軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35話 ナズナvsセスタ1

「な、ナズナ様! どうしてこちらに!」

「…………」

『奈落』最下層メンバーの中で、ライトを除き最強の『SUR 真祖ヴァンパイア 騎士(ナイト) ナズナ レベル9999』が、アイスヒートの声に反応せず、怒りを湛えた瞳でセスタを睨みつける。

アイスヒートは、『マスター』又はそれに近い者であるセスタに気付いた時点で、ライト達に『念話』で報告済みだ。

なので追加の戦力が送られてくる可能性は当然考えていたが……。

ユメの護衛を務めるナズナが来るとは想像していなかったのだ。

彼女の予想ではアオユキ、メイ、スズ辺りが予備選力として投入されると読んでいた。

なのでナズナの登場に驚いたのもあるが……。

普段の彼女ではなく、初めて見るナズナの怒りの表情に、アイスヒートは再度声をかけられず息を呑む。

セスタとの戦闘以上に、空気が張り詰めていた。

ナズナはアイスヒートをそのまま無視して、セスタへと問いかける。

「……オマエだな、子供達に爆発する魔術道具を飲ませたのは」

「えぇぇ? 急になにそれ。どういうこと僕様ちゃん、分かんない。いきなり現れて、意味不明な因縁つけるとか、マジイミフなんですけどぉ」

ナズナの指摘通り、彼が人種王国首都の孤児達に爆発するマジックアイテムを飲ませた張本人だ。

しかしセスタはナズナの鋭い視線を浴びても、一切動揺を見せず、すっとぼけて見せた。

エリーは忙しく、まだ孤児達の記憶を確認していないので現時点でセスタが犯人である証拠は一切ないが、彼の態度にナズナは確信した。

「やっぱりオマエが、犯人なんだな」

「だから、違うって言っているだろ。僕様ちゃんのお話を聞いていましたかぁ? 証拠も無いのに決めつけるのは良くないと思うんですけど」

「あたいの勘だ。それにオマエのむかつく態度で確信したぞ」

ナズナは片手に握っていた大剣プロメテウスをしまい直すと、拳を固め直す。

彼女は本当に珍しく、心底怒り、セスタを睨みつける。

「何も知らない子供を武器に変えてヘラヘラ笑っているんじゃねぇ、クソ野郎! ぶった切るより先にまずぶん殴ってやらないとあたいの気がすまねぇ!」

「ぶん殴るねぇ……やってみろよクソガキ! ダストプレス!」

セスタも、本当に口先三寸で突然現れたアイスヒートが『様』付けする如何にも高レベルなナズナを誤魔化せるとは考えていなかった。

なので軽薄に笑いつつ、内心で戦術を組み上げていた。

初手、アイスヒートに使った風属性の攻撃魔術『ダストプレス』を放つ。

一度では終わらない、2度、3度、4度―― 恩恵(ギフト) 『爆弾魔』によって、爆発属性を付与した『ダストプレス』を叩き込む。

さらに起きる爆風に逆らわず、ナズナ、アイスヒートから距離を取った。

(いくら僕様ちゃんが強くても、如何にも高レベルな赤青メイドとチビガキの2人を相手にするのは面倒だしね。っていうか、『ナズナ』って名前と低身長に、あの胸、デカイ剣って……)

セスタはナズナという名前と自身より巨大な大剣――という特徴に記憶をくすぐられる。

爆風に逆らわず、距離を稼ぎながら次の攻撃準備をしつつ、一部思考を割き、思い出そうとしたが、

「なっ!?」

ナズナは 恩恵(ギフト) 『爆弾魔』によって、爆発属性を付与した『ダストプレス』を一切気にせず、セスタに向かって真っ直ぐ突っ込む。

これはさすがに予想外だったセスタは、驚きの声を上げてしまう。

一部思考を割き考え込む余裕もなくなり、慌てて次の手を切る!

「ガードもせずただ突っ込んでくるとか!? 馬鹿じゃないか! 風神乱舞!」

単純に真っ直ぐ突っ込んでくるナズナを罵倒し、 戦略級(ストラテジー・クラス) 攻撃魔術『風神乱舞』を放つ。

極大の風属性攻撃魔術で相手を切り刻むのだが、当然、 恩恵(ギフト) 『爆弾魔』によって、爆発属性も付与されている。

内部に取り込まれたら切断、巻き上げ、爆発の三重苦によって敵は為す術もなく死亡か、最悪でも足を止めることが出来るだろう。

……ただの敵だったらの話だが。

「邪魔!」

ナズナは不機嫌な子供のような声を上げて、 戦略級(ストラテジー・クラス) 攻撃魔術『風神乱舞』に対して、正面から突撃。

右拳をブン回し、攻撃魔術そのものを吹き飛ばす。

これには流石のセスタも予想外過ぎて、思わず抗議の声を上げてしまう。

「ふ、ふざけるな! 戦略級(ストラテジー・クラス) 攻撃魔術を拳で打ち消すとか! 出鱈目にも程があるだろう!」

「知るか、クソ野郎。ぶっとべ!」

「いぎィッ!」

ナズナは心底不機嫌そうに、間合いを詰めてセスタをぶん殴る!

