作品タイトル不明
8話 終末の槍
この星からの脱出するための船からあぶれた『竜人帝国抗議派』が、マスターや帝国皇帝にすら極秘に自分達の身内を集め、とある場所へと向かわせる。
彼らが向かう方角は、竜人帝国首都など賑わう街から大分外れていた。
そのとある場所とは――『 神話級(ミトロジー・クラス) 武具』が収められている宝物庫だ。
なぜ『 神話級(ミトロジー・クラス) 武具』にもかかわらず、誰も寄りつかないような僻地に宝物庫が作られたのか?
表向きは『 神話級(ミトロジー・クラス) 武具の価値が非常に高いので、厳重な警備を敷くため郊外に宝物庫を建築した』だ。
実際、竜人帝国外れに建物が存在するため、わざわざ行く者達は非常に目立つ。
検問所なども作られているため、近付こうとしている者達がいればすぐに検問所の兵士達に気づかれてしまう。
だが実際は――竜人帝国外れなら万が一、起動・暴走されても被害が最小限に抑えられるため、破壊されても問題がない郊外に建物が建築されているのだ。
そんな宝物庫へ向かって馬車がぞろぞろと向かい移動する。
本来であれば、これだけの人数が向かえば、検問所等で止められてすぐに見つかり、上に報告が行くのだが……。
この宝物庫の警備を任されている貴族を既に抱き抱えているため、報告はされない。
お陰で観光旅行の如くスムーズに検問所を越えて、宝物庫へ向かうことが出来た。
『 神話級(ミトロジー・クラス) 武具』を収める建物は、宝物庫というより『激戦地にある要塞』という方がしっくりとくる作りをしていた。
見るからに頑丈に作られた城壁、周囲を掘で囲み、純度の高い鉄と魔術保護によって硬度を増した金属扉が設置されている。
馬車が建物内部へと入った。
馬車から老若男女問わず人々が降りる。
(ここが噂には聞いてた竜人帝国が危機に陥った際、使用される『 神話級(ミトロジー・クラス) 武具』が収められている宝物庫……か?)
馬車から降りたドラゴの心の中の独白が、目の前に立つ宝物庫を前にして、語尾が疑問系になってしまう。
やはり目の前の建物は『宝物庫』というより、『戦場にある城塞』と呼ぶ方がしっくりくるほど頑強に作られている。
故にどうしても宝物庫のイメージにそぐわず、ドラゴも思わず疑問系になってしまったのだ。
(『 神話級(ミトロジー・クラス) 武具』だけあり非常に強力な力を持っているらしいが、まさか武器が使い手を選ぶとは……。強力な武器なのは心強いが、もう少し融通を利かせてもらたいものだ)
彼は宇宙船に乗せて貰えなくなった、抗議派閥の一員だ。
ドラゴの他にも抗議派閥トップ陣から近い身内の者達が集められていた。
竜人帝国側マスターや皇帝に情報が渡らないよう秘密を守るため、極々近い身内からまずは選出、選別のために派遣したのだ。
宝物庫を管理する貴族兵士が、馬車から降りたドラゴ達を建物へと案内する。
彼らは、兵士の後に続き建物内部へと足を踏み入れた。
(地下に向かうのか?)
