軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14話 黒の感情

竜人帝国のとある一室。

その一室に竜人帝国側『マスター』達が集まり、会話を交わす。

話の内容は、女神教に選ばれた勇者達と魔王認定を受けた『巨塔の魔女』についてだ。

「ねぇ、ヒソミ! 例の勇者達について何か分かったの?」

ナズナにボコボコにされて、文字通り命からがら逃げ帰って来た美少年顔のセスタが、慌てた様子でヒソミに尋ねる。

ちなみにナズナから逃げ出すのと、彼女から受けた攻撃でセスタは左腕、右脚、右目を失った。

切断された腕や足があれば、最高級ポーションで繋げることが出来たが、どちらもナズナから逃走するための爆弾材料にしたため消失。

どちらも義手足、右目には眼帯をつけている。

もし治癒に特化している魔人側『マスター』の1人ドクがこの場に居れば、切断された手足が無くても1から再生が可能だが、ライト達に捕らえられガルー達同様『奈落』最下層のさらに下へと移送済みだ。

そこで地獄の拷問を受けている。

故に、現在居るマスター達の中には治癒に特化している者達はいないため、欠損部分を再生させることは出来ない。

一応、細目のヒソミがフレッシュゴーレムを作る技術で、セスタに義手足を作ったお陰で、戦闘能力は下がったけれども日常生活自体には不便はないが……。

未だ時折、ナズナから受けた欠損傷が痛む。

セスタはそのたびにナズナへの怒り、憎しみ、恐怖心を思い出していた。

そんな彼が代表して、青い顔で外部の情報収集を担当しているヒソミへと問い質す。

ヒソミは細目を一層細めて、質問に答える。

「……結論から言うと勇者達は、別人です。当時『C』の傘下に加わった彼らではありませんでした。もしあのクソゴミクズの彼らが『C』の力で復活していたら、地上はもっと酷いことになっていますから。勇者達の名前や経歴からも別人だと断言できますし。ただし所持している武器は同じ物と考えてよいと思います」

「つまり、『C』が復活したということ?」

セスタの怖々とした声に、ヒソミは首を横に振った。

「その可能性は低いかと。ただ状況を考えれば油断はできませんが……」

「アァァァ……恐らく『魔女』がやりすぎて邪魔になったから始末を付けようと手を貸しているだけだろう。あんな ナズナ(化け物) を飼っている魔女だ、邪魔になって『魔王』認定からの排除対象なんて、簡単に想像がつくってもんさァ」

2人掛けソファーの真ん中に座り、1人占領するドレッドヘアーの元魔人種側マスターのゴウが、忌々しそうに吐き捨てる。

彼の言葉に1人掛けソファーに足を組み、座る竜人帝国側マスターのトップを務める王子様然としたヒロがツッコむ。

「ゴウさん、『C』が邪魔と認定した者達を排除するため『勇者』を選出する云々はあくまで予想でしかありませんよ」

「分かっている。だが、ほぼ確だろうがァ」

ゴウがヒロの指摘に、面倒臭そうに舌打ち。

例えばあまりに他種が人種を殺害し過ぎた場合、今回のケースのように『C』が現世に介入し、バランスを取ろうとすることがままあった。

過去を知る一部マスター達だからこそ、推測が立つ歴史的事実だ。

彼らの持つ情報を現在の歴史学者にぶちまけたら、どれほどの歴史研究がひっくり返されるか分かったものではない。

「……聖剣ゼットが本物というのは事実か?」

「…………」

珍しく 黒(ヘイ) が、自分から口を開き、ヒソミに問う。

あまりの珍しさに皆が 黒(ヘイ) に注目して、ヒソミも細目を限界まで広げた。

数秒の間をおいて、彼が喉を詰まらせながら答える。

「え、ええ、恐らく。ですが、先程も口にした通り武器は恐らく同じですが、勇者達は別人ですよ。もし彼らが復活していたら、地上はもっと無惨なことになっていますから……」