セスタはギリギリで腕を交差してガードするが、ナズナの単純な暴力に耐えきれず腕は折れ曲がり、一部千切れかけた。

威力も殺しきれず、体が蹴られたボールのように吹き飛び、ファイト達が隠れていた森の木々をへし折り奥へと転がる。

「ぐがぁッ! ゲホ! ごほ! マジ、ゲホ、ふざけるなよ! 有り得なさすぎるだろが!」

近接戦闘専門職ほど防御能力は高くないが、後衛の魔術師よりは低くない。

高レベルというのもあり、殴られた勢いで木々を数百本折ろうがそれ自体はたいしたダメージにはならないが……。

問題はナズナに殴られた腕だ。

なんのスキルも使っていない、ただぶん殴られただけで、ガードした腕が折れ、左腕など骨が露出し、肉が裂け、今にも体から千切れそうなほどである。

まだ無事な右手で無理矢理左腕を掴み、止血している。

痛覚も高レベルになる際に得たスキルのお陰で耐えられた。もしなければ発狂するレベルの苦しみを味わっていただろう。

「な、ナズナ様……」

折角の活躍の機会を奪われてしまったアイスヒートだったが、普段絶対に見せないナズナの激怒姿に『アイスヒートの見せ場を取らないでください』と意見すら出来ず、敵でもないのに彼女は怯えて声を震わせてしまう。

そんなナズナはというと、セスタを殴り飛ばしてもまだ怒りが収まらず、吹き飛んだ彼の後を淡々とした態度で追う。

「まだ元気そうだな。情報を引き出すためご主人様には生かして連れてくるように言われているが、これならもう少しぶん殴っても問題ないな」

「クソ! クソ! クソが! 調子に乗っているんじゃねぇよクソチビが! 僕様ちゃんだってやられているばかりじゃねぇんだよ!」

ナズナの挑発的台詞に、殴られた痛み、屈辱、傷つけられたプライドにセスタが激昂する。

彼は殴られた衝撃で口内を切り、血を流しながらも叫ぶ。

「僕様ちゃんがただ殴られて森に吹き飛んだと思っているのか! 低脳がよぉッ! いざという時の備えとしてこの辺り一帯、僕様ちゃんの 恩恵(ギフト) で殺しの間、予め爆殺の間になっているんだよ!」

セスタは 恩恵(ギフト) 『爆弾魔』の力で、森の一部を爆弾化していた。当然込められている爆発力は街中に散らばらせた爆弾の威力を圧倒的に凌駕する。

例え高レベルの者でさえ、爆発の中心に居ればただではすまない。良くて瀕死、悪ければ即死すらありえるほどの力が込められていた。

セスタはいざという時、誘き寄せて起爆、敵を吹き飛ばすつもりだったのだ。

「クソガキ! 僕様ちゃんの 恩恵(ギフト) でくたばれやぁぁぁぁ――」

「ふんす!」

セスタが起爆、爆発させようとするより先にナズナは、片足を浮かせて全力で地面を踏み抜く!

ただの踏み抜きにもかかわらず、直下地震にあったが如く森の地面が揺れ、ひび割れ、木々を吹き飛ばしクレーターを作り出す。

セスタが起爆するより先に、森そのものをナズナが踏み抜き、砕き、散らしたのだ。

お陰で爆発はしなかった上に、余波で叫ぶ途中のセスタが再度吹き飛び地面を転がる。

アイスヒートも踏み抜きの余波をガードしつつ、慌てて距離を取った。

「…………う、嘘だろ……僕様ちゃんの準備した爆殺トラップを、こんな力技で破るとか……」

木々にぶつかり、草を潰し、捲れた地面を頭から浴びたセスタは全身をドロドロに汚していた。

いつもなら怒りで悪態をつくほどの汚れだが、それ以上に目の前で起きた現実の絶望感に襲われ、青ざめてしまう。

セスタの爆殺トラップを力業で切り抜けたナズナに、彼は今までに見せたことがない恐怖の視線を向けてしまうのだった。