作品タイトル不明
33話 vsアンレン1
『聖印の勇者』アンレンは、元商人だ。
彼がどんな品を商っていたかというと……人種奴隷だ。
アンレンから言わせれば――。
「人種奴隷を扱っている商人だからと言って、偏見の目で見ないで欲しい。奴隷に関する契約や決まりごとはしっかりと遵守していたし、誰かがやらなければならないことだ」
と言いつつ彼は、字が読めないのをいいことに借金漬けにしたり、山賊と手を組み誘拐、裏で権力者に賄賂を送って見逃してもらったりなど、複数の犯罪的方法を用いて財を得ていたが……アンレン曰く『 此方(こちら) は人種奴隷を売る誠実な商人だった』らしい。
彼は自己弁護を行いながらあくどい多種多様な手を使い人種奴隷を売りさばき、若いながら一端の商人として名を上げていた。
アンレンからすれば非常に充実した時期だっただろう。
彼にとって充実した時期は、『巨塔の魔女』の登場により崩壊する。
『巨塔の魔女』が突然姿を現し、エルフ女王国を力で屈服。
さらに『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』を宣言し出す。
この『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』以後、エルフ女王国での人種奴隷売買は即座に禁止された。
既に所有されている奴隷もすぐに解放され、逆らい奴隷を手放すことを拒絶する者達は見せしめに殺害された。
アンレン達、人種奴隷を扱う商人にとっては致命的な宣言だったが、この時点ではまだエルフ女王国に留まっていただけまだマシだった。
『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』は、すぐにドワーフ王国、人種王国、獣人連合国、魔人国へと広がりを見せる。
アンレンのような人種奴隷を扱う商人達は、人種王国が『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』の宣言を受け入れた時点で商売が成り立たず、廃業せざるを得なくなった。
商品の供給元である人種王国が、『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』を受け入れた時点で、奴隷――商品が作り出せなくなったのだ。
商品がなければ商売などできず、廃業するしかない。
アンレン達、人種奴隷商人達は何とか人種王国から『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』を取り除こうと賄賂、泣き落とし、脅迫などを繰り返したが無駄に終わる。
他業種への鞍替えに成功したのはほんの一握り、ひとつまみレベルだ。
大抵はにっちもさっちもいかず借金苦に陥り自殺。
次に多かったのは今まで溜め込んできた資金を元に引退し、余生を送る者達だった。
アンレンはというと……。
彼は人種奴隷商売をなんとか立ち上げ直そうと借金。
しかし、人種王国が『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』の宣言を受け入れた時点で商売に見切りを付け、新業種に手を出そうとするが遅かった。
人種奴隷商売を立ち上げるための借金が、アンレンの想像以上に響き、返しきれずにっちもさっちもいかなくなってしまう。
人種奴隷を全て手放し、所持していた店舗、移動用の馬車、飼っていた馬、果ては家具や下着まで売り払ったが、膨れあがった借金は返しきれなかった。
彼は羽振りがよかった頃には絶対に飲まなかった安酒をボロ宿で飲みながら、悪態をつく。
「クソ! 人種王国が『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』を受け入れなければまだやりようがあったはずなのに! 何が新女王だ! 呪われろ! 正統なる王族をないがしろにする簒奪女王め!」
普段、勿体ぶった口調をするアンレンだったが、借金苦に陥ってしまった状態では、そんな態度を取り続ける精神的余裕はなかった。
人種王国新女王リリスに対する憎悪で頭を満たしながら、最後の安酒を飲み干す。
「ちくしょう…… 此方(こちら) はこのままでは破滅だ。多少知識のない、世間知らずな人種を騙して奴隷にして売り払ったりはしたが、基本的に誠実に商売をしていた結果がこのざまか。このまま借金が返済できなければ、鉱山送りか。魔女の宣言のせいで奴隷落ちだけがないのが救いか……」
