作品タイトル不明
5話 女神教の今後と
『奈落』最下層、執務室。
僕は椅子に座りながら、正面に立つエリーから勇者討伐後の『女神教総本山』の扱いについて報告を受けた。
「なるほど……女神教は未だに勇者達が倒されて内部分裂状態なんだ」
「はいですの。勇者が討たれたことが確定した後、『勇者の仇をとるべき』、『抗議はするが手は出さない』、『勇者達の独断で行動した』、『何も発表せず黙り込むべき』派閥が乱立し、内部で争っている状態ですわ」
「三人寄れば派閥が出来るというが……。まさかここまで内部で争っているなんて……」
僕はエリーの報告を聞いて、こめかみを押さえつつ溜息を漏らす。
僕達に敵対してきた勇者達を討伐後、『巨塔の魔女』が影響力を持つ各国と足並みを揃えて、女神総本山に強く抗議した。
『いくら女神教が認めた勇者とはいえ、暴走は許されない』と。
捕らえた勇者達の記憶を読む限り、彼らは人種達にいくら被害が出ようが気にせずに『聖女』ミヤ達を捕らえて殺害しようとした。
彼女の実家がある村など実際に被害が出て、人種王国など タリスマン(聖印) の勇者の逆恨みで女王リリスが殺害される可能性もあったのだ。
国家として、彼らの行動に対して強く抗議するには十分な理由だ。
女神総本山側も、各国の抗議&独自情報で勇者達の敗北が確定したことを突き止めた。
結果、内部で『今後どういう対処をするか』で派閥が出来たのだ。
「4人の勇者が誕生した時は、纏まって強気だったのにね」
「その頼りにしていた勇者達が、何の成果も出せず一方的に敗北しましたから。尻込みするのは当然ですわ。このまま今回の一件で喜捨を止めて圧力をかけるなり、潰す方向に舵を切ることもできますが……。その場合、一部が暴発する可能性がありますの」
その暴発の向かう先は……ミヤとクオーネだ。
「勇者達でも叶わなかった『巨塔の魔女』に手を出すのは難しくても、ミヤさん、クオーネさんは別ですわ。勇者を失った彼らとしても娘2人程度ならいけると思うでしょうし、今までの経緯から狙う理由は十分にありますの」
「ありそうな流れだね」
「はいですわ。なのでお二人の安全を考えて、これ以上、女神教総本山を叩き潰したりするのは得策ではないと愚考しますわ。勇者達も倒しましたし、以後は監視は致しますが、彼らが内部で諸々を解決するまで放置が最良だと判断いたしますの」
勇者達から必要な情報は入手済みだ。
これ以上、女神教総本山を追いつめて得られるものなどないし、掻き回してミヤ達が公国魔術学園に戻る時間を無駄に引き延ばすようなマネをしても無意味である。
なにより『女神教信者を皆殺し』するなど現実的ではないからだ。建前上入信しているだけ、心底信じている人物をいちいち見分けるなどしていたらどれだけ時間があっても足りない上に、そこまでやる意味も存在しない。
ちなみに現在もシックス公国に残っているドマス教授には、念のため監視&護衛をつけていた。
女神教総本山が暴発して彼を狙う可能性を考えてである。
「折角、ミヤちゃん達が夢を叶えてシックス公国魔術学園に通えるようになったのに、その邪魔を僕達がしてもね」
「なので現状、落ち着くまでミヤさん達には『巨塔街』に居て頂き、安全が確認されたら学園に戻って頂くのが良いかと愚考致しますわ」
「僕もエリーの意見に賛成だよ。エリーが管理する『巨塔街』なら2人も安全だしね」
「いえ、これも偏にライト神様のご威光があってのこと。わたくしは少々の手伝いをしているに過ぎませんわ」
エリーが謙遜するが、実際、ミキの一件はあるにせよ以後、特に問題なく街が運営されているのも彼女自身のお陰だ。
僕は謙遜する彼女に笑顔を向ける。
「いやいや、エリーが頑張ってくれているからこそだから、もっと自信を持っていいと思うよ。……さて、それじゃとりあえずミヤちゃん達には状況が落ち着くまで『巨塔街』に居てもらうということで。滞在中は2人に不便がないように便宜して欲しい。それとミヤちゃん達を保護してくれた獣人連合国には、今回の一件で何かしらの優遇措置をとってあげて。どのような内容にするのかはエリーに任せるよ」
「畏まりましたわ。わたくしの名に懸けて全身全霊を以て対応させて頂きますの。必ずやライト神様がご納得するような対処をしてみせますの」
エリーは僕に仕事を任されたのが心底嬉しいのか、魂の奥底から告げるように気合の入りすぎている返事をする。
僕は微苦笑しながら、返す。
「エリーなら、安心して任せられるよ。でも、結果を出すため無理をしちゃ駄目だよ? 体調には気を付けてね」
「お言葉、ありがとうございますわ!」
僕の気遣い台詞を聞いて、より一層エリーのテンションが上がってしまう。
