軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10話 起動

「ファイアーウォール!」

シックス公国魔術学園教授のドマスは、戦術級攻撃魔術の『ファイアーウォール』をマジックアイテムの力を使って詠唱破棄。

ばらまいた宝石のようなマジックアイテムを起点に、勇者達×4名とドマス達の間に巨大な炎の壁を作り出す。

もちろんマジックアイテムの力があったからと言って『ファイアーウォール』を詠唱破棄など並の魔術師には出来ない。

それだけドマスの魔術師としての実力が高いからだ。

ドマスは追撃の攻撃魔術を唱えず、後方へと下がる。

同時に甲高い笛の音が響く。

『ファイアーウォール』で遮られ視認できないが、魔術学園の警備員達が鳴らしているものだ。

音を鳴らし警備員の増援要請を外に知らせているのだろう。

ドマスは耳に響く笛の音を無視して自ら身に付けていた指輪を引き抜き、ミヤとクオーネの手を掴むと、2人に握らせる。

「ど、ドマス先生!?」

「あ、あのこれはいったい……」

「2人ともこの指輪を握ったまま離さないように」

ドマスが有無を言わさぬ声で告げる。

ミヤとクオーネは困惑しつつも、ドマスの対応に身を任せていた。

それ以上に勇者達の対応が早かったのもあるが。

「ッくぅ!?」

まるで室内に巨大な台風が発生したかのような強風が吹き荒れる。

強風は蝋燭の火のように一瞬で『ファイアーウォール』を吹き消してしまう。

あまりに強い風に、ドマス達は反射的に吹き飛ばされないように、その場で蹲る。

「あはははははは! この程度のちっぽけな炎で俺達を足止め出来ると本気で思っているわけ? マジで笑えるんだけど。これだから無能は嫌だねぇ」

元冒険者の『聖鎧の勇者』モザが、鎧の力を使って『ファイアーウォール』を吹き消してしまう。

聖鎧の能力は『風を操る』だ。

その力を使って『魔王と勇者』の物語では、勇者達と聖女の全員を強大モンスターがうようよと泳ぐ海を越えて、魔王が居る場所まで運んだと言われている。

それだけ強い風の力を『聖鎧の勇者』は操ることが出来るのだ。

モザ本人もその力を使って小さな体を常に空中へと浮かせていた。

この力を使えばドマスの『ファイアーウォール』を吹き消すのも容易いのだろう。

またドマス達は間に『ファイアーウォール』があったお陰で風の直撃を受けずに、その場に座り込む程度で済む。

直接、風を受けてしまった警備員達は『地下魔術実験場』の壁へと叩き付けられる。

勇者達にとっては遊びの攻撃でも、レベル差や伝説の武器能力からドマス達にとっては圧倒的なものだった。

とはいえ、壁に叩きつけられた警備員達は、装備している革鎧……ただの革鎧ではなくシックス公国魔術学園が開発した一種のマジックアイテムで外部からの衝撃を和らげる機能が付与されている。

お陰で『地下魔術実験場』の壁に勢いよく叩きつけられても、血を吐く者は居たが死者はまだ出ていなかった。

「? あれだけ大見得を切っておいて、これでお終い? 嘘だろ……?」

聖剣ゼットを手にしたニックが、警備員達のあまりの弱さに驚きの声をあげた。

元商人の『聖印の勇者』アンレンが、肩をすくめながら小馬鹿にしたように指摘する。

「いくら強い台詞を吐こうとも、実力がともなっていなければこんなものですよ。むしろ、 此方(こちら) に強気な言葉を吐いた無謀とも言える胆力ぐらいは褒めてあげましょうよ」

「いや、褒めることなど一つもありません! 女神様に選ばれし、 超人種(ハイヒューマン) である我々勇者に逆らったのです! 後ろの異端者共々、見せしめに皆殺しにしなければ!」

元神父の『聖槍の勇者』コロルが真っ赤な槍を手に、額の血管が切れそうな勢いで怒鳴り散らす。

「えぇぇ! ただ殺すだけじゃつまらないよ。俺的には、すぐには殺さず、あの邪教の女の2人のうち1人を目の前で嬲り殺してやるのがいいと思うんだけど。誰に失礼な口を利いたのか、肉体だけじゃなく、精神にも刻んでやらないと腹の虫が治まらないしさ」

『聖鎧の勇者』モザがふわふわ浮きながら、格下をイジメ抜く嗜虐的な笑みを作りながらアイデアを出した。

この言葉に、過去に獣人種に拉致監禁されたトラウマを抱えているクオーネが反応し震える。

ミヤは『この場をどうやって切り抜けよう』と、まだ諦めず、視線を動かし、思考を途切れさせず、チャンスを逃さぬよう窺う。

……そんな中、ドマスは勇者達と変わらない余裕の態度を崩さない。

彼は難解な数式を解き明かしたような笑みを作った。

「2人のうち、1人を見せしめに殺す? そんなことを私がさせるとでも?」

「おいおいおい、こいつ魔術学園の教師の癖にガチで頭悪いんだけど! マジでうけるわ!」

「もしかしてまだぼく達との実力差が分からないの? 貴方は本当にここの教師なのですか? もしかしてただの一般人だったりします?」

モザが空中に浮いたまま、馬鹿にしきった声で腹を押さえて笑い転げる。

ニックは聖剣を手に、天然発言を繰り返していた。

他勇者2人も馬鹿にしきった目でドマスを見つめる――が、ドマスの瞳はまったく自身の勝利を疑っていなかった。

「何度でも言おう。2人は私の大切な生徒だ。絶対に殺させなどしない。なにより、この指輪を2人に握らせた時点で私の勝ちだからね」

『?』

勇者だけではなく、ミヤとクオーネも疑問の表情を作り出す。

ドマスは勝利宣言と共に、マジックアイテムを起動する。

「転移よ、起動せよ」

登録したワードを唱えると、ミヤとクオーネの足下に魔法陣――対象を転移させる陣が浮かびあがった。

「ど、ドマス先生!」

「先生!」

「2人とも安心したまえ。これは私の切り札だ。重量的に2人しか転移できないがね。状況が落ち着くまで学外授業扱いで単位の心配はない。たまには外で2人とも大いに学んできなさい」

ドマスはわざと的外れな言葉を投げかける。

当然、2人ともそんな心配をしている訳ではない。

自分達が転移した後、残ったドマスや警備員達が勇者達にどのような扱いを受けるのか心配しているのだ。

しかし、2人はそれ以上この場所に止まることが出来ず、転移の指輪の力によって溢れた光と共に『地下魔術実験場』から姿を消してしまう。

『…………』

まさか一介の教授が、転移アイテムを持っているなんて……。しかも自分にではなく生徒とはいえ赤の他人である人種2人に使用するとは、勇者達にとって予想外過ぎて反応できずミヤ達を逃がしてしまう。

ドマスは堂々と勝ち誇った表情で勇者達へと振り返る。

「言っただろ、私の勝ちだと」

彼は改めて杖を構えた。

「ここからは、教師でなく、道を違えた若者を正す1人の大人として叱ってあげよう。かかってきなさい」

『このクソがぁぁぁぁぁッ!』

どの勇者の声か分からない。

勇者×4人は低レベルの魔人種と見下していたドマスにまんまと出し抜かれたことに激怒して、激怒し過ぎて誰がどの台詞を叫んでいるか分からない状態に陥る。

それでもドマスは言葉通り、道を大きく誤っている若者達を正す大人として攻撃呪文を詠唱するのだった。