作品タイトル不明
12話 食事会当時
「よしっ、それじゃ行ってくるね。クオーネちゃん」
「気を付けてね。ちなみに殿方を乗せるコツは、迫られた時、最初はちょっと抵抗した後、すぐ受け入れるのがいいらしいわよ。実家のお店で働いていた女性従業員が、これで旦那様を捕まえたって自慢していたわ。実戦証明された確かな手段だから間違いないから」
「きょ、今日は久しぶりにダークさん達と会った記念でお昼を一緒に食べるだけだから! そ、そんなことになるわけないでしょ!」
『巨塔』客室。
ダーク達と食事会、お昼を食べに出かけるミヤに、クオーネは親指を立て『ミヤの成功を祈っている』と言いたげな良い笑顔でとんでもないアドバイスを送る。
彼女のアドバイスにミヤは顔を真っ赤にしてその言葉を否定した。
口では否定しているが……今回、ダーク達と再会を祝い食事会を開く。ミヤは最初、気合を入れて服装を整えようとしたが、下手に凝った衣服でダークから『なんだか過剰に気合が入っているな』と誤解を受けることを嫌い、普段通りの恰好に落ち着く。
もちろん腕には彼から送られた赤いミサンガを身に着けている。
他にもいつもは傷を癒すポーションや冒険者活動に必要な小物を入れている小物入れには、クオーネから手渡された『 避妊薬(お守り) 』を入れていた。
クオーネに無理矢理押しつけられたというのもある。
しかしミヤの中でも『万が一に備えて』という感情がゼロではないため、腰から下げている小物入れに『 避妊薬(お守り) 』を忍ばせているのだ。
「もうクオーネちゃんったら! わたし、行くから!」
「はいはい、遅くなってもワタクシは先に寝ているから気にしなくてもいいから。存分に楽しんできなさいな」
「行ってきます!」
最後の最後までクオーネは彼女なりの気遣いでミヤを見送る。
ミヤは興奮か、羞恥心か、顔を真っ赤にしてダーク達と約束しているレストランへ向かい客室を出るのだった。
☆ ☆ ☆
昼になるとミヤが約束通りの時間にレストランへと到着する。
「いらっしっゃい、ミヤちゃん。わざわざ足を運んでもらってありがとう」
「こ、こちらこそお昼にご招待してくださってありがとうございます」
今回、僕達が使用するレストランは『巨塔街』でも名の知れたレストランで味だけではなく、個室ごとに区切られているため、仲の良い者達と一緒に周囲を気にせず食事を楽しむことが出来る。
当然、味もよく値段は少し高いが、『巨塔街』でも人気のあるレストランらしい。
ミヤとの久しぶりに顔合わせをするに当たってエリーが選んで、予約まで取ってくれた。
もちろん、『巨塔の魔女』ではなく、別名義でだ。
僕とミヤの挨拶が終わった後、ミヤはゴールドとネムムと久しぶりの再会を祝い会話を交わす。
一通り挨拶が終わると、丸いテーブルに座った。
僕の左右にゴールドとネムム、正面にミヤが座る形だ。
席に着くとタイミングを見計らったように食事が運ばれ、料理が並ぶ。
僕達は互いに近状を話しつつ、楽しく昼食を摂る。
「――それで、ダークさん達と出会ったあのドワーフダンジョンにいたクマ種の獣人さんに気づかれて。でもそのお陰でわたし達は匿われて、『巨塔の魔女』様と密かに連絡を取り合うことが出来たんですよ。お陰でこうして無事に『巨塔街』に辿り着くことが出来たんです」
「ふむ、我輩が『騎士道精神』を注入したあの者がまさか異国の地で、ミヤ殿達と再会し、助けになるとは……。まったく縁とは不思議なものだな!」
「ゴールドさんのお陰で本当に助かりましたよ」
「ゴールドのお陰でっていうより、ミヤ達の日頃の行いが良かっただけよ。なにより ゴールド(こいつ) を褒めても調子に乗らせるだけでろくなことにならないわよ」
「まったくネムムは、我輩の功績を素直に認められないとは……。器まで小さいとは呆れたな」
「その喧嘩買ったわ。今すぐ目の前に並ぶ料理を二度と食べられない体にしてやるから。それと自分の体型は普通くらいだって言っているでしょ!」
ゴールドとネムムは、まるでミヤ達と初めて出会って食事をご馳走になった時のような会話を交わす。
僕は微苦笑をしつつも、腰に下げているナイフに手を添えながら立ち上がるネムムを『まぁまぁ』と落ち着かせた。
彼女が改めて座り直した所で、僕は空気を変えるため話題を振る。
「でもミヤちゃん達が、女神教や勇者達に追いかけ回されていると聞いた時は驚いたよ。しかもドマスさんまで勇者達に襲われて治療院送りになったって聞いたし」
