軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7話 非マジックアイテム

「?」

「聖女ミヤ、どうかしたの?」

「うん、あのお兄ちゃんから手紙が届いたんだけど……」

シックス公国魔術学園女子寮。

ミヤが実兄エリオから手紙が届いた。

手紙自体は珍しくない。

ミヤ自身も近状を知らせるために出しているし、エリオから仕送りのお金入りであちらの近況を記した手紙が届いていた。

近況は極々ありふれたもので、仕送り金もエリオが頑張って自分の為に貯めて送ってくれているのが理解できるため、無駄遣いしないよう貯めていた。

今回の手紙も似た内容だと考えていたが……少々毛色が違った。

仕送り金はいつも通りだが、エリオが手紙で『シックス公国に看板娘が評判の店はないか』、『黒髪で姉が無口だが清楚、妹は快活で人当たりが良い姉妹だ』、『もしそのお店を見つけたら、または知っていたら教えて欲しい』、『近々、自分もシックス公国へ向かう』などと書かれていたのだ。

普段送られてくる手紙には無い、情熱のようなものがひしひしと伝わってくる。

しかも近々エリオがシックス公国に顔を出す予定のようだが、目的はミヤではなく、『無口だが清楚な姉、快活で人当たりが良い妹の看板姉妹』に会いに来るつもりのようだ。

行商人の護衛で人種王国首都に向かった際、出会った姉妹と再会したいのだろう。

ミヤがクオーネに手紙を見せて問いかける。

「クオーネちゃん、シックス公国に『無口だけど清楚な姉、快活で人当たりが良い妹の看板姉妹』のお店なんてあったっけ?」

「……ちょっと記憶にないわね。美人姉妹で有名なお店はあるけど、黒髪ではなかったし。お兄さんの勘違いかしら?」

「だよね……何よりなんでわざわざ、お兄ちゃんがその姉妹に会いに行くためシックス公国に来るの?」

「それは……」

クオーネが言い淀む。

ミヤも察してはいるが、自分の知る兄が片想いの女性と再会するため公国にわざわざ足を運ぶ――その光景が上手く想像できない。

「…………」

「…………」

ミヤ、クオーネの間に若干気まずい空気感が流れた。

ミヤはとりあえずクオーネから手紙を受け取り、丁寧に畳みながら微妙な笑顔を作りつつ話を振る。

「と、とりあえずお兄ちゃんがこっちに来たら、捜しているお店についてもっと詳しくきいてみよう。もっと詳しく聞けば何か分かるかもしれないしね」

「そうよね。聖女ミヤのお兄様だもの。出来る限りワタクシも協力させていただくわ」

2人は互いに微妙な笑顔を作りつつ、何事もないかのように話を進める。

そろそろ午前の授業が始まるため、彼女達は席を立ち部屋を出て、教室へと向かう。

☆ ☆ ☆

午前中の座学を終え、昼食後、2人は教授であるドマスの実験の手伝いをする。

ミヤとクオーネは『地下魔術実験場』に移動し、実験の準備を手伝う。

『地下魔術実験場』とは地下深く部屋を作り、既存魔術&現行技術でガチガチに固めた魔術実験場だ。

大抵の攻撃魔術ではその壁に傷を付けることは出来ない。

ただシックス公国魔術学園は高級住宅街の近くにあるため、威力が高い攻撃魔術などの実験をおこなう場合は、素直に街外へ出ておこなうことになっている。

『地下魔術実験場』にミヤ、クオーネ、教授であるドマスが揃う。

三人の前には土魔術で作られた人型の的があり、一つは剥き出し、一つは薄い銅の金属板を『く』の字に曲げた筒が貼り付けられていた。

ドマスは午前の座学授業をおこなうような声でミヤとクオーネに語りかける。

「ミヤ君、クオーネ君、私がおこなった授業で『攻撃魔術の強化、弱体化の条件』についての内容を覚えているかね?」

「はい、もちろんです」

「ワタクシもですわ」

2人の元気が良い返事にドマスが満足そうに頷く。

彼は上機嫌に話を続ける。

「この授業で私は『攻撃魔術を強化する一般的な方法は、マジックアイテムを使用すること』と説明した。そして、マジックアイテムを使わず攻撃魔術の力をあげる方法もあることを説明した。代表的なのは油を撒いて火炎系の攻撃魔術を使うなどだな」