アンレンが思わず自嘲めいた笑いを漏らす。
この日も特に妙案は思い付かず、『自死』も本気で案に入り始めつつ、湿った布団へと潜り込み寝息を立てた。
――翌朝、彼はまるで生まれ変わったかのように世界がクリアになる。
「まさか 此方(こちら) が女神様の勇者に選ばれるとは……」
アンレンは夢を視た。
この世界を作り出した女神から『奈落』最下層にいる『巨塔の魔女』を討つよう神託を受けたのだ。
その夢が嘘ではない証明のように彼の首元には、気付けば タリスマン(聖印) が揺れていた。
ステータスを確認するとレベル7000にもなっていた。
一晩で『聖印の勇者』が誕生したのだ。
彼はベッドの上で一発逆転した自身の幸運を噛みしめつつ、真理を悟る。
「 此方(こちら) を救ってくださった女神様のためにも、『巨塔の魔女』は必ず討たなければ……ッ! そして、『巨塔の魔女』に荷担した人種王国新女王リリスも一緒に始末しなければいけない!」
『巨塔の魔女』はともかく、人種王国女王に関しては完全な私怨だ。
「人種王国の女王に就任したリリスが『巨塔の魔女』と手を組み『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』を了承しなければ、まだ 此方(こちら) は商売を続けることが出来た。 此方(こちら) の商売が失敗したのは、自分自身に商才がないからではない! 邪魔をした『巨塔の魔女』、人種王国女王リリスが悪いのだ。そのせいで 此方(こちら) は商売を失敗してしまったのだ! 此方(こちら) は絶対に悪くない!」
アンレンは自身の安いプライドを守るため、人種女王リリスに責任を転嫁。憎悪を募らせる。
できれば今すぐ自分の商売を邪魔したリリスを殺害したいが……。
その前にやるべきことがあった。
アンレンは『聖印の勇者』となると、まずボロ宿を出て、自分に不当な利子で借金をさせていた者達を皆殺しに向かう。
勇者である自分に理不尽なおこないをしたのだから、当然の報いだ。何より『借金を抱える勇者』などイメージが悪すぎる。
そんな傷は早急に消してしまうのが最善だ。
彼は借金取り達を皆殺しにし、自身の借用書を破棄。
金銭問題を片付けた後、シックス公国にある女神教総本山へと向かうのだった。
☆ ☆ ☆
――そんなアンレンが、邪教の聖女ミヤ、神官クオーネを殺害するため人種王国へと向かう。
「見覚えがある景色が見えてきましたね。もうすぐ人種王国につきそうです」
現在、アンレンは『聖鎧の勇者』モザの支援で空を飛行することが出来ていた。
彼も他勇者同様にミヤ達を殺害するため割り当てられた場所へと向かっている最中だ。
アンレンは自ら志願し、人種王国を選んだ。
当然、自身の商売を邪魔した人種王国女王リリスを、邪教の聖女ミヤ、神官クオーネと一緒に始末するためだ。
彼にとってこれは正当な復讐である。
「とはいえ、邪教の聖女、神官が人種王国にいなかった場合、女王リリスを殺害する理由を作るのが難しいですね……」
ミヤ、クオーネがいれば『神敵を匿うのも同罪』と理由をつけて、リリスを殺害することが出来るが……。
もしいなければ理由を考えるのがやや面倒だった。
『聖印の勇者』アンレンが、空中で移動しながら腕を組み顎に手をあて考え込む。
「さて、どういう理由でリリスを殺害すればいいのやら……。異端者を匿っていた可能性がある背信者と訴えればリリスを殺害する理由になりますかね? いや、まだ弱いか……。ふむ、ですが 此方(こちら) は女神様に選ばれた勇者、 超人種(ハイヒューマン) 。この程度の理由でも人種の女王より地位は上なのですから殺害しても大義名分は立ちます――ッゥ!?」
どうやってリリスを殺害するための口実を作るかを考えていたアンレンだが、途中で驚き、体を反射的に反らす。
地上から空を飛ぶ彼に向かって攻撃魔術が放たれたのだ。
氷、炎、風など複数の攻撃魔術が放たれる――が、最初こそアンレンは反射的に回避運動をとったが次は特に動くことなく地上の攻撃者を観察する。
攻撃魔術はアンレンを目指し放たれるが、なぜか回避運動も取っていないのに勝手に逸れてしまう。
攻撃魔術こそ当たらなかったが、足止めには成功したことに地上にいる者達が満足そうな空気感を漏らす。
アンレンはそんな彼ら、『巨塔の魔女』と似たフードを被る子供二人組を見下ろし誰何する。
「貴方達は何者ですか? なぜ 此方(こちら) を襲うのですか?」
「…………」
襲撃者はどちらも答えず、マジックアイテムらしきカードを取り出し、新たな攻撃を開始したのだった。