作品タイトル不明
『無限ガチャ』小説6巻発売記念SS
「ナズナさんにはこっちの方が似合うかしら? でも、こちらの方も捨てがたいですわ。ナズナさんはどちらが良いと思います?」
「別にどっちでもいいよ。だいたい下着なんてどうせ見えないんだし、何を着ても一緒じゃないか」
『奈落』最下層の下着ショップにエリー&ナズナが顔を出していた。
エリーは店舗内部でハンガーに吊るされた下着を、ナズナの身体の上にかざして楽しげに選んでいた。
逆にナズナは『全然、面白くない』という思いを隠さず表す。
ナズナ的には発言通り、下着など『着られれば何でも問題ない』というのが素直な気持ちだった。
故にエリーが楽しげに自分の下着を選んでいるのが心底理解できなかったのだ。
この発言にエリーが、柳眉を逆立てる。
「何を仰っているんですの! 淑女として見えないからこそ、恥ずかしくない下着を身につけなければ駄目なんですのよ!」
「? 見えないのにしっかりとした下着を着けるって……。マジで意味分かんないぞ?」
「まったく……これだからナズナさんは放っておくことが出来ませんのよ……」
ナズナはなぞなぞの問題を出されたかのように首を傾げた。
彼女の態度に、エリーがお洒落に無頓着な妹を心配する姉のごとくため息を漏らす。
そんなやりとりをしていると、店舗に新たな客が二名、顔を出す。
「エリー様、ナズナ様、お二人でお買い物ですか」
「ケケケケケ、これはまた珍しい所で合いましたね」
アイスヒートとメラが姿を現した。
二人の挨拶にエリーとナズナも返答する。
「アイスヒート、メラ! こんにちは!」
「お疲れ様ですわ。お二人とも、下着を購入しに? あら、ですが、メラさんは確か……」
「ケケケケケ! はい、アタシはキメラですから、身体を自由自在に変化できるので下着は必要ありません。今日は暇だったので、アイスヒートの付き合いで顔を出しただけですわ」
「購入が終わったら、二人でお茶を飲む予定なのです」
アイスヒートとメラは一見すると水と油で反りが合わなそうだが、真逆すぎて逆に仲が良いのだ。
普段から、二人はよく交流したりしている。
「ケケケケケ、珍しいといえばナズナさまがこういった店にいるのも珍しいですね」
「あたいだって来たくて来た訳じゃないぞ。エリーに無理矢理連れてこられたんだ!」
メラの問いにナズナが不機嫌そうに答えた。
「ナズナさんは放っておくとただ単に妖精メイドさん達が用意した物を身につけているだけではありませんの。ナズナさんも一流の淑女になるためには、自分の目で見て、デザインを吟味し、流行を押さえて感性を磨いていかないといけませんのよ」
エリーが続ける。
「そして、たとえ他者に見られなくても自分の好みの下着を身につけた方が気持ち的に嬉しいですの。何より、もしライト神様からお声がかかった際、変な下着を身につけていたら幻滅されてしまうかもしれませんのよ! 絶対にそんな状況にならないためにも下着は妥協しては駄目ですわ!」
「なるほどさすがエリー様、素晴らしいお考えですね」
「ケケケケケ! まぁ……キメラで下着を身につけていないアタシが言うことじゃないが、確かに一理ありますね」
エリーの発言にアイスヒート、メラも同意し、深く頷く。
しかし、ナズナだけは意味が分からず小首を傾げる。
「? 別に変な下着を見てもご主人様は、幻滅なんてしないと思うぞ。ご主人様は優しいからな」
「ナズナ様、違うのです。確かにご主人様はお優しい方ですから、万が一にも幻滅などしないと思いますが……。ご主人様にそんな下着を見られるのがアイスヒート達には耐えられないのです」
「? つまり、アイスヒート達はご主人様に下着を見られたくないのか?」
「そんな訳ありませんの! ライト神様には下着を見て欲しいに決まっていますわ! むしろ、わたくしの全てを見て欲しいぐらいですの!」
「はしたないことですが……アイスヒートも、エリー様の意見に賛成です」
「???」
ナズナが『意味が分からない』と言いたげに頭上に『?』を浮かべ続けた。
途中で考えるのが面倒になったので、よく分からないが納得する。
「とりあえずあれだな! エリーとアイスヒートはよく分からない望みを持っているんだな!」
「ケケケケ! さすがナズナさま。二人の説明を聞いて、そんな意見を出すなんて……」
ナズナの出した答えにメラが、恐れおののく。
別に褒めていないのに、ナズナが得意げな顔で胸を張り出す。
