作品タイトル不明
37話 ナズナvsセスタ3
分裂したナズナ達は、絶望顔を浮かべるセスタに対して見向きもせず、無事に人種達を取り押さえて、体内にあるマジックアイテムを無力化できたことに安堵する。
「あたいなら出来ると思ったけど、無事に成功してよかったぜ!」
「とはいえ、マジックアイテムを無力化させることが出来ても、取り出したり、無効化することが出来ないのが残念だな」
「さすがに今、エリーも孤児達を助けるのに手一杯でこっちにまで応援にきてもらうのは無理だからな……」
「とりあえず、こうして無力化して、取り押さえていれば、手が空いたご主人様が助けに来てくれるから安心だな!」
ナズナ×100人が好きに話し出すため、場は非常にうるさい。
ある意味で、美少女が一杯で華やかな場といえなくもないが……。
またナズナの1人が口にした通り彼女達はセスタに操られ、体内に爆発するマジックアイテムを抱え込んでいるが、それを取り出すことは出来なかった。
神話級(ミトロジー・クラス) 、『大剣プロメテウス』でも、体内のマジックアイテムの爆発に干渉して押さえ込むのがせいぜいだった。
大剣プロメテウスの能力は――『世界に干渉して、本来、起きえない事象を引き起こすことが出来る』だ。
なので摂理をねじ曲げてナズナを100人以上に増やすことも出来る。
ただし、大剣プロメテウスはどんなことでも出来る訳ではない。
当然、制限が存在する。
まずレベル9999は4人しか作り出すことが出来ない。
装備品も能力が下がってしまう。
最大人数は約1000人だ。
それ以上、無理をして『摂理をねじ曲げる』と、最悪、反動で 使用者(ナズナ) が死亡する可能性すらある。
また一番干渉しやすいのが使用者本人で、次に自分の持ち物。
次が無機物や魔力が篭もった物質。
最後に一番、干渉し辛いのが他者だ。
なので100人に分裂したせいで、大剣プロメテウスの力も下がり、低レベルの人種が相手でも、他者の内部にあるマジックアイテムに干渉するのは難しい。
結果、増えた100人のナズナは人種を取り押さえ、干渉することで手一杯でそれ以上のことは出来なかった。
とはいえまだレベル9999×3人のナズナがいる。
「それじゃあたいは反対方向へ逃げているリリスの兄を捕まえてくるぜ!」
「アイスヒートはこの場に残って、あたいと人種達を守ってやってくれ。あれだけ騒いだからモンスターも野生の獣も警戒して来ないとは思うけど。念のため頼む」
「か、畏まりました」
アイスヒートは指示を受け、『手柄的に人種第一王子を捕まえに行きたい』とはいえず、大人しく返事をした。
ナズナがアイスヒートの返事に満足そうに頷くと、彼女×2がセスタへと向き直る。
「残るあたい2人は、あのクソ野郎を捕まえるぞ!」
「ご主人様に引き渡す前にぼこぼこにしないとな!」
「!?」
絶望顔を浮かべていたセスタは、視線を向けられようやく思考が再起動した。
息を呑みジリジリと後退って……。
「……ッ!」
全力での逃走を選択する。
「あ! まてこら!」
「逃げるんじゃねぇー!」
ナズナ×2が声を上げて逃げるセスタの背を追う。
「強い強いとは聞いていたけど、ここまで強い――っていうか、こんなに理不尽なんてありえないだろ!?」
元魔人王国『マスター』のリーダー格であるゴウから、ナズナの強さ、レベルなどは聞いていた。
その上で最悪でも逃げることが出来る保険を準備していた。
それが仮死状態にしていてアイテムボックスに入れていた人種×100だ。
『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』を掲げる『巨塔の魔女』配下なら、これで手も足もだせず、上手く行けば大ダメージを与えるところまでいけるかもしれないと考えていた。
普通に考えれば、体内に入れたマジックアイテムを止めることは出来ず、数も100人と多いため、手が出せず右往左往するか、諦めて人質の人種達を殺害するしかないだろう。
もし殺害した場合は、それを喧伝して『巨塔の魔女』に対する嫌がらせの一つにしてやろうとも計画していたのだが……。
まさか人質100人を無傷で、体内のマジックアイテムを無力化して、数秒で押さえ込むなど――想像しろというほうが無理である。
「逃げるなって言っているだろうが!」
「足を狙おう! 斬れば、動けなくなるから!」
「クソ! クソ! クソガキがぁぁぁッ!」
ナズナ×2が逃げるセスタを捕らえるため、大剣プロメテウスを振るう。
振るうたびに斬撃が飛び、セスタが運良く回避すると森林の木々、地面、一部モンスター達が切断され吹き飛ぶ。
たとえセスタでも当たればただでは済まない攻撃が背後から、何度も繰り返し飛んでくる。
ただただ逃げることに必死になっているのと、僅かに運が良いため回避し続けられているが……。
それもそう長くは持たないだろう。
(ゴウから、分裂するし強いとも聞かされていたけど、ここまで手も足も出ないなんて! 1人でも嫌になるのに、さらにもう一匹増えるとか悪夢過ぎるだろ!)
胸中で毒づきながらとにかく逃げに徹した。
しかし、切り札は出し切り、負傷し、相手の人数が多い上、レベルも高い。
このままでは到底逃げ切れず、近い将来捕らえられるのは目に見えていた。
(不味い! 不味い! 不味い! このままじゃあの頭がおかしいガキに捕まる! 僕様ちゃんが!? 爆発の天才である僕様ちゃんが捕まったら――)
『巨塔の魔女』に敵対した者達がどういう末路を辿るのか。
噂程度はセスタも耳にしていた。
しかし、自分が同じ立場に陥るとはまったく想像していなかった。
なぜなら自分はマスターで、レベル8000を超えており、切り札を複数準備していざというとき逃げる算段までつけていたのだ。
これで敗北して、逃げることも出来ず捕まるなんてありえない。
『「巨塔の魔女」に敗北して、捕まり、拷問を受けて殺されるのはマヌケだけ。天才で優秀で選ばれた存在である自分がそんな目に遭うはずがない』とセスタは無意識に考えていたのだった。
しかし結果はごらんの通りだ。
ナズナに実力で全ての罠と切り札を潰され、単純な戦闘能力でも叶わず逃げているが、もう追いつかれそうになっている。
セスタは目の前の現実が受け入れられず、ただ叫ぶ。
「ふざけるな! こんなことあっていいはずないだろ! 僕様ちゃんは選ばれた『マスター』の1人なんだぞ! こんな所で簡単に死んでいいはずがないんだ! こんなの間違っている!」
「何ごちゃごちゃ言っているんだ!」
「いいから、大人しく捕まれ!」
セスタの無様な叫びを聞いても、ナズナ×2は一切手心を加えない。
距離も縮まり、もうすぐそこまでセスタを捕らえる腕が伸びる――が、
「!?」
セスタ自身、想定していない事態が起きる。
なぜか森の奥から真っ白なミルク色の深い霧が溢れ出てきたのだ。
セスタはほぼ本能的にその霧に身を投げ出すように飛び込むのだった。