作品タイトル不明
38話 vsニック3
『それではこれから一方的な蹂躙を開始いたしますわね』
『UR マルチウェポンマジックパワードアーマーEM.Ⅲ』越しにエリーが断言する。
「ケケケケ! 巻き込まれるのは嫌なのでアタシは一度下がらせて頂きますね」
『聖剣の勇者』ニックを足止めしていたメラは、エリーの準備が整ったのを確認すると、あっさりと引く。
2人の――エリーの戦いに巻き込まれるのを嫌ったようだ。
『荷物運びと足止めご苦労様でしたわ。では、いきますわよ』
「魔剣よ、力を示せ!」
ニックはエリーが無詠唱で攻撃魔術を使うのを察して、聖剣を魔剣へと切り替えた。
お陰で攻撃魔術を無力化。
エリーはパワードアーマーを身に着けた状態で肩をすくめる。
『やれやれ……本当に面倒ですわ。わたくし、近接戦闘はあまり得意ではありませんのに!』
「!?」
エリーが右腕を振るうと収納されていた刃が飛び出る。
彼女はそのままニックへ向かって突撃!
鈍重そうな見た目に反して、素速い踏み込みにニックは驚愕する。
そのまま振り下ろされる刃を驚きつつも、魔剣で受け止めた。
「くッ! 重いッ!」
『レディーに重いとは失礼極まりないですわよ。まぁこのマジックアイテムの重量が加わるので重いのは当然なのですが。決してわたくしが重いわけではありませんが、ね!』
エリーは『聖剣の勇者』ニックの失礼な発言に眉を少しだけひそめつつ、二度、三度、四度と右腕の刃を振るう。
「こ、この! な、舐めるな!」
ニックは魔剣から『聖剣ゼット』に切り替え、エリーと斬り結ぶ。
魔剣と違って『聖剣ゼット』に切り替えると、ニックの身体能力、回避能力、攻撃能力など全てのステータスが底上げされる。
エリーの攻撃をニックは聖剣で底上げしなければ追いつけなかった。
高速で何度も斬りつけられる刃に、ニックは高レベル&『聖剣ゼット』の底上げによって無理矢理食らいつく。
2人の間に激しい火花の顕現が無数に生まれた。
「どうした『巨塔の魔女』! 最初こそ驚いたけど、その程度の剣じゃぼくを傷つけることはできないぞ!」
『挑発のつもりですの? むしろ、近接戦闘が苦手なわたくしと拮抗している貴方の方が問題があるのでは?』
エリーは後方から攻撃魔術を放つのを得意としている。
そのため近接戦闘は、実際、本人の言葉通りそこまで得意ではない。あくまで護身レベルだ。
そんな彼女と拮抗しているニックが、自身がどれだけ技術を磨かず、今まで高レベルでごり押ししかしてこなかったのか分かってしまう。
エリーの指摘にニックが苛立った表情を作る。
「魔女め! そうやってぼくを惑わすつもりか! 勇者であるぼくにそんなもの効かないぞ!」
『わたくし、ただ事実を告げているだけなのですが……。まぁ別にどうでもいいですけど!』
『ガンッ』という発射音。
エリーの発言後、彼女の両肩から氷属性の攻撃魔術が発射される。
『マルチウェポンマジックパワードアーマーEM.Ⅲ』の機能の一つとして両肩にある発射口から、攻撃魔術を放つことが出来るのだ。
近距離から不意打ちで攻撃を受け、ニックは聖剣でギリギリガードするも肩、指、剣に氷属性の攻撃魔術の散弾を受けてしまう。
さらに放たれた氷属性の攻撃魔術には追加効果があり、当たった箇所から徐々に氷が広がっていく。
「ぐぅっ!」
彼はたまらず、エリーから逃げるように距離を取る。
「魔剣よ、力を示せ!」
だが、ニックには『聖剣ゼット』がある。
7つの権能の一つである魔剣に切り替えて、広がっていた氷結を解除してしまう。
彼は続けて、魔剣をエリーへと向けて力を行使する。
「魔剣よ、力を示せ! あのガラクタの動きを止めろ!」
『無駄ですわ。その魔剣で、今のわたくしを止めることは不可能ですの』
しかし、エリーは動きを止めず、優雅に歩を進めた。
その姿に『聖剣の勇者』ニックが、動揺する。
「ば、馬鹿な! 魔剣は全ての魔術を支配下に置く力を持っているのに! どうして、動きを止めないんだ! おかしいだろ!」
『別におかしくありませんわ。むしろ、貴方、自分の力をしっかりと把握していませんわね? 未熟者にもほどがありますわよ……』
エリーはパワードアーマーの内側で呆れた溜息を漏らす。
『魔剣は確かに魔に干渉して、支配下に置く力を持っていますわ。お陰で、わたくしが攻撃魔術を使っても貴方に届く前に無力化されてしまいますの』
『聖剣ゼット』の7つの剣の一つ、魔剣に変化させている間は、敵味方関係なく、魔術に干渉することが出来るようになる。
そのせいでエリーの攻撃魔術はニックに届く前に霧散されてしまっていた。
『ですが、魔術そのものを発動させることは出来ますの。つまり貴方の持つ魔剣は「魔術に干渉できても魔力そのものには干渉できない」のですわ』
たとえば、ガソリンで燃える炎がある。魔剣の力で、 魔術(炎) そのものを消すことは出来る。しかし供給され続ける 魔力(ガソリン) を止める力はないのだ。
『マルチウェポンマジックパワードアーマーEM.Ⅲ』は、 魔力(ガソリン) を燃料として動いている。
もし止めたい場合、供給されるガソリンを止めるしか方法はない。
だが魔剣にそんな力はないため、止めることが出来ないのである。
『魔力に干渉できない以上、 パワードアーマー(わたくし) を止めることは不可能ですの』
「くッ! ならば聖剣で堂々と魔女の首を切り落としてやる!」
魔剣が使えないと理解したニックが、聖剣へと切り替え、エリーに斬りかかるが、
『……貴方はもう少し自身の置かれている状況を正確に把握する力を付けた方がいいですわよ? 魔剣を捨てるなら遠慮なく攻撃魔術を使わせて頂きますわね』
エリーは聖剣を手に突撃してくるニックに、遠慮無く戦略級攻撃魔術を放つ。
『ボンバーランス・乱舞』
『ボンバーランス・乱舞』――爆発する魔術の槍を複数撃ち出す。敵の内部を貫き爆発する力を持つ。
100を超える魔術の槍が聖剣を持つ、ニックへと襲いかかる。
「ッゥ!?」
彼は目の前に広がる光景に驚愕の表情を作り、慌てて回避行動を取るが、ボンバーランスは自動追尾で彼を追いかけた。
着弾するたび、大地を揺らすほどの爆発が起きる。
その余波で他ボンバーランスも反応し、連鎖爆発を起こした。
並レベルの者なら、この連鎖爆発だけで即死していただろう。
しかし、相手はレベル7000の勇者で、伝説の武器を所持している。
「ま、魔剣よ、力を示せ!」
ニックは爆発に巻き込まれながらも聖剣から、魔剣に切り替え魔術を無力化。
お陰で傷だらけになるが、なんとか『ボンバーランス』を無力化することに成功する。
だが、彼の表情は晴れない。
なぜなら、体で現在、自身が非常に不味い立場に追いやられていることを実感したからだ。
ニックは悔しげにエリーを睨みつけたのだった。