「……まぁ、ナズナさんですから」
「ナズナ様らしいといえば、らしいですが……」
エリーとアイスヒートもこれ以上説明してもナズナに通じないと理解し、微苦笑を浮かべ話を打ち切ってしまう。
――この時、ナズナがしっかりと理解するまで説明していれば、悲劇が起こらなかったもしれないが。それを言い出したら切りは無い。
その後、エリーとアイスヒートが、今年の流行の下着について意見を楽しげに交わし、ナズナとメラは二人の買い物を雑談しながら待ち続けたのだった。
☆ ☆ ☆
エリー達が店舗で話をした翌日の午後――。
『奈落』最下層執務室でライトが、お茶を飲みつつ溜まっていた書類仕事を片付けていた。
部屋にノック音が響く。
ライトの仕事を手伝っていたメイが、席を立ち、扉を少し開けて対応。
扉の向こう側に居る妖精メイドの話を聞き終えると、ライトに告げる。
「ライト様、ナズナが面会を希望しているのですが。なんでもご主人様に『お願い』があるらしく……。いかが致しましょうか?」
「ナズナが『お願い』? ユメから何か頼まれたのかな?」
「お小遣いを使い切り、追加の打診かもしれません。その場合、安易に了承はしないでくださいね。ナズナのためにもなりませんので」
「あははは、もちろん分かっているよ」
メイの釘刺しにライトが笑顔を零す。
とりあえず、どのような『お願い』かを聞くために、ナズナの入室を許可した。
ライトの許可を受けると、扉が一度閉まった。
妖精メイドがナズナを呼びに向かう。
暫くしてノック音。
メイが扉を開くと、ナズナが顔を出す。
「ご主人様!」
「ナズナ、お疲れ様。なんでも僕に『お願い』があるらしいけど、どんな内容だい?」
ライトは席に座りつつ、笑顔で出迎えた。
(ユメと一緒に食べるお菓子を増やして欲しいのか。もしくはアオユキと喧嘩をしたから仲裁して欲しいとかかな? さて、どんな『お願い』が出るのか)
どんな『お願い』をするのかライトは内心で楽しみにしていた。
ナズナの背後でメイが控える。
もし『お小遣いの増額』などの教育に良くない願いなら、メイは叱り飛ばす腹づもりだった。
しかし、二人の予想をナズナは斜め上に裏切る。
ナズナがお願いを口にする。
「実は昨日、エリー達と下着を買いに行ったんだけど、エリーとアイスヒートが、ご主人様に下着を見て欲しいんだって! だから、暇な時間が出来たら、二人の下着を見てやってくれないか?」
「ぶふぅッ!?」
「ライト様!?」
「ご主人様!?」
ナズナの発言にライトがむせる。
あまりに予想外な発言に唾液が変な箇所に入り、むせてしまったのだ。
突然、むせた彼に対してメイとナズナが慌てる。
ライトは片手を上げ、むせたまま『大丈夫』とアピールしつつ、胸中で考え出す。
(下着を見て欲しいってどういうことだ? 第一、どうしてナズナがそんなことを言ったんだ? ナズナの態度から意味が分かっているとは考え辛いし……。そんなナズナを利用してエリーとアイスヒートが僕に催促した? でも、エリー達の性格上、そんなマネをするとは到底思えないし……。つまりナズナが勝手に暴走して発言しているだけかな。だとしたら、どういう返事をすればいいんだ?)
レベル9999の能力を駆使して、高速で頭を回転させた。
「ご、ご主人様、本当に大丈夫か? 赤い顔で黙り込んじゃうし……」
「いや、それは、その……」
「ナズナ……少々お話があります」
「め、メイ!? どうしてあたいを糸で拘束するんだ!?」
ナズナが顔を赤くして黙り込み考え込んだライトを心配すると、メイが『 魔力糸(マジック・ストリング) 』で彼女を拘束。
冷たい目でナズナを見下ろしつつ、
「ナズナ、それ以上何も言わず大人しく付いてきなさい。ライト様は何も仰らなくても大丈夫です。ナズナが口にしたことはお忘れください。後は私のほうで処理しますので」
「ええぇ!? なんで!? あたい、何もしてないだろ!?」
「いいから、来なさい。ライト様、少々失礼します」
メイは一礼すると、困惑するナズナを引きずり部屋を出て行く。
残されたライトはすぐに気持ちを切り替えることなど出来ず、暫し悶々とナズナの問いに対して考え込んでしまった。
――メイからお説教を受けたナズナは、後日、一連の話を聞いたエリー&アイスヒートから般若の形相で再度叱られた。
さすがにナズナの自業自得のため、ライトも庇うことが出来ず、ただ黙って見守ることしかできなかったのだった。