作品タイトル不明
コミックス4巻発売記念毎日更新用シナリオ 保存食作り
「こんなところで何をやっているんだ?」
ナズナが見回り仕事という名の散歩をしていると、『奈落』最下層の食堂で珍しい組み合わせを目にする。
スズ、ロック、ゴールドだ。
2人とマジックウエポンであるロックは、食堂のテーブルにナズナが見たことがない食品を並べて向き合っていた。
そこに彼女がちょうど通りかかり、声をかけたのだ。
ゴールドはナズナの突然の質問に明るい態度で応対する。
「これはナズナ殿、見回りお疲れ様です。実は地上組から陳情がありましてな。その陳情に対するアイデアをスズ殿に求めていた所なのですよ」
「(こくこく)!」
「ちんじょう?」
ナズナが可愛らしく小首を傾けながら疑問を口にした。
ゴールドが分かりやすく説明する。
現在、地上では情報収集のため、冒険者、商人などという形で『無限ガチャ』カードから顕現した者達が活動している。
分かりやすい所で、モヒカン冒険者達などだ。
そんな彼らからとある要望が上がる。
その要望とは――『地上のご飯、とくに保存食が不味い。なので、地上の食材を使ってどうにか食べられる保存食が作れないか』というものだ。
この陳情にライトも同意する。
彼も冒険者時代、何度も保存食を口にしていた。当時は『奈落』最下層の食事を知らなかったから、まだ食べられていたが……。
知った今、前の保存食を美味しく食べるのは不可能だ。
とくに行商人、冒険者は街などにいるより移動している時間が長い。故になるべく美味しい保存食を口にしたいのが人情というものだ。
結果、『奈落』最下層に勤めている料理人達にライトが命じて、『地上の食材を使った保存食研究』がおこなわれている。
他にも料理上手ということでスズにも意見を求めることになった。
「そこで我輩がまず料理が得意なスズ殿に地上にどのような保存食があるのか、代表的な物を説明する機会を作って頂いたのですよ」
「(テレテレ)」
『料理上手』と褒められて、スズが恥ずかしそうに、でも嬉しそうに照れた。
ナズナは照れるスズを気にせず、さらなる疑問をぶつける。
「? 地上のご飯が不味いのは理解できたけど……なら、食事をするたびに転移カードで『奈落』最下層へ戻ればいいんじゃないか? もしくはご飯を『奈落』最下層から持ち出せばいいじゃん」
「解決方法としてはそれが一番手っ取り早いのですが……。どちらも現地人に見られた場合、誤魔化し辛くなりますからなぁ」
ゴールドが微苦笑を漏らし、肩をすくめた。
ナズナの指摘通り、味の改善だけを考えれば食事のたびに転移カードで戻ったり、『奈落』最下層にある売店で購入した食料を地上で食べればいい。
しかし、売店の食材、商品は『無限ガチャ』カード産のため、地上の物に比べると異次元レベルで質が高い。
もし地上人の料理人などの専門家が口にすれば一発でおかしいとばれてしまう。
物によっては、一般の地上人でも一目見て違和感を覚えてしまうほどだ。
そんな高クオリティーの品物を地上に持ち込むのは問題である。
『転移』カードはさらに不味い。
見るからに低レベルの冒険者が、地上で希少価値の高い転移を繰り返しているのを見られたら、誤魔化せる訳がない。
故に食事、睡眠、風呂など何かあるたび転移カードを使って『奈落』最下層に戻るのは問題がある。
目撃された地上人をそのたびに口封じする訳にもいかない。
なので地上人に見られても現地の食材を使った『工夫して作ったから美味しいんです』と言い訳ができるレベルの保存食を作ろうとしているのだ。
ナズナが腕を組んで納得し頷く。
「なるほどな……。地上で活動している奴らも大変なんだな……」
そして早速、ゴールドが地上にある代表的な保存食の説明を開始する。
なぜかスズの隣にナズナも腰掛け参加した。
スズ、ロック、ゴールドも『ナズナだし』と納得し、話を続ける。
「まずは保存食の代表といえば堅パンですな」
「(ふむふむ……)」
スズが堅パンを手に取り、確認する。
ナズナも堅パンを興味深そうに手に取り、その堅さを確認した。
「うわぁ……本当に堅いんだな。これ本当に食べられるのか? カチカチに堅いぞ」
「腐らぬように水分を抜いておりますからな。基本、そのまま食べるのではなく、スープを作って、浸して柔らかくしてから食す物なのですよ」
「へぇ~そうなのか」
ナズナはゴールドの説明に感心しつつ、堅パンの硬度を確認したが、結局、口にはせず戻す。
次に興味を示したのは干し肉だ。
「あたい、これ知っているぞ。干し肉だろ? たまに売店で買って食べているんだ!」
「な、ナズナ殿、ストッ――」
ナズナは食べ慣れた干し肉をイメージしたせいで、地上の味を確認するため躊躇なく口にする。
ゴールドが止めようとしたが、遅かった。
「――うげぁ!? 塩がらい!?」
『奈落』最下層売店で売っている干し肉――ジャーキーの味をイメージして口にしたせいで、地上の干し肉の塩辛さに顔を歪める。
口にした干し肉を吐き出した。
『相方、なずな様ニ水ヲ』
「(こくこく)!」
黙って話を聞いていたロックが、おろおろしていたスズに指示を出す。
