軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20話 安全

ミヤとクオーネは話し合いの結果、獣人連合国に身柄を預け、『巨塔の魔女』への連絡を頼むことにした。

この結論に話を持ちかけたクマ種獣人は破顔し、笑顔で了承する。

「ありがとうございます! では早速、宿屋などを手配しますので少々こちらでお待ちください」

彼は返事を聞いてからすぐに動く。

まず別室で待機している引き連れていた若者の1人を呼び出し、ミヤとクオーネが宿泊するための先触れを任せ走らせる。

次に極力2人の姿を外部に見られないように馬車を手配し、現在飲食している店の裏手に移動させるよう手配した。

約30分後、馬車が店の裏手に停まる。

「既に店の代金は支払っているので、お二人はこのまま馬車にお乗り下さい。乗り込んだら手配した宿屋に向かいます。宿は口が堅く警備も厳重で、支払いも済ませてありますので俺が戻るまでどうかお部屋でのんびりお待ち下さい。一度、上にお二人のことをお伝えしてから、ご挨拶に窺いますので」

「何から何までありがとうございます!」

「あ、ありがとうございますわ……」

ミヤは快活に素直にお礼を告げる。

クオーネも苦手な獣人種だが、彼が善意で動いていることは理解しているため、ぎこちなくだがお礼を口にした。

馬車に2人が乗り込むと説明通り、宿屋に向かって動き出す。

ミヤとクオーネが馬車で移動するのを見送った後、クマ種獣人は引き連れていた若者達を連れて、すぐさま父親の仕事場へと移動する。

駆けると目立つため、なるべく急ぎ足で。

獣人連合国首都だけあり、人混みもあるため、お陰でそこまで目立たず移動することが出来た。

☆ ☆ ☆

2人を乗せた馬車は獣人連合国首都でも、高級宿屋が軒を連ねる区間へと向かう。

途中、壁があり門番が立っていた。

壁の内側は他国でいう貴族街で、一般人は許可無く立ちいることが出来ない。

しかし、事前に話が通っているらしく、御者が2、3言葉を交わすと、すんなり通り抜けることが出来た。

さらに進み獣人連合国首都でも1、2を争う高級宿屋へと入った。

人目に付かないよう先触れで依頼していたため、犬耳の獣人女性店員が1人で待ち構えて、そのまま馬車から降りたミヤとクオーネを部屋へと案内する。

もちろん2人に余計な緊張を与えないように女性店員に任せるよう配慮したのだ。

2人が案内された部屋は――この宿屋で最上級のスイートルームだ。

獣人連合国を訪れた他国の上位貴族が宿泊する文字通り最上級の部屋である。

ミヤが呆然と瀟洒に見栄映えするように配置された家具、リビングを見回し震える声を出す。

「ほ、本当にこんな貴族様が宿泊するような部屋に泊まるの?」

「置かれているソファー一つとっても、最上級の品物ですわね。あの花瓶など過去文明で稀に出土するアンティーク物ですわ。素晴らしいデザイン。良い仕事をしていますわね」

クオーネは有数な商家の娘のため、芸術品にも造詣が深い。

他にも置かれている美術品、家具が一般的な生活をしていたら触れるどころか、目にすることすら出来ない高級品だと見抜く。

そんな品物で構成された部屋に案内されたミヤは、根が小市民のため緊張しっぱなしになる。

部屋まで案内してくれた犬耳の女性店員が、ソファーに座るよう促すまで、彼女は青い顔で家具に触れないよう身を縮めその場に立ち尽くしていた。

――約1時間後。

ミヤはソファーに座りながら、出されたお茶を口にする。

彼女はお茶を一滴でも零して家具を汚さないように両手でしっかりと握り締め飲む。

反対側ソファーに座るクオーネは、『普通ではお目にかかれない芸術品、家具が見られて眼福ですわ』と言いたげに、美術館で展示物を眺めるかのような態度でお茶を口にしていた。

正反対の態度を示す2人の元に、先程のクマ種獣人が顔を出す。

彼は笑顔で2人に吉報を告げる。

「お待たせして申し訳ありません。俺の父を通して、上にお二人の状況を説明してきました。上は正式にお二人を保護し、『巨塔の魔女』様に連絡を取ることが決定しました」

この吉報を耳にしたミヤ、クオーネは肩の力を抜く。

喜びもあるが、国家に保護された以上、問題が起きなければ『巨塔の魔女』に連絡が行き、自分達が保護されることが決まった。

お陰で今まで無意識に抱えていた緊張感が抜けてしまったのだ。

……とはいえ絶対ではないが。

クマ種獣人が続ける。

「まだ具体的な連絡方法は決まっていませんが、『巨塔の魔女』様の使者がいらっしゃった場合、この部屋に案内します。居場所を確定しておきたいのと、外に出た場合女神教信者の耳目がどこにあるかわかりませんので、息が詰まるかもしれませんが、お二人は使者がいらっしゃるまでこのお部屋から出ないようお願いします」

「ありがとうございます!」

「当然の判断ですわね。ワタクシも、ミヤも無駄に危険を呼び寄せる趣味はありませんわ」

ミヤ、クオーネは部屋に篭もることを了承する。

素直な態度の2人に、クマ種獣人も笑顔を零す。

「ご理解、ありがとうございます。食事、嗜好品、他何か必要な物があれば、こちらの店員に言付けください。なるべくご要望に添う物をご用意いたしますので」

クマ種獣人が背後に控える犬耳の店員へ手を向ける。

彼女は笑顔で一礼した。

情報拡散を防ぐため、ミヤ達と顔を合わせるのは彼女のみとなる。

王族や上級貴族が身を隠すレベルの対応をミヤ達におこなう。

それだけ獣人連合国が本気だということだ。

他にも2、3注意を交え、クマ種獣人が部屋を後にする。

もちろん彼はこの後も休めない。

父の元に戻り今後について話し合ったり、色々動いたりする。

だがミヤとクオーネは彼とは逆に、最高級宿屋のスイートルームで大人しくしているのが仕事になる。

『巨塔の魔女』に連絡が届いて転移アイテムを使用して使者が到着するまで、屋外どころか部屋の外にも出られない生活が続くが、部屋は広いのでそこまで気にはならないし、命を狙われて大陸を逃げ回るよりは何百倍もマシだ。

部屋で二人っきりになるとミヤ、クオーネは本格的に緊張感から解放され、ソファーに体を預けるのだった。