軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6話 獣人連合国内部の意見

獣人連合国首都中央に建てられた屋敷の大部屋に5部族族長が一同に集まり会議が開かれた。

参加した部族は――。

獣人ウルフ種

獣人タイガ種

獣人翼人種

獣人クマ種

獣人ウシ種

計5部族だ。

座る席で揉め事が起きないように、毛足が長い絨毯に座布団を敷き、車座になって腰を下ろすしきたりになっている。

話を進める議長は持ち回りでおこなわれており、今回は獣人クマ種族長オゾが議長を務め、ミヤ&クオーネ保護の褒美として『巨塔の魔女』直々に感謝の手紙を頂き、獣人連合国に褒美を下賜するとの内容が書かれていた。

今や世界に強い影響力を持つ『巨塔の魔女』に覚え目出度くなったのだ。

国家にとってこれほど喜ばしいことはないが……。

会議を終えた後、獣人ウシ種ベニとオゾが別室で会話を交わす。

「フゥ……予想通り、若僧共は面白くなさそうな顔をしていたの……」

オゾが『ふぅ~』と紫煙を吐き出し、自分の悪い予想が当たったことをつまらなそうに告げる。

正面、絨毯の上に直接座るベニが同意するように溜息を漏らす。

「オゾさんの機転に助けられましたわね。もし事前に知られていたら、確実に『巨塔教』の聖女と神官を保護することについて、妨害を受けていましたよ」

「そして聖女と神官を勇者側に売って、『巨塔の魔女』様の怒りを買ってイゴルのように首を引きちぎられていたか……。最悪、獣人連合国そのものが地上から消えておったな」

「ええ……」

オゾ、ベニ共に、目の前で『巨塔の魔女』が元翼人種族長イゴルの首を引きちぎったのを見ていた。

何かの比喩ではない。

文字通り、頭を掴み物理的に首を引きちぎったのである。

オゾとベニは共にその光景を思い出し恐怖で震え出す。

『巨塔の魔女』は恐ろしいが、機嫌を損ねるマネをしなければ、むしろ利益を与えてくれる存在だ。

むしろ今一番恐ろしい存在は自分達の身内にいる。

「上が『巨塔の魔女』様に殺されて、慣例とはいえ若僧共がトップに着いたのはいいが……。あいつら、『巨塔の魔女』様を知らない、いや、知ろうともせぬ。だから、アホなことを考えるんだ」

「同意しますが、その馬鹿な者達のせいで国が滅んだら泣くに泣けませんよ。ワタシ達がどれだけ『巨塔の魔女』様の偉大さ、恐ろしさを伝えても真剣に捉えませんからね……」

「若僧共が馬鹿をしないようオイ達側で監視せねばならぬな」

「ですね。……もしくはワタシ達の部族だけ獣人連合国を抜けて、『巨塔の魔女』様の下につきますか?」

ベニは冗談っぽく提案した。

その提案にオゾが 煙管(キセル) を咥え思考を巡らせる。

(『巨塔教』の聖女と神官保護のお陰で『巨塔の魔女』様の覚えは目出度くなった。オイ達2部族なら『巨塔の魔女』側も快く受け入れてくださるだろうな……)

オゾは口から紫煙を吐き出す。

ベニの提案通り、今ならその提案は『巨塔の魔女』側は快く受け入れられるだろう。

だが他部族トップ達は置いておいても、その下にいる者達に罪はない。獣人連合国という国家に対する愛国心もまだ残っている。

なのでその判断を下すのは勇み足だった。

ベニも同じくまだ国家に対する愛国心があるため、冗談っぽい口調で提案したのだ。

もし真剣に検討していたら、口にせずオゾにも黙って行動していただろう。

オゾもそれを理解しているため、紫煙を吐き出し終えると悪戯っぽく笑い返す。

「その決断を下すのはまだ早か。だが、その時はオイ達揃って、『巨塔の魔女』様に膝を着くべきだ。抜け駆けはなしだ」

「あらあら、先に抜け駆けをしたのはオゾさんじゃありませんか」

「『巨塔教』の聖女と神官保護を伝えなかったのは作戦じゃ。他意はなか」

2人は最初の暗い雰囲気を払拭するかのように笑い合う。

笑い合いながらオゾが胸中で考える。

(『巨塔の魔女』に膝を突く選択肢を選べるのも『巨塔教』の聖女と神官を保護できたお陰。その成果がなければ『巨塔の魔女』に刃向かったオイ達にはその選択肢すら存在しなかった。聖女達はオイ達にとって文字通り幸運の女神様だったのかもしれんのォ……)

実際、ミヤ達保護の実績がない状態で、『巨塔の魔女』傘下に加えて欲しいと告げても鼻で笑われてお終いだ。

そういう意味でオゾ達にとってミヤ達が『幸運の女神』だったと言っても決して過言ではない。

(『巨塔教』の聖女と神官か……。オイ達も入信した方がいいかもしれんの)

『巨塔教』は『巨塔の魔女』を敬うという単純な教えが主な小さな組織で、それ以外はお金を要求したりもせずむしろ貧乏な人々に炊き出しを行ったり等、慎ましやかに組織運営がおこなわれているし、排他的な空気もない。

