作品タイトル不明
11話 食事会前日
竜人帝国のとある一室に、抗議派と呼ばれる派閥の長3名が集まっていた。
彼らは使用人も遠ざけた一室で、ソファーに腰を下ろしながら密談を続ける。
「まさか 神話級(ミトロジー・クラス) 武具の適合者がこうもあっさり見つかるとは……。望外の幸福だな」
「これで前提条件が揃い魔女を討つことが出来る」
「まぁ……適合者は命を落とすことになるが、我々が助かるためだ。必要な犠牲というやつだな」
『終末の槍』は 神話級(ミトロジー・クラス) だけあり、その力は非常に強力だ。
しかし、その使用者は最終的に命を落とすという、文字通りの『諸刃の剣』だった。
当然、『終末の槍』に選ばれたドラゴには、その事実を伝えていない。
もし教えていたら、いくらこの星から脱出する『プロジェクト・アーク』の座席確保のためとはいえ、ドラゴは『巨塔の魔女』と戦おうとは考えなかっただろう。
抗議派トップ達は、『ドラゴ死亡は許容範囲』だと自然に納得する。
他者が自分達のために尽くす、命を落とすのは当然と考えているからだ。
「 神話級(ミトロジー・クラス) といえば、嬉しい誤算があったな」
「ああ、さすが『竜人帝国が危機に陥った際、使用するように伝わる神話級の武具』と言うだけはある。まさか派閥貴族から持ち出させた家宝の 幻想級(ファンタズマ・クラス) の武具やアイテムまで強化する力があるとは」
「ただ強化されすぎて、使いこなすのに手間取っているようだがな」
「だが作戦上、強化されるのはありがたい。皇帝陛下、ますたー共に気づかれぬよう少数精鋭を突入させることしか出来ぬからな。ドラゴを含めた4人のみというのが些か心配だ……」
「派閥内部から出させた武具やマジックアイテムの中で、戦闘に適した物があまり多くはなかったのがネックだ。とはいえ、力の無い者を送ってもドラゴ達の足を引っ張るだけだからな」
抗議派閥の作戦は至ってシンプルだ。
集めた最大戦力を『巨塔』に投下し、『巨塔の魔女』の首を討つ、だ。
大軍を動かせない以上、少数精鋭で奇襲を仕掛けて『巨塔の魔女』の首を落とすのが最も効率的且つ成功率が高い。
軍を動かせないからと言って、足手まといを中途半端な数同行させても足を引っ張るだけだ。
ならば最初から割り切って、少数精鋭で向かわせた方が作戦成功率が高いというものだ。
「ただそれだけでは不安はある……。故に例の件を進めるが問題はないか?」
「もちろんだ。この作戦が失敗した場合の保険は準備すべきだろう。反対する理由はない。むしろ当然の対処というべきではないか?」
「然り然り」
抗議派閥トップ3名が頷き合う。
代表して1人が話を纏めた。
「では、ドラゴ達の作戦が失敗した場合、『巨塔の魔女』の治めている『巨塔街』に亡命するための『手土産』を準備するということで」
「異議なし」
「もちろん、意義なしだ」
トップ三名は誰も反対せず、賛成する。
彼らはドラゴ達が魔女暗殺に失敗した場合、『巨塔の魔女』に竜人帝国やマスター側の情報を持っていって、彼女の庇護下に入る保険を準備するようだ。
――その情報が『巨塔の魔女』、そして『奈落』最下層の絶対的支配者であるライトを激怒させるものだとは、この時点で抗議派閥トップ達は誰も知るよしもなかったのだった。
☆ ☆ ☆
「ねぇ、クオーネちゃん、こっちとこっちの服ならどっちがいいと思う?」
「ミヤは可愛いからどっちを着ても似合うわよ」
「もう、そういうのはいいから」
『巨塔』客室で、ミヤは手持ちにある服を全て広げて、クオーネに意見を求めた。
