作品タイトル不明
12話 報告
『奈落』最下層、執務室。
僕は執務室に置かれた席に座りながら、目の前に立つメイからの報告を耳にした。
メイはいつもの表情で淡々と問いかけてくる。
「ライト様、少しだけ良いご報告と悪いご報告がありますが、どちらからお伝え致しますか?」
「……なら、良い報告から頼むよ」
「畏まりました」
『少しだけ良い報告』は――
女神教の本拠地はシックス公国にある。
シックス公国魔術学園に在学している『巨塔教』の聖女ミヤ、神官クオーネの安全を考慮して、念のため女神教の勇者を含めてアオユキに監視を頼んでいた。
もし勇者達、女神教信者が暴走してミヤ達に手を出さないか、心配になったからだ。
お陰で勇者達がシックス公国学園に乗り込みドマス達を襲うことをいち早くキャッチ。
すぐさま現地にいる商人を通して、人種王国、エルフ女王国、ドワーフ王国、獣人連合国、魔人国大使館に走らせた。
各国の大使館員が慌てて女神教会に抗議。
さすがに女神教会も竜人帝国以外の国家からの抗議を無視する訳にはいかず、勇者達を引き留めるためシックス公国魔術学園へと走った。
あくまで女神教会からすれば、勇者達は魔王認定された『巨塔の魔女』を倒すのが目的だ。世界各国を相手に全面戦争をしたい訳ではない。
結果、勇者達が魔術学園の教授であるドマス、警備員達を殺害する前に止めることに成功したのである。
……本来ならこんな迂遠ならやり方をせず、直接転移で乗り込み勇者達と対峙する方法もあるが。いくらなんでも介入が不自然で乱暴過ぎる上、戦闘が激しくなり最悪シックス公国魔術学園どころか、街そのものに大きなダメージを与えかねない。
結果、大使を呼ぶなんてマネをしたのだ。
僕は苛立ちを募らせながら返答する。
「最もドマスさんも警備員達も無傷では済まなかったけど……」
「勇者達が与えられた自分達の力に酔って、ドマス達をいたぶったお陰で手足が千切れる、お腹を抉られる、出血大量などの重傷者は多数でましたが、死者が出なかったのが不幸中の幸いです」
アオユキのテイムした使い魔のネズミを通して、『地下魔術実験場』の戦闘――一方的な蹂躙を確認することが出来た。
メイの台詞通り、勇者達は自分達が圧倒的にドマス、警備員より強いためか加虐心を満たすように嬲った。
そのお陰で多数の重傷者は出たが、死亡者は1人もいない。
また襲われた場所がシックス公国魔術学園というのも幸いして腕の良い治癒術師、高級ポーションなども置かれていたため即座に傷の手当てをおこなわれた。
もちろんそれだけではない。
僕達も裏から手を回し済みだ。
「重傷者の治療に関しても私達配下の現地商人を通してライト様の『無限ガチャ』から出た効果の高いポーションのお陰で切断された手足、折れた骨、潰れた眼球等も全て再生済みです。後遺症もなく、以後、問題なく活動できるかと」
「勇者達が一思いに殺さず、嬲ったお陰で全員命を取り留めたなんて皮肉だね。納得はできないけど……」
彼らの行いに僕は強い不快感を覚える。
「警備員達はともかくドマス教諭はある意味で勇者達の攻撃を楽しんでいる節がありましたが……」
「ま、まぁ、ドマスさんだし……」
メイの報告に、強い不快感を覚えて眉根を潜めていた僕も、戸惑いの表情が表に出てしまう。
アオユキの使い魔経由の報告でドマスは、最初こそ彼らの違えた道を正そうと説得していたが……幼い頃、物語で聞かされた伝説の武器をその身で受けて、研究者の面が出たらしく、
『こ、これが聖槍の勇者が所持していたという「火山の槍」! 火山の途方もない力をそのまま封じ込めたという伝説の武器か! たしかに私の体を貫く刃は非常に熱い! これが伝説の武器の攻撃なのか!』
『こ、こいつは正気なのですか?』
ずっとドマスをいたぶっていた『聖槍の勇者』が狂人を目の前にしたかのような驚きの声をあげる。
槍の名前から火属性に特化しているため、刃は高い熱を持っている。つまり内臓を直接焼かれているにもかかわらず、苦痛より、研究者としての血の方が騒いだらしく、ドマスはその痛みすら堪能し、『聖槍の勇者』を含めた勇者達をドン引きさせたようだ。
(僕の出した『ファイアーウォール』の熱量を確かめるため、迷わず突撃して自分の体で味わった方だからな……)
その報告を聞いて『彼ならやりかねない』と僕自身、思わず納得してしまった。
軽く咳払いをしてから、話を進める。
「勇者達に襲われたけど、不幸中の幸い、誰一人死者が出なくて良かったよ。それで悪い話は?」
「ミヤ、クオーネの行方は未だに掴めておりません」
「……やはり難しいか」
僕は難しい顔で眉根を寄せた。
『悪い報告』と呼ぶには若干の語弊があるかもしれない。
一介の教師が迷わず地上では貴重な転移マジックアイテムを即座に教え子達のために使用するとは考えていなかった。
ミヤとクオーネのことは普段の学園生活中は小動物や小鳥などで気付かれないように監視し、さらに勇者の件があってからは防護も強化していたが……。
さすがに巨塔内でもないのに一瞬で移動する転移をキャンセルすることはできない。
「お陰で勇者側も意表を突かれて、ミヤちゃん達を取り逃がしたんだけど……」
問題は僕達側もミヤ達を見失った点だ。
「『SSR 千里眼』で彼女達の行方は捜したんだよね?」
「もちろんです。ただ既に変装をしてしまったため、発見できませんでしたが……」
メイが申し訳なさそうに返答する。
別に彼女が気に病むことではない。
『SSR 千里眼』は、使用者が望む遠くのものを発見し、見ることが出来るカード。しかし条件が不明だったり、使用者が知らないもの、遠すぎた場合などを見ることは出来ない。
あまりに目的のものが姿を変化させていたり、遠すぎても見ることは出来ない。
女性は化粧、衣服、髪型を変えるだけ大分印象が異なる。
結果、『SSR 千里眼』にひっかからなくなってしまったのだろう。
別に失せものを絶対に見つけられる便利カードではないのだ。
ただ彼女達が次におこなう行動には予想がつく。
「恐らくミヤちゃん達は『巨塔街』を目指すだろう。そして『巨塔の魔女』と接触して情報を提供し、身柄の安全を求めるはずだ。2人を発見したら最優先で保護してあげてほしい」
「かしこまりました」
メイがお手本のように一礼する。
彼女の返答に僕は満足すると、次の指示を出す。
「勇者達に関しては捕らえて情報を引き出した後、殺す」
彼らはミヤ達の一件から分かる通り、『巨塔の魔女』――僕達を『 魔王(敵) 』と見なして本気で殺しにかかってきている。
なら遠慮する必要はない。
彼らの頭から情報を引き出すだけだ。
「女神教の暴走か、本当に女神の使徒なのか、そんなことは関係ない。僕の復讐の、真実を知る邪魔をするのなら容赦なく潰すだけだ」
僕の言葉にメイは満足そうな微笑みを零し、同意するように恭しく頭を下げる。
その姿は非常に満足そうに満ち足りていた。