軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35話 vsアンレン3

「『UR 時の牢獄』、 解放(リリース) !」

『UR 時の牢獄』を解放すると、青空、草原、光り輝く太陽など長閑な風景が一瞬で黒い世界に切り替わる。

上下左右1kmの黒い壁に閉じられてしまう。

草木、岩、小石ひとつも落ちていない殺風景な空間だ。

太陽も、青空も、星も存在しないにもかかわらず、視界を闇に閉ざされず、ナズナ、『聖印の勇者』アンレン、僕自身の姿を目にすることが出来る。

光源など一切無いのに暗いと感じないのだ。

草原の地面から一転、闇を固めたような黒い壁に変化するが、踏みしめた感触は硬くも、柔らかくもない。

レベル9999の脚力で強く踏み込んでも、砕ける感触が一切なかった。

むしろ、砕くどころか衝撃そのものを全て吸収されている感じだ。

僕やナズナが単純な腕力で攻撃をしても『絶対に壊れないだろう』という確信すらある。

(物質的な黒い壁……ではないな。世界を区切る次元の境界が視認化したような感じかな?)

たとえレベル9999でも単純な腕力では壊す所か、ヒビすら入れられないだろうな。

ある意味で予想通りだ。

僕が初めて使う『UR 時の牢獄』の効果を確認していると、『聖印の勇者』アンレンが動揺した声で驚愕する。

「 タリスマン(聖印) が一切反応しないなんて……ッ!? こ、 此方(こちら) にいったい何をしたのですか!?」

「……僕達は敵同士だよ? なぜ敵の質問にわざわざ答えてあげる必要があるんだい?」

「くっ!」

僕の返答にアンレンは、動揺した表情のまま苛立った表情で睨みつけてきた。

『敵の質問に云々』と返答したが、別に素直に答えてもいい。

どうせアンレンはここで倒され、逃げられないように『奈落』最下層へ連行。エリーの禁術によって頭から情報を抜き出した後、犯した罪によって処刑する予定だからだ。

とはいえ万が一、もしかしたら逃げられる可能性があるかも知れないため、敵に情報を教える理由はない。

――ちなみに『UR 時の牢獄』とは、どのような力を持ったカードなのか?

『UR 時の牢獄』――このカードを使用した場合、半径1km以内にいる者達を現実世界の1秒間を365日に引き延ばす異次元空間に隔離するカード。

つまり、僕達は現実世界では1秒しか時間が進まないが、この空間が続く限り、この隔離された何もない異次元空間で365日間過ごさなければならないのだ。

もちろん使用者である僕が解除すれば、365日間過ごさなくても元の世界に戻る。

『聖印の勇者』アンレンの所持する タリスマン(聖印) は、物語で魔王の呪いすら拒絶するほど強い力を持つ。

実際、『SSR ソーラーレイ』、『SSSR 超重力』、『SSSR 重酸雨(ヘビーアシッドレイン) 』などで攻撃をしても彼に一切のダメージを与えることが出来なかった。

だがこれは想定内。

むしろ、お陰で タリスマン(聖印) の攻略方法に自信を持った。

つまり『攻撃が効果ないなら、自滅するまで持久戦をすればいい』だ。

早い話、アンレンは『聖印の勇者』だが、ただの人種だ。

当然、食事、水分を摂り、動き続ければ疲労し、睡眠、排泄もする。

その全てを タリスマン(聖印) で補えるはずがない。

だが僕達は 恩恵(ギフト) 『無限ガチャ』があれば、365日どころか、数年、数十年でも隔離空間で生活することが出来る。

伊達に『奈落』最下層に数年かけて国家レベルの組織を作り出したわけではないのだ。

また タリスマン(聖印) は、『悪意ある攻撃を防ぐ力を所持している』が、逆にいえば悪意がない彼を巻き込む隔離カードを防ぐことは出来ない。

『聖印の勇者』アンレンにとって、僕こそが天敵と呼べる存在だろう。

さらに本当を言えば『UR 時の牢獄』を僕達だけではなく、メイ達にも持たせてあげたかった。

そうすれば別空間にどのような動きをしても、隔離されるため第三者から行動を盗み見られることはない。

しかし『UR 時の牢獄』は、この一枚しかまだ出ていない珍しいカードだ。

出来れば他の皆にも持たせたかったが無いものはしかたない。

なので一番情報拡散を防ぐ必要がある僕が使用した。

他にも理由があるが……。

また『 乖離世界の世界(ワールド・イズ・ワールド) 』とは違って範囲が狭く、1kmしかない。

アンレンに逃げられないためギリギリまで近づく必要があった。

自分に攻撃が届かないことを良いことに、調子にのってあちらからわざわざ近付いてくれた時は、笑いを堪える方が大変だったほどだ。

――話を戻す。

「一応、無駄だと思うけど……大人しく降伏してこちらの指示に従うなら、今だけは痛い目を見ずに済むよ?」

「……『聖印の勇者』である 此方(こちら) が降伏? 景色が変わる程度のトリックで少々動揺した姿を見せたせいで、調子にのったようですね」

先程まで狼狽えていた『聖印の勇者』が、気持ちを切り替えて僕達を睨みつけてくる。

「景色を変えた力にどのような意味があるか分かりませんが、所詮、どのような攻撃も 此方(こちら) に届くことはない。ならば貴方達を捕らえて、直接体に聞かせて頂きましょう。先程の貴方の弁ではありませんが、今すぐ素直に 此方(こちら) へ降伏するなら、今だけは痛い目にあいませんよ。出来るだけ苦しまず殺してあげるのを約束してあげましょう」