その姿に僕はさらに苦笑を深めるのだった。
☆ ☆ ☆
――『地獄へ向かう道は善意で整えられている』という言葉があるが、巨塔街にかくまわれたミヤは街の主である『巨塔の魔女』のとある善意によって心理的に追い込まれてしまう。
ミヤは『巨塔』に与えられた客室、ソファーに腰掛け頭を抱えていた。
「う~~っ……」
ミヤは自称勇者達に命を狙われた。
ドマスの機転で、クオーネと共に転移で逃走。
2人で安全を求めて『巨塔の魔女』に助けを求め、獣人連合国の協力もあって無事に『巨塔街』に保護された。
勇者は『巨塔の魔女』の手によって討伐されたが、女神教総本山がまだ残っており、今後どのような動きをするか分からないため、もう暫く落ち着くまで『巨塔街』に滞在することになった。
衣食住は全て『巨塔』側が持つ。
自称勇者達の情報を持ち込んでくれたお礼らしい。
さらに『巨塔の魔女』から善意で……。
『ミヤさん達はシックス公国魔術学園の生徒さんなのですわよね。滞在中、勉学が疎かになっては申し訳ありませんから、僭越ながらわたくしが魔術について教えて差し上げますわ』
魔女から善意でとんでもない申し出を受けたのだ。
顔を隠しているから分からないが、声から嫌がらせではなく、完全な善意で申し出てくれたのが伝わってくる。
この申し出にミヤとクオーネは揃って胃が痛くなるのを自覚した。
例えるなら一国の王にただの一般市民が勉強を教わるようなものだ。
申し出はありがたいが、心理的ダメージが強すぎる。
この申し出に慌ててミヤが、誤魔化しに走った。
『わ、わたし達の師にあたるドマス教授から、「外で2人とも見聞し大いに学んできなさい」と指示を受けているので、申し出は非常にありがたいのですが、座学よりも師の指示に従い『巨塔街』で様々に見聞を広めさせて頂ければ嬉しいのですが……』
『なるほどお2人の師からの指示ですか……。ならそれに従うのが筋ですわね。ですがそれが終わりましたらいつでも構いませんので声をかけて下さいな』
『巨塔の魔女』は残念そうに声を漏らしつつ、見聞を広めるため『巨塔街』で仕事の斡旋をしてくれる約束を取り付ける。
お陰でなんとか『巨塔の魔女』との個人レッスン――という胃が破裂しそうな危機から脱出することに成功した。
「とりあえず、『巨塔の魔女』様の個人勉強回避と資金稼ぎの手段が手に入りそうでよかったよ。我ながらナイス対応だったな……。でもいつでも声をかけてくれって言われてたけど、『巨塔の魔女』様にそんなこと出来るわけないよ……っ」
「ミヤの機転には感謝致しますが……。でも、資金稼ぎなどそこまで気にしなくても大丈夫ですわよ? 入り用なら『巨塔教』の運営資金から都合致しますから」
「……気持ちは嬉しいけど、甘えるのはよくないから。自分の生活費ぐらい自分で稼がないと」
ミヤの正面ソファーに座るクオーネの言葉に、ミヤは作り笑顔で返答する。
(下手に『巨塔教』のお金を使って、これ以上、『聖女』なんて分不相応の扱いを受けるわけにはいかないよ……ッ)
『聖女』なんて肩書きから距離を置きたいのがミヤの本音だった。
故にこれ以上、『巨塔教』の世話になったら、抜け出せなくなる。
そういう意味では、『巨塔の魔女』との個人レッスン回避のための発言だったが、『見聞を広めるため』という名目で仕事斡旋をお願いしたのは良い機転だった。
衣食住全て『巨塔』が持ってくれているが、それ以外の使えるお小遣いがない。なので資金を稼ぐ仕事斡旋は割と重要案件だったのだ。
災い転じて福と成す――ではないが、自分の機転の良さに改めてミヤは内心で自分自身を称賛する。
一方で、ミヤの要求に頭を抱えることになる人物もいた。
『巨塔街』で『魔女の金庫番』と一目置かれる少女、シリカだ。
彼女は自室ベッドの端に腰掛けて頭を抱える。
「『巨塔の魔女』様直々に、『巨塔教』の聖女と神官に仕事を与えて欲しいとか!?」
エリーとしては『巨塔街』で女子供の雇用を作り出したシリカに任せておけば万事問題なしという軽い気持ちでお願いしているだけだ。
しかし、シリカからすれば『絶対に失敗できない仕事依頼』を任されているようなものだ。失敗すれば昔一緒に働いていたミキのように『最初からいない者』扱いを受けるかもしれない。
自分だけならまだいいが、従業員まで巻き込むことになったら……。
想像するだけでシリカの胃が痛む。
「しかも相手は人種でも稀少な魔術師な上に、『巨塔教』の聖女と神官とか……。どうしてわたしばかりがこんな目にあうの……ッ!?」
自室で自身の不幸を嘆くが、そんなことをしても問題は解決されない。
シリカは2人に任せられる仕事を文字通り死にものぐるいで考え出すのだった。