軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

39話 vsニック4

『聖剣の勇者』ニックは、『巨塔の魔女』エリーによって追い込まれていた。

エリーが身に付けている『マルチウェポンマジックパワードアーマーEM.Ⅲ』は強力だ。

純粋な魔力を燃料に動いているため、『魔術発動を妨害する』能力を持つ魔剣形態で停止させることも出来ない。

『聖剣ゼット』のステータス底上げがなければ、今までまともな剣術も学ばず、戦闘経験もないニックでは彼女の攻撃をかろうじてではあるが防ぐことは出来なかっただろう。

かといって、近接戦闘を重視して『聖剣ゼット』を聖剣形態にすれば無詠唱で戦略級攻撃魔術が放たれる。

あちらを立てれば、此方が立たない状態に陥ってしまう。

エリーがパワードアーマー越しにニックを蔑む。

『碌に剣術も磨かず、格下を相手にレベル差だけで押し切るだけの無能戦闘しかしてこなかったから、わたくしの淑女の嗜み程度の剣術に追いつめられるのですわ。本当に選ばれた勇者ですの? これでは勇者というよりただの無能ですわ』

「ぼ、ぼくを馬鹿にするな! 魔女がぁぁぁぁぁぁッ!」

エリーに図星を突かれ激昂したニックは魔剣のまま、馬鹿正直に突撃する。

「ぼくは『聖剣の勇者』なんだ! ぼくこそが一番の勇者なんだ! 魔女ごときに負けるはずがないんだよぉおぉッ!」

激昂し魔剣をがむしゃらに振るうニックに対して、エリーは冷静に剣を防ぐ。

エリーは彼の攻撃を冷静に捌いているが、即座に反撃するまでは手が回らない。

彼女の剣術は本人の発言通り、あくまで『淑女の嗜み』、護身術レベルだ。

あとさき考えず怒りにまかせて滅茶苦茶に振り回す、ニックの剣を防ぐことは出来ても即座に反撃するほどの技量はない。魔剣でなければ、攻撃魔術での反撃もできなくはないのだが。

腐ってもニックはレベル7000。

振り回される剣速は速く、そこそこのレベルが相手なら身体能力で簡単に押し切られてしまうほどだ。

仮にナズナなら、エリーのように防御しつつも楽に反撃して勝負を決することもできた。

本来、魔術師であるエリーにそれを求める方が間違っている。

しかし、ある意味拮抗している状況にニックが気付き、調子に乗った発言を叫ぶ。

「あはははは! やはりぼくは選ばれた勇者! 歴史上、最強の勇者だ! 魔剣で魔術を封じて攻撃に専念すれば魔女と斬り結ぶこともできるんだ! このまま魔女がミスをして防御するのを失敗するまで攻撃を続ければいいだけ!」

『……それは暗に自身の未熟さを認めているだけでは? 何よりも』

エリーはニックのガムシャラに振るう子供のような剣を防御していたが、途中、わざと防ぐのを止めた。

無防備になったエリーを前にニックは罠も警戒せず、興奮気味に突っ込む。

「あはははは! ついに観念したようだな魔女め! 僕の剣でその首を落としてやる!」

ニックは頭から突っ込む勢いで、エリーの首を狙い剣を全力で振るう。

その剣速は通常の鎧どころか、並のマジックアイテムで防御しても首ごと切断するだけの力を秘めていた。

『ガンッ』と、金属音が青空に響く――が、それだけだった。

「……はっ? ど、どうして首が切れていないんだ?」

ニックは頭から冷水をぶっかけられたかのように、先程までの興奮が一瞬で鎮火する。

なぜなら全力で振るった魔剣の一閃はパワードアーマーに当たっていたが、切断するどころか傷一つ付けることが出来なかったのだ。

なんとか切断しようと継続的にニックが力を込めるが、決して魔剣はそれ以上進まない。

エリーは余裕の態度を崩さず告げる。

『この 魔術武具(マジックウェポン) は、魔力を注げば注ぐだけ防御、攻撃、移動速度能力が増加するのですわ。なので魔力を注ぎ、防御能力を強化すれば貴方程度の剣など通じないですの。わたくし、言いましたわよね? 「一方的な蹂躙を開始いたしますわね」と。この 魔術武具(マジックウェポン) にわたくしが乗り込んだ時点で、最初から貴方に勝機などなかったですの』

「う……嘘だ……嘘だ、嘘だ、嘘だぁぁぁッ! ぼくは女神様に選ばれた勇者で! しかも、最も有名な『聖剣の勇者』なんだ! 『聖剣の勇者』であるぼくが、敵を倒せないなんて嘘に決まっ――ッゥ!」