「断るよ。交渉決裂だね」

「おやおや、残念ですね……」

『聖印の勇者』が気取った態度で肩をすくめる。

「では宣言通り、捕らえてその体を痛めつけて、貴方が使った力にどのような効果があるのか。元の場所に戻るにはどうすればいいのか、直接聞きましょうか!」

「――あとは任せたよ」

「はい、ご主人様! ようやくあたいの出番ですね!」

凄む『聖印の勇者』を無視して、僕は今まで大人しく黙り続けていたナズナに声をかけた。

事前の打ち合わせ通り、僕が『聖印の勇者』を隔離して、ナズナが彼をぼこぼこ――無力化する手筈になっていた。

『SSR 認識阻害フードマント』を被ったナズナは大剣を抜くと、意気揚々と前に出て『聖印の勇者』と対峙する。

「ご主人様に任された以上、ぼこぼこにしてやるから覚悟しろ!」

「まさか自分ではなく後ろに控えていた少女に戦いを任せるとは……。勇者として以前に男としてそれはどう――」

「でやぁ!」

ナズナは『聖印の勇者』の台詞を遮り、気合一閃。

一瞬で間合いを詰めて大剣を振り下ろす!

大剣は タリスマン(聖印) の力によって、『聖印の勇者』へ直撃せず、虚しく黒い床を叩く。

爆発したような衝撃と音が発生。

『聖印の勇者』に衝撃は届かなかったものの、音に驚き慌てた様子でアンレンはナズナから距離を取る。

「本当に当たらないんだな。ちゃんとあたい、狙って振るったんだけどな。しかもご主人様の予想通り、あたいが全力で大剣を叩きつけても振るっても地面が壊れない。これなら久しぶりに全力を出しても問題なさそうだぜ!」

『UR 時の牢獄』は、現状この一枚しかない。

なので一番情報拡散を防ぐ必要がある僕が所持して使うことに話し合いで決まったが、もう一つの理由として、『ナズナが全力を出しても問題なさそうな場所』になると予想したからだ。

彼女は僕達の中で最も強いが、手加減はどうも苦手らしい。

そのせいで前回、人種王国近郊の森に深いダメージを与えてしまった。もちろん彼女1人のせいではない。竜人側『ますたー』の1人、セスタの爆発も原因だ。

ナズナ(身内) がやりすぎたため、人種王国近郊の森は現在進行形で修復作業をおこなっていた。

しかし『UR 時の牢獄』なら、説明文章から異界に隔離されるため、ナズナが全力を出しても問題ないと予想がついた。

またナズナがその気になれば『大剣プロメテウス』の力で、24時間365日戦い続けることが出来る。

なので対『聖印の勇者』戦力として僕側についてもらったのである。

「な、なんですか、彼女は!? 一瞬で移動して、そんな重そうな大剣を振るった上、あんな途方もない威力を叩き出すなんて!」

「あたいか? あたいはナ――」

「こほん!」

「ナ――なんでもないぞ!」

ナズナが素直に自己紹介しそうになったので咳払いをして注意を飛ばす。

この状態から『聖印の勇者』が抜け出せるとは思えないが絶対はない。

なのでなるべく情報を渡したくないため顔や名前を隠して行動しているのだ。

ナズナは事前の説明を思い出し、慌てて誤魔化す。さらに勢いで有耶無耶にしようとする。

「ご主人様の攻撃も逸らしていたし、手を抜いたままじゃ絶対に攻撃があたらなそうだな。なら久しぶりに全力で戦わせてもらうぜ!」

ナズナは『プロメテウス』を掲げて叫ぶ。

「摂理をねじ曲げろ! プロメテウス!」

彼女の叫びと共に大剣プロメテウスが世界に干渉、ナズナが 5人(、、) に分裂する。

「!!!???」

さすがの勇者でも、突然、目の前でナズナが5人に分裂した事実に驚き、顎が外れてしまいそうなほどの驚愕顔を作った。

「それじゃご主人様のためにも、あのむかつく勇者をボコボコにしてやるぜ!」

「誰が最初にあいつに一撃入れられるか勝負だな!」

「ご主人様のためにもあたいが最初に入れるぞ!」

「お先に行くぜ!」

「ああ! ずるいぞ!」

1人を切っ掛けに喜々としてナズナ×5人が『聖印の勇者』へと襲いかかる。

「な、なん!? ど、どうなっているんですかぁぁぁッ!?」

驚愕、困惑の声をあげつつ『聖印の勇者』は タリスマン(聖印) の力でナズナ×5人の攻撃を防ぎ続ける。

自身の攻撃が届かないことが逆に面白いらしく、ナズナ×5人は新しい玩具を手に入れた子犬のように『聖印の勇者』へと攻撃をし続けた。

そして少しの時間経過の後にナズナは『大剣プロメテウス』の力によって、 タリスマン(聖印) へ干渉。 タリスマン(聖印) の力を無効化し、『聖印の勇者』へ斬りつけることに成功する。

その後、文字通り『聖印の勇者』が恐怖に怯え泣きわめきながら降伏するまで攻撃を仕掛け続けたのだった。