作品タイトル不明
14話 侵入者
――時を少しだけ戻す。
竜人族の用意した精鋭であるドラゴ達が転移してくる少し前、『巨塔』執務室で仕事をするエリーは、思考を分割した意識で考える。
(今頃、ライト神様達は楽しくお食事会をなさっている頃ですわね。わたくし自らプロデュースした以上、ライト神様達もきっと楽しんでくださっているでしょう)
今日はライトが地上で活動する冒険者『ダーク』として、ネムム、ゴールドと一緒にドワーフダンジョンで知り合ったミヤと食事会を開く日だった。
この日のためにエリーは裏から手を回し『巨塔街』でも評判の店を押さえた。
さらに彼女が敬愛するライトが口にする食材も、『奈落』最下層から品質の良い極上品だけを選りすぐって提供している。
当然、お茶一杯に関しても、すべて『奈落』最下層の最上級品だ。
(表向き、『巨塔教』聖女ミヤさんへの配慮としていますから、店の者達を誤魔化すのが楽で助かりましたわ)
実際、ミヤは現在、『巨塔』客室で生活をしている。
当然、食事も『巨塔』内部で摂っていた。
店の者に『聖女ミヤが普段口にしている物を特別に準備した』といえば、地上に比べてどれだけ高品質でも疑われることはない。
他国を落としまくり、自称勇者さえ撃退した『巨塔の魔女』が住む(建前上)場所なのだ。
食材が地上の物に比べて圧倒的に良くても『そういう物か』と納得するのは当然だ。
(地上活動中は、どこぞの何者がどのような方法で作り出した分からない食材をライト神様が口にしなければならない訳ですが……。わたくしの目の届く範囲にいらっしゃる際は、そんなマネさせられませんわ)
さすがに、エリーでも地上で冒険者活動中のライトの食事まで手を回すことはできない。
もちろん彼女の力を使えば十全に対処できるが、そんなことをすればライトが顔を顰めるのは簡単に想像がつく。
元々彼は貧農の出で、底辺冒険者として活動していたこともある。
別に食材が高級かどうかなど気にしない。
むしろどれだけまずくても、食べられるだけありがたいとさえ考える。
にもかかわらず、非効率的で余計な横やりを入れるようなマネをしたら、彼の機嫌を損ねるのは火を見るより明らかだ。
敬愛する者の活動を妨害するようなマネがエリーにできるはずもない。
「エリー様、お茶が入りました」
「ありがとうございますわ」
分割した意識でそんなことを考えていると、妖精メイドが分かりやすい気配を漏らしつつ、エリーのお茶を運ぶ。
「あら珍しいですわね。今日のお茶は緑茶なんですの?」
「はい、たまには趣向を変えた方がよろしいかと思いましたので。お気に召さなければ変えましょうか?」
「問題ありませんわ。たまには気分を変えるのも大切なことですの」
エリーは普段紅茶などがメインだが、別にそれ以外が嫌いな訳ではない。
妖精メイドの言葉通り、たまには違う茶を飲むのも気分転換には良かった。
エリーは早速口をつける。
「味わい深いですわ」
「ちなみに緑茶の場合、茶柱が立っているとその日は良いことがあるそうですよ」
「そんなジンクスがあるんですの? でしたら、わたくしの飲んでいるカップに茶柱が立っているので、今日は良い日になりそうですわね」
「エリー様、それはフラグですよ。そういう発言をする時に限って問題が起きるんですよ」
妖精メイドのツッコミにエリーが微笑みながら、返答する。
「そんなの迷信ですわ。……ああ、でも、今日は時計屋さんが『巨塔』内部の時計チェックをする日でしたわね。問題が起きるとしたら、彼関係で問題起きそうですわね……。仕事に誇りを持つのはいいのですが、彼の場合、少々持ちすぎているのを緩めて頂ければ非常に有能なのですが……」
