軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9話 ミヤとシリカと、

早朝、『巨塔』にしばらく滞在することになったミヤは、ポーションが入った箱を手に『巨塔』から出て、『巨塔街』へと向かう。

現在、ミヤとその友人のクオーネは『巨塔』の客室で寝起きしていた。

当分、シックス公国魔術学園には戻れないため、『巨塔の魔女』の心遣いで滞在しているのだ。

一応、彼女達の命を狙う勇者問題は解決したが、女神教総本山の宗教問題が燻っている。

さすがに女神教信者全員を殺害する訳にもいかず、状況が落ち着くまでミヤ達を『巨塔街』に滞在するよう促したのだ。

とはいえ、ミヤは小市民のため、働かず一方的に世話になるのは問題だと考えて、労働を願い出た。

自分の食い扶持ぐらいは自分で稼ぐためである。

結果、『巨塔街』のとある店にミヤ手製のポーションを作り、販売することになったのだ。

ポーションの材料をミヤ&クオーネが採取。

クオーネも手伝い、ミヤ主導でポーションを製造し、彼女が店に運ぶという流れだ。

最初、クオーネも運ぼうとしたが、朝が弱い彼女は起きられず、ミヤに任せっきりになっていた。

ミヤは元々農村出身の村娘のため、朝早く起きることを苦にしない。

見た目に反して力もあるため、ポーションを運ぶのも問題はなかった。

「おはようございます」

「おはようございます、ミヤ様。今日もポーションを運んで頂きありがとうございます」

開店前の店にポーションを運びに行くと、店の前で1人の少女が掃き掃除をしていた。

一見すると、ミヤと同い年か年下にしか見えない少女だが、『巨塔の魔女』すら商業関係で頼る天才少女――と『巨塔街』で呼ばれているシリカだ。

ミヤとクオーネが店の評判を密かに調査し、クオーネが『巨塔教』神官という立場を駆使して仕入れた情報だ。

その確度は高い。

(ま、まさかわたしのポーションをあの『巨塔の魔女』様にも一目置かれている天才商業少女のお店に卸すことになるなんて! 精一杯頑張って作っているけど、で、出来が悪すぎて内心で文句とか言われていないかな。ううぅ、相手が大物過ぎて緊張するよぉ……ッ)

元農民村娘で、現在はシックス公国魔術学園生徒のミヤからすれば、『巨塔の魔女』に一目置かれているシリカは自分より上位の人物である。

そんな相手に『「巨塔の魔女」様の口利きだから仕方なく置くけど、このポーションの品質はないわ』と内心で呆れられ、不興を買っていたらどうしようと怯えてしまう。

一応、ミヤ達は現在『巨塔の魔女』の客人扱いのため、そこまでのことにはならないと思うが……。

相手が自分より立場が上の人物だと考えると、どうしても緊張してしまう。

(朝の挨拶、上擦っていなかったかな? ちゃんと笑顔で話しかけられているよね? でも、わたしより年下っぽいのに堂々とした態度で凄いな。さすが『魔女の金庫番』様)

ミヤが内心でシリカに尊敬の言葉を贈る。

一方、密かに尊敬の眼差しを向けられているシリカだが……。

彼女は彼女で内心、ミヤに負けないほど緊張する。

(声をかけてくれれば、ポーションぐらい取りに行くのに。で、でも朝の散歩を兼ねてとか、売れ行きのチェックのため、丁寧に卸したポーションを扱っているかの確認のためとかの理由で来ているかもだし。下手なこと口にして機嫌を損ねる訳にもいかないし……)

シリカは笑顔の下で、必死にミヤへの対応をしていた。

『巨塔の魔女』エリーから直接、シリカに『ミヤとクオーネに仕事を与えて欲しい』と指示を受けた。

エリーからすれば『巨塔街』で女子供の雇用を作り出したシリカに任せておけば万事問題なしという軽い気持ちでお願いしたに過ぎない。

しかし、シリカからすれば絶対に失敗できない上からの命令だ。

しかも相手は『巨塔の魔女』が客人として遇するほど一目置き、人種でも稀少な魔術師で、この街の一大宗教である『巨塔教』の聖女、神官である。

この街では巨塔の魔女、妖精メイド、巨塔教の聖女、神官の順番で地位が高い。

つまりこの街で三、四番目の地位を持つ貴人達だ。

ミスをしたら、自分のような商人少女など、どうにでも出来る存在である。

一時シリカが同居していたミキのように、失礼な態度を取ったら、『初めから存在しなかった』扱いをされて消えてしまうかもしれない。

そうならないため店の一部を解放してでも、『巨塔の魔女』直々の魔術師の機嫌を取ることを優先した。

『魔術師ならポーションが作れるだろう』というシリカの考えにより、ミヤ&クオーネが作り出したポーションを店に並べる手筈を整えた。

実を言えば、別に魔術師だからと言って、必ずしもポーションが作り出せる訳ではない。シリカのような一般人からすれば魔術師なら作れて当然だろうという認識だったが、相手によっては反発されることもあるだろう。

