軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16話 ヤミとネネ

――少々時間を戻す。

宿屋の一室に一見すると男女ペアが同室し、それぞれ衣装に袖を通していた。

「凄く似合っているわよ! さすがミヤ、男装しても素晴らしく可愛いわね!」

「ありがとう、ネネ姉ちゃん。でも、この恰好の時は、宿屋で二人っきりでも僕のことは『ヤミ』って呼んで。どこに耳目があるか分からないし、間違って本名を口にしないためにも、偽名に慣れておかないと」

「お姉ちゃん……お姉ちゃん……素敵な響きですわね」

「…………」

ミヤ、男装した偽名『ヤミ』に『お姉ちゃん』と呼ばれるのが余程琴線に触れたのか、ゆったりとした衣服に身を包むクオーネ、偽名『ネネ』が嬉しそうにトリップする。

ミヤ(ヤミ) は、 クオーネ(ネネ) が嬉しそうにぼうっとする姿に一抹の不安を覚えて黙り込んでしまった。

ミヤとクオーネは、現在『女神教』の勇者達に命を狙われている。

レベル7000で『伝説の武器』を所持する勇者達に彼女達が敵う筈もなく、対抗できるであろう『巨塔の魔女』に情報を伝えるためと、自分達を保護して貰うために『巨塔街』に向かおうとしていた。

普通の魔術師衣装ではすぐに『女神教』に捕捉されてしまうため、ミヤは男装、クオーネは長い髪を切って化粧を施している。

衣装、化粧品なども全てシックス公国近くの町で揃えた。

現在はその町の宿屋一室で着替えてる最中だった。

ちなみに衣服、化粧品、宿屋、食事代金、全てミヤが支払っている。

ミヤは冒険者時代の癖で、何があってもいいように衣服にいざという時用の金銭を縫い込んでいたのだ。

貧しい冒険者時代は銀貨で、現在は貯金とエリオからの仕送りのお陰で金貨を縫い込むことが出来ていた。

お陰でクオーネと2人分の偽装衣服、宿、食事代を支払うことが出来たのだ。

クオーネも最初、手持ちのマジックアイテムを売り払おうとしたが、ミヤがストップをかけた。

『シックス公国近くの町で魔術師女性がマジックアイテムを売るなんて珍しいことじゃないけど、わたし達の足取りを掴まれる可能性を考えて止めておこう』と。

この提案にクオーネも納得するが、金銭を一切持っていない彼女は聖女と仰ぐミヤに世話になりっぱなしになってしまう。

その辺りを気にしていたようだが、ミヤが男装し『ネネお姉ちゃん』と呼ばれた喜びで吹き飛んでしまったようだ。

……もしかしたら勇者達に命を狙われている暗い雰囲気を吹き飛ばすため、わざとやっている可能性もあるが。

クオーネ(ネネ) が落ち着きを取り戻した所で、向かい合わせに置かれたベッドに腰掛け、2人は話し合う。

男装した ミヤ(ヤミ) が軽く咳払いをしてから切り出す。

「それじゃ改めて今度はわたし――僕のことは ミヤ(ヤミ) と呼ぶということで。下手に凝った偽名だと呼び間違いする可能性が高くなるから」

ミヤは元々身長が低く、髪も短い。

胸を布を巻いて小さくして、男性用の衣服にズボンを履いて、顔を隠すようにフードを被れば、十分少年に見える風貌になる。

一方、クオーネは、

「ではワタクシのことは クオーネ(ネネ) お姉ちゃんと。『女神教』、勇者達の目から逃れるための必要な偽装ですから!」

まだ若干、 クオーネ(ネネ) は鼻息が荒かった。

彼女は長い髪を短く切り、魔術師服から年上女性用衣服へと袖を通す。化粧と衣服のお陰で実年齢状の年上に見えなくもない。

「僕たちは髪の色が違うけど姉弟で、両親を流行病で亡くして新しい移住先を探している。そして、噂で聞いた『巨塔街』を目指し旅をしている――そんな設定で問題ないよね?」

「はい、問題ありませんわ。ただ途中、適当な街で身を隠し、助けを求める手紙を出すのはやはり止めておいた方がいいですわね。ある意味一番、楽な手段ではあるんですが……」

