作品タイトル不明
40話 竜人帝国側『マスター』達の動き
「痛い! 痛いよぉ……どうして僕様ちゃんがこんな目にあわなければならないんだ!」
竜人帝国のとある一室にマスター達が集まる。
その中に左腕、右脚、右目を失ったセスタがソファーの上で藻掻き苦しんでいた。
治癒は終わっているため血は流れていないが、手足と目は失われたままで、完膚なきまでに敗北し手足を失ったという屈辱感によって増幅された幻痛に苦しんでいるのだ。
左腕、右脚、右目もナズナから逃走する際、大剣プロメテウスの斬撃で失った。
途中までは運良く回避し切れていたのだが……。
やはり運だけで回避し切れず、結果、左腕、右脚、右目を失うことになった。
切断された左腕、右脚があれば最高級ポーションで繋げることが出来たが、どちらともナズナから逃げ切るための爆破材料にしてしまった。
セスタの 恩恵(ギフト) 『爆弾魔』は魔石や生物、無機物などに爆弾を付与することができる。
だが最も爆弾化させやすく、強力なのは自分自身の肉体だ。
故に切断された左腕と右脚を犠牲にしてナズナへとぶつけたのだ。
あれがなければセスタ達が逃げ切ることは出来なかっただろう。
今回、保険としてセスタを助けに向かったヒソミ、ゴウ、ルカンは、ソファーの上で痛みに悶えるセスタを若干冷たい目で見つめた。
以前、馬鹿にされた元魔人国マスタートップのドレッドヘアーのゴウが、苦しむセスタに馬鹿にしたような台詞を投げる。
「アァァッ、俺様の忠告も聞かず調子に乗ってあの ナズナ(化け物) に手を出した罰だなァ。普段、調子に乗っている分、今回の一件は良い薬になっただろうさァ」
「ちょっかいを出したのは『巨塔の魔女』に対してだよ! あの ナズナ(化け物) が勝手に僕様ちゃんに突撃してきたんじゃないか! 第一、強いって聞いていたけど、あれは反則でしょ!? チートとか、チーターのレベルを超えて、ただの理不尽! バグじゃないか!」
ゴウの言葉に、幻痛に苦しむセスタが、睨みつけながら吐き出す。
もしドクが生きていれば、手足や目の再生も可能だった可能性もあるが、彼は既に倒されている。
現在居るマスター達の中に治癒特化はいないため、欠損部分を再生することが出来ないのだ。
故にセスタはひたすら幻痛に悶え苦しみ耐えるしかなかった。
険悪な雰囲気になりそうなのを察して、禿頭で長身のルカンが顎を撫でながら話題を投げる。
「ゴウ君、セスタ君の言葉ではないですが、確かにあれは理不尽過ぎますね。他にもLV7000から8000級の奴もいたとのことですし、ヒソミ君が念には念を入れて保険を準備してくれたお陰で逃げ切れましたが、もしそれがなかったら……。文字通り手も足も出なかった可能性がありますね」
「いや、本当に準備しておいてよかったですよ。正直、彼女が近付いてくるたび、冷や汗が止まりませんでしたから」
「ははは、私もですよ。ゴウ君から話は聞いていましたが、まさかアレほどとは……。正直、私自身、認識不足でしたよ」
細目のヒソミに、ルカンが乾いた笑いを漏らし同意する。
セスタは未だ竜人帝国側『マスター』に必要な人材のため、いざと言う時、彼を逃がすための保険を準備しておいた。
ルカンの恩恵で海中モンスターを大量に使役し、他者を混乱させる霧を発生させたり、細目のヒソミが作り出したフレッシュゴーレム、いざと言う時、一瞬でも足止めできるようにゴウの参加を取り付けたりなど。
他にもいくつか逃げるための保険を準備しておいた。
お陰でセスタは手足目を欠損したが、それでも生きてナズナから逃げ出すことが出来たのだ。
奇跡――というにはさすがに言い過ぎだが、非常に運が良かったのは確かである。