「あいつら僕様ちゃん達を超えるクズだものねぇ~」

人種奴隷、孤児達を自身の恩恵で爆弾化したセスタが、『僕様ちゃん達を超えるクズ』と断言するほど、彼らが知る『勇者』という存在は酷い者達らしい。

この返答に 黒(ヘイ) は、手にしている黒刀に力を込めて、本当に珍しく殺気を漏らす。

「分かった……だが、使い手は別でも聖剣ゼットを持つ者は殺す。カイザーの護衛を誰か頼む」

「馬鹿者! 貴様がわざわざ動く必要はないわ! 放っておけ!」

「…………」

ゴウ同様に2人掛けソファーに1人で座る上半身裸で、黄金の首輪に腕輪、ピアス、指輪などじゃらじゃらと身に纏ったカイザーが、背後に立つ 黒(ヘイ) を叱り飛ばす。

カイザーに対して盲目に付き従う 黒(ヘイ) にしては珍しく、無言だが納得できない空気を漏らしていた。

このままだと皆に黙って1人でも『聖剣の勇者』を殺害に向かいそうな 黒(ヘイ) にカイザーが釘を刺す。

「昔、聖剣ゼットで余が殺害されたからと言って、いつまでも目の敵にするな! 今の聖剣使いを殺害しても何の意味もないではないか。むしろ、他者に情報を渡す危険があるだけで、デメリットしかないわ!」

「…………」

飼い主に怒られた大型犬の如く、 黒(ヘイ) はバツが悪そうにそっぽを向く。

この場に居るマスター達は過去、カイザーが聖剣ゼットによって命を落としていることを知っていた。

その殺害を止めることが出来なかった 黒(ヘイ) が、負い目を持ち、現在は過保護な親のようにカイザーの護衛として彼の側についている。

今回、彼を殺害した聖剣ゼットの所持者が現れたと知り、代償行為と理解していながらも 黒(ヘイ) は『聖剣の勇者』ニックの首を取りたいと願っているのだ。

ただカイザーの言葉通り、その行為に何の意味もなく、現在世界を騒がせている勇者の1人を突然現れた 黒(ヘイ) が殺害したら――ただ無駄に情報を流すだけでデメリットしかなかった。

この場で一番の年長者である禿げ頭のルカンが、壁に寄りかかっていた体を離し、カイザー、 黒(ヘイ) の間に割って入る。

「まぁまぁ2人とも落ち着いて。 黒(ヘイ) 君の気持ちは理解できますが、カイザー君の言葉通りデメリットしかありません。何より聖剣と言っても、耳にする情報を分析する限り、完全に使いこなせている感じでもありませんから。実際、本物の聖剣か怪しいですよ」

ルカンがヒソミに目で合図を送った。

彼もすぐに合わせる。

「ルカン殿の言葉通り、各勇者達はレベルもそこそこあり、与えられた武器、防具、マジックアイテムも過去の勇者達と同一だと思いますが、入ってくる情報を分析する限り、小生達が知るあの勇者達に比べるとあまりに弱いんですよ。単純に使いこなせていないのか、場合によってはルカン殿の言葉通りレプリカの可能性もありますよ」

「…………」

「分かったら、オマエは大人しく余の護衛でもなんでもしていろ。大人しくしているのが今オマエに出来ることだと知れ!」

「……分かった」

最後にカイザーの言葉で、 黒(ヘイ) は以後、いつも通り彼の影へと溶け込むように大人しくなる。

なんとか 黒(ヘイ) の動きを落ち着かせることが出来て、セスタ、ゴウを除くマスター達は安堵の溜息を漏らす。

ゴウとセスタ的には『やりたければやればいいじゃないか』というスタンスだが。

竜人帝国側マスターのリーダーであるヒロが、場を纏めるようにヒソミへ指示を出す。

「ヒソミさんにはこのまま勇者達、『巨塔の魔女』の情報収集と監視をお願いします。状況的に『C』の復活はまだでしょうが、何があるか分かりませんから。勇者達について重点的に情報収集をお願いしますね」

「了解しました。頑張ります」

次にヒロはカイザーへと向き直る。

「最悪の場合『プロジェクト・A』を前倒しにしたいんですが……進捗はどうですか?」

「進捗通りとしか言えん。前倒しで発動する場合、居住区まで手が回らず最初に想定した人数を大きく下回る可能性があるぞ? それでも構わぬなら前倒しは出来なくはないが」

「……分かりました。最悪の場合、前倒しを頼む可能性があることを想定しておいてください。人数の選定はこちらで調整するので。ヒソミさんはより一層勇者達の情報収集、監視強化をお願いします。『C』が現れる兆候が少しでも出たら、『プロジェクト・A』を動かしたいので」

「了解しました。全力であたらせて頂きますよ」

ヒロが真面目な顔で、返答しつつ脳内で排除できる人数の試算。またヒソミに勇者達の情報収集、監視強化を依頼する。

竜人帝国側『マスター』達も水面下で活発に動き出そうとしていた。