作品タイトル不明
10話 女子会
ミヤとシリカが、互いの誤解を解いてわかり合い、硬い握手を交わしてから数日後。
明後日はいよいよ、ミヤと『黒の道化師』パーティーとの食事会が開かれる。
今夜は気合を入れるためと、新たな友情を祝すため、二人っきりで女子会を開いていた。
場所はシリカの自室。
従業員は既に就寝し、部屋のテーブルにはツマミとお酒(蜂蜜酒)が置かれていた。
クオーネも同席したがっていたがミヤはやんわりと拒絶。
理由として――似た立場同士で愚痴を言い合いたいからだ。
『巨塔教』の布教に力を入れているクオーネにはとても聞かせられない内容だ。
気持ちよく感情を吐き出すためにも彼女の出席は望ましくない。
結果、ミヤとシリカの二人で女子会を開くことになったのだ。
二人は似たような立場同士愚痴を零し合う。
ミヤが甘い蜂蜜酒を飲みつつ、吐露する。
「クオーネちゃんは悪気はないんだろうし、獣人種さん達に監禁されていた時も、自分を支えてくれたわたしが清廉潔白な聖女に見えたかもしれないけど……。わたしだって別にあの時、余裕があったわけじゃないんだよ。ただ冒険者時代にもっと苦しい目にあったことがあるから、我慢できていただけで……。なのに『聖女』に祭り上げられたあげく、他の人達までそれに賛同するとか……」
「分かります。本当によく分かります!」
同じく蜂蜜酒を飲むシリカが、深く同意した。
「『巨塔の魔女』様に重用されることはありがたいし、行商時代、両親の夢だったお店まで持たせてもらえて本当に嬉しいですが……。別にわたしはそこまで優秀じゃないのに! なのに『魔女の金庫番』云々なんて二つ名と変な誤解が広がるなんて! わたしはただ『最初からいなかった者』にならないように頑張っているだけなのに!」
今度はミヤが何度も『分かる、分かるよ、シリカちゃん』と実感が非常にともなった頷きを何度も繰り返す。
「『聖女』云々の尾ひれがついたのも、わたしが初級の回復魔術が使えるからなんだろうけど……。別に『聖女』だから使える訳じゃなくて、ダークさんのような魔術師に少しでも近付くために魔術を頑張っているだけで……。本当にどうしてこんな風になっちゃったんだろう……」
「…………」
ミヤの愚痴にシリカは頷きつつ、蜂蜜酒を舐める。
年齢が近く、似たような立場に立たされている者同士の親近感から遠慮無く尋ねてしまう。
「……実際の所、ミヤさんはダークさんが好きなんですか?」
「にゃっ!?」
シリカのストレートな問いに、ミヤは奇声を上げて、両手で持っていた蜂蜜酒を落としそうになった。
彼女はわたわたと落としそうになった蜂蜜酒をしっかりと握り直し、酔いとは違った火照りで耳まで赤くしながら、弁明するように早口で告げる。
「わ、わたしは別にダークさんを好きというか、魔術師として尊敬しているだけで。もちろん嫌いではないし、カッコイイとは思うけど。だ、第一、わたしのような村娘じゃ最初からダークさんの視界になんて入るわけ無いから。ネムムさんのようなスタイルも良くて、可愛くて、綺麗な人が側にいるのに。わたしのような背も低くて、胸も小さな根暗な性格なんて元々相手になんかされないし……」
後半は自虐と絶望に彩られていた。
シリカはツマミを食べつつ、ミヤの発言を胸中で咀嚼する。
「つまり……ダークさんの側に『ネムムさん』という素敵な人がいるから、ミヤさんは自分の付け入る隙なんてないってことですか? でも、それってつまりダークさんのことが大好きって自白しているようなものじゃないですか」
「あぅうぅ……」
ミヤは蜂蜜酒から手を離し、赤くなった顔を手で押さえてテーブルに突っ伏す。
シリカの推理が的を射てしまったようだ。
テーブルに突っ伏したミヤは頭から煙が出るほど照れた後、反撃するようにシリカへと問う。
「そういうシリカちゃんは好きな人とかいないの? 望まないとはいえ『巨塔の魔女』様の商業担当として名を馳せているんだから、言い寄ってくる人とか多いでしょ?」
