作品タイトル不明
32話 vsモザ4
「にゃー」
アオユキは軽い口調で鳴く。
現在、この平原には彼女が解放した『SSSR 超重力』によって通常では考えられないほどの超重力が発生していた。
スズと『聖鎧の勇者』モザは上空を飛行している最中に、アオユキが『SSSR 超重力』を解放したため勢いよく落下。
地面に体が埋もれそうなほどの勢いで叩きつけられる。
2人ともレベル7000クラスのため落下衝撃に少し痛みを感じたが、大きな傷は負っていない。
問題は一定時間、継続してカードの効果があるため立ち上がれず、地面に伏せたまま動けずにいることだ。
仮に村の中で『SSSR 超重力』を解放していた場合、人や家畜、家屋にも被害が出ていただろう。
もちろんアオユキもそれを理解して、村から距離が取れた時点でカードを使用したわけだが。
「うにゃ~」
当然、アオユキにも超重力の負荷がかかっている。
一歩進むたび、彼女の足が地面に沈むのがその証拠である。
にもかかわらず、彼女は普段通りの速度と態度で歩いていた。
「い、いったい俺に何が起きているんだ……。『 風鎧(ウィンドアーマー) 』で体がもちあがらないし……ッ」
普段、モザは『 風鎧(ウィンドアーマー) 』の力で空に浮いていた。
他にも他者に一時的に空を飛ぶための力を与えることが出来る。
全て女神によって与えられた鎧の力によるものだ。
モザは落下の衝撃に苦しげな表情になりながらも、体勢を立て直すため体を再び、敵の攻撃が届かない上空へと飛び立とうとするが、飛ぶことが出来ない。
両腕を補助に上半身を持ち上げるのがせいぜいだ。
「にゃー」
猫の鳴き真似声に気付き、顔を上げると、猫デザインの仮面を被っているアオユキに見下ろされる。
他者に見下ろされるのが我慢できないモザが叫ぶ。
「この不信者が! 女神様に選ばれた『聖鎧の勇者』の俺にいったい何をしている! 今すぐこの上から押し潰そうとする力を止めろ! 俺を見下ろすなぁッ!」
「にゃ!」
「ぐっぅ!?」
アオユキはモザの提案を無視して、彼を蹴る。
『 風鎧(ウィンドアーマー) 』でも持ち上げることが出来ない体をアオユキは小石のように蹴り飛ばしたのだ。
攻撃に反応して『 風鎧(ウィンドアーマー) 』が自動的に防御。モザも反射的に両腕ガード。
2、3転と地面をモザが転がる。
「ぐがぁッ……う、腕が……俺の腕が折れて……ッッッゥ!」
当然、レベル7000でも立ち上がれない超重力の中で、モザを転がすほどの威力がある蹴りだ。
『 風鎧(ウィンドアーマー) 』の自動的防御を突破し、モザの両腕をぐちゃぐちゃに蹴り砕くほどの威力がある。
「ふにゃ~」
「がぁッ!?」
アオユキが鼻歌交じりに近付くと、今度は脇腹、『 風鎧(ウィンドアーマー) 』を狙って蹴り飛ばす。
先程とは別方角にゴロゴロと転がった。
アオユキに蹴られた『 風鎧(ウィンドアーマー) 』の箇所が凹み、衝撃がモザの体内を襲い吐血させる。
モザはようやくこの場のルールを理解した。
猫が獲物をいたぶるように、もしくは弱った獲物を子猫に与えて狩りの練習をさせるかのような扱い。
「お、俺はめ、女神様に選ばれた、ゆ、勇者で――ひぃッ!」
「にゃ!」
三度目の蹴り。
アオユキはモザの口上を無視して、蹴り飛ばす。
三度目となるとモザから傲慢な態度が鳴りを潜め、蹴られる瞬間、ボールのように体を丸めてガードする。
アオユキにとってはただ蹴りやすくなっただけだ。
本物のボールのようにモザが地面を転がった。