分厚い鋼鉄と魔術が施された扉を開き、中へ進むと、地下へ向かう階段へと案内される。
その階段は地下へと延々と続いていた。
さらに途中で地上の金属扉と同じ物が数ヶ所あり、装備を固めた兵士達も待機していた。
(とんでもない厳重さだな。さすが『 神話級(ミトロジー・クラス) 武具』を管理する建物だけはあるな)
警備の手厚さに驚くが、『 神話級(ミトロジー・クラス) 武具』の重要性を考えれば当然の警備だ。
その厳重さにドラゴや他竜人種達は感心した態度を取る。
――だが実際は、外部から『 神話級(ミトロジー・クラス) 武具』を守護している訳ではない。
万が一、『 神話級(ミトロジー・クラス) 武具』の使用者が暴走した際、内部に閉じこめるためこれだけの頑丈さを重視しているのだ。
最後の扉が開き、最下層『 神話級(ミトロジー・クラス) 武具』が保管されている大広間へと足を踏み入れる。
『!?』
大広間に入った者達全員が、息を呑む。
宝物庫と言っても、別に金銀財宝がある訳ではない。
大広間のほぼ中央に、剥き出しの岩肌に一本の槍が刺さっていた。
柄、刃まで黄金色で、広い空間にその槍しか無いにもかかわらず、まるで山ほどの金銀財宝があると錯覚するほどの存在感があった。
細部に宝石や装飾などもあしらわれて、武器というより、豪華な財宝のような印象をドラゴは受けた。
まさに神話時代の槍だ。
あまりの神々しさにドラゴが見惚れてしまう。
(あれが竜人帝国の切り札、 神話級(ミトロジー・クラス) 武具――『終末の槍』か)
物騒な名前のわりに、見た目が非常に豪華だった。
宝物庫まで案内してきた兵士達の指示に従い抗議派閥の者達が1人ずつ、『終末の槍』を掴み引き抜こうとする。
最初は屈強な男性で、次が老人、その次が女性、子供と続くが、誰一人槍を引き抜くことは出来なかった。
槍の穂先は軽く地面に刺さっているだけで、見た目は抜こうと思えば子供でも抜けそうなのだが……。
屈強な男性がどれほど力を入れても、一ミリも動かない。
まるで『そういうふうに空間ごと固定されている』と思えてしまうほど、びくともしないのだ。
(不味いな……このまま誰も抜けないのか?)
ドラゴとしても『巨塔の魔女』を討つのは賛成だ。
それしか彼自身が生き残る道がないからだ。
このまま黙って『C』の玩具として弄ばれ、死にたくても死ねない人生など迎えたくない。
しかし、誰も 神話級(ミトロジー・クラス) 武具、『終末の槍』を抜く気配を見せなかった。
いよいよドラゴの番になる。
「次の方どうぞ」
兵士に促されて、ドラゴが『終末の槍』の前に立つ。
「…………」
ドラゴが槍の前にすると、不思議な感覚に襲われる。
(俺はこの槍を抜くことが出来る)
誇張、妄想、虚勢ではない。
息を吸い、吐くように自然と理解してしまう。
まるで使い慣れた武器を手にするようにドラゴが、『終末の槍』を掴み地面から軽い調子で抜く。
『!?』
彼の前まで『空間ごと固定されている』と錯覚させるほど動かなかった槍が、あっさりと引き抜かれたのだ。
抗議派閥の面々もあまりにあっさりと槍が引き抜かれたことで、最初は驚き過ぎてその光景を理解することが出来なかった。
数秒後、ようやくドラゴが 神話級(ミトロジー・クラス) 武具、『終末の槍』を引き抜いた事実を理解し、彼らは拍手と歓喜の声を上げ出す。
まさか第一陣で、 神話級(ミトロジー・クラス) 武具、『終末の槍』の担い手が出るとは派閥上層部は考えて居なかった。
にもかかわらず、あっさりと第一陣で担い手が誕生したことに驚きと喜びが抑えきれない。
普段は深夜の墓地の如く静かな宝物庫内部だが、今は歓声と拍手で満ちている。
ドラゴは歓声を浴びながら、自分の手の中にある槍に視線を落とす。
彼自身、槍を引き抜くことが出来るとなぜか理解していたため、それ自体に喜びはない。
だが、槍から伝わってくる力を感じて、
(これなら……ッ。この 神話級(ミトロジー・クラス) 武具、『終末の槍』なら『巨塔の魔女』を打ち倒すことが出来る!)
言語ではなく、感覚として 神話級(ミトロジー・クラス) 武具、『終末の槍』の強さを理解する。
槍に選ばれた担い手だからこそ、理解できる感覚だった。
ドラゴは自然と肉食獣のような笑みを作ってしまう。
(この槍さえあればどれだけ強大な敵が相手でも勝てる! この槍さえあれば、俺は自分と 抗議派閥(仲間達) を救うことが出来るんだ!)
槍を引き抜くことが出来ると同じ確信をドラゴは強烈に得る。
ドラゴは自信満々の笑みで槍を掲げた。
神話級(ミトロジー・クラス) 武具、『終末の槍』さえあれば『巨塔の魔女』を討つのは容易い。
自分達は助かるのだと、言外にアピールするようにだ。
周囲も熱に浮かされたように一段と高い歓声、拍手を鳴らし出す。
――こうして、ドラゴが 神話級(ミトロジー・クラス) 武具、『終末の槍』を手に入れ、対『巨塔の魔女』に参戦することが決定したのだった。