軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2話 ドラゴの過去と現状

マスター側から竜人帝国上層部に対して、一方的な通達がおこなわれる。

『プロジェクト・アーク』を前倒しにするため、乗せられる人員を削る必要が出た。そちらで期限までに搭乗者人員を削って欲しい――と。

この一方的な通達に当然、竜人帝国上層部は慌て、大混乱に陥った。

『どうにか最初から予定していた人数を乗せられないか』とマスター側に交渉を試みたが……。

『巨塔の魔女』が、自称勇者を名乗る者達を一方的に倒した。そのせいで『C』を刺激し、いつ目覚めてもおかしくない状況になってしまっており、故にさっさと『C』が目覚める前に、前倒しして脱出するしかない。

理由を聞けば黙るしかなかった。

いくら長年、竜人帝国がマスター達を支援してきたとはいえ、『アーク』を修理できるのは高レベル錬金術師のカイザーのみ。

他にもマスター達の協力がなければ、『アーク』が保管してある場所に辿り着くことすらできないのだ。

下手にこれ以上ごねれば、さらに人員を削られるのならまだマシ。最悪は竜人帝国側の完全排除だ。

竜人帝国側上層部は、彼らの一方的な通達に唯々諾々と従うしなかった。

その一方的な通達で割りを喰うのは、竜人帝国側上層部でも下位の存在達である。

下位の存在には元『種族の集い』ドラゴも含まれていた。

彼は部屋の隅で頭を抱える。

「どうして俺が切られないといけないんだ……ッ!」

原因は説明されたため理解している。

『巨塔の魔女』が自称勇者達を倒してしまったからだ。

結果、アークの修理が前倒しになり乗れる席が減ったため、ドラゴ達下位組が切られたのだ。

「兄達は乗れるのにどうして俺だけが、いつも割りを喰わなければならないんだ……ッ」

ドラゴは頭を抱えながら愚痴るが、理由は彼自身、よく理解している。

彼の母親が娼婦だからだ。

ドラゴの父親は、竜人帝国の前皇帝だ。

現皇帝とは年の差が離れた兄弟となる。

前皇帝が退陣し、現皇帝に席を譲った数十年後、遊んでいた高級娼婦に子供が出来た。

そして生まれたのがドラゴだ。

本来であれば、竜人帝国内の決まりに沿えばそのまま親子共々処分が妥当なのだが……。

恥かきっ子のため、前皇帝があえて見ないふりをして出産させてしまう。

こうなると下手に処分できなくなってしまう。

産まれた後に殺害すれば『赤子殺し』の汚名が元皇帝につき、放逐した場合、下手に貴族の手に渡り、錦の旗にされても困る。

結果、ドラゴ達親子は、飼い殺しを選択された。

『飼い殺し』といっても、別に劣悪な環境に置かれた訳ではない。

使用人が居て、生活に困らないだけの金銭、屋敷も与えられ、ドラゴに対しても最低限、竜人帝国嫡男の1人として恥ずかしくない教育も与えられた。

一応、現皇帝の息子(ドラゴからすれば年上の甥っ子)が2人いるが、彼らが命を落とす可能性はゼロではない。

そのための予備として一応の教育環境を与えられていたのだ。

とはいえ、ドラゴの立ち位置は非常に厳しいものだった。

彼は『存在しない者』として扱われていた。

表向き継承権すら与えられていなかったのだ。

(母が娼婦の愛人で、父は前皇帝、俺はその子供だから疎まれているが……俺の体にも兄達とかわらず竜人帝国皇帝の血が流れているんだ。俺にだって、皇帝の座につく権利はあるんだ!)

当時、ドラゴは子供ながら、自分の扱いが悪いことを理解していた。

自分が疎まれる理由も理解していたが、それでも納得できるかは別の問題である。

反発心か、反骨精神のせいか、気づけばドラゴにとって世界でもトップである竜人帝国皇帝の血を引くことが唯一のより所になり、その座を切望するようになる。

前皇帝が死亡後、すぐに母も命を落としてしまう。

最初は暗殺を疑ったが、詳細な検証から、運の悪い事故死と判明する。

この一件もあり、母親が生きていたという事実を皇族の歴史に刻むため、ドラゴはより強く皇帝の座を望むようになった。

(だが、いくら俺に竜人帝国皇帝の血が流れていても継承権すら与えられていない。スタートラインにすら立たせてもらえていない。それどころかこのままでは一生、日陰者として生きていかなければならない……)