ミヤが実際ポーションを作り出せるため、失礼な対応にならずに済んだ。

そして、シリカからすればポーション作り、販売なら、問題が起き辛いと考えていた。

ポーションは棚に並べるだけ、製造に必要な材料も、赤字覚悟で仕入れてミヤ達に融通するつもりだった。

利益より、ミヤ達の機嫌を損ねるほうが危険だからである。

だが結果として杞憂に終わった。

必要な材料はミヤ&クオーネが自ら採取。

ポーション品質もよく、『巨塔教』聖女と神官が作製ということもあり、信者が棚に入ってくるとすぐに購入していく。

店の利益的にも非常に美味しかった。

さらにミヤと顔を合わせて話をすると、魔術師だけあって知的で、毎朝笑顔で挨拶をしてくれる非常に好感を持てる人物だった。

そんなミヤに対してシリカは内心で、感心する。

(年齢にそぐわずポーションの品質が良い……。『巨塔の魔女』様が眼をかけるわけだよ。しかもわたしのような一介の小娘商人に、分け隔て無く接してくれるなんて……。さすが『巨塔教』の聖女様。わたしとは住む世界が違うな……)

ミヤ、シリカは表面上、落ち着いた態度を取っているが、内面では怯えつつ、相手の立ち振る舞いに感心していた。

二人は互いにすれ違ったまま、ミヤは納品するポーションを店の前に置いて、シリカが本数をメモ、本数が合っているかの確認作業をおこなう。

事務的な作業をしていると――。

「ミヤちゃん、おはよう。まさかこんなタイミングで会えるなんて」

「だ、ダークさん!?」

フード付きの黒いコートに杖を持ち、顔に仮面を着けた少年。

ミヤが魔術師として尊敬し、仄かな恋心を抱いている人物――ダーク(ライト)と『巨塔街』で顔を合わせる。

彼はミヤの動揺とは正反対に、仮面越しでも分かるほどニコニコ上機嫌な笑顔を浮かべていた。

ミヤが顔を赤くし、困惑しながら問う。

「ど、どうしてダークさんが『巨塔街』に?」

「僕達は商人の護衛として、昨日の夕方に『巨塔街』に到着したんだよ。ミヤちゃんも『巨塔街』に居ると耳にしたけど、まさか朝の散歩がてら外に出たら会えるなんて。本当に驚きだよ」

実際は、ダーク――ライトがミヤの現状をその目で確認、久しぶりに彼女と顔を合わせるため『黒の道化師』パーティーとして、『巨塔街』へと入ったという設定だ。

当然、商人もライト側の人材なので、口裏を合わせ済みだ。

早朝に出会ったのも、当然偶然ではない。

店にポーションを卸しに向かうのを知っていたため、『森の採取中に出会うより自然だから』と、この時間帯を選んだのだ。

「だ、だとするとネムムさんやゴールドさんもご一緒なんですか?」

「そうだよ。二人ともミヤちゃんと会いたがっていたから、時間があったら再会を祝して一緒にご飯でも食べない?」

「も、もちろん、う、嬉しいです!」

気になる男性から食事に誘われて、ミヤは顔を真っ赤にしながら同意の返事をする。

その後、細かい日時を決めて、軽い世間話をしてからダークが宿へと戻った。

ミヤはその背中を熱病に浮かれたような赤い顔で『ぽけ~』と見送った。

(あの仮面の少年は友人に接するような態度だったけど、聖女様の方は……)

一方、軽い挨拶の後、ダーク&ミヤのやりとりを近くで見ていたシリカは、二人の関係をなんとなく察する。

ダークは一友人としてミヤを見ていて、ミヤは異性としてダークを見ているのがハッキリと分かってしまった。

なので未だにダークが歩き去った方角を赤い顔で眺めるミヤに対してつい、口を滑らせてしまう。

「……ミヤ様って、あの冒険者のことが好きなのですか?」

「ぴにゃ!?」

効果は覿面だった。

ミヤはシリカの指摘に、耳の尖端まで赤くして、可愛らしい悲鳴を漏らす。

シリカも幼いとはいえ、女子だ。

他者の恋愛話は大好物だった。

思わず、瞳を輝かせて追撃をおこなう。

「やっぱりそうなんですね! それなら、さっさと告白するべきだと思いますよ。魔術師で、巨塔の魔女様に目をかけてもらっている『巨塔教』の聖女様なら断られるはずありませんから!」

「わ、わたしがだ、だだだ、ダークさんを好きなんて!? 第一、わたしは村出身で、兄達と冒険者活動をしていて、ダークさんと知り合えたお陰で、運良くシックス公国魔術学園に通わせてもらっただけで……。『巨塔の魔女』様に目をかけてもらっているのも偶然、聖女云々は風評被害ですから!? 『巨塔の魔女』様の商業参謀にして『魔女の金庫番』と呼ばれているシリカさんのような才女ならともかく……」

「ごふっ!?」

ミヤは顔を真っ赤にして否定する。

そのさいにシリカの評判を口にすると、彼女はナイフを胸に突き立てられたように咳き込む。

「ち、違います! 誤解です! わたしはただ知っていることを話しただけで。第一、わたしは元々行商人で両親と商いをして覚えたことしか提案していないんです。たまたま上手くいっただけで。『魔女の金庫番』なんてただ過剰に持ち上げられているだけなんですよ! それに元奴隷で、偶然助けられて、ここにいるだけで特別持ち上げられることなんて本来ないんです!」

シリカは思わず感情的に吐き出す。

意図せず、互いの内心を吐露した形になった。

ミヤ、シリカは互いに事情を理解すると、

「…………」

「…………」

無言で見つめ合い――どちらからともなく、熱い握手を交わす。

意図せず、祭り上げられてしまった似たような立場の人材が初めて出会った結果、互いに親近感を覚えたのだ。

2人の間にあった蟠りが、溶ける。

硬い握手と共に二人の間に友情が芽生えたのだった。