「ドマス教授には本当に頭が上がりません。ドマス教授がわたしとクオーネちゃんに躊躇いなく高価な転移アイテムを使ってくださったお陰で、こうして皆さんと楽しく食事ができているんですから」
「ドマス殿は本当に生徒思いだな。まさに教授の鏡だ!」
「ゴールドの言う通りだね。ただ……これはあくまで噂で聞いただけだけど、ドマスさん、『槍の勇者』にお腹を抉られながらも、伝説の武器の性能を確かめていたらしいね。それで『槍の勇者』すら怖がらせたとか。研究者としての熱意の高さは尊敬できるけど、もう少し自分の体を労って欲しいよね」
「あ、あははは……ど、ドマス教授らしいですよね」
僕の台詞にミヤは恩師&命の恩人が持つ常軌を逸した部分について、言葉を濁す。
今度は彼女が空気を変えるため話題を振ってくる。
「そういえば皆さん、シックス公国を訪れたことがあるんですよね? 実は兄から相談を持ちかけられていて……」
「エリオさんから?」
僕が首を傾げると、ミヤが説明する。
以前から仕送りと一緒に手紙のやりとりをしていた。
その手紙にエリオが『公国にあるという店を探している』と書いてあった。その店の特徴が『看板娘が評判の良い店』、『黒髪で姉が無口だが清楚、妹は快活で人当たりが良い姉妹』などと書かれてあったとか。
「商人を両親に持つクオーネちゃんも知らないようで。もしかしたら、公国でも『知る人ぞ知る』ような店なのかもと思って。ダークさん達は何か知りませんか?」
ミヤの問いに、僕達は思わず微妙な表情を作ってしまう。
エリオが探している『黒髪で姉が無口だが清楚、妹は快活で人当たりが良い姉妹』は、スズと背丈を縮めたメラのことだ。
『人種王国女王就任式典』で、ユメの護衛のため、スズ&メラには密かについてもらっていた。
その際、偶然、お祭りにいたエリオを僕達から引きはがすため、スズ&メラに誘導してもらったのだが……。
(ゴールドがエリオさんと顔を合わせた後、彼がスズに一目惚れしたとは報告を受けていたが……。シックス公国にある店云々も僕達が情報収集用に開いた店舗のことだし)
スズ達がエリオを引きはがした後、ゴールドが彼の宿屋に顔を出し、話をした。
その際、エリオからもスズの居場所を探している旨の話題を振られ、ゴールドは『知らない』と誤魔化していた。
なので建前上、僕達はスズのことを知らないことになっているが……。
(エリオさんの初恋って話だし、彼の気持ちの区切りをつけるためもう一度、スズと顔を会わさせた方がいいのかな?)
将来的に復讐を完了することが出来たら、『奈落』トップとして仲間達が望むのならば、恋愛や結婚などにも責任を持たなければいけないこともあるだろう。
その一端として、スズが望むのならば、スズとエリオを一度引き合わせることもありえるのかもしれない。
さすがに今すぐの話ではないが。
「? 皆さん、そのお店を知っているんですか?」
僕達の微妙な態度にミヤが首を傾げ、何か思いあたることがあるのかと問う。
僕はすぐに笑顔で誤魔化す。
「実は以前、『人種王国女王就任式典』でエリオさんと偶然再会した時、同じような質問をされて。僕達も知らなくて、でも同じ質問をされたからちょっと驚いちゃったんだよ」
「なるほど、既に兄が聞いた後だったんですね。ダークさん達と会ったなんて手紙には書いて無かったな。たぶん、そのお店を探すので頭がいっぱいで書き忘れちゃったんでしょうね」
『もうエリオお兄ちゃんったら』とミヤが駄目な兄に呆れる妹の表情を作る。
昔、僕もユメに似たような表情を作られたことがあった。
その表情は世界共通なのだろうか?
ミヤとは久しぶりの再会のため、互いに色々話すことが多く、昼食を摂り終えても皆で楽しく会話をすることが出来た。
しかし途中でミヤが『お茶のお代わりをもらって来ますね』と席を立つ。
僕は店員に声をかけて持って来てもらおうと思ったが、ゴールドからやんわりと止められた。
ミヤが個室を出た後、彼が説明する。
「彼女はお茶のお代わりを口実に、花を摘みに行ったのだ。ここは素直に任せるのがスマートというものだぞ」
「店の中なのに花を摘みに? あぁ……」
ここで僕はようやくゴールドの言わんとすることを理解した。
確かにこれを遮るのはスマートではない。
「ありがとう、ゴールド。席を外すタイミングをなくさせてしまって、ミヤちゃんを困らせてしまうところだったよ」
「何この程度のフォロー、」
ゴールドが胸を張り話す途中で、『巨塔街』全体に響き渡るような爆音が鳴る。
ネムム、ゴールドは素速く立ち上がり、僕をガードする体勢を摂る。
気配から察するに、このレストランで何かあった訳ではない。
爆発音の発生元は……『巨塔』からだ。