作品タイトル不明
23話 ミヤ&クオーネ、保護
「 ミヤ(ヤミ) ……非常に重要な問題が起きそうですわ」
「…… クオーネ(ネネ) お姉ちゃん、それってどんな問題?」
獣人連合国、高級宿屋スイートルームのリビングでクオーネが真剣な表情で、正面ソファーに座るミヤへ問題を提起。
彼女は重々しい声で、懺悔するように告げる。
「室内に篭もって美味しいご飯を、お菓子を食べるだけのせいで、そろそろ太り――健康を損ないそうですの」
「…………」
1女性として『太る』とは言いにくく、『健康を損なう』という言葉で言い換えた。
ミヤ自身、クオーネの発言を予想していたのと、前に彼女に忠告を告げていたのを指摘する。
「食事やお菓子が美味しいのは分かるけど……部屋に篭もって運動できないからあれほど『食べ過ぎは良くないよ』って言ったじゃない」
「た、食べられる時に食べておくのが冒険者の心得だと伺っていましたので……」
「それは時と場合によるよ……。ダンジョン奥地から帰還するため、強行軍をするとか、食事休憩とかをとり辛い時とかだよ。別に毎日『限界一杯まで食べましょう』とか言っている訳じゃないからね?」
「つ、つまり、ワタクシは騙された!?」
「騙されたというより、勘違い、自業自得だと思うよ?」
ミヤとクオーネが漫才のような会話を交わしていると、扉がノックされる。
「「…………」」
2人とも漫才のような会話をしていたにもかかわらず、一瞬で真剣な表情に切り替わった。
ここは一応安全地帯ではあるが、絶対ではない。
獣人連合国は『巨塔の魔女』に恩を売りたいと口にはしているが、女神教や勇者に自分達を売るという可能性はゼロではなかった。
故に未だに2人は互いを ミヤ(ヤミ) 、 クオーネ(ネネ) お姉ちゃんと呼び合い、室内にある風呂場も短時間交代で入浴していた。
もし入浴時に踏み込まれても、最悪どちかが逃げ出して助けを呼べるようにだ。
ミヤとクオーネは今回の一件に関して、獣人連合国を一定のラインまでは信じていても、完全に信頼まではしていなかった。
2人は頷きあって、さりげなくいつでも逃げ出せる体勢をとる。
ミヤが扉に近付き、返事をする。
「はい、なんでしょうか?」
『おくつろぎのところ申し訳ございません。お客様がお見えになりました』
「分かりました。扉を開けますね」
『お客様』とは、ミヤ達にこの場を紹介したクマ種獣人だ。
数日前に一度、彼が宿を訪ねてきた。
訪ねてきた理由は『巨塔の魔女へ向けて手紙を持たせた信頼できる冒険者を派遣した』ことを説明するためだ。
また、『進展があったらまた報告に来る』とも言っていた。
下手に何度も彼が宿を訪れて周囲に変な注目を集めないための配慮だ。
(まさかもう進展があったのかな?)
ミヤが訝しがりつつも、クオーネと視線を交わし、扉を開く。
冒険者が出発したという報告を受けたのは数日前だ。
普通ならありえないが、相手は『巨塔の魔女』のため一般常識は通用しない。
廊下にはクマ種獣人種と、フードを頭から被った人物が2名待機していた。
イヌミミ店員は既に下げられたらしい。
一瞬、ミヤはクマ種獣人種の背後に控えるフードを被った人物に驚くが……。
「安心してください、ミヤちゃん。彼女達はお二人の待ち人です」
「……!? ど、どうぞ部屋に入ってください」
突然の台詞に一瞬、意識が白くなったが、すぐに再起動。
三人を部屋へと招き入れる。
部屋に入ると、クマ種獣人種の背後に立っていた人物――妖精メイド×2が、フードを外す。
罠の可能性も考えて、二人一組で動いていたのだ。
「手紙に記された通り、ミヤ様とクオーネ様に間違いありませんね」
「お二人の保護、誠に感謝を。この功績は必ず我々の主にお伝え致します」
「おお! ありがとうございます!」
妖精メイド達の返事に、クマ種獣人種は喜色満面の笑顔を作った。
まだ状況について行けていないミヤとクオーネに妖精メイド達が振り返る。
「色々、聞きたいこともおありでしょうが、まずはお二人の安全のため『巨塔』へ転移させて頂きますが、よろしいですか? 荷物などがありましたら、後日我々が引き取りに来るのでご安心を。」
「だ、大丈夫です」
「畏まりました。ではまた後日、ご挨拶にうかがわせて頂きます」
「こちらはいつでも大丈夫なので、『巨塔の魔女』様のご都合が宜しい日にでも」
ミヤが代表してなんとか返事をして、妖精メイドがクマ種獣人種と挨拶を交わすと、『転移』カードを取り出し、解放する。
一瞬で視界が獣人連合国高級宿屋から、ある意味、見慣れた『巨塔』内部へと切り替わった。
移動したのはミヤ、クオーネ、妖精メイド×2だ。
移動した『巨塔』内部には他妖精メイド達が待機。
ミヤ達の帰還を出迎えてくれる。
代表者の妖精メイドが一歩前へ出て告げる。
「ミヤ様、クオーネ様、長旅ご苦労様でした。ここは既に『巨塔』の内部。お二方に危害を加える存在はもうございません。安全は確保されました。色々聞きたいことがございますでしょうが、まずは『巨塔』内部にあるお部屋で心身共に疲れを癒してくださいませ」
「…………」
「ね、 クオーネ(ネネ) お姉ちゃん!?」
