作品タイトル不明
15話 時計屋
(まさか魔女の目の前に飛んでしまうとはな……。俺達が考えている以上に、『終末の槍』の力は絶大らしいな)
転移アイテムを 神話級(ミトロジー・クラス) 武具、『終末の槍』で強化後、使用。
予定では『巨塔』の出入り口近くに移動する予定だった。
しかし予想以上に『終末の槍』による強化が強すぎて、まさか『巨塔の魔女』本人らしき人物の目の前に転移するとは想像もしていなかった。
しかも『巨塔の魔女』は、普段被っているフードを身につけておらず、のんびりお茶を飲んでいた。
突然の事態と『巨塔の魔女』が持つ雰囲気と素顔の美しさに見惚れてしまったのもあり、ドラゴ達は攻撃に遅れ、魔女側に先手を許してしまう。
しかし、なぜか途中で『巨塔の魔女』は驚愕し、動きを一時停止。
その隙をついて魔術師竜人種が攻撃をしかけたのだ。
『巨塔の魔女』と妖精メイドをまとめて、魔術師竜人種が持つ魔術杖による魔術――その先端にあるドラゴンの骨を模した装飾が巨大化し、『ドラゴン・ブレス』を魔女達に浴びせたのだ。
普通の人種であればあの一撃で即死するのだが……。
「ヒヒヒヒヒヒ! 見たか! 儂が! 儂があの『巨塔の魔女』を殺してやったんだ!」
「……落ち着け。魔女の気配はまだする。死んではいないようだ」
ドラゴは『終末の槍』の力で強化された感覚でまだエリーが死亡していないのを理解する。
『終末の槍』を手に、他の者に注意を飛ばしつつ、注意を飛ばす。
「とはいえさすがにあれだけの攻撃を受けたのだ。相応の手傷は負っているはずだ。油断せず、逃がさず、確実に止めを刺すぞ」
ドラゴの注意に他竜人種達は頷き、素早く『巨塔の魔女』エリーが吹き飛ばされた先へと急ぐ。
ドラゴンブレスによって、『巨塔』の壁という壁が貫通し、部屋同士が繋がって大部屋化してしまう。
彼らの進んだ先に、妖精メイドをかばった『巨塔の魔女』が無傷で立っていた。
エリーが未だにその場にいるのは怪我をしたからではない。
『SSR 認識阻害フードマント』を改めて被り、かばった妖精メイドに怪我の有無を確認するのに時間を使ったからだ。
『巨塔の魔女』が何の傷もなく平然と立っていることに、さすがのドラゴ達も驚愕の表情を作る。
「!? 馬鹿な! あれだけの攻撃を受けて無傷だと! 『巨塔の魔女』はどれだけの化け物なのだ!」
「わたくしのような可憐な淑女を捕まえて、化け物なんて失礼な。わたくしが力を込めて施した魔術防御に何の影響も受けずに進入してくるほうが、余程化け物染みてますわ」
既に顔を見られているが、『SSR 認識阻害フードマント』を改めて被ったエリーが頬を膨らませて抗議した。
すぐに攻撃せず、わざわざ口を動かしているのは『鑑定』を使って彼らの情報を取得するためだ。
故にあえて茶番につきあっているのである。
お陰で有用な情報を多数手に入れるこに成功した。
(やはり見間違いではありませんでしたわね。彼はライト神様の最後の復讐相手であるドラゴさんで間違いないですわ。それに彼の手にしている槍…… 神話級(ミトロジー・クラス) !? しかもその効果はいくらなんでもえげつなさ過ぎですの! すぐにライト神様にお伝えしなければ……ッ!)
エリーが態度に出さず、内心で驚愕し、すぐさまライトに状況を伝えようとする。
それだけドラゴが持つ 神話級(ミトロジー・クラス) 武具、『終末の槍』は危険過ぎた。
しかし状況を伝える前に、目の前にいるドラゴ達が改めて攻撃態勢へと移行する。
「そうだ! 儂はついに竜人種を超えた化け物の力を手に入れたのだ! 魔女! この力を以て貴様を殺して儂こそが最も優れた魔術師だと証明してくれるわ!」
「然り! 祖国のため、我らのため貴殿の命をもらい受ける!」
「ま、まま魔女を殺して、日の当たる場所に――」
「 吾人(ごじん) の時計を壊4(し)た馬鹿者はどこだぁぁぁぁあぁッ!」
死神のような格好をしている竜人種の台詞途中、怒りに充ち満ちた『SSSR 時計屋 レベル1051』がエリー達が向かい合っている部屋に乱入してくる。
『!?』
彼の登場にドラゴ達が『巨塔の魔女』暗殺を一瞬忘れるほど驚愕し、硬直してしまう。
『SSSR 時計屋 レベル1051』の見た目は、身長が180cmと高く、細身、スーツに袖を通し、革製の手袋を嵌めている。
普段は工具がつまった金属製の箱を手に、時計を愛でるように整備していた。
格好はこの世界では異質だが、やはりもっとも目を引くのは顔だ。
時計の文字盤がそのまま顔になっているのだ。
秒針、短針、長針がこつこつと規則的に動いている。
この地上にいるどの種族にも当てはまらない異形種が突然、姿を現したのだ。
しかもどこから声を出しているのか分からないが、時計屋は激怒していた。
目の前に暗殺対象がいるとはいえ、横槍を入れる形で『見たこともない異形種』が突然全切れで登場したら、ドラゴ達が驚いてしまうのも無理はない。
反対に時計屋は、突然の爆発で時計が壊れた原因が侵入者であるドラゴ達だと瞬時に理解する。
