軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

37話 vsニック2

「 星の撃ち抜き(ノヴァ・レイ) !」

彼女は『遅延術式』によって複数の攻撃魔術をストックしていた。

エリーはそのウチの一つ『 星の撃ち抜き(ノヴァ・レイ) 』を放つが……。

「魔剣よ、力を示せ」

ニックが持つ『聖剣ゼット』が形を変えた『魔剣』が、彼の声に合わせて力を示す。

『聖剣の勇者』へ向けて放たれた太い光の柱のようなレーザービーム『 星の撃ち抜き(ノヴァ・レイ) 』は、彼に到達するより早く霧散してしまう。

『 星の撃ち抜き(ノヴァ・レイ) 』が効果無しと判断すると、エリーは次は物理的攻撃魔術へと切り替える。

「 大地の万槍(アース・ランサー) 」

エリーは軽く片足で大地を踏むと、ニックを狙って地面から文字通り万の槍が突きだそうとする――が、

「無駄だよ、ぼくには届かない」

地面から出現しようとした槍だったが、途中で形を失い砂となって壊れてしまう。

そのせいで『聖剣の勇者』ニックを突き刺すどころか、刃が届くことすらなかった。

ニックはエリー……『巨塔の魔女』の戦略級攻撃魔術を前にしても、慌てるどころか一歩も動かず余裕の態度を崩さない。

実際、未だに攻撃魔術が彼の所まで届かないため、動く必要はないのだ。

エリーは現状では『聖剣の勇者』ニックに攻撃魔術を当てることが出来ないと理解し、心底面倒そうに溜息を漏らす。

「予想はしていましたが、まさか本当にここまでわたくしの攻撃魔術を防ぐなんて……。本当に魔術を支配し制御下に置くその魔剣は面倒ですわね」

エリーの攻撃魔術が発動しても、ニックまで届かない原因は、彼が待つ魔剣にある。

この魔剣の能力は『魔を支配下に置く』だ。

つまり、『聖剣ゼット』を魔剣に変化させている間は、敵味方関係なく、魔術に干渉することが出来るようになる。

結果、エリーがどれだけ攻撃魔術を放っても、決して彼の元まで届くことはない。

ニックは既に勝利したかのような態度で彼女に声をかける。

「なぜぼくが『巨塔街』へ向かう勇者に選ばれたのか分かるかい? それは万が一『巨塔の魔女』がいた場合、魔術を支配下に置ける僕なら簡単に倒すことが出来るからさ。つまり――」

ニックがドヤ顔でエリーへと改めて向き直った。

「『巨塔の魔女』にとってぼく『聖剣の勇者』は天敵なのさ。君が魔女である限り、ぼくに勝利することは絶対にない。そう、君が魔術を使う魔女である限りね」

ニックはまだ勝負が始まったばかりにもかかわらず、既に勝利したような態度で顎に手を当て悩み出す。

「しかし、『巨塔の魔女』って、体つきはいいし、声も可愛い、顔を隠しているけど美人だって分かるって噂は本当だったんだね。たしかにぼく好みだよ」

「……突然、なんですの、気持ち悪い」

エリーはニックの突然の感想に、『SSR 認識阻害フードマント』の下で顔を隠しているが、あからさまに不快感を表した表情を作り、彼から若干距離を取る。

彼女の心底『気持ち悪い』という態度を一切気にせず、ニックが語り出す。

「女神様のお告げで『巨塔の魔女』殺害は絶対だけど、ぼくの好みだからすぐに殺すのは惜しいんだよね。『巨塔街』に居るメイド達は非常に美しいと聞くし、他の勇者達のお手つきになる前にぼくの物にもしたいんだよね。だから、『巨塔の魔女』、殺されるまでぼくの女になってメイド達にもハーレムに入るよう命令してくれないかな。そうすれば、この場ではすぐに殺さず、勇者達が集まるまで生きられるけどどうする? あっ、でも邪教の聖女ミヤと神官クオーネは見つけ次第殺すけどね」

ニックのとんでもない要望にエリーは心底侮蔑した声で告げる。

「……そんな気持ち悪い命令、わたくしが従うと本気で思っていますの? いえ、まず根本的にそんな条件で同意する女性が居ると本気で思っているのかしら? もし本気で口にしているのなら、貴方、頭おかしいですわよ」

