作品タイトル不明
5話 ミヤ、クオーネのシックス公国学園生活の1日・後編
「攻撃魔術を強化する方法として一般的に知られているのはマジックアイテムを使用することである。代表的なのは杖であり、魔術師を現す記号ともいえる。だが攻撃魔術を強化する方法は必ずしもマジックアイテムだけではない。例えば火炎系攻撃魔術を使用する際、油を事前に撒いておき――」
ミヤの試験官を担当したドマス先生が黒板にまず攻撃魔術の強化方法について説明をする。
教室の座席に座ったミヤ達5級魔術師が、黒板に書かれる内容をメモし、話に耳を傾けていた。
午前中、最初の授業はドマスによる『攻撃魔術の強化、弱体化の条件』についてだ。
これは極々基本的な授業で、学園の生徒なら必ず受ける。
なので本来、4級魔術師の資格を得ているクオーネは受ける必要がない。友人であるミヤが受けているため、隣に座り授業を受けているに過ぎない。
ちなみにシックス公国魔術学園が定める階級を簡単に説明すると、
1級――戦術級を扱える魔術師。1流。
2級――攻撃魔術の詠唱破棄が出来る準1流。
3級――攻撃魔術の詠唱破棄は出来ないが、詠唱短縮が出来る。
4級――学園が認めた一般的な実力がある魔術師。
5級――魔術師見習い。
以上となる。
ミヤはまだ入学して間もなく、5級魔術師扱いを受けている。
とはいえ冒険者として修羅場をくぐっているのと、努力しているお陰で実際の実力は4級でも上位だ。
あくまでこの級は目安でしかない。
5級から4級に上げるのには学園側の試験が必要だが、それ以上は求められている条件を満たし、実際に試験官の目の前で証明すれば資格を得られる。
1級の資格を得れば各国からスカウトがひっきりなしにくるほどだ。
「次に攻撃魔術の弱体化する条件について話をしたいと思う。今回も火炎系攻撃魔術で説明すると、例えば水辺近くでおこなった場合――」
ドマスの話は続き、生徒達も真剣に授業を受ける。
☆ ☆ ☆
昼食は再び食堂で摂る。
この時間が一番食堂が混む。
朝、夜は時間が大幅に取られているが、昼食はその2つに比べて短い。
故に生徒達は急ぎ受け取り食べて、席を離れるのが暗黙の了解になっている。
メニューは毎回パスタとスープだ。
もしそれが嫌なら街に出て屋台、食事処などで食べることになっていた。
午後は自主訓練時間とされている。
生徒同士で訓練をするも良し。
自身の研究を進めるも良し。
自主休憩にして、寮で寝ても良い。
大抵の生徒は自主的に魔術について勉強をする。
一部生徒は街を出て冒険者の真似事をして金銭を稼ぐ者達もいた。
ミヤとクオーネはというと……。
「ドマス先生、この荷物は倉庫に入れてもいいんですか?」
「うむ、倉庫に頼む。その際、ついでに攻撃魔術用の的を実験場に移動を頼むよ、ミヤ君」
「聖女ミヤに力仕事を任せるなんて……」
「クオーネちゃん、今朝も言っていたけど、力には自信があるから大丈夫だよ」
ドマスの研究室で、ミヤとクオーネは雑用を担当する助手の真似事をさせられていた。
ミヤはドマスの推薦で入学したため、派閥的には彼の研究院生扱いを受けている。
彼も雑用を手伝ってくれるならありがたいため、午後は手が必要な場合、ミヤのような者達に声をかけているのだ。
一応、ミヤ達側にもメリットがある。
最新の研究に触れることが出来て、さらに研究室の実験器具などをドマスから許可を取れば使用出来る。
また美味しいバイトなどがあれば、ドマス経由で声をかけて貰える事などもある。
人脈はそれだけひとつの財産ともいえた。
クオーネの心配を余所に、ミヤは木箱を一つ持ち上げる。
