作品タイトル不明
27話 復讐の終わりと、新たな復讐相手
「『プロジェクト・アーク』。それが『P・A』の正式名称なのか?」
「はいですの。ドラゴ含めた捕らえた侵入者達の記憶を読むことで正式名称やその詳しい内容を知ることが出来ましたの」
ドラゴ達を捕らえて数日後――。
『奈落』最下層、執務室でエリーから『巨塔』に転移してきたドラゴ達を捕らえ、記憶を読んだ情報を書類と一緒に報告された。
その内容は報告を聞いても、到底信じられないような荒唐無稽な内容だった。
「『C』の魔の手から逃れるため、僕達がいるこの惑星から宇宙船に乗って脱出。宇宙にあるこの惑星と同じ住める星を見つけて移住。そこで新しく生活を築く、っていうのが『P・A』――『プロジェクト・アーク』の目的ね……」
僕は報告に耳を傾け、書類に目を通すが……正直、意味が分からない部分が多い。
惑星、宇宙船、宇宙と言われても、約三年前まで貧農の次男だった僕には、メイの進言で始めた勉強のお陰でそれらについて理解出来ても、実感としては感じられない。特に『他の惑星に移住』というのが果たして実現可能なものなのか、ということも考えるとよくこんな荒唐無稽な計画を実行する気になったものだと思う。
「正直、エリーがドラゴ達の記憶を読んで報告してくれなかったら、絶対に信用できない内容だね……」
「ライト 神様(しんさま) のお気持ち、痛いほど分かりますわ。わたくし自身、同じ気持ちですもの」
ドラゴ達を調べた張本人であるエリー自身、得られた情報に困惑しているようだ。
こんな内容だ。
『困惑するな』という方が難しいだろう。
僕は書類を捲っていく。
「……今回ドラゴ達がエリー、『巨塔の魔女』を襲撃したのは竜人帝国側についている『ますたー』達が勇者達の一件で、僕達側の戦力に恐れを抱いたのと、『C』の復活が目前と考えて『プロジェクト・アーク』を前倒しにした。結果、宇宙船に搭乗できる枠が制限されて押し出されたドラゴ達が、『ますたー』達が恐れている『巨塔の魔女』を暗殺して宇宙船の席を得たり、彼らの考えを変えようとした訳か」
もちろん、一部自分の力を示すため暗殺に乗り出した者もいるようだが。
「しかし、いくら何でもドラゴ達の策は無謀過ぎるよ。少し考えれば竜人帝国側『ますたー』達が怖れている『巨塔の魔女』という存在に勝てるわけないって分かるじゃないか。『種族の集い』時代、ドラゴはそこそこ頭が回る方だと思っていたけれど……。追い詰められていたのもあるだろうけど、ここまで馬鹿なマネをするとは」
「たとえ第三者からすれば針の穴のような僅かな隙間から漏れる光でも、当事者からすれば目がくらむほどの希望の光に見えるものですわ。そうして冷静さを失った者達はしばしば愚かしいマネをするものですの」
僕の呆れた台詞に、エリーが教訓を告げる教師のように語ってきた。
彼女の言わんとすることは理解できるが、どうしても微妙な表情を作ってしまう。
僕は書類を机に置き、呆れたため息を漏らす。
「まあ、そんな愚かしい判断のお陰で、意図せず『種族の集い』最後の一人であるドラゴを無事に捕らえることが出来たんだから僥倖と考えるべきかな。これで僕を裏切ったパーティーメンバー全員を捕らえることが出来た、と」
「おめでとうございますわ、ライト 神様(しんさま) ! わたくしも自分のことのように嬉しいですの!」
「ありがとう、エリー。無事にドラゴ達を捕らえることが出来たのも、皆の協力があったお陰だよ」
「もったいないお言葉ですわ!」
エリーは表面的な言葉でなく、心底『めでたい』と伝わってくるほど嬉しそうに祝福の言葉を贈ってきた。
僕も笑顔で答えるが、どこか気が抜けて背もたれに身体を預けてしまう。
エリーはすぐに気づき声をかけてくる。