『何を甘えたことを仰っているのかしら。「女神様に選ばれた勇者だから、敵が勝手に倒れてくれる」なんて、この世にそんな都合が良いことなどあるわけないでしょうが』

エリーは現実を受け入れられず、喚くニックを煩わしそうに殴り飛ばす。

彼は動揺し、戦闘中だということも忘れて喚いていたため、無防備にエリーの拳を受けてしまった。

ゴロゴロと地面を転がり、口から血を流す。

「ぐっぅ……か、回復剣よ、ぼ、ぼくの傷を癒したまえ……ッ」

ニックは殴られた傷を癒すため『聖剣ゼット』を魔剣から、傷を癒す『回復剣』に切り替える。

傷を治すと、『巨塔の魔女』を睨みつけながら、ジリジリと後退りし出す。

エリーはニックに既に戦闘意欲が無いことを悟る。

その態度に思わず溜息を漏らしてしまう。

『勝てないと悟り、すぐに撤退を判断できて優秀と褒めるべきか、見切りが早すぎて意気地がなさすぎると嘆くべきか……。迷う所ですわね』

「全ての敵を滅ぼせ! 爆炎剣!」

ニックが彼女の台詞を遮り攻撃をしかける。

爆炎剣は『聖剣ゼット』が持つ7の剣のひとつだ。

一振りで爆発を秘めた炎を周囲に撒き散らす。そのため一振りで大勢の敵を倒すことが出来る力を持っていた。

早い話が多数の敵を倒すための剣だ。

ニックはそんな爆炎剣を、目眩ましとして利用する。

彼はすぐさま飛行剣に切り替えて、その場から文字通り飛ぶように逃げる。

(悔しいがぼくだけの力では、『巨塔の魔女』には勝てない! 一度、女神教総本山に戻って帰ってきた他勇者と合流して、皆で再度『巨塔の魔女』に挑むべきだろう。今回、ぼくは威力偵察で『巨塔の魔女』の力を見抜いたんだ。決して逃げる訳じゃない。敵の情報を持ち帰ることが大切なんだから!)

『その程度の目眩ましでわたくしから逃げられると本気で思っていますの?』

「!?」

勇者の目の前に一瞬でパワードアーマーが姿を現す。

魔剣を消したため、エリーが短距離転移でニックの眼前に姿を現したのだ。

彼女はそのまま飛ぶ虫を落とすように彼を殴り、地面へと落下させる。

「ぐがぁッ!?」

『本当に無能ですわね……。俗説ですが、鳥さんでも3歩あるけば忘れるといいますが、逆にいえば3歩歩くまでは覚えているということ。なのに貴方は1歩も歩いていないのに、もう忘れるなんて……。魔剣を消したら、わたくしが魔術を使えるようになるのを忘れたのですの?』

「ぐうぅぅ……」

エリーが問いかけるが、殴られ、地面に叩き落とされたニックは痛みに悶えて碌に返事もできない。

そんな彼を見下ろし、胸中で愚痴を漏らす。

(できるなら『UR マルチウェポンマジックパワードアーマーEM.Ⅲ』を使わず、勝負を決めたかったですわ……。ライト 神様(しんさま) はパワードアーマーを『格好いい』と仰ってくださいましたが、乙女心的に、『格好いい』ではなく『可愛い』と思われたいですのに……。結局、着るはめになるなんて……。本当にもうですわ!)

最初、ニックとの戦闘をした際、エリーは片手を上げて『UR マルチウェポンマジックパワードアーマーEM.Ⅲ』を担ぐメラを呼ぶのをためらった。

その理由として、ライトは『格好いい』と褒めていたパワードアーマーだが、エリーや女性のセンス的には正直『避けたい』デザインをしている。

敵を倒すためとはいえ、可愛くない避けたい恰好をしなければならないのが非常に屈辱的だった。

しかし、敬愛するライトのため、『聖剣の勇者』ニックを見逃す選択肢はない。

気が進まないが、彼を倒し捕らえるため、エリーは自身の美意識にそぐわないパワードアーマーを身に着ける決意を固めたのだ。

「た、たすけ……助けてください。もう、『巨塔街』には近づきませんがら。他勇者達とも縁を切りますから……」

『…………』

エリーが胸中で考え事をしていると、地面に落下して痛みに悶えていたニックが、ダメージから回復し命乞いを始めた。

そんな彼に向けて、エリーは暫し無言の視線を向けた後、自身にしか分からない理由で最後の言葉を告げる。

『こちらにも都合がある以上、貴方を見逃す訳にはまいりませんの。それに……わたくしの乙女心を傷付けた罪は重いですの! ぼこぼこにしてさしあげますわ!』

「――ッ!」

『乙女心』云々は理解できなかったが、自分がもう助からないことをニックは心の底から理解してしまう。

今度こそ『聖剣の勇者』ニックは完膚無きまでに絶望顔を作ったのだった。