作品タイトル不明
1話 プロジェクト・アーク
「さあ、今こそ! 皆、この星から脱出しよう……ッ!」
竜人帝国側マスターのリーダーを務めるヒロが力強く断言する。
『巨塔の魔女』が、自称『女神様』に選ばれた勇者達をあっさりと撃退してしまったことで、どこかに眠っているであろう『C』がおそらく刺激を受けた。
そのせいでいつ『C』が目覚めるか分からない状態になったことで、竜人帝国側『マスター』達が、『プロジェクト・アーク』始動を全員一致で了承した。
一致したのはいいが……。
過剰に煌びやかな装飾品をつけたカイザーが水を差すように突っ込む。
「『プロジェクト・アーク』の始動は構わぬが、今日、明日すぐに動かすことなど出来ぬからな」
「ちなみにどれぐらいの時間があれば。動かすことが出来ますかね?」
竜人帝国側『マスター』のリーダー格を務める王子のような顔をしたヒロが、代表して気になる質問を尋ねた。
カイザーは顎に手を当て暫し考え込み答える。
「……できれば全体の設備に漏れがないか、稼働実験、設備の再チェックなども含めて最低でも三ヶ月は欲しいところだな」
「ァァァ!? 正気か。『C』がいつ目覚めるか分からねぇ状況で、のんべんだらりと三ヶ月も待ちぼうけさせるとはァッ。カイザー、オマエ、状況が分かっていないのかァッ?」
「…………」
ドレッドヘアーで元魔人側マスターのゴウが、カイザーに難癖をつけてくる。
カイザーに対するゴウの態度に、彼の後ろに控えている黒ずくめの姿をしている 黒(ヘイ) が無言で睨みつけてくるが、ゴウは一切気にしない。
一方、カイザーはというと、ゴウの視線に尻込みせず、逆に睨み返す。
「今すぐ起動して、飛び立ちたいなら好きにしろ。ただし、成層圏を越える前に動作不良で落下。宇宙空間に無事飛び立てた後、内部機能が原因不明の問題で機能せず資材もなく修復も出来ない。酸素供給システムに異常が発生して宇宙空間で酸欠。他どんな問題が起きるかわからない。そういった問題が起きても良いというなら、好きにしろ」
「……元々アーク自体、ボロボロの状態で海底ダンジョンで発見したものですからね。むしろ、カイザー君、皆の協力で運用できるレベルまでもっていくことが出来たと思いますよ」
場の雰囲気が悪くなりそうになったが、禿げ頭の水使いであるルカンの昔を懐かしむような台詞に、カイザー&黒、ゴウの間にあった緊張感が緩む。
追撃をかけるように細目のヒソミが同調した。
「いやぁ~懐かしいですね。ルカン殿の 恩恵(ギフト) で海中モンスター、海底にあるダンジョンに潜り日々、レベル上げする毎日で偶然発見したんですよね。最初はダンジョン内部にある新しい探検エリアかなにかと勘違いしましたが、本当に希有な掘り出し物でしたよ」
竜人帝国側『マスター』は、ルカンの 恩恵(ギフト) によって、水中でも地上と同じように動くことが出来た。
その 恩恵(ギフト) を使い地上では考えられない高レベルモンスターを倒し、長い時間をかけてレベルを上げていった。
海中にあるダンジョンにももぐり、宝箱を発見しマジックアイテム、マジックウェポンなども多数得てきた。
『プロジェクト・アーク』の根幹を支える脱出するための宇宙船――彼らが『アーク』と命名したマジックアイテムは、そんな海底ダンジョンの一つで発見した物だ。
宝箱ではなく、海底ダンジョンの巨大広間に鎮座していた。
その巨大広間には海水が侵入せず、一見すると巨大な城だったため、彼らは最初、ダンジョン内部にある新しい探検エリアと勘違い。
しかし、詳しく調べると――外観は巨大な城だが、実際は空を飛び、宇宙空間を移動でき、永続的に永住し続けることが出来る環境が整っているマジックアイテムの一つだということが判明した。
