作品タイトル不明
番外編 人種魔術学園
人種王国とある森の奥。
森の奥にもかかわらず、なぜかその部分だけ草木が枯れ、地面は砂漠のように乾き、動物、モンスター関係なく近付かない。
そんな不気味な一角が出来上がっていた。
原因は……突然変異した植物系モンスターである。
『グオオオォォ!』
背丈は他の木々と変わらないが、太さは一回り以上大きい植物系モンスターが、根っこを鋭い槍のように尖らせて、ネムムへと襲いかかる。
「そんな遅い攻撃で自分を貫けると本当に思っているの?」
ネムムは1人、突然変異植物系モンスターの攻撃を回避し、時に両手に握ったナイフで根っこを切り払う。
僕とゴールドはその様子を離れた位置から見守っていた。
(レベル600前後、植物系モンスターなのに火炎耐性があるけど、ネムムの相手にはならないな。というか、植物系モンスターなのにどうやって鳴き声をあげているんだろう?)
僕は念のため鑑定した情報を胸中で反芻しつつ、疑問をつい考えてしまう。
僕と一緒に観戦するゴールドが、暇潰しに声を飛ばす。
「ネムムよ、もし手が必要なら早めに言うのだぞ。我輩が喜んで参戦してしんぜよう!」
「はぁぁぁ!? 何言っているの! この程度の相手に貴方の手を借りるわけないじゃない!」
ゴールドのからかい口調に、ネムムは突然変異植物系モンスターから完全に視界を外し、彼を睨みつけ一蹴する。その間も飛んでくる根の槍攻撃を一切視認せず回避、両手のナイフで切り刻む。
この程度の相手にネムムが後れを取ることはないだろうが、一応僕も声をかける。
「ゴールドの言葉じゃないけど、相手は火炎耐性持ちで、植物だから痛みにも強いし、この辺り一帯を不毛の土地にするほど栄養を蓄えて頑丈だし、決め手にかけるなら遠慮なく言ってね。少々派手になるけど、爆発系カードで吹き飛ばしちゃうから」
「ら、ダーク様! ありがとうございます! ダーク様のお優しいお心遣い本当に嬉しいです。ですが問題ありません。もう終わりましたから」
森の奥で僕達しかいないため、ネムムは『ライト』と口を滑らせそうになり、慌ててダークと呼び、既に決着が付いていると口にした。
彼女の言葉通り、先程まで勢いよく雄叫びを上げていた突然変異植物系モンスターが『グオオオォォ……』と明らかに声量を落とす。
さらに根っこの槍も色つやを失い変色。腐り始める。
変色は気付くと本体にまで到達し、通常の草木が萎れるように突然変異植物系モンスターも枯れ果てた。
ネムムがナイフを目の高さまで持ち上げ種明かしをする。
「スキルで作り出した植物専用の毒物を刃に付与しておきました。斬るたびにその毒物が付着、吸収し枯れたのです」
「なるほど、植物専用の毒か」
いくら火炎耐性を持っていても毒物が有効なら関係はない。
わざわざ回避せずに槍の根を斬り飛ばしていたのは、防御だけではなく毒物攻撃をしかけるためだったのか。
一応、ゴールドが枯れ果てた突然変異植物系モンスターへ近づき、爪先で軽く突っつく。
「ふむ、どうやら完全に死亡しているな。クエスト完了の証拠として、我輩のアイテムボックスに入れて運ぶがいいか?」
「頼むよ、ゴールド」
「うむ、任せるが良い!」
彼は頷くと突然変異植物系モンスターを討伐証明として持ち帰るためアイテムボックスへと仕舞う。
「これで冒険者Aランクを維持するためのクエストは終わりかな。サブクエストも既に終わっているから、街に戻ろうか」
「日が暮れる前に街に戻れそうでよかったですね、ダーク様」
ナイフをしまって一仕事終えたネムムが、にこにこ笑顔で告げる。
僕も微笑みを浮かべて返答する。
「そうだね。サブクエストの薬草も、突然変異植物系モンスターもすぐに見つかってよかったよ」
もしどちらかでも遅れていたら、日があるうちに街へ戻ることは出来なかっただろう。
「それじゃ2人とも帰ろうか」
ネムム、ゴールドに声をかけて、僕達『黒の道化師』パーティーは、人種王国第2の都市へと帰還するのだった。
☆ ☆ ☆