「貴様らが爆発の原因か! 貴様達が爆発を起こしたせ1(い)でメンテナンス中の時計が床に落ちて壊れてしまったではないですか!」
『!?』
時計屋はズカズカとドラゴ達に近づき叫び続ける。
「物によって数百の部品で構築されているので時計と1(い)うのは繊細なんですよ!? 数百の部品が互いに補い、支え合い、組み合わさることで時計内部に一つの『世界』を作り出す。その精緻さがどれだけ美しいか。故に小さなゴミが一つでも入れば動作不良を起こ4(し)ます! だから時計のメンテナンスには細心の注意が必要で、完璧に作り上げられた『世界』を壊さないような繊細さが必要なのです! 2(に)も関わらず、ゴミを入れるどころか爆発を引きおこして壊すとか……ッ! 貴様ら! 常識というのものがないのか! 空気を読め! 貴様達が爆発を起こしたことでどれだけの完璧な『世界』が崩壊したと思っているのですかぁぁぁぁぁッ!」
時計屋が一方的に早口でまくし立ててくる。
時計というドラゴ達が知らない道具の話のため、ちんぷんかんぷんだが、時計屋が情熱を傾けているのはその内容から理解できたが――いつまでも話を聞いている訳にはいかない。
ドラゴが慌てて指示を出す。
「――こ、こいつの話に付き合う必要は無い。邪魔するなら魔女ごと殺せ。あくまで我々の目的は『巨塔の魔女』暗殺なのだから!」
この言葉にようやく時計屋に圧倒されていた他竜人種も意識を取り戻し、再び『巨塔の魔女』暗殺に動き出そうとしたが、既に一手遅かった。
ドラゴ達の足下に魔方陣が展開される。
エリーが床に両手で押さえつつ、時計屋を褒める。
「時計屋さん、隙を作ってくださりありがとうございますですの!」
「!? あの乱入者は『巨塔の魔女』が隙を作り出すた――」
ドラゴの台詞は途中で遮られてしまう。
先ほどまで部屋にいたドラゴ達だったが、その姿を一瞬で消してしまう。
別に倒した訳ではない。
『巨塔』地下にある訓練場にそれぞれ転移させ、隔離したのだ。
目の前から怨敵が消えた時計屋は、その原因であるエリーに食ってかかる。
「エリー様! あの外道共をどこに転移させたのですか!? 吾人(ごじん) の手で仇を討たなければ愛しい時計達が報われません!」
「今は本気で手が離せないですの。皆さん、時計屋さんを外に連れ出してくださいまし」
「さぁ、時計屋様。エリー様は現在お忙しいですから、お手を煩わせてはなりませんよ」
「は、離してください! あの外道達に天誅を下さなければ 吾人(ごじん) の愛する時計達が報われぬのですよぉおぉぉぉッ!」
エリーは食ってかかってきた時計屋を、爆発騒ぎに集まった妖精メイド達に指示を出し下がらせる。
妖精メイド達のレベルは500前後。
時計屋はレベル1000を超えているが、彼女達に暴力を振るうわけにもいかず、多数の妖精メイド達に群がられ、最終的に手足を担がれ部屋を連れ出される。
部屋に残ったエリーは文字通り手を床についたまま動けず、追加で妖精メイドに指示を出す。
「ライト神様にすぐさまご連絡を。最後の復讐相手であるドラゴさんと他竜人種が『 神話級(ミトロジー・クラス) 武具』の力を借りて『巨塔』内部に直接侵入。ドラゴさんが持っている『 神話級(ミトロジー・クラス) 武具』の力はえげつないので鑑定して必ずご確認くださいませ。また現在、彼らは『巨塔』地下訓練場にそれぞれ隔離中だと。そして、現在、わたくしが『巨塔』に直接魔力を注ぐことで転移阻止、防壁を強化し、彼らを外に出られないようにしていますの。しかし、この強化はわたくしの魔力が尽きたらお終いですわ。なのでもって数十分というところですの。なのですぐにご判断、指示を頂きたいとご連絡をお願いしますわ」
「畏まりました、エリー様」
エリーはライトに伝える内容を妖精メイドに口頭で告げる。
彼女の言葉通り、ドラゴ達を逃がさないため、エリーが直接床に手を当て、『巨塔』に魔力を注ぎ強化。
そのせいで『巨塔』そのものが仄かに光るほどだった。
妖精メイドは、エリーの指示に従いすぐさま緊急連絡用の『SR 念話』を取り出し、ライトへと連絡を取り出すが……さらに問題が発生する。
妖精メイドの一人が、部屋に駆け込んできた。
「も、申し訳ございません。怒りに震える時計屋様を取り逃しました! しかも、目撃者の証言曰く、転移した侵入者達の隔離先である地下訓練場に向かっているようです!」
時計屋は高レベルで、時計修理・維持技術を持つだけあり頭が回る。
『巨塔』内部の時計管理もおこなっているため、どこになにがあるのか分かっているという強みもあった。
エリーが侵入者を転移させる場所は地下訓練場しかないと。
エリーは床に手を突き魔力を供給しているため、痛む頭を押さえることが出来ず、眉間に皺を寄せることしか出来なかった。
彼女は一拍おいてから、指示を出す。
「……時計屋さんの件もライト神様にご報告して、指示を仰いでくださいまし」
「か、畏まりました」
妖精メイドは改めて『SR 念話』カードを解放するのだった。