軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6話 聖剣、聖槍、聖鎧、聖印

シックス公国、北のスラム出入口付近に存在する教会こそ、『女神教総本山』だ。

女神教総本山が貧者支援をおこなっていた結果、北地区にスラムが形成された。

各種達の対抗意識等が強すぎて(例として魔人種が竜人種をライバル視して、将来的に種全体で超えようと目指しているようなこと)、女神教を殊更崇めていることはない。

どうしても女神教より、自分達の種を優先してしまう。

とはいえ完全に無視するのは建前上よろしくないため、各国女神教に対して毎年予算を確保して喜捨をおこなっている。

形式上、敬っているように見せているに過ぎない。

農村生まれの『剣の勇者』ニックを含めた、新たに生まれた勇者達が女神教敷地内部にある応接間に集まり会話を交わしていた。

『槍の勇者』コロルが1人用のソファーに座り、怒りに震えた声を漏らす。

「女神様が『魔王』と認定した『巨塔の魔女』と懇意にしている商人が、多額の喜捨を申し出てきました。媚びへつらった顔で挨拶をしてきた上に、遠回しに『多額の喜捨をするので魔王認定を取り下げて欲しい』と願い出てきたようです……」

コロルは身長も190cmと高いが、顔も縦に長い。髪先も定規で測ったようにきっちりと切り揃え、質素な神父服に身を包んでいる。筋肉、贅肉など一切なく、ただただ細かった。

この女神教総本山に勤める両親の息子で、本人も現在神父として在席していた。

一見すると上背はあるが、細木のように体は細く喧嘩など一度もしたことがなさそうな人の良さそうな青年神父に見えたが……。

コロルが目を限界まで開き、怨嗟の声を漏らす。

「女神様の導きを金で解決できると考えるとは! なんたる不敬! 不敬! 不敬ッ! 不敬ッッ! 女神様の導きを示すため我々は今すぐにでも『奈落』へと向かうべきではないでしょうか!」

コロルは敬虔な女神教神父として血涙を流す勢いで『不敬』と叫び、今すぐにでも『奈落』へ向かうことを主張した。

これに対して、2人掛けソファーに1人腰を下ろす『聖印の勇者』アンレンが軽く手を上げて『待った』をかける。

「落ち着き給え聖槍。気持ちは理解できるが、『急いては事を仕損じる』というもの。商売も戦いも全ては十全に準備を調えるのが肝要。商いは準備こそが全て、 此方(こちら) 側は選ばれた勇者ではあるが、ダンジョン探査の素人だ。さすがに何のノウハウもなく潜る訳にはいかんよ」

「臆したか聖印! 所詮は商人上がりの守銭奴か!? 我々には女神様のご加護があるのだぞ! 信仰心こそが全てッ! ダンジョンのノウハウ、準備など勇者である我々に必要ないッ!」

『聖槍の勇者』コロルが、『聖印の勇者』アンレンの言葉にソファーから立ち上がり激昂する。

やり手の商人として数多の交渉をこなしてきた『聖印の勇者』アンレンはコロルの態度に怯えも怒りもせず、子供を落ち着かせるように利を説いた。

「聖槍の言葉通り、 此方(こちら) には女神様のご加護がある。『奈落』最下層に赴き『魔女』の首級を上げることは造作もないだろう。しかし、準備を疎かにして失敗する可能性もゼロではない。だから、その可能性を潰すために準備が必要なのさ。女神様からのご神託を確実にこなすため慎重になるべきだろう。違うかい?」