そんなセスタが幻肢痛に苦しみながら、ソファーの上で怨嗟の声を漏らす。
「次に出会ったら殺す。確実に爆殺してやる!」
「アァァ、テメェだけじゃ殺すのは無理だァ。俺様と 黒(ヘイ) にも協力させて、あのクソガキを罠に嵌めてようやくだろうなァ」
ゴウが以前、ナズナに与えられた屈辱を思い出し、全身から殺意を溢れ出す。
「逆に言えば俺様達が協力して、罠に嵌めればあの ナズナ(化け物) を殺す芽があるってことだァ。今度こそ、確実にぶち殺せる状況を作り出し、屈辱を晴らさせてもらわねぇとなァ……」
「ゴウ! その時が来たら絶対に協力するから、止めを刺す時は僕様ちゃんにやらせてよ!」
「アアァ! 馬鹿言うな。俺様だってあの ナズナ(化け物) には世話になっているんだ。オマエだけが怨みを持っている訳じゃないんだぞォッ」
「ゴウは手足を失っていないからいいじゃないか! 僕様ちゃんなんて、手足だけじゃなく目もやられているんだぞ!」
ゴウとセスタ、どちらが『 ナズナ(化け物) に止めを刺すか』の言い争いが始まりかけたが、竜人帝国側『マスター』のリーダー的存在で王子的美形であるヒロが手を叩き、その場に居る全員の注目を集めた。
「復讐したい気持ちは理解できるけど、『巨塔の魔女』や復讐なんて些事。ボク達の目的を忘れないでね。もうすぐ悲願の『PA』が完成するんだから」
「ですね。あくまで小生達の目的は『PA』を完成させること。『巨塔の魔女』や復讐なんかは横道でしかありませんから」
ヒロの発言にヒソミが同意の声を上げる。
ヒソミの言葉にヒロが頷き、カイザーへと視線を向ける。
「カイザーさん、進捗はどうなっていますか?」
「大枠は既に終わっておる。後は細かい調整だ」
上半身裸で黄金の装飾を多数身につけているカイザーが、ギロリとセスタを睨む。
「復讐云々は結構だが、最後の仕上げは貴様にあるのを忘れるなよ爆弾小僧。大枠で貴様の仕事が終わった故に息抜きを許可したが、それ以上を求めるというなら、我自らが貴様の体に分からせてやっていいのだぞ?」
「…………」
カイザーの背後に控える 黒(ヘイ) が、彼の言葉に反応して臨戦態勢を僅かながらにとる。
カイザーが戦うぐらいなら、自分が動くつもりなのだろう。
2人の態度に幻痛に苦しむセスタ、ナズナに怨みを持つゴウも不満を顔に出しながらも押し黙る。
空気が悪くなりかけるのを防ぐためヒロが再度手を叩く。
「仲間内で争うのは止めましょう。とりあえず、もうすぐボク達の悲願である『PA』が完成しそうなんですから。セスタさん達の気持ちも理解できますが、まずはそのことだけを考えましょう」
「ヒロさんが言うなら……我慢するよ」
「チッ!」
セスタとゴウもカイザーだけではなく、リーダー格であるヒロの言に表だって逆らうわけにはいかず、渋々納得した態度を見せる。
表面上はとりあえず鉾を収めて、従っている風を装う。
穏健派であるヒソミ、ルカンが互いに顔を合わせて肩をすくめ合う。
ヒロは美男子顔で笑みを作り話を纏める。
「では一度『巨塔の魔女』関係は脇に置いて、皆『P・A』に最後の注力をして完成さましょう。皆で一致団結すれば必ずやボク達なら完成させることが出来ます。そして『C』からも自由の身となりましょう!」
この発言に一部表面上は不満そうな顔を作る者達が2名ほどいたが、反対意見は一つも上がらなかった。
一応、竜人帝国マスター側は、まとまりをみせる。
――そんな竜人帝国『マスター』側ですら予想していなかった事態が起きた。
勇者が誕生し、『巨塔の魔女』を『世界の敵』である魔王と認定したのだった。