このアークの発見より、『C』が支配する星から脱出。
『C』の手が届かず、生活可能な星を探し、移住する計画『プロジェクト・アーク』が立案されたのだ。
ルカン、ヒソミの話で険悪になりそうだった雰囲気が緩む。
ゴウは元魔人国側のマスターだ。
下手にこれ以上ごねて追放されても困るため、舌打ちしつつ矛を収める。
ナズナに切断された左腕――現在はヒソミのフレッシュゴーレム技術で作り出した義手で補っている、その部分をさすりながら指摘する。
「でもゴウを後押しする訳じゃないけど、三ヶ月は長くない? そんな悠長に待っていたら『C』が目覚める可能性がけっこうあると思うんだけど」
「確かに……カイザーさん、どうしても動かすのに三ヶ月は必要ですか?」
この発言にヒロが顎に手を当て、考え込みカイザーへと水を向けた。
カイザーは不機嫌そうに眉根を寄せるが、彼らの指摘ももっとも。悠長にアークの準備をして『C』が完全に覚醒し、妨害されたら目も当てられない。
元々『プロジェクト・アーク』は、『C』が目覚めていない間に現在いる星から脱出し、『C』の手が出せない宇宙空間まで逃走するためのものだ。
またアーク内部は長期間自給自足可能で、その気になれば永住し続けることが出来る環境が整っている。
その環境を利用して、宇宙を移動し、彼らが生存可能な新たな星を見つけて移住する――というのを目的にしている。
なのに準備にかまけて『C』が覚醒してから行動を起こして、飛行中に『アーク』を破壊されたら目も当てられない。
もちろん『アーク』周囲に展開する障壁は宇宙空間を移動できるほど強固で、並の攻撃では破壊は不可能だ。
だが『C』なら、そんな障壁など塵芥の如く破壊し、『アーク』撃墜すら可能だろう。
にもかかわらず、のんべんだらりと三ヶ月もチェックなどしてはいられない。
「とはいえ、三ヶ月は本当に最低でも欲しい期間だぞ。これを短縮した場合、先程余が口にした事故が起きてもおかしくはないのだが……。最低限の簡易チェック、飛行中にも確認作業をしつつ、居住区の環境整備を後回しにして収容人数を減らし、余が今から寝ずに動けば……2ヶ月、いや、1ヶ月半は圧縮できるはずだ」
カイザーが苦悩の末、言葉を振り絞る。
カイザーは顧客からの避けられない無茶振りに答える技術者のような顔で短縮できる納期を告げた。
「これ以上はさすがに無理だぞ。もしこれ以上を望むなら、本気で先程余が口にした事故が起きる可能性を覚悟するしかないからな」
「1ヶ月半……妥当だと思いますよ。ボク達の準備もあるし、『アーク』に乗せる竜人帝国側上層部の選別、物資の搬入などもあるから。その辺りが良いのではないかとボクは思うけど、皆さんはどうです?」
ヒロの発言に他マスター達がおのおの納得した返事をする。
これ以上、カイザーに無理難題を押しつけて、『アーク』が事故にあって自分達が死亡しては意味がない。
『1ヶ月半』という納期に皆が納得したことで、場の空気が弛緩した。
2人がけソファーに並んで座るヒロが、意見のまとまりに安堵し体を背もたれに預ける。
「一時はどうなるかと思ったけど、意見が纏まってよかったよ……」
「何がよかっただ、余はこれから1ヶ月半、寝ずに働くことが確定だぞ? なぜファンタジー世界に来てまで余はデスマーチをしなければならないのだ!」
上座の1人掛けソファーに座っていた派手な装飾を身に纏っているカイザーは、話し合いが終わると席をすぐに立つ。
「あとの細かいことは全部オマエ達に任せたからな! 他の用件で余の手を煩わせたら本気で切れるからな。これ以上の仕事を振るなよ? フリではないからな、本気でフリではないからな!」