「ライト 神様(しんさま) 、何か問題がありましたでしょうか?」
「いや、問題はないよ。ただ復讐相手である元パーティーメンバー全員を捕らえたんだと考えたら……なんだか気が抜けちゃってね」
当然未だ明らかになっていない問題は多々ある。
『C』とは、『ますたー』とは、そして――。
だが、大きな目的の一つである『パーティーメンバーへの復讐』を成し遂げてしまったせいで、ある種の目的を達成したことで気が抜けてしまったのだ。
エリーがフォローを口にする。
「気が抜けて当然ですわ。ライト 神様(しんさま) 、わたくし達にとって大きな目標の一つを無事に達成することが出来たのですもの。この機会に心と体を労るため、暫しお休みを致しますのもよろしいかと」
「休みか……それもいいかもね」
『マスター』達の脱出……『プロジェクト・アーク』の問題もあるが、ドラゴ達の記憶を読む限り今すぐ動く訳ではないようだ。
数日ぐらい休む時間は作れそうだ。
エリーの提案について考えていると、彼女が顔を赤くしながら告げる。
「で、でしたら! その際、是非、わたくしも一緒にお休みをさせて頂ければと! そしてライト 神様(しんさま) に心も、体もリラックスして頂けるようわ、わたくしが全身全霊を以て――」
「失礼します!」
ノック音の後、珍しく返事を聞かず、扉を開けメイが執務室に顔を出す。
彼女は普段から表情をあまり動かさず、感情が読めない。今回も表情は動いていないが……激怒しているのがありありと分かった。
台詞を途中で妨害されたエリーも、苛立ち声を上げそうになるが、メイがここまであからさまに激怒している事態に口を噤む。
それだけの緊急事態が起きたと理解したのだろう。
「ライト様、返答も聞かず入室したご無礼をお許しください。お叱り、罰はのちほどいかようにでも。それより先に緊急のご報告があり、ご連絡に窺いました」
「緊急の報告?」
「こちらがまとめた書類になります」
メイが手にしていた書類を僕へと差し出してきた。
受け取り、内容を確認する。
「……『プロジェクト・アーク』に搭乗できない派閥のトップ陣が、ドラゴ達の暗殺成功報告が無いことで失敗を悟り、『巨塔』に亡命してきた? って、普通、暗殺を実行した側に亡命なんてする?」
意味不明過ぎて、本当かどうか疑わしい。
先程のエリーの『たとえ第三者からすれば針の穴のような穴からの光でも~』ではないが、冷静な判断能力を失い、愚かな選択をし過ぎではないだろうか。
しかし、書類の内容を読み進めると……僕の顔色が変わる。
「……ッ!?」
「…………」
先程までドラゴ達、復讐相手を全員捕らえたことで気が抜けた僕はいない。
エリーが怯えるほどの殺気が漏れ出てしまう。
メイはそうなると事前に予想が付いて覚悟していたため、エリーほど怯えることはなかった。
僕はメイに問う。
「……この書類に書かれている内容は本当なのかい?」
「はい。非主流派閥が、私達側に対して少しでも有利になるよう彼らが手にできる竜人帝国、他国、『ますたー』関係に関するあらゆる重要書類、情報などを持ち出し提出してきました。なのでほぼ間違いないかと」
「そうか……」
気づけば僕は書類を持つ手を握りしめていた。
我を忘れそうになるほどの怒りのせいで、爪が手のひらに食い込み血が滲み滴が落ちる。
「そうか……僕の故郷を滅ぼしたのは、やはり『ますたー』だったか……。竜人帝国側『ますたー』のリーダーを務める『ヒロ』という奴が、僕のとーちゃん、かーちゃん、村の皆、故郷を滅ぼしたのか……ッ!」
僕は約三年越しに、両親を殺害し、故郷を滅ぼし、にーちゃん、ユメを苦しめた者の名を知ることが出来た。
こうして、僕の新たな復讐相手が判明したのだった。