「ぐぬぅ……」

『聖印の勇者』アンレンは足を組み替えつつ、冷静な態度で告げた。

彼の態度に激昂していた『聖槍の勇者』コロルも黙り込むしかなかった。

アンレンは元々人種奴隷を売りさばき利益を上げていた商人だった。

コロルのように感情的に叫ぶ相手を黙らせる方法は商売上、心得ている。

アンレンは髪をオールバックにまとめ身長は175cm前後。元々商人だが、体を鍛えており細マッチョと呼べるほど引き締まっていた。

足を組み替える姿も様になっており、顔立ちも整っているため、非常に見栄えが良い。

アンレンの冷静な態度と声に黙ったコロルに追撃するように、空中をふわふわ浮いている青年が声をあげる。

「聖印の意見に賛成だね。元冒険者の俺から言わせると、ダンジョン探査をあまり簡単に考えない方がいい。軽視して、魔王討伐に失敗する方が問題だ」

空中にふわふわと浮いている少年――に見えるほど外見が幼く、身長が低い青年こそ『聖鎧の勇者』モザだ。

元貧農の四男で、成人(15歳)になると、実家から追い出されてしまう。

以後、冒険者として活動するが、身長が低く、見た目通り腕力がなく、足も速い訳ではないし、頭が回る訳でも、手先が器用という訳でもない。

結果、ずっと冒険者ランク『E級:半人前』に甘んじてきた。

とはいえ農村から追い出された者達が、読み書きや特殊な技能など持つはずもない。

大抵、モザのように冒険者ランク『E級:半人前』辺りをうろつくのが一般的だ。

そんな元冒険者であるモザが、元冒険者としての経験をひけらかし、コロルの甘い認識を得意気に指摘した。

「し、しかし、あまり時間を掛けて放置しては、口だけで実行に移さないと『巨塔の魔女』を調子付かせ、我々が軽んじられる可能性があるのでは……。それでは信仰が成り立たないし、勇者としての面目も女神様のお言葉も無視することになってしまうぞ」

元冒険者からの意見に、神父で狭い世界しか知らない『聖槍の勇者』コロルはその勢いを落とす。

一方で空気が読めない上に農村でしか暮らしたことのない『聖剣の勇者』ニックは、アンレンの正面に腰掛けお茶を飲みながら指摘する。

「むしろ、本当に『巨塔の魔女』は、『奈落』っていうダンジョンの一番下にいるのかな? 『巨塔の魔女』は『巨塔街』に居るっていうのが一般的な話だよね?」

他勇者達が気まずそうに顔を顰める。

ニック以外の者達も、『巨塔の魔女』は『巨塔街』に居るのが当たり前では、と考えていた。この世界の常識として、『巨塔の魔女』は自身の領地である『巨塔街』に居るのが一般的である。

しかし、女神様から夢の中で伝わってきたお告げでは『奈落最下層に居る』とのことだ。

女神様に選ばれた勇者として皆はそのことを口には出来ず黙っていたが、空気が読めない農村から出てきたばかりの若者である『聖剣の勇者』ニックは、構わずそれを声に出したのだ。

『聖印の勇者』、元商人のアンレンが妥協案を提示する。

「……聖剣の言うことも一理ある。『奈落』は巨大なダンジョンだ。潜るための準備時間もまだまだ必要な以上、先に『巨塔街』に『巨塔の魔女』が滞在しているのか裏取りをするべきだろうな」

「聖印! 貴殿は女神様をお疑いになるのか! この不信心者が!」

この提案に当然、元神父の『聖槍の勇者』コロルが食いつく。

『聖印の勇者』アンレンは、落ち着いた態度で、肩をすくめた。

「疑う筈ないだろう、聖槍。あくまで念のための裏取りさ。ただ聖槍の言葉にも一理ある」

アンレンが黒い笑みを作り、提案する。

「……そこで、いいアイデアがある。ちょうど『巨塔街』で流行りつつある『巨塔教』を立ち上げた神官と、魔女と一緒に崇められている聖女がシックス公国魔術学園の生徒として通っているらしい。まずはそいつらを殺して、魔女と世界各国に 此方(こちら) が『本気なのだ』と伝えるのはどうだろうか? 敵が流行らせている宗教を潰す、これには女神様も心から喜んで下さるだろうさ」

『巨塔教』とは?

『巨塔の魔女』、妖精メイド、聖女ミヤを崇める宗教だ。一応、世界を作り出したとされる女神も同一に崇めてはいたが、女神教から見れば異教徒で異端である。

アンレンの提案に皆、乗り気で声をあげる。

「女神様と魔女を同一に崇めるとは! なんたる邪教、そんなものは潰れて当然だ! 今すぐにでも始末をつけなければ!」

「いいね、俺達が本気だって『巨塔の魔女』に伝わるいい宣伝になるよ」

元冒険者の『聖鎧の勇者』モザが空中をふよふよ浮きながら賛同する。

「ぼくも同じ事を考えていたんだ。それじゃ、『巨塔の魔女』や世界各国にぼく達が本気だと伝えるためにその聖女と神官を殺そう」

農村出身の『聖剣の勇者』ニックはまるで自分が最初の提案者の如く、アンレンの意見に便乗して皆の意見を纏めた風に装う。

こうして勇者達はシックス公国魔術学園に通うミヤ・クオーネ殺害を決定したのだった。