「あ、ありがとうございます! まさか特殊植物系モンスター討伐をその日の内に終わらせて頂くなんて……。さすが最速で冒険者A級まで上り詰めたパーティー『黒の道化師』様達です!」
「ありがとうございます。こちらも無事にクエストを終えることが出来てよかったです」
午後過ぎ、夕方の混む前に人種王国第2の都市にある冒険者ギルドへと僕達は戻り、受注したクエストが無事達成できたことを報告した。
クエストを実際に終わらせたことを証明する物的証拠として、『突然変異植物系モンスター』の死骸を持ち込む。
死骸は街に入る前にゴールドのアイテムボックスから出した後、見せつけるように運び込んだ。
アイテムボックス持ちだと広く知られるのを嫌ったのと、少しでも僕達の冒険者知名度を上げるための行為だ。
お陰で無事に今朝受けたクエスト『特殊植物系モンスター討伐』が受理される。
今回わざわざ『特殊植物系モンスター討伐』を受けたのも、以前、人種王国リリス元王女がシックス公国会議に出席する際、護衛として僕達が潜り込むため、冒険者A級を取得。
取得後、なんの冒険者活動もしないと、評判にかかわるため定期的に人助けも兼ねたクエストを受けているのだ。
しかし、今回の目的は『特殊植物系モンスター討伐』より、サブで受けたクエストの方が大きい。
「もう一つ受けた『月光魔力草』も無事に持ってこれたのですが、こちらは僕達から直接依頼主に手渡しに向かってもいいですか?」
「はい、もちろん構いませんが……。この場ですぐに達成金をお支払いできず、依頼主にサインを頂戴後、もう一度ギルドに戻ってきて頂かなければならないのですが、それでも宜しいですか?」
「もちろん、問題ありません」
『二度手間になるがいいか』という受付嬢の言い分に僕は笑顔で納得する。
ギルド側に許可を得た後、『特殊植物系モンスター討伐』の達成金を受け取り、サブクエストの『月光魔力草』は達成したと依頼人が証明するサイン書類をもらう。
僕は書類を受け取ると、丁寧に畳んでから懐にしまい、冒険者ギルドを後にした。
では、なぜわざわざ二度手間になるにもかかわらず、『月光魔力草』を直接依頼人に手渡そうとしているのか?
「主よ、このまま依頼人の元に向かうのか?」
「そうだね。まだ夕方前だし、向かっちゃおうか」
「では、人種魔術学園は、こちらになります」
ネムムが事前に調べ済みの冒険者ギルドから、人種魔術学園へ向かう道へと僕を案内する。
今回、サブで受けたクエストの依頼人はミヤが一時期通っていた人種魔術学園だった。
人種魔術学園は、人種王国が主導して開いている魔術学園だ。
当然、基本的に人種の魔術師の才能も持つ者達が学んでいる。
人種王国から補助金が与えられ、多くの人種魔術師を育てようとしていた。人材育成の場でもある。
当然、国からの補助金だけでは賄えず、生徒達から授業料を支払ってもらっていた。
既に金銭的問題で辞めたとはいえ、色々お世話になっているミヤが通っていた学園で、僕も『種族の集い』時代、魔術が使える人達に憧れていた。
人種に魔術を教える学園があることも、この時に知ったが……。
当時の自分には魔術師の才能が無いことを知ったため、落胆したものだ。
そんなある種の憧れた人種魔術学園を一目見るため、どうせ『特殊植物系モンスター討伐』のクエストで森の奥に行くのだから、ついでに埃を被っていた『月光魔力草』採取も一緒に受けたのである。
ネムムの案内で僕達は、人種魔術学園へと向かう。
事前に場所を調べていたこともあり、迷うことなく辿り着く。
「ここが人種魔術学園か……」
「シックス公国学園のとは比べられないが、意外と大きいではないか」
大陸中から魔術師の才能が集まるシックス公国魔術学園と比べると当然見劣りするが、それでも広いグラウンドに校舎らしき建物が並び、守衛らしき老人達が槍を持って立っている。
老人と言っても、弱々しい雰囲気はない。
冒険者上がりの古強者といった顔立ちをしている。
あまり長く眺めていると不審者扱いされるため、守衛に冒険者ギルドのクエスト関係で立ち寄ったことを冒険者ギルドから渡された書類を見せつつ説明した。