妖精メイドの言葉にクオーネがその場でへたり込む。
彼女が突然、へたり込んだことに驚き、ミヤが声をあげてしまう。
そんなミヤにクオーネは涙目で拙い笑みを浮かべる。
「み、ミヤ……安心したら腰が抜けちゃったわ……」
ようやく安全が完全に確保されたことを実感し、クオーネは腰が抜けて、ミヤを『ヤミ』とは呼ばなくなってしまう。
その返答にミヤも笑みを作り、同じく、その場に腰を下ろした。
「クオーネちゃん……わたし達、無事に『巨塔』に辿り着くことが出来たんだね」
「ええ、ええ……本当に辿り着けてよかった……」
実際は『巨塔』まで『無限ガチャ』カードで転移したのだが、それに対して突っ込むのは野暮だろう。
妖精メイドも心情を理解し、暫し、そのまま何も言わず2人の無事を見守っていたのだった。
☆ ☆ ☆
「ミヤちゃん達を保護した!?」
『奈落』最下層執務室。
僕はメイから、書類と共にミヤ、クオーネを無事に保護した報告を受けた。
メイが淡々と手にした情報を伝えてくる。
ミヤ&クオーネは、教授の手で転移後、やはり『女神教』と勇者の目から逃れるために変装していた。ミヤが男装をして、クオーネが長い髪をばっさりと切り落とし、姉弟として行動していた。
2人は女神教の捜索を振り切り、『巨塔の魔女』に助けを求めるため獣人連合国経由で、『巨塔街』を目指した。
その際、ミヤ達は獣人連合国首都で、以前ドワーフダンジョン街で僕達に絡み、ゴールドに『騎士道精神』を叩き込まれたクマ種獣人と遭遇。
クマ種獣人はミヤの匂いで男装を見破り、声をかけた。
場所を移した後、2人から事情を聞き、獣人連合国獣人クマ種族が単独で動き、使者を出して『巨塔の魔女』に接触を図る。
正規の方法ではなく、森に不法侵入し、『巨塔街』に近付く。
最初は、『巨塔の魔女』に怨みを持つ獣人が『巨塔街』へ嫌がらせのため、近付いていると考え、捕らえたが……。
不法侵入で近付いていたクマ種獣人達は、慌てて身分を明かし、手紙を差し出した。
内容は『クマ種族でミヤとクオーネを保護した』というものだ。
内容を理解し、彼らをそのまま非公式で『巨塔』内部へ。
詳しい事情を聞き、すぐさま『巨塔の魔女』エリーに情報が上げられる。
エリーは罠の可能性も考慮しながらも、すぐさま『無限ガチャ』カード、装備を調えさせた妖精メイド達を派遣。
情報通り、ミヤとクオーネと接触し、彼女達をすぐさま転移カードで『巨塔』内部へと移動させた。
「現在は『巨塔』内部にある客室にてお二人を保護しております。女神教、勇者達に命を狙われていたせいで精神的疲労はありますが、肉体には傷もなく、命に別状はありません」
「2人を無事に保護できてよかったよ……。まさか獣人連合国経由で『巨塔街』を目指していたなんて。クオーネのトラウマから、そっち経由で向かう可能性は低いと思っていたんだけど」
もちろん念のため獣人連合国方面にも人手を割き、2人の行方を追っていた。
ただ2人の移動速度が想像以上に速く、ミヤが男装、クオーネがばっさりと髪を切って、化粧で年齢を誤魔化していたのが予想外だった。
またクマ種族がほぼ完璧に2人の身柄、情報が外に漏れでないように保護してくれていたのが大きい。
僕達でこれなのだ。
女神教、勇者は未だにミヤ、クオーネの行方を影すら追えていないだろうな。
「しかしあのドワーフダンジョン街で僕達に絡んできたクマ種獣人が、まさかミヤちゃん達を助けることになるとは……。縁っていうのはどこで繋がるか分からないものだね……」
「事情を聞き、情報を精査した限り、本当に偶然のようです。たまたま彼がその日、川下り船着き場に足を向け、偶然、2人の側を通り匂いで気づけたお陰かと」
メイの報告に僕は納得するように頷く。
意図的に狙って2人を泳がせ、偶然を装い接触した――という訳ではない。
本当にたまたまのようだ。
「完全な善意から2人を保護してくれた訳じゃないだろうけど、助かったのは確かだ。今回の功績で獣人連合国、特にクマ種族には何かしらの恩恵を与えないとね」
「その内容にかんしてはエリーと協議し、草案を提出させて頂ければと」
「メイ、エリー達に任せるよ」
「ありがとうございます」
メイが僕に仕事を任されて、心底嬉しそうに微笑みを浮かべて一礼した。
彼女が顔を上げると、先程までとは違って冷徹な表情を作る。
「続いて、女神教、勇者の件ですが……情報によりますと、『奈落』ダンジョン攻略の先導役冒険者にはそろそろ目処が立つようです。また『奈落』ダンジョン攻略とは別に、お二人の行方を捜査するため勇者達がそろそろ各場所に出立する準備が整ったとのこと。恐らく近日中に勇者達が旅立ち、狼藉を働くかと。ライト様、如何なさいますか?」
僕はメイの問いに、執務室の椅子に体を預け嗤う。
「ならばこちらも予定通り相手をしてやろう。パーティー参加の代金は、彼らの命と情報だ。自分達が選んだ道だ。少しでも楽しんでもらえるように僕達も全力で出迎えてあげようね」
「畏まりました。ライト様のお言葉のままに」
メイは先程以上に深々と頭を下げ、返事をした。
この瞬間、勇者達の行く末が決定したのだった。