モデルはゴールド共々、ダンジョンにいた一角ウサギを描いたつもりだが……。
「さすがダーク様! 素晴らしい絵ですね。もう世界の国宝にするほどの絵ですよ! ゴールドは……それ角のウサギ? イノシシの間違いじゃない」
ネムムは僕の絵を手放しで褒め、ゴールドに対しては冷たい視線で吐き捨てた。
だが僕とゴールドの絵は正直、五十歩百歩で差がない。
あからさまな反応の差だった。
この返答の落差にゴールドが抗議の声をあげる。
「ネムムよ、感想を告げるならもう少し真面目にするがよい。それではあからさま過ぎるではないか」
「あからさまじゃなんかないわ。自分は本気でダーク様の絵が『素晴らしい』と思っているんだから。技術は確かにつたないけど、ダーク様の絵には『しっかりと絵を描こう』という心がこもっているから。自分の好きな絵柄を否定されるいわれはないわ。第一、ゴールドの場合、絵を描く時ぐらい、その邪魔な小手を外して描きなさいよ。だから、線がぶれるのよ。そっちこそやるなら真面目にやりなさい」
「まったく、そんなとってつけたような言い訳をしおって……」
ゴールドは『やれやれ』と言わんばかりに肩をすくめた。
僕は二人の反応にただ苦笑いするしかなかった。
そんな僕達が会話をしていると……。
「あれ? ダーク様達じゃないですか!」
酒場に見知った者達が顔を出した。
地上で活動しているモヒカン冒険者達だ。
どうやら彼らも偶然、この街のダンジョンに来ていたらしい。
モヒカン達は偶然地上で僕達に会えたのが嬉しくて、笑顔で駆け寄ってくる。
モヒカン達がそれぞれ、偶然街で僕達に出会えたことを喜ぶ声をかけてきた。
そのうちの一人がテーブルに広げられた描いた絵に気付き声をあげる。
「随分つたないですが……絵の練習中ですか?」
「貴様……ゴールドのはともかく、ダーク様の絵がつたないだと?」
『!?』
モヒカンが僕の描いた絵だと気付かず、口にした評価をネムムが批判と受け取り、殺気を漏らす。
レベル5000のネムムが本気で殺意を飛ばしたら、モヒカン達や他酒場に居る者達の心臓が止まりかねない。
なので当然抑えてはいるが……それでもモヒカン達を含めて、他酒場にいる客達が震え上がるほどの殺気が漏れ出ていた。
このネムムの態度にさすがに僕も口を挟む。
「ネムム、落ち着いて。そんなに殺気を漏らしたら、他のお客さん達にも迷惑だろ。それに僕の絵がつたないのは当然の事実なんだから」
「確かにダーク様の絵は技術的にはまだ未熟ですが、素晴らしい心がこもっている芸術品です! むしろ、一目で至高の芸術品だと分からない側に問題があるのですよ!」
ネムムが僕の注意に殺気を霧散させた。
代わりに頬を膨らませながら怒りを露わにする。
殺気が収まったことで、モヒカン達も冷や汗を拭う。
彼らはネムムの殺気を浴びせられたにもかかわらず、冷や汗を拭うと意見を口にする。
「ダーク様のお描きになった絵だと気付かず、批判的な意見を口にしたのは申し訳ありません」
「ですが、ネムムの姉御自身仰ったようにやはり技術的にはまだまだですよ」
「その辺りを無視してただ褒めるだけでは、いつまで経っても上手くなりませんよ。いくらダーク様が相手でも『つたないのはつたない』。その点は認めるべきです」
「頑張って努力すれば自分達程度には描けるようになります。だからここで手放しで褒めて努力をする機会を奪う方が残酷ですよ。それじゃ『優しい虐待』と一緒じゃないですか」
「ぐぬぬぬ!」
「『ぐぬぬぬ』ではないが。モヒカン達の意見の方があからさまに正しいではないか。というかお主達は絵も描けるのだな」
モヒカン達の指摘にネムムは反論できず、悔しげなうめき声しか漏らせなかった。
そんな彼女にゴールドがツッコミを入れつつ、モヒカン達がサンプルに出した自分達の絵を見せてくれる。
僕達と同じようにダンジョンのマップだったり、モンスターの姿、薬草などの採取素材など描かれている絵は多岐にわたった。
初期付近らしい絵は特徴こそ捉えているが、あからさまにつたない。
だが、最新のになると達者になって、図鑑に絵として載せても問題ないレベルになっていた。
ゴールドの言葉にモヒカン達が照れたように頬を掻く。
「ダンジョンマップもそうですが、モンスターや薬草、キノコなんかを絵で描いておくと後々見直すのに便利なもので。皆で頑張って描いたんですよ。どうしても記憶だけだとあやふやになることが多いですから」
「それに純粋に絵を描くのが楽しいんですよ。ダーク様も趣味としてかなりお勧めなんで是非」
「そうなの? でも、ちょっと描いてみたけど、僕には難しそうで……」
「なら時間が合えば俺達が教えますよ。俺達自身、最初は下手でしたけど、努力して練習したんで、効率よく上手くなるノウハウはありますから」
「ちょっと待て! ダーク様には自分が教える! ダーク様、是非この自分、ネムムをお頼りください!」
「いや、まだ主がやるとは仰っておらぬだろう。押しつけては逆にやる気を削ぐことになるぞ。それよりモヒカン達は全員エールでよいか?」
僕に絵を描く趣味を勧めるモヒカン達に、ネムムが『自分こそ教師役に相応しい』と立候補。
そんな彼女にゴールドがツッコミを入れつつ、テーブルを片付けながら、モヒカン達の座るスペースを作り、注文も尋ねた。
僕達はモヒカン達を新たに加えて趣味の話題を肴にわいわいと食事をしながら、談笑を楽しんだのだった。