どうにか現状を抜け出すためドラゴは現状の脱却手段を調べた。

そして見つけたのだが『マスター捜し』だ。

ドラゴは『マスター捜し』に自ら志願する。

結果、運良く『マスター候補』のライトを発見。『種族の集い』に入団させ、調査後、ライトについて詳しく調査したが、マスターではないことが判明した。

国家からの指示でライトを『奈落』で始末することが決定。

転移陣で逃げられはしたが、足にダメージを与えたため、世界最大最凶最悪ダンジョン『奈落』で劣等種である人種が生存するのは不可能。

上にも報告して、無事『ライト死亡』として扱う許可も得た。

お陰でドラゴは日陰者から継承権3位を手に入れる。

ようやく皇帝の座を目指すスタートラインに立つことが出来たのだ。

この結果にドラゴは心底ライトに感謝する。

(『偽ますたー』のライトを殺害することで、俺は日陰者から竜人帝国の継承権を得ることが出来た。ライト……俺の未来のため死んでくれて本当にありがとう。感謝の念しかない)

もう少し欲を言えば、ライトが本物の『マスター』で、竜人帝国に取り込むことが出来ていれば一息に皇帝の座を狙える地位まで行けたのだが……。

欲を出したら切りがない。

ドラゴは胸中でライトが死んでくれたことに再度感謝して、彼はようやく日の当たる場所へと一歩を踏み出したのだった。

――踏み出したと同時に彼は現実を知らされることになる。

「『プロジェクト・アーク』を完成させる支援をするのが、竜人帝国の存在意義だと?」

継承権を手に入れたことで、ドラゴは『C』の存在を知った。

『C』から逃れるためマスター達と手を組み、『プロジェクト・アーク』完成を支援。

最終的に星から脱出するのが竜人帝国――上層部が国を運営している理由だと知る。

ドラゴが望んでいた皇帝の地位など、『アーク』が完成すればお払い箱だ。それこそアーク完成後、皇帝になるなら譲るとさえ言われた。

脱出した後、『C』が残る星で、誰が皇帝、奴隷だろうが彼らには関係ないからだ。

『C』が居る限り、その星で誰がトップ、下層かなど無意味でしかない。この星から脱出することこそが唯一の選択肢だった。

だが当時はまだドラゴにも幸運があった。

『マスター候補』ライトを殺害。

母が高級娼婦とはいえ、ドラゴは皇帝の血を引いている。

真実を知った後、下位ではあるが『アーク』搭乗の権利か、脱出後の皇帝に即位する権利を選ばされた。

隠されていた情報を知ったドラゴは当然、『アーク』の座席を選ぶ。

「『C』にとって6種族など遊び道具に過ぎない。自分からわざわざ玩具になる趣味は俺にはない」

ドラゴにとって『竜人帝国皇帝の血を引いている』がアイデンティティで、野望としてトップに立つのを望んでいたが、真実を聞かされた後、『C』の玩具になる道を選ぶほど被虐趣味は持ち合わせていなかった。

ドラゴは改めて犠牲になってくれたライトに感謝する。

「ライト……オマエが死んでくれたお陰で俺は最後の最後に『アーク』搭乗の権利を手に入れることが出来た。本当に俺のために死んでくれてありがとう」

ドラゴは人種を見下していた。

人種など言葉を交わせる家畜だと。

それでもこの時はライトに心の底から感謝の念を送ったのだった。

――そんな感謝の念が、『巨塔の魔女』という人種によって奪われることになったのは皮肉でしかない。

頭を抱えているだけでは何も変わらない。

このままだと本当に『プロジェクト・アーク』から弾かれ、竜人帝国側マスター達と上層部が脱出した後、その事実を知って機嫌が悪くなった『C』の相手を強制的にさせられなければならなくなる。

あっさりと死ねたらまだ幸運で、最悪、『C』が飽きるまで玩具として嬲られ続けるのだ。

まさに生き地獄である。

想像しただけで全身が震え出す。

「と、とにかく皇帝に直訴し、是が非でもアークの搭乗席を確保しなければ……ッ」

ドラゴは硬く決意を固め、皇帝に座席確保の直訴をおこなうため、自室を出て廊下を移動するのだった。