「……あれ? もしかしてぼく何か気分が悪くなるようなこと言っちゃった?」

エリーの心底侮蔑の指摘台詞に、ニックは軽い調子で首を捻った。

ニックはよく言えば天然、悪く言えば狂人だ。

勇者に選ばれ、自身の邪魔をしようとした両親、村人達を問答無用で殺害し、罪悪感一つ抱いていないのがその証拠である。

故にエリーの指摘など、彼には届かない。

ニックは拒絶する『巨塔の魔女』こそ頭が悪い、状況判別が出来ない狂人だと言いたげに指摘してくる。

「でもぼくの要求を受け入れないと、この場ですぐ殺されるんだよ? 素直にぼくの物になって『ご主人様』と媚びて、命令を聞けば今この場ですぐに死ぬことはなく少しの間ではあるけど生き残れるんだよ。そんなことも分からないなんて『巨塔の魔女』って意外と馬鹿なんだね」

「馬鹿は貴方ですわ」

ニックの指摘をすぐにエリーが斬り捨てた。

「たかだかわたくしの魔術を防いだからといって、既に勝利したと考えるのが浅はかなのですわ。正直に言えば……この手だけは使いたくありませんでしたが。『巨塔街』を守るためには致し方ないですの」

エリーがフードの下で、気の進まない表情を作りつつ、片手をあげる。

それを合図に森に潜んでいたメラが、大荷物を抱えて彼女の側に着地した。

「ケケケケケケ! やはりこいつを使う必要になりましたね」

メラはキメラのため、普段は身長2mの長身女性の姿にしているが、今回は外部に情報を漏らさぬため筋骨隆々の別の姿に体型を変えていた。

そんなメラが抱えていたのは――『UR マルチウェポンマジックパワードアーマーEM.Ⅲ』だ。

大きさは約3mあり、ドラム缶に手足をつけたような無骨なデザインをしている。少々変わった金属製ゴーレムのような見た目をしている。

『聖剣の勇者』ニックはメラの登場にも驚いたが、持ち込んだパワードアーマーにも困惑してしまう。

どう対応すればいいのか迷っている彼を無視して、エリーが気乗りしない態度で、運び込まれた『UR マルチウェポンマジックパワードアーマーEM.Ⅲ』の搭乗口を開き、内部へと入ろうとする。

ここでようやくニックは彼女が乗り込もうとしているマジックアイテムが、『巨塔の魔女』の切り札だと悟った。

「どうやらそれが魔女の切り札のようだね。僕がそれを見逃すほど甘いと思われているなら心外だ!」

彼は魔剣から『聖剣ゼット』に切り替え、レベル7000の脚力を生かし、一息で間合いを詰めて攻撃をしかけようとした――が、

「ケケケケ! アホな口上垂れる前にさっさと切り込んでこいよ。むしろ、アタシがアレを担いで姿を現した瞬間、攻撃を加えて妨害しない時点でマヌケなんだよ」

ニックの前にパワードアーマーを届けに来たメラが、片腕に細胞を集め巨大化させて殴りかかる。

ニックはメラの攻撃を受けず、回避を選択。

『ズドン』と地面が揺れるほどの強い一撃だった。

もしニックが受ける選択をしていたら、タダでは済まなかっただろう。

メラはレベル7777だ。

ニックはレベル7000で『聖剣ゼット』の装備を考えれば、2人がまともに戦えばどちらに勝敗が転ぶか分からない。

しかし、ニックは回避ではなく、メラの攻撃を負傷覚悟で抜け出し、エリーのパワードアーマー搭乗を阻止するべきだった。

エリーはメラの足止めもあり、無事に『マルチウェポンマジックパワードアーマーEM.Ⅲ』へと乗り込む。

外部を確認するカメラが殺意を滾らせるように光る。

『足止めご苦労様ですわ。準備完了ですの』

「ケケケケ! 畏まりました。下がらさせて頂きますね」

メラはそのままニックとは戦わず、足止めに徹して、エリーの準備が整うとあっさりと下がった。

再びエリーは『聖剣の勇者』ニックと向き合う。

彼女はパワードアーマー越しに冷たい声で断言する。

『それではこれから一方的な蹂躙を開始いたしますわね』