作品タイトル不明
4話 ミヤ、クオーネのシックス公国学園生活の1日・前編
シックス公国には、大陸中から魔術師の才能を持つ者達が集まり、種族の垣根を超えて日夜切磋琢磨している学園――シックス公国魔術学園が存在する。
大陸で最も魔術、技術、マジックアイテムなどの最先端技術を研究している機関の一つだ。
他にも各国内部で似たようなことをしているが、シックス公国魔術学園に一部分野で食らいつけているのはドワーフ王国ぐらいだろうか。
そんな世界最高峰の学園にミヤと友人であるクオーネは生徒として通っていた。
「ん~~~……」
ミヤは女子寮二段ベッドの下で朝日が昇る前に目を覚ます。
眠そうに体をベッドの中で伸ばしながら、目を擦りつつ、体を起こした。
ミヤは元々農民で、冒険者としても活動していたため、朝日が昇る前に目を覚ますことには慣れていた。
彼女はベッドから抜け出ると、パジャマのまま二階ベッドで眠る同居人に声をかける。
「クオーネちゃん、おはよう。朝だよ」
「う~~ん、むにゃ、むにゃ、むにゃ、もう食べられないわ……」
掛け布団の上からミヤが揺さぶり起こそうとするが、長い金髪の少女クオーネはベタな寝言を漏らしつつ、目を覚まさない。
クオーネはシックス公国近くの街でも有数の商家の娘だ。
メイドが傅き、起こされるのに慣れたお嬢様である。しかも末娘で両親、兄とも歳が離れており、甘やかされて育った。
そのせいでミヤとの最初の出会いはあまり良いものではなかった。
当時、自称・天才魔術師、『 紅蓮の片翼天使(ヴァイオレット・フォーリンエンジェル) 』と叫んでいたクオーネがミヤの身に着けているミサンガに興味を抱き、それを売れと絡んできたのだ。
ごたごたがあったが友達となり、翌日、ミヤとクオーネは街の外へ。互いに攻撃魔術を見せ合うことになった。
攻撃魔術を見せ合っていると、獣人種達が彼女達を拉致するため襲いかかってきた。
当時、獣人連合国は対『巨塔の魔女』戦のため人種を集めて、魔女にぶつけようとしていたのだ。
その人種を集める方法は、金銭による奴隷売買だけではない。村、旅人、冒険者などを誘拐する非合法な方法も含まれていた。
当時、ミヤとクオーネはそんな獣人種達に目を付けられて襲われたのだ。
途中、実戦経験がないクオーネが足を引っ張り、ミヤ共々2人は獣人種達に誘拐されてしまう。
他人種達と一緒に監禁されたが、最終的には『巨塔の魔女』――ライトの逆鱗に触れ、その作戦に参加した獣人種達は全滅した。
クオーネは獣人種達に拉致され、監禁されたのがトラウマとなるが、『巨塔の魔女』に助けられたことを切っ掛けに、『……ワタクシがこの世界に産まれた意味は魔術を極めることではなかったのね。ミヤと出会い、「巨塔の魔女」様に助けられ、「聖女」が 人種(ヒューマン) の中に産まれる……その瞬間をこの目で見て、その素晴らしさ、奇跡を広めるために産まれたのよ。ミヤ、貴女との出会いは運命だったのね!』と叫び出す。
結果、ミヤを聖女に、そして『巨塔の魔女』と妖精メイドを崇める『巨塔教』を立ち上げる。
クオーネはその神官として布教活動をおこなうようになった。
ミヤがシックス公国魔術学園に合格し生徒になると、同時にクオーネも復学。
ミヤと同室になるように手を回して、現在にいたる。
聖女ミヤと崇める彼女に起こされているクオーネだが、朝はあまり強くないため仕方がなかった。
ミヤが掛け布団を剥ぎ取るとようやく目を覚ます。
「おはよう、聖女ミヤ……」
「おはようクオーネちゃん、朝食が始まる前に準備しちゃおう」
「了解ですわ……」
ぼさぼさの金髪姿でクオーネが、まだ半分眠っている頭でのろのろと二階ベッドから下りる。
ミヤとクオーネは協力して桶にお湯を作る。
ミヤが水を出し、クオーネが温めるのだ。
温かいお湯で顔と汗を拭き取る。