「実は意外とそういうお話ってないんですよね。わたしが魔女様に一目置かれているせいで、下手にちょっかいを出したらどんな目に遭うか分からないから……」
『巨塔街』である一定以上の悪さをした場合、最初から『いなかった』ことにされてしまうという噂がある。
『巨塔の魔女』に目をかけられているシリカに下手にちょっかいを出したら……。
その対象になる可能性が出てくる。
故に『巨塔街』で、シリカは気軽に手を出す対象とは見られていなかった。
『触らぬ神に祟りなし』である。
そんなシリカが蜂蜜酒の心地よい酔いに任せてはにかみながら心情を吐露する。
「でもわたしも好きっていうか、ちょっと憧れている人達がいて……」
「えっ! 誰、やっぱりこの街の人なの?」
シリカに意中の人が居ることを知り、当然、女子として恋愛話が好きなミヤは食いつく。
酔っているせいで、シリカが告げた『憧れている人達』の複数系には未だ気づいていない。
シリカは照れ顔を作りつつ、告げる。
「冒険者の方で、以前、わたしを助けてくれた人達なんですが……ちょっと強面で、でも実際は凄く優しくて、髪型がモヒカンで……」
「ブフッ!?」
「ミヤさん?」
シリカの話をニヤニヤと蜂蜜酒の肴にしていたミヤだったが、『髪型がモヒカン』部分で驚きのため噴き出してしまう。
彼女はハンカチで口元を拭いつつ、シリカに問う。
「こほこほ……あ、あのもしかして冒険者のモヒカンさん達のこと?」
「!? ミヤさんお知り合いなんですか!」
「う、うん、以前、行商人の護衛をした際、仕事を一緒にしたというか、ちょっと縁があって」
正確には――獣人種が対魔女戦のため人種狩りをおこなう。その結果、冒険者需要が高まり、見た目強面なモヒカンをした護衛冒険者しかおらず、さすがに彼らだけではということで、顔なじみに行商人が元冒険者のエリオとミヤに泣きつく。
エリオとミヤは泣きつかれた行商人を見捨てる訳にもいかず、モヒカン達と一緒に護衛についたのだ。
しかし蓋をあけてみるとモヒカン達は真面目で、ダーク達とも縁があり、最初は警戒していたエリオとミヤ達だったがすぐに意気投合したのだ。
(たしかにモヒカンさん達はいい人達だし、頼りになるけど……。個人的にはあの派手な髪型の時点でちょっと恋愛対象として見るのは難しいというか……)
まさか正面切ってシリカにそうとは言えず、ミヤは返答に苦慮した。
ミヤの胸中に気づかず、モヒカン達の近状を聞いたシリカが嬉しそうな笑顔を作る。
「モヒカンさん達が元気そうで良かったです。あの人達が助けてくれたお陰でわたしはこうして『巨塔街』に来られて、店を持ち、『巨塔の魔女』様の下で守られながら安心して暮らしていけているので。機会があれば、もう一度会ってお礼を言いたいんですよね」
「た、確かに他の村や街に比べて『巨塔街』は住みやすいよね。モンスターや山賊、他の脅威も気にせずのんびり過ごせて。わたしも少し前に勇者達に襲われたけど、『巨塔街』に辿り着ければ大丈夫って安心感、確信のようなものがあったから。本当にこの街は他と比べて安心度が違うよね」
「そうなんですよ。他にも温泉があったり、魔女様のお陰で街の治安もいいですし、経済も安定して過ごしやすいんですよ」
ミヤはこれ幸いにモヒカン達の話題から、『巨塔街』へと話題をずらす。
『巨塔の魔女』様がいる限り、この街が危険にさらされることはない。安心して暮らしていける――と二人で仲良く笑い合う。
この認識は彼女達だけのものではない。
『巨塔街』住人の共通認識だ。
――その認識を崩そうとする事態が刻々と迫っていた。
☆ ☆ ☆
竜人帝国郊外。
神話級(ミトロジー・クラス) 武具、『終末の槍』が保管された郊外宝物庫。
『終末の槍』が刺さっていた広場に、ドラゴ含めた『巨塔の魔女』暗殺に向かう人材達が集合していた。
リーダーとしてドラゴが告げる。
「これより『巨塔の魔女』の首を討つ……ッ」