スズはアイテムボックスからコップを取り出し、水を入れるとナズナへと手渡す。
ナズナは渡されたコップを一息で飲み、追加の水を欲してコップをスズへと向けた。
スズはメイドのように水をコップへと注ぐ。
2杯の水を飲み干し、ようやく落ち着いたナズナが抗議の声をあげる。
「ご、ゴールド、あれって本当に干し肉か!? めちゃくちゃ塩からいんだけど! むしろ、塩の味しかしなかったぞ!?」
「説明が不足して申し訳ない。あれは確かに干し肉で合っているのですが、地上の干し肉は直接食べるのではなくスープを作る際の調味料的役割をする物なのですよ」
地上の干し肉は『奈落』最下層売店で販売している味を追求した物とは別だ。
腐らないよう水分を抜き、塩漬けにしている。
もちろん直接食べても良いが、外で野営する者達は、基本的にスープの具を増やしたり、味付けのため干し肉を使っていた。
過剰に塩気が強い干し肉だが、スープに入れてほぐせば具材になって、味付けにもなる。その点を考慮して地上ではやや過剰に干し肉に塩を追加している面もあった。
「なのでこちらの干し野菜もですが、基本スープの具材として持ち運んでいるのですよ。もちろん外での旅移動ですから、水が調達できない場合も当然ありますが」
その場合、硬いパン、塩辛い干し肉を少量の飲み水で流しこまなければならない。
食べないという選択肢はない。
なぜなら長距離移動には体力が必要だからだ。
さすがに食べないと体力が圧倒的に減ってしまう。
ナズナはうんざりしたように舌を行儀悪く出しつつ、同情の声をあげる。
「本当に地上の保存食ってろくな物がないんだな……」
「基本はそうですね。酒なんかはまだ我慢できるレベルなのですが……。後はこのドライフルーツや、その蜂蜜漬けなんかはまだマシですな」
次に勧められたのがドライフルーツと、その蜂蜜漬けだ。
今度はナズナだけではなく、スズも興味深そうに食べる。
「ん! 確かにこれはさっきのに比べて美味しいな!」
「(こくこく!)」
ドライフルーツとその蜂蜜漬けは、両方ともナズナとスズに高評価を得る。
ただし問題があるとすれば……。
「ドライフルーツと、その蜂蜜漬けは確かに地上でもまともに食べられる保存食なのですが、いかんせん高いのと、腹が膨れません。さすがにこれだけ食べて旅は出来ませんからね」
「あーたしかに果物だけじゃお腹いっぱいにはならないか……」
「ですな。他にも保存食はありますが、基本的な物となるとこの辺りですな」
ナズナはゴールドの意見に納得したように頷く。
彼女の反応にゴールドも同意の声をあげた。
一方でスズはというと――。
「…………」
ドライフルーツを食べた後、暫し考え込む。
考え込んだ後、ぼそぼそとロックへ声をかけた。
『……相方曰ク、地上ノ保存食ハ大凡理解シタ。モシカシタラナントカ出来ルカモシレナイカラ、ごーるどノ旦那ニ用意シテモライタイモノガアルラシイ』
「おお、さすがスズ殿! して、用意して欲しいものとは?」
『地上ノ酒ダト。ドウヤラ相方曰ク、地上ノ酒ヲ使ッテ新シイ保存食ガ作レルカモシレナイラシイ、ト』
「お酒で保存食を? でもお酒って飲み物だろ。それでどうやって保存食を作るんだ?」
ナズナはスズの要求の意味が分からず、小首を傾げ続けるのだった。
――数日後。
『奈落』最下層の料理人も協力して、『地上の品物だけで作り出した味が良い保存食』が開発された。
その保存食は『葡萄酒パン』だ。
食堂でゴールドが、目の前にある『葡萄酒パン』を前に感心した声をあげる。
「保存食を作る際、水分を抜くことが重要。水分が残っていると腐敗してしまうからな。その水分代わりに地上でも手に入りやすい葡萄酒を使うことで柔らかいパンにもかかわらず、すぐに腐敗しないパンを作り出すとは。さすが料理上手のスズ殿!」
「(てれてれ)」
ゴールドに手放しで褒められて、スズが照れる。
実際はもっと細かい理屈で腐りにくいのだが、脇に置こう。
『ごーるどノ旦那ガ酒ハマダましッテ話ヲ相方ガ聞イテ思イ付イタラシイ。アル意味デごーるどノ旦那ノ手柄デモアルナ』
「なに我輩はただ質問に答えただけ。実現させたスズ殿と『奈落』最下層の料理人の功績だろう。しかも約1ヶ月は持ち、ドライフルーツ、木の実を混ぜることで味のバリエーションも作れて飽きない点もいいな!」
『葡萄酒パン』は何も入れていないプレーン、クルミ、ドライフルーツ入りの三つのタイプが現在作られている。
将来的に種類も増やすらしい。
ちなみに味の方は……。
もぐもぐとサンプルの『葡萄酒パン』をナズナが美味しそうに食べる。
「味はどれも普通のパンだな! けど、あの石のようなパンより全然いいと思うぞ。あたい的にはこのドライフルーツ入りが好きだな!」
味的にもナズナが合格を出す。
これなら十分、地上で活動する者達の舌を満足させることが出来るだろう。
こうしてスズ、『奈落』最下層料理人の協力のもと、無事に新しい保存食が出来た。
そして今後も地上で活動する者達を支えるため、『地上にある食品で味が良い保存食』作りの研究がライトの許可を取り進められることが決定したのだった。