「聖女ミヤ、ワタクシも持つわ!」
「ありがとうクオーネちゃん。こっちはわたし1人で大丈夫だから、そっちの丸められた紙が入った箱を持ってきてくれないかな」
「お任せなさい。これぐらい余裕よ」
クオーネはミヤに比べて腕力は弱い。
ミヤは彼女を気遣い、一番軽い物を持つよう誘導する。
クオーネは特に気付く素振りもなく素直に従い荷物を持つ。
倉庫に荷物を仕舞うと、ドマスの指示に従い攻撃魔術の的を実験場へと移動させた。
こうして午後が過ぎていく。
☆ ☆ ☆
夜、夕食を摂り終えると、時間に従いお風呂へ。
シックス公国魔術学園にはお風呂がある。
掃除は掃除夫に任せるが、お湯を入れる仕事は、割りのいいバイトとして生徒達に人気だ。
ミヤ、クオーネが割り振られ決められた時間にお風呂に入り、上がった後は自由時間である。
女子寮の生徒達の多くはお菓子を持ち寄り談話室で談笑。
私室で人を呼び内密の話をしたり、研究を変わらず続けたりする。
ミヤはこの自由時間を利用してポーション作製をおこなう。
だがあくまでこのポーション作製はメインのバイトではない。
クオーネが二階建てベッドの上から、ミヤに声をかける。
「聖女ミヤ、ポーション作製に必要な薬草がそろそろ切れそうじゃない? もし良かったら、今度の休みにまた採りに行きましょう」
「そうだね。そろそろ切れちゃうかな。なら今度のお休みは街の外に出ようか」
「ふふふ、聖女ミヤと外で冒険できるなんて楽しみだわ」
「冒険って、街の外に出て薬草や売れる果実、きのこなんか採りに行くだけだよ」
ミヤはクオーネの発言が可笑しくて笑いながら返事をした。
ミヤのメインの稼ぎは、休日に冒険者として外に出て売れる薬草、果実、きのこ、コケなどを採取する事だ。
シックス公国魔術学園の図書室にある図鑑を模写し、見分け辛いが金銭的に価値がある物を事前に確認。
街の外へ出てポーション製作に使う薬草を摘むついでに、採取しているのだ。
この採取が意外と馬鹿にできない値段になる。
一般的な冒険者では、見分け辛い上、どのような環境で育っているのか等の情報が不足している。
ミヤ達と同じ魔術学園生徒は、基本裕福な者達が多い。
貧しい者達は、教師陣からバイトの紹介、マジックアイテム製作、冒険者として街の外に出ても攻撃魔術でモンスターと戦うことを優先する者達が殆どだった。
もちろん金銭的に余裕がある場合は、休日に体と精神を休め、クオーネや他友人達とお喋りを楽しんだりしていた。
「ああ……でも、今の時期はちょっと怖いかも……」
「クオーネちゃん?」
彼女の台詞の意図が分からず、ミヤが反射的に振り返りクオーネへと視線を向けた。
クオーネは不安そうに眉根を潜め説明する。
「北のスラム近くに女神教の建物があるでしょ? あそこが最近、『「巨塔の魔女」は世界最大最強最悪ダンジョン「奈落」の地下深くにいる。各国は勇者達と一緒に協力して、魔王「巨塔の魔女」を討伐すべし』って宣言しているのよ。聖女ミヤは『巨塔街』で『巨塔教』の聖女だから。街内なら北スラムに近付かなければいいけど、外で女神教の信徒と顔を合わせたら襲われたりするかもって……」
「考え過ぎだよ、クオーネちゃん。だいたい『巨塔街』内部ならともかく、『巨塔教』なんてマイナー宗教誰も知らないよ」
「もう聖女ミヤ、自分の宗教をマイナーなんて!」
「いや、わたしまだ認めてないからね?」
ミヤが突っ込むがクオーネは頬を片方だけ膨らませて、お説教を始める。
こうして彼女達のシックス公国魔術学園の1日が終わるのだった。
――そして、クオーネの悪い予感は的中してしまう。