ドマスが真面目に耳を傾ける生徒ミヤ、クオーネに不敵な笑みを浮かべた。

「……だが最近、私は『マジックアイテムも既存の方法も使わず攻撃魔術の威力を上げる』新しい物質を発見したのだよ!」

「攻撃魔術の威力を上げる新しい物質……。興味深いですわね」

クオーネも研究者としての表情を出し、興味深そうに声を漏らす。

「今日は実際にその威力を確認し、記録を取ろうと思う。2人とも、協力を頼むよ」

「はい、了解しました!」

ミヤは筆記用具を手に、やる気に満ちた返事をした。

ドマスは満足そうに頷き、早速、彼が発見した『マジックアイテムを使わない攻撃魔術の威力を上げる新しい物質』を紹介する。

「構造としては薄い銅を山形に曲げて筒に入れただけだ。魔術的力は一切ない。しかし――ファイアーアロー!」

ドマスが詠唱を破棄して、攻撃魔術の威力を上げる道具がついていない人型的へとファイアーアローをぶつける。

通常のファイアーアローではなく、そこそこ魔力を込めたため炎の色が青い。

しかし土魔術で作られた人型的は、大分丈夫に作られているため、ファイアーアローを受けても一部表面を焦がす程度だった。

ドマスは次の道具有りへと向き直る。

「ファイアーアロー!」

詠唱破棄して、道具ありの的へとぶつける。

筒を通して極薄の金属板に青い色のファイアーアローがぶつかった。道具が衝撃に耐えきれず床に落ちる。

人型的は、先程と違って表面を焦がすだけではなく、深く抉れていた。

ドマスが満足そうにミヤ、クオーネへと振り返る。

「どうだね! 通常のファイアーアローの場合、的の表面を焦がす程度だが、道具がある場合、こうして抉ることが出来るのだよ! 本来、防御に適している金属が山形に曲げて筒を通して攻撃魔術を与えると、逆に威力を高める! 面白いとは思わないかね!」

シックス公国魔術学園で教員兼攻撃魔術研究をおこなっているドマスからすれば、この現象は非常に興味深いものだった。

よく言えば少年のように瞳をキラキラと輝かせて、悪く言えば研究者として未知の興味深い現象を発見した興奮、好奇心から瞳をギラギラと輝かせていた。

彼は早速新しい筒を取り出し、自分の体へと向ける。

「なぜこのように非魔術道具にもかかわらず威力が上がるのか研究するため、まず自身の体で体験しようと思うのだ。ミヤ君、クオーネ君、どちらか私がしたようにファイアーアローを打ちこんでもらえないかね。もう1人は私の体や受けた後の状態を事細かに記録するように」

まさか自分の体を躊躇いなく人体実験に使おうとするドマスの発言に、ミヤがドン引き。

クオーネはミヤが引いているのを察して、笑顔でドマスを止めに入る。

「ドマス先生、お気持ちは理解できますが、いきなり自身で体験するのは些か早急過ぎかと。まずはモンスターなどを捕まえて実験するべきと進言いたしますわ」

「なるほど……確かにまずはモンスター実験が常道か。些か興奮しすぎて急ぎ過ぎてしまったようだね。指摘してくれてありがとうクオーネ君」

「いえいえ、これぐらい大したことはありませんわ」

さすがにドマスも実験過程を飛ばし過ぎたと、クオーネの諫言に耳を傾けた。

恩師を傷つけずに済んだミヤが安堵の溜息を漏らす。

「では、早速、この場を片づけてから外へ出ようか――その前に、随分と騒がしいな。何かあったのかね?」

「ですね。警備員さんの声でしょうか?」

『地下魔術実験場』の片づけを始める前に、外が妙に騒がしいことに気付く。

この時間、『地下魔術実験場』はドマスが許可を取っているため他者が実験場に近付くことはまずない。

あったとしても、別に外で警備員と揉めるようなやりとりをする事は無い筈なのだが……。

『地下魔術実験場』の扉が内側へと吹き飛ぶ。

咄嗟にミヤが杖を構え、クオーネとドマスの前に出る。

この辺りは冒険者として修羅場を潜ってきた者と戦闘それ自体に慣れていない者、ただの研究者の違いだろう。

「あっ、発見、発見。こんな所にいたんだ」

暢気な声を出しながら170cm前後の青年、『聖剣の勇者』ニックが姿を現す。

その後ろに『聖槍の勇者』コロル、『聖印の勇者』アンレン、『聖鎧の勇者』モザがシックス公国魔術学園の警備員達を引き連れて姿を現したのだった。