「うん、どこまで『女神教』の手があるかわからないから。僕たちが直接『巨塔街』に向かうのが一番安全だと思う」

一応、変装後に適当な街に身を隠す案も2人で考えたが……やはり一番の安全策は『自分達で直接巨塔街に向かう』ことだったため、話し合いの末、2人納得し却下したのだ。

「変装が終わったら、旅に向けての荷物準備ですが……少しでも旅費の足しにするためにも衣服を売るわけには参りませんの?」

「駄目。シックス公国魔術学園のマント、リボンは目立ち過ぎるし、僕たちの手にあるのも不味いから、旅の途中で漏洩しないよう絶対に燃やさないと」

「ですが、 ミヤ(ヤミ) 、お金の方は足りますの?」

現状、マジックアイテムは売れない。

着ていた衣服もそこから足が着く可能性があるため、旅費の足しにすることもできなかった。

変装のためにミヤが持っていた資金を使ったため、『巨塔街』まで旅をするお金は圧倒的に足りなかった。

この町で準備できる旅用品も、十分に購入できる金額ではない。

それでも彼女達に選択肢は無かった。

「 クオーネ(ネネ) お姉ちゃんには旅の移動中に少しだけ辛い思いをさせるかもしれないけど、我慢してね。途中でモンスターを倒してお金を稼いで、もっと旅用品を充実させて、質を上げれば少しはマシになると思うから」

「ワタクシの場合、旅の移動は馬車などが基本でしたから……。 ミヤ(ヤミ) に全部任せますわ。そして辛いのは ミヤ(ヤミ) も同じなのですから、絶対に弱音なんて吐きませんの」

「僕は冒険者時代、色々なことを経験しているから。むしろ、冒険者時代より恵まれているぐらいだよ」

冒険者を始めた当時は本当にお金が無くて、テントすら買えず、ナイフ一本で仲間達と共にダンジョン内部で野営したのもしょっちゅうだった。

それに比べればまだ旅準備のための資金が手元にあるほうだ。

「問題は『巨塔街』に向かうルートだけど、本当にいいの?」

「……はい、大丈夫ですわ。覚悟は出来ていますの」

クオーネがベッド端に座り、ギュッと膝の上に載せた手に力を込める。

向かい側に座るミヤが、彼女の強がった笑顔に口元を引き結ぶ。

彼女はクオーネの覚悟を無駄にしないため、改めてルートを告げる。

「……それじゃ クオーネ(ネネ) お姉ちゃんの提案通り『獣人連合国ルート』で『巨塔街』を目指すね」

「はい、お願いしますわ」

2人は現在、シックス公国近郊の町にいた。

ここから『巨塔街』に最速で向かう場合、『人種王国――シックス公国』を繋ぐ水運に乗ってエルフ女王国港へ移動。そこから『巨塔街』まで馬車で向かうだ。

水運を使わず陸路のみの場合は『人種王国――エルフ女王国』へと入り、『巨塔街』を目指すことになる。

最初ミヤは、最も到着が早い水運ルートを想定したが、すぐに却下した。

女神教も馬鹿ではない。水運はすぐに抑えるだろう。細かい全部は無理でも有名な各港で待ち構えているだろう。もし運悪く遭遇したら逃げ場がなくなる。

次は陸路だが、人種王国領土にあるミヤ、クオーネ実家の近くも避けたかった。

女神教が『2人は実家に身を潜めている』と勘違いして、勇者達が襲撃しかねないからだ。

それを避けるためなるべく近付きたくなかった。

悩んでいると、クオーネから提案された。

『獣人連合国首都を目指し、森を抜けて、エルフ女王国経由で「巨塔街」へ行きましょう』と。

この提案にミヤが驚く。

クオーネは過去、暴走した獣人連合国の獣人達にミヤと一緒に拉致、監禁、対『巨塔の魔女』の戦争道具にされた。

お嬢様育ちで、初めての修羅場を経験したクオーネは、この拉致、監禁事件がトラウマとなってしまったのだ。

結果、今でも彼女は柄の悪い獣人ウルフ種や獣人タイガ種を前にすると体が強ばり、酷い場合は涙を浮かべ、顔色が悪くなり、吐き気を催す。

それほど心に深い傷を負っているのだ。

クオーネが獣人種にトラウマを抱いていることは、2人の経歴や周りの人々の証言を聞けば知ることができる。

先程上げた2つのルートより遠回りになるという理由もあり、『女神教』の勇者達も、ミヤ達が獣人種の本拠地である獣人連合国を通るとは考えにくいだろう。

しかし、クオーネは自らのトラウマより、ドマス、警備員達によって助けられた男気に報いるため、獣人連合国経由を提案した。

ミヤは彼女の気持ちを汲み、冒険者時代の経験からルートを提案する。

「まず獣人連合国領内に入ったら、水運で首都まで移動するね。そこからエルフ女王国との間にある森を抜けるため、現地の人を雇うつもり。水運でエルフ女王国港街に移動してもいいけど、勇者達が待ち構えている可能性があるから。だから、間にある森を抜けた方がいいと思うの。でもまず、その森を抜けるための現地人に支払う相場を調べないといけないけどね。他には――」

ミヤが考案した旅ルートにクオーネも時折指摘を入れ、2人共に納得するように修正案を作っていく。

こうして2人の『巨塔街』へ向かうための準備が着々と進むのだった。