作品タイトル不明
1話 女神教
この世界には『女神教』という宗教が存在する。
世界を作り出したと言われている『女神』を崇める宗教だ。
しかし、あまり敬われてはいない。
獣人種、 竜人(ドラゴニュート) 種、エルフ種、ドワーフ種、魔人種――力がある種は、『自分達の種が絶対』という意識が強いのだ。宗教とは弱い者が縋るもの、自らの力に自信のある種族が積極的に神を敬うことは少ない。
唯一、この世界で差別されている 人種(ヒューマン) が、他種に比べると信仰している度合いが強いだろう。
とはいえ、世界を作り出した女神を讃える宗教のため、どこか特定の種の国に総本山を作った場合、政治利用される可能性が高い。
故に女神教総本山は、シックス公国に作られ、存在していた。
女神教の教えで最も有名なのが『世界創造』だろう。
女神がどうやって大陸や6種を作ったか、そして邪神に狙われていることについて記したものだ。
次に有名な話が――『魔王と勇者』の物語になる。
古い時代、この世界に『魔王』が誕生した。
魔王の力は強く、当時の種では敵わず、哀れんだ女神様が4人の種に力を与えた。
その力を与えられた4人の種こそ『勇者』である。
聖剣の勇者。
聖槍の勇者。
聖鎧の勇者。
聖印の勇者。
以上の4名だ。
4人の勇者は、女神様から力を授けられた聖女と一緒に魔王退治へと向かう。
聖槍の勇者が行く手を阻む巨大な谷を前に、女神から与えられた槍――火山の噴火を封じ込めた槍で、新たな大地を生み出し道を造り出した。
次に強大モンスターがウヨウヨ泳ぐ海へと到着する。
魔王はこの海の先にいた。
聖鎧の勇者は、鎧に宿った風の力で勇者、聖女と一緒に海を渡った。
いよいよ魔王と戦うことになった勇者達。
魔王は勇者達に呪いをかけようとした。しかし聖印の勇者が手にした タリスマン(聖印) で祈ると、その呪いを消し去ってしまう。
最後に聖剣の勇者が、聖剣で魔王を倒す。
以上が、この世界で最も古い『魔王と勇者』の物語だ。
この話は、種族によってこの勇者の種が『人種、魔人種、獣人種』などコロコロ変化する。
また勇者の数が増えたり、減ったり、聖女ではなく女神が直接ついて回ったり、最後に一部勇者と結婚したりするものもあった。
また以後、魔王が出現すると勇者が現れ、退治される物語が多数生まれる。
あまりに多すぎて実際にあったのか、ただの創作なのか 今日(こんにち) でも分かっていない。
とりあえず以上が、最も古い『魔王と勇者』の基本的な物語の流れだ。
そして 今日(こんにち) 、新たな『魔王と勇者』の物語が誕生する。
女神教が、『女神様のお告げにより「巨塔の魔女」を魔王と認定』し、勇者×4人が既に誕生し、聖剣、聖槍、聖鎧、聖印を手にしている。
さらには――『「巨塔の魔女」は世界最大最強最悪ダンジョン「奈落」の地下深くにいる。各国は勇者達と一緒に協力して、魔王「巨塔の魔女」を討伐すべし』と公式に宣言したのだ。
この女神教の公式宣言を聞いた各国の反応は非常に冷ややかだった。
人種王国 ――女神教総本山の宣言を受け止めます
エルフ女王国――女神教総本山の宣言に対し、発言を控える
ドワーフ王国――憂慮する
獣人連合国 ――再建で忙しいため、協力は難しい
魔人王国 ――再建で忙しいため、協力は難しい
竜人帝国 ――検討中に付き回答を保留
以上だ。
最も古い『魔王と勇者』物語を下敷きにしたような内容を女神教が公式に宣言。
聞いた者からすれば『子供に聞かせるお伽噺を公式で宣伝するとか、女神教の上層部は頭でも狂ったのか』と呆れるレベルだ。
一応、世界を代表する宗教組織の発言のため、無視する訳にもいかずお茶を濁す発言に終始したのが実状だ。
各国誰も、女神教の宣言を本気にしていないのだ。
しかし、当事者である『巨塔の魔女』、ライト達だけはこの宣言に注視する。
☆ ☆ ☆
『奈落』最下層、執務室。
僕は執務室椅子に座りながら、メイ、アオユキ、エリーを前に問う。
「女神教が『巨塔の魔女』を魔王認定した……。ある意味、これはどうでもいい。問題は……女神教が『「巨塔の魔女」は世界最大最強最悪ダンジョン「奈落」の地下深くにいる』と宣言したことだ」
最初『巨塔』は、サーシャと『白の騎士団』を呼び出し逃がさないための鳥籠、各国の目が本拠地である『奈落』に向かないようにするための囮的存在だった。
実際、お陰で元魔人側『ますたー』のミキ、ダイゴを釣り出すことに成功している。
にもかかわらず、女神教はピンポイントで『巨塔の魔女』エリーの本拠地は、『奈落』最下層だと断言してきたのだ。
「偶然……と考えるのは楽観的過ぎるね。皆、意見はあるかい?」
「私から、『奈落』最下層の内部に不審者が侵入、監視、盗聴など一切なかったことを断言させて頂きます」
「にゃ~」
『奈落』最下層内政の責任者であるメイが断言し、続いて周辺の原生林調査などをおこなっているアオユキが首を横に振る。
2人とも異変は感知していない。
続いて『巨塔』の責任者であるエリーが声を上げる。
「『巨塔』に関しても同様ですわ。メイさん同様、外部から情報を抜き取られるような異変は今のところありませんの」
レベル9999の3人を女神教とはいえ出し抜けるとは到底思えない。
僕は顎に手を当て考え込むが、
「当てずっぽうと断言できればいいんだけど……流石に何の情報もない状態じゃ分からないね。引き続き女神教、勇者などの情報を集めてもらうしかないか。メイ、アオユキ、エリー、『奈落』最下層内部、周辺、『巨塔』の警戒を一段階あげてくれ」
「畏まりました」
「にゃ!」
「すぐに対応させて頂きますわ」
メイが一礼、アオユキが片手を上げて猫語で、エリーも元気よく返答する。
「それとエリー、一応『巨塔の魔女』名義で、女神教に献金をする手配を頼む。確か各国が喜捨しているけど『巨塔の魔女』はしていなかったよね? もしかしたらだけど、献金をうながすため出鱈目を口にしている可能性も考慮して、一応支払ってみよう。多少のお金で鉾を収めてくれるなら安いものだしね」
「畏まりましたわ。すぐに手配いたしますの」
僕の指示にエリーが同意した。
他にも一応念のための指示を出す。
「アオユキ、これは完全に念のためだけど……シックス公国魔術学園にミヤちゃんとクオーネが通っているよね。2人とも『巨塔の魔女』――というより『巨塔教』の重要人物だ。女神教の本拠地もシックス公国にあるから、彼らが暴走して彼女達に手を出す可能性もゼロではない。だから一応、2人に気付かれないように護るよう頼めないかな?」
「にゃ!」
アオユキが『任せろ』と言いたげに即返事をする。
これで問題が起きても2人を守ることは難しくないだろう。
後は女神教がどう動くのか、注視するしかない。