カイザーはマジ顔で、念を押すと早速作業に取り掛かるため出入口に向かって歩き出した。
彼の後を黒が黙って付いていき、2人が部屋から退出する。
カイザーは彼の発言通り、今すぐ『アーク』のチェックのため、1ヶ月半寝ずに働かなければならない。
他の用件で仕事を依頼した場合、彼が本気で切れるのが手に取るように伝わってきた。
そんなカイザーの背中を皆が微苦笑を漏らし、見送る。
「『アーク』の最終的なチェックは 恩恵(ギフト) 技能的に、カイザー殿しか出来ませんからね」
「僕様ちゃんも出番は『アーク』の出発直後だしね」
「むしろ、一番暇なのは黒の奴じゃねぇかァッ? なのに背後に立つだけで手伝わないのはどうなんだァッ?」
細目のヒソミ、美少年のセスタ、ドレッドヘアーのゴウがそれぞれ感想を漏らす。
禿げ頭のルカン、美形のヒロも互いに意見を交換する。
「『アーク』の目処は立ったようですが、居住区の整備を減らすということで竜人帝国側の乗せる人員は減りましたよね。その調整はヒロくんがするんですか?」
「まさか。そんな怨みを買うマネわざわざやりませんよ。そんな嫌な役目は竜人帝国側上層部に押しつければいいだけですから。人数を減らす作業はあちらに任せるから、ある意味気が楽なんですよ。むしろ、ボクとしては今から『アーク』内部でのスローライフが楽しみでなりませんね」
「いいですねスローライフ。湖はあっても海が無いのは残念ですが……」
ルカンは恩恵の力で水中活動に支障を受けない。
その力を使って今まで彼らのレベルアップの手伝いを海中、海底、深海ダンジョン等でおこなってきた。
長年海に関わってきたため、『アーク』内では海から遠ざかるのを寂しがる。
「なら、今からでもカイザーさんに依頼する? 確か古代技術で人工的に海を作る技術があったよね」
「おいおい、今からそんなの追加したらカイザーの奴、マジキレするだろうォッ……」
セスタの無邪気な発言に、ゴウがドン引きして突っ込む。
ルカンもまさかそんな鬼畜なマネできるはずもなく、笑い流す。
「まさか、さすがにそこまでは言いません。『アーク』で我々が新たに過ごす星に辿り着くまでの楽しみにしますよ」
「ルカン殿も無茶いいますね……。早々簡単に我々が移住可能な星なんて見つかるとは思えないのですが……。もちろんあれば海はほぼ確実にあるでしょうが」
「いや、確かにヒソミ君の指摘通り、我々が住むことが出来る星などみつけるのは難しいですが、やりたいことを考えるのも大切じゃないですか」
ルカン、ヒソミの雑談にヒロが夢を語る。
「やりたいことか……ボクは、ここで竜人帝国上層部との折衝や色々権力絡みに奔走してきたから、もし移住可能な星を見つけたら星を舞台にしたスローライフを送りたいです。畑を耕して牛や豚、鶏を飼って、建物を自分で建てて村を徐々に広げていきたいですね」
「ヒロ、オマエ、そんな事を考えていたのかよォッ」
「ええ、いいじゃないですか。小生はせっかくなので焼き物、陶芸とかやりたいですね。1から竈を作って、土選びをして」
「なら僕様ちゃんは、移住可能な星にいる現地生物を爆殺したいな! やっぱり星が違うなら生物種類も大分違うと思うし、爆殺具合も違うのか気になるしね!」
ヒロの夢にゴウがツッコミを入れる。
ヒソミが嗜め彼とセスタがヒロ同様に逃げ延び、新たな星を発見したらやりたいことを語り出す。
やりたいことの大小あれど、彼らは無事に『プロジェクト・アーク』が成功し、『C』の支配圏から脱出。
自分達が脅かされることのない平和な世界を手に入れることが出来ると信じていた。
自分達の未来は明るいと誰一人疑いすらしていなかったのだった。