再度の吐血。
繰り返される痛みにさすがのモザも心が折れる。
アオユキが近付くと、地面に這い蹲った状態で命乞いを始める。
「ご、ごめんなさい、俺――自分、め、女神様に選ばれた勇者とか言って、調子に乗ってしまい申し訳ありませんでした。こ、この鎧も譲ります。もう二度と、貴女様達の前にも現れませんし、し、知っていることは全て話しますから。だから、ど、どうか許してください……っ!」
「…………」
アオユキは足下で命乞いをするモザを見下ろす。
彼女は倒れているモザの鎧部分を片手で掴むと、軽々と持ち上げた。
体格は恵まれていないとはいえモザは成人男性で、金属製の『 風鎧(ウィンドアーマー) 』を身に纏っている。さらに超重力がかかっている状態だ。
にもかかわらずアオユキは、道ばたで小石を掴むような気軽さで持ち上げた。
彼女はモザを自身の顔の位置まで持ち上げ告げる。
「――この程度の責め苦と謝罪で、貴様の罪が濯げると本気で考えているのか?」
「ヒィッ!?」
先程までの可愛らしい声とは違う。
地獄の獄卒が判決を言い渡すような、どこまでも冷たい声だった。
アオユキはモザだけに聞こえる声量で告げる。
「――先程の行為は貴様が無駄な抵抗をしないよう、心を折り、拘束がしやすいように、軽く撫でただけ。貴様の抱えている情報はこちらが勝手に引き出す。祈れ。貴様が許されているのはそれだけだ」
「た、助け――」
彼女は言いたいことだけ口にすると、ゴミを捨てるような軽さでモザを地面へと叩きつける。
モザは命乞いをしようとしたが、台詞は途中で遮られ、アオユキに叩きつけられた衝撃で意識を失う。
アオユキは『 獣の鎖(ビースト・チェイン) 』で意識を失ったモザを拘束。
「にゃぁ~」
拘束を終えると、一転軽い口調で『良い仕事をした』と言いたげに、汗を拭う仕草をする。
アオユキが『聖鎧の勇者』モザの拘束を邪魔しないように黙り続けていたロックが、さすがに訴え出す。
『ア、アノ! あお――猫様! 拘束ガ終ワッタノナラ。コノかーどノ効果ヲ止メテクダサイ! 相方ダケジャナク、おいらモソロソロまじデきついノデ!』
「(こくこく)!」
他の監視者がいるかも知れないため、ロックは『アオユキ』とは呼ばず。
偽名の『猫様』と呼ぶ。
ロックの訴えにスズですら、しんどそうに何度も頷いた。
この訴えに対してアオユキは、『うにゃ?』と冗談っぽく首を傾げてみせる。
『イヤ、本気デきついンデスッテ。まじ、おいらノ部品トカソロソロ壊レソウ、イヤマダイケルカ? ……ヤッパリ無理デスッテ! おいらノ体カラ変ナ音シ始メマシタカラ! みしみしッテ!』
ロックは途中でまだいけるかと考えたか、自身の体から変な音がし始めたため、必死に訴え出す。
アオユキもこれ以上は冗談の領域を超えるため、カードの効果を消す。
『ヤ、ヤバカッタ……本気デ壊レルカト思イマシタヨ……』
「(こくこく)!」
「うにゃぁ~」
さすがに悪ふざけが過ぎたことをアオユキは頭を下げて謝罪する。
謝罪を終えると、次にアオユキはエリオ達が眠る村へと視線を向けた。
彼らはスズの魔弾で未だに眠っている。
また戦闘を見られないため、家屋にいた村人達ですら壁を撃ち抜き魔弾で眠らせている。
モザの力で屋根が吹き飛んだりした建物もあるため、その修理をする算段を立てる必要がある。
「にゃー……」
無事に『聖鎧の勇者』モザを拘束したのはいいが、まだまだ仕事があることにアオユキは猫語で嘆くように鳴いたのだった。