説明後、守衛の1人が校舎へと向かう。
暫くして1人の初老男性を連れて姿を現す。
初老の白髪男性で、背丈はあまり高くない。
『魔術師だ』と自己主張するマントを着ていなければ、気苦労が多そうな中間管理職の初老男性にしか見えなかった。
彼は戸惑いつつ、声をかけてくる。
「君達が私の依頼を受けて『月光魔力草』を採取してくれたというのは本当かい?」
「はい、こちらがクエスト依頼にされていた『月光魔力草』です」
僕は事前に準備していた『月光魔力草』を取り出し渡す。
『月光魔力草』は森の深い場所でしか採れない薬草で特殊なポーション製作に必要な材料の一つだ。
初老男性が受け取った『月光魔力草』が本物だとすぐに気付き目を丸くする。
「本当に『月光魔力草』を採取してきてくれるとは! お恥ずかしい話、収入的にも、国からの補助金的にもクエストのランク的ギリギリの値段しか出せず、早々手にはいるとは思っていなかったんだよ。私自身が採取しに行ければ話が早いが……。森深部に入れる実力はないからね」
『月光魔力草』は、森深部でしか採れないため、必然危険度が高い。
最低でも冒険者Bランクは必要だ。
クエストに記されていた金額は冒険者Bランクに依頼するギリギリの値段だった。
一般的な冒険者Bランクだったら、危険度と金額が釣り合わず、まず手を付けないクエストだろう。
今回は僕達側の都合があったため、ついでに採取しただけだ。
僕は笑顔で返事をする。
「他のクエストをこなすついでに見つけただけなのでお気になさらず。それに以前、こちらに在席していた生徒にお世話になったことがあったので、その恩を少しでも返せればと思って受けただけなので」
他にも僕自身が、一時憧れた人種魔術学園を一目に見たかっただけだ。
完全にこちら側の都合である。
この発言に初老男性が食いつく。
「在席していた生徒? もし宜しければその生徒の名をお聞きしても?」
「ミヤちゃんという少女で、当時はご両親が亡くなり学費を払えなくなって退学したと聞きました。兄のエリオさんと他友人達と彼女が一緒に冒険者をやっていた際にお世話になったんです」
「おお、ミヤ君ですか。実は私、当時、彼女の担任をしていたんですよ」
「!? そうなんですか?」
これは意外な偶然だ。
初老男性はしみじみと語る。
「優秀で真面目な生徒でしたよ。実力と才能を見込まれて、シックス公国魔術学園の推薦を受けたほどですから。風の噂では、現在、シックス公国魔術学園に入学したとか。その噂を耳にして、私は『やはり才能がある子だな』と実感したほどですよ。ただ……」
出来の良い自慢の孫娘を讃えるような口調から一転、彼は心配そうに眉根を潜める。
「これも噂ですが……ミヤ君が『巨塔街』で『 巨塔教(きょとうきょう) 』の聖女を自認し、新興宗教をおこしたとか。でもあの大人しい真面目なミヤ君がそんなマネをするとは思えなくて……。誰かに騙されて担がされている気がしてならないんですよ」
「…………」
「第一、女神様を差し置き、『巨塔の魔女』を神として崇めるなど……。女神教の私としては本当に理解できません。今時の若者はそんなものなんですかね……」
彼は『世も末だ』と言いたげに溜息を漏らす。
ちなみに『 巨塔教(きょとうきょう) 』は――『巨塔の魔女』が神に近しい存在、妖精メイド達が使徒、ミヤが聖女と定められている新興宗教だ。
少し前に、獣人連合国に誘拐されたミヤが、同じく攫われた人種達の怪我を治癒して励ましたりした。
結果、ミヤの友人クオーネが暴走してミヤを『聖女』として祭り上げ、僕としても『巨塔街』の統治的にも、 人種(ヒューマン) 関係にかかわらう問題などにも非常に有効だったので黙認した。
(そういう意味ではある種、ミヤちゃんはクオーネや僕に担がれたようなものなのかな?)
僕は変な汗を掻きつつ、元担当教師の言葉に黙って頷く。
一通りさらにたわいない言葉を交わし、サインを貰ってから人種魔術学園を後にした。
ミヤちゃんの元担当教師は、『月光魔力草』を採取してくれたことを再度お礼を告げ温かく見送ってくれたのだった。