時計屋とは――『SSSR 時計屋 レベル1051』のことだ。
名前から分かる通り、時計に命をかけている。
『奈落』最下層、『巨塔』内部など関係者しか入れない場所には、生活がし易いように時計が設置されていた。
この時計の設置、メンテナンス、管理を担当する者だ。
彼は仕事に強いこだわりを持つタイプで、以前、ナズナが時計にいたずらをした際、レベル差など関係なく殴り、説教をしてナズナを涙目にしたこともある。
誰でも仲良くなるナズナが珍しく、距離を置いている人物だ。
その彼が『巨塔』内部に設置されている時計のチェックをするため今日は訪れていた。
エリーの言葉に妖精メイドが返答する。
「念のため他の者達にも時計屋様の邪魔をしないよう改めて念を押しておきますね」
「お願いしますわね。もしトラブルが起きたら、わたくしに連絡をくださいまし。まぁ問題が起きないのが一番なのですが」
「ですね」
エリーが執務室で、妖精メイドと一緒にほのぼのとした会話を交わす。
このまま何事も起きなければ本当に平和な一日で終わるはずだったが――。
突如、テーブル&ソファーセットを挟んだ空間が歪む。
歪んですぐに竜人種男性×4名が、姿を現した。
「え?」
「……はい、ですの?」
突然、姿を現した側の竜人種男性×4名もなぜか驚きの表情と声を漏らす。
まるで計画にない事態が起きてしまったという態度だ。
一方でエリーも、以前、元魔人王国側『マスター』ミキの潜入を許した後、念には念を入れて『巨塔街』周辺には彼女監修による魔術防御を強化した。
特に『巨塔』はライトが素顔で出入りする可能性が高い施設のため、より一層力を込めて魔術防御の強化を施した。
生半可な実力、マジックアイテムではまず突破など不可能だ。
にもかかわらず突破してきた竜人種男性×4名の姿に驚きを隠せず、反応が遅れてしまう。
だが、そこは『SUR 禁忌の魔女エリー レベル9999』だ。
驚きはしたが侵入者より早く意識を取り戻し、拘束するために先んじて動く。
彼女は執務室席から立ち上がりつつ、腕を突き出し、魔術を行使する。
「茨の束――ッ!?」
レベル9999級でも一時的に拘束が可能な 戦略級(ストラテジー・クラス) 『 茨の束縛(ドルン・フェッセルン) 』を唱えようとしたが、別の驚きに息を飲んでしまう。
(あれはライト神様の最後の復讐相手ドラゴさん!? どうして彼がここに!?)
敬愛するライトの最後の復讐相手であるドラゴが、侵入者の一人として混じっていた。
エリーの高すぎる忠誠心が『ここで彼を拘束することでライト神様の意に反する可能性があるかもしれない』という可能性を考えてしまう。
結果、拘束しようとした呪文が中断され、わずかな隙を作ってしまった。
その隙間を埋めるように、侵入者の一人である魔術師竜人種が杖を突き出し叫ぶ。
「――ドラゴンヘッド! 魔女を殺せぇぇぇぇぇぇッ!」
彼の声に反応して、杖が動き出す。
彼が手にする杖の先端には複数のモンスター骸骨が付いていた。本物の骸骨ではない。サイズも小さいし、あくまで杖のデザインとして付いているだけだ。
しかし彼の命令にドラゴンの骨が動き出し、巨大化して、エリーと妖精メイドにその 顎門(あぎと) を向ける。
「ッ!」
エリーは侵入者達の拘束ではなく、妖精メイドの命を守るための行動に切り替える。
妖精メイドの前に立ち、防御結界を展開することを選択した。
エリーの選択とほぼ同時に、巨大化したドラゴンの 顎門(あぎと) からドラゴンブレスが発射される。
エリー&妖精メイドに直撃。
『巨塔』に激しい爆発と壁が壊れる轟音が響いたのだった。