制服――魔術師衣服に着替えて、クオーネを席に座らせるとミヤが髪をすく。
胸のリボンの色で学年が分けられている。
クオーネは普段、金髪を縦ロールに巻いているが、寝癖が酷く、こうして朝、ミヤに整えてもらっているのだ。
……本当にどちらが聖女で、神官か分からない。
身支度を調え終える頃には、食堂が開く時間になっている。
2人はシックス公国魔術学園のマントを翻し部屋を出て、食堂が混む前に朝食を摂りに行く。
食堂は男女教員種族関係なく摂る。
シックス公国魔術学園は、『魔術を探求する学舎』のため、貴族、平民、種族などによる差別を許していない。
あくまで魔術を研究するのがシックス公国魔術学園という場だ。
食堂は有料だが学費に含まれており、作られる種類も決まっているため、飽きて食べたくない者達は、外で食べる。
貧しい出身の者達は『学費がもったない』と必ず食堂で食べ、『食事? 研究の方が大事だ』という教授、生徒達は、気にせず食堂でさっさと食べて研究室に戻るという生活を繰り返していた。
食堂で食べておけば栄養的に倒れることがないのだ。
もし食堂が無い場合、一部教員、生徒達は研究に没頭しすぎて倒れてしまうため、こういう形になった。
「クオーネちゃん、あそこの席、あいているよ」
「運が良いわね、さすが聖女ミヤ」
「聖女は辞めてよクオーネちゃん……」
ミヤがツッコミを入れるが、クオーネは改めない。
彼女的には監禁され死の恐怖に怯えていた時、支えてくれたのがミヤなのだ。
そのおこないは本物の聖女そのものだと今でも考えている。
食堂の席は暗黙のルールがある。
教授、上級生、下級生と座る席が大凡決まっていた。
これはトラブルを避けるための暗黙のルールである。
ミヤ達は早くに来ていることもあり、待つことなく席に座り朝食を摂ることが出来た。
朝食を摂りながら今日のスケジュールを確認する。
ミヤがパンを割き、口に。
クオーネがジャガイモを潰した野菜を混ぜたサラダを咀嚼する。
「午前中の座学、最初は何だっけ?」
「確かドマス先生の『攻撃魔術の強化、弱体化の条件』よ」
「ああ、そうだったっけ」
ミヤの問いにクオーネが答えた。
ドマスは以前、ダーク達『黒の道化師』パーティーが、魔術学園見学に来た際、ゴールドと意気投合。
ダークの『ファイアーウォール』へ突撃し、その温度を確かめたキチ――研究熱心な教師のことだ。
クオーネもパンを小さく千切り口へと運ぶ。
ミヤも含め女子は基本的に行儀が良いが、男子生徒は大声で笑ったり、書籍を読みながら、書き物をしながら行儀悪く食べている。
「午後はドマス先生の実験手伝いね。聖女ミヤにあまり力仕事をやらせたくないのに、先生ったら遠慮無くこきつかうんだから」
「こう見えてそこそこ力はあるから大丈夫。何よりドマス先生の推薦のお陰で学園に入学できたんだから」
ミヤは袖をめくり、力こぶを示す。
実際、彼女は農村出身で、冒険者として活動していた時期もある。
背丈はクオーネの方が高いが、腕力はミヤの方が強いぐらいだ。
またミヤはドマスの推薦、合格で入学したため、派閥的には彼の研究院生扱いを受けている。
『研究院生』と言えば表現がやや硬いが、ドマスから目を掛けられているだけだ。
「……むしろ、先輩なのにクオーネちゃんはわたしと一緒に教授の授業に出たり、実験の手伝いをしたりしてもいいの?」
「もちろん大丈夫よ。ちゃんとドマス先生には許可を取っているから」
先輩である筈のクオーネは部屋、授業、研究手伝い等々、常にミヤの隣に居た。
ミヤ的には知り合いが側にいて実際非常にありがたいが、クオーネ自身の勉強等は大丈夫なのかなという気もする。
朝食を摂り終えたら、さっさと離席するのが暗黙のルールだ。
下手に座って席を独占するのは非難の的になる。
ミヤとクオーネはお盆を返却口に戻すと、自室へ戻り午前、座学の準備を整えて教室へと向かった。