明日はいよいよ憧れの冒険者ダークとの食事会だ。
兄エリオが尊敬するゴールド、妖精姫と呼ばれるほどの美貌を持つネムムも当然参加する。
下手な恰好で行けば恥を掻いてしまうため、ミヤは真剣に服装から小物までを選び抜き望むつもりなのだ。
なので第三者の意見が欲しくてクオーネにコーディネートチェックを依頼したが、彼女は『ミヤは可愛いから何を着ても、身に着けても似合うわよ』としかいわない。
あまりにも参考にならず、ミヤは頬を膨らませた。
そんな彼女に対してクオーネは笑顔で、ミヤの頬を両手で挟み、物理的に萎ませる。
「実際、ミヤは可愛いのだから、何を着ても問題ないと思うわよ」
「クオーネちゃんは友達だからそう言ってくれるけど、わたしなんて所詮田舎娘だもん。ネムムさんっていう凄い美人を見慣れているダークさんからすれば、わたしなんて……」
ミヤは投げやり気な台詞を溜息と共に漏らす。
クオーネは自分の指を顎先に当てながら、記憶を漁る。
「ネムムさんて、獣人種達に誘拐された時、遠目で見たことがあるけど……。確かにあれほどの美人はいないわね。『妖精姫』なんて二つ名が付くのも分かる綺麗さだったもの」
『でも』と彼女が続ける。
「逆にいつも側に居て見慣れているからこそ、ミヤのような可愛らしい少女が新鮮に見える可能性が高いわよ。だから、下手に気合を入れた恰好で臨む方が失敗する可能性が高いと思うの。無理して背伸びするより、自分の味を生かすべきだわ。そっちの方がダークさんをその気にさせるはずよ」
「そ、その気って! わ、わたしはダークさん達と一緒にご飯を食べるだけで、変な恰好をしたら失礼だから、頑張ってお洒落しようとしているだけで。べ、別にダークさんとの仲を進展させたいわけじゃないっていうか……ッ」
ミヤはクオーネの台詞にモジモジと両の人差し指を合わせて動かす。
そんな照れるミヤに、クオーネは笑顔で懐から一本の液体が入った瓶を差し出してくた。
照れていたミヤは、小首を傾げつつ尋ねる。
「クオーネちゃん、これは?」
「避妊薬よ」
「ひ、ひに……ッ!?」
ミヤはまったく予想外の返答に爆発したのかと錯覚するほど顔を赤くし、言葉を詰まらせた。
彼女とは正反対にクオーネは勇者達と対峙した時以上の真剣な表情で朗々と語る。
「いいミヤ。もしかしたら流れでダークさんとミヤが食事会の後、部屋で二人っきりになる時がくるかもしれないわ。その時、雰囲気に流されてコトを致すかもしれない。その時の男性が避妊薬を持っているなんて甘い考えは捨てなさい。そしてコトを致して出来てしまった場合、泣くのは大抵女性側なの。だから、恰好を気にする前に、これだけは絶対に持って行きなさい」
「そ、そんなの絶対に必要ないでしょ!? 第一、わたしとダークさんが二人っきりで部屋に居る状況ってなに!? わたしはダークさんのパーティーメンバーと食事会に行くんだよ! 第一雰囲気に流れてそ、そんなことするわけじゃないよ!」
「はぁ……。ミヤ、甘い。甘すぎるわ」
まるで戦場を甘く見ている新兵を諫める古参兵のようにクオーネは漏らす。
彼女はどこまでも真剣な表情でミヤを説得する。
「雰囲気を甘く見ては駄目よ。『雰囲気に流されて~』なんて古今東西よくある話なんだから。つまりいかに『雰囲気に流されて~』が強敵かということよ。悪いことは言わないからこれだけはお守りと思って持って行きなさい」
「そんなお守りあるわけないよ!?」
客室にミヤとクオーネの『必要ない』、『持っていきなさい』という避妊薬の押しつけあい問答が暫く響き続けたのだった。