軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11話 少女達の覚悟

「ど、ドマス先生!」

「先生!」

「2人とも安心したまえ。これは私の切り札だ。重量的に2人しか転移できないがね。状況が落ち着くまで学外授業扱いで単位の心配はない。たまには外で2人ともおおいに学んできなさい」

ミヤとクオーネは魔術学園教授のドマスが身に付けていた指輪を渡され、2人で握らされる。

最初は意味が分からなかったが、彼の台詞の後、一瞬で世界が変化した。

『地下魔術実験場』にいた2人は、草原の上に立っていたのだ。

「……ッ!? て、転移アイテム!? まさかドマス先生がそんな貴重なアイテムを所持しているなんて……さらにワタクシ達を逃がすために使ってしまうなんて!」

「ドマス先生はご結婚されていたから結婚指輪としてしているのかと思ってたけど……昔ダンジョンに潜った際に手に入れた指輪だと聞いてはいたけど、まさか転移アイテムだったなんて……」

クオーネの実家は街でも有数の商家の出身、ミヤは元冒険者だけあり、『転移アイテム』にどれだけの価値があるか正確に理解していた。

本来なら王族、貴族、トップ高レベル冒険者、豪商などが、『いざ』という時に身の安全を確保し、その場から逃げるために常備する代物だ。

出回る数も少なく、稀にオークションなどに出品されたりするが、出品された場合、参加者達は手に入れようと躍起になり、目が飛び出るほどの高値がつく。

売れば平民が数十年暮らせるほどの大金を得られるとされていた。

そんな希少な品を自身の逃走ではなく、まさか生徒――ただの他人であるミヤとクオーネのために使用してくれるとは……。

その事実に暫し、彼女達は理解が追いつかず固まってしまう。

最初に衝撃から抜け出たのはミヤだ。

冒険者として修羅場を潜り抜けている経験から、衝撃を受けて僅かながらフリーズしてしまったが、すぐに意識を再起動する。

「……とりあえず転移した場所はシックス公国近くの草原かな。学園から数kmしか離れてないんだね」

ミヤがきょろきょろと周囲を見回し、現在地、敵の有無、状況把握に努める。

敵になるモンスターは居ない。

彼女達の居る場所からでもシックス公国を囲む城壁、何度も薬草採取に向かった森が見え、何度も足を踏み入れている草原に居ることを認識した。

『地下魔術実験場』から数kmしか離れておらず、転移アイテムとしては距離が短い。

だが、距離の多寡に関わらず『逃走できる』という事が重要なため、たとえ距離が短くても非常に貴重なマジックアイテムである。

むしろ『巨塔の魔女』のようにポンポン気軽に『長距離転移アイテム』を使う方が非常識なのだ。

「……クオーネちゃん、これからどうする?」

「ど、どうするって……」

ミヤに声をかけられ、衝撃から立ち直ったクオーネが軽く呼吸を繰り返し冷静さを取り戻す。

2人はその場で話し合い、結論を出した。

『とにかく女神教の勇者達に見つかり、捕らえられるより早く「巨塔の魔女」にこの情報を伝えて、保護してもらう』、それが二人の結論だ。

今から2人でシックス公国学園に戻って、勇者達に戦いを挑んでも勝利することは出来ない。

先生達が心配だが、二人が学園に戻っても殺されるだけだ。

すぐ一刀のもとに殺されるならまだしも、敵対勢力の『聖女』としてむごたらしく苦しめられて殺される可能性すらある。

なのでここで学園に戻るのは悪手。

折角、命懸けで逃がしてくれたドマスの努力を無駄にする行為でしかない。

「では、急ぎ『巨塔街』へと向かいましょう。その前に……魔力よ、顕現し風の刃を作り出せ、ウィンドカッター!」

「く、クオーネちゃん!?」

方針を決めるとクオーネは、自身の髪を掴み風の初級攻撃魔術でばっさりと断髪してしまう。

彼女の予想外の行動にミヤが驚愕の声をあげてしまった。

折角綺麗に伸ばしていた髪を、彼女が突然切断するとは考えていなかったのだ。

女性の命とも言える髪をばっさり切断したクオーネは、清々しい表情で告げる。

「本格的な変装は近くの町か村に着いてからですが、その前に少しでもワタクシ達の印象を変えるために髪を切るぐらいどうってことありませんわ。ドマス先生、警備員の方々があれだけの男気を見せてくださったのですから、それに応えてなんとしても『巨塔の魔女』様に情報を伝えて、保護してもらうためなら安いものですの。でなければ女が廃りますわ」

「……そうだね。クオーネちゃんの言う通りだよ」

彼女の言葉通り、ドマスと学園の警備員達が命をかけて自分達を助けてくれたのだ。

その思いに応えたいと考えるのは自然な感情だった。

また現在地はシックス公国の城壁が視認できるほど近い。

可能性は低いが、勇者達に遠目から姿を見られることや、女神教信者に目撃される可能性もゼロではなかった。

そういう意味で簡単でも外見を変化させられるのなら、それに越したことはない。

彼女の言葉にミヤも覚悟を決める。

ミヤは初級土魔術で地面に穴を掘ると、冒険者時代から愛用していた杖を埋めてしまう。

腕に身に付けていたダークからのプレゼント品であるミサンガも外してポケットへ大切にしまった。

クオーネと違って元々髪が短い彼女はこれ以上切っても意味はない。なのでフードを頭からすっぽり被って、外見をとりあえず誤魔化す。

彼女の言葉通り、本格的な変装は近くの町、村に辿り着いてからだ。

これでとりあず逃亡の準備は整った。

「それでどういうルートで『巨塔街』へ向かう?」

「そうですわね……」

クオーネは切断した自身の髪を、火属性の攻撃魔術で念のため焼きながら暫し考え込む。

彼女が出した結論に、ミヤは何度目か分からない驚きで息を呑んだのだった。