以後も『幸運の女神』にあやかるため、オゾはベニにも『巨塔教』入信について意見を交わそうと口を開くのだった。

☆ ☆ ☆

ミヤとクオーネに気付き獣人連合国首都で声をかけたきたクマ種獣人が、2人を訪ねて『巨塔街』へと足を運ぶ。

現在2人は『巨塔』の客室で寝泊まりしていた。

妖精メイドを通してクマ種獣人種は自分の身元を明かし、ミヤとクオーネに面会を求めた。

2人とも偶然とはいえ彼が自分達に気づいてくれたお陰で、『巨塔』へと辿り着くことが出来た。

それ故、お礼を言いたかったのもあり、すぐに面会の許可を出す。

『巨塔』客室で久しぶりに互いに顔を合わせた。

妖精メイドが淹れたお茶がテーブルに並び、部屋を出た後、早速クマ種獣人が切り出す。

「すぐに面会を許可してくれてありがとう。まさかこんなに早く2人に会えるとは」

「いえ、むしろわたしもお礼が言いたくて。本来であればわたし達から足を運ばなければいけないんですが……」

「事情は理解しているから。勇者達は『巨塔の魔女』様によって倒されたけど、まだ女神教はごたついているらしいからね。2人が外に出て女神教の信者達に狙われても面倒だから」

「事情を理解してくださってありがとうございますわ。そして、改めてあの時、声をかけてくださってありがとうございますの。お陰でミヤ共々、無事に『巨塔の魔女』様に保護して頂き、命を落とさずに済みましたわ」

「わたしも、最初そっけない態度をとってごめんなさい。そして助けてくださってありがとうございます!」

ソファーに揃って座るミヤ、クオーネが頭を下げると、クマ種獣人種が慌てた様子でパタパタと手を左右に振る。

「頼むから頭を上げてくれ! あの時、2人に気づけたのは本当に偶然で、ただ運が良かっただけだったから。それにお礼を言うのは此方の方だよ!」

ミヤとクオーネが顔を上げるのを待って、クマ種獣人種が照れ臭そうに頬を掻く。

「今回の一件でクマ種獣人種だけじゃなく、獣人連合国が『巨塔の魔女』様に直接手紙でお礼を頂くことが出来た上、憶えも目出度くなった。それに俺もオヤジから褒められたし……。むしろ、今回の一件でこっちが多く貰いすぎたぐらいだ。だからお礼を言うのはこっちだし、もし何か困ったことがあったら声をかけて欲しい。貰いすぎた恩義を返すためにも力になりたい――というのが非公式ながら、上の意見だから」

獣人ウルフ種、タイガ種、翼人種トップは出し抜かれた切っ掛けとなったミヤ達を敵視――とまではいかないが面白くない目を向けている。

だが獣人クマ種、ウシ種トップは2人を手放しで歓迎していた。

なので彼のいう『もし何か困ったことがあったら声をかけて欲しい。力になりたい』というのは決して口からの出任せではない。

仮に何かミヤ達が望むなら、率先して助力は惜しまないつもりだ。

大きくなった話に、ミヤは実感なく困惑しつつも、笑みを作り返答する。

「あ、ありがとうございます。もしその際はお声をかけさせて頂きますね」

とは口にしたが、実際に『お願いすることはないだろうな』とミヤは胸中で考える。

ミヤは一般人だ。いくらなんでも国家相手に『お願い』など早々口に出来る度胸は持ち合わせていない。

曖昧に笑い誤魔化すのがせいぜいであった。

しかし相手はそれ以上に大きな爆弾を投下してくる。

「それとミヤちゃん達にお願いがあって……。俺の上ともう1人のトップが、今回の切っ掛けに是非『巨塔教』に入信したいって言い出してさ」

「え?」

「それは素晴らしいお考えですわ! 入信はトップのお二方だけですの?」

「うちの族長曰く『まずオイ達が入信してから下の者は希望者が居れば』って。上がまず率先して態度を示さなきゃ下が付いてこないからだってさ」

「なるほど、『まず自ら範を示す』。まさにトップとして理想的なお方達ですわね」

「そうなんだよ! オヤジも俺も族長を尊敬しているよ。それでここからは相談なんだが……格式的に入信する際の儀式は聖女ミヤに取り仕切って欲しいんだ。やはり、獣人連合国トップとして最低でも聖女ミヤが儀式に出てくれないと、メンツ的に不味いからさ」

「ちょ、ちょっと待っ――」

ミヤが唐突に始まったとんでもない話に待ったをかけようとするが、クオーネは興奮気味に被せてくる。

「なるほど確かに道理ですわね。ですが現状、わたくし達はここから動くことは出来ませんから、族長様達に足を運んで頂くことは可能でしょうか?」

「問題はないけど、そうなると『巨塔』側のメンツにも配慮しなくちゃいけないから。国のトップが来て、式典も無しだと沽券に関わるだろう? だから負担を減らすため、状況が落ち着いてからミヤちゃん達に足を運んで貰いたいんだ」

「でしたら――」

ミヤを置いて2人が熱心に言葉を交わし段取りを立てていく。

(わ、わたしはただの村娘で、ちょっと魔術の才能があっただけなのに! どうしていつのまにか、わたしが国家トップの洗礼をする話になっているの!?)

彼女はあまりの状況変化にアワアワと混乱してしまい、2人を止めることが出来ずただ狼狽えることしかできなかったのだ。