作品タイトル不明
34話 アイスヒートの輝き
「アイスヒートの忠誠を示すため、貴様には手柄になってもらおう」
アイスヒートが両手に嵌めた手甲をぶつけて打ち鳴らしながら、関所鉄門に着地する。
右側髪が赤、左側が青のツインテールという奇抜な配色にもかかわらず、美しい顔立ちに、メイド服姿で、身長が高く、均整の取れた美女の登場。
さらに投擲した関所鉄門を吹き飛ばすため投擲されたマジックアイテムが氷漬けにされ無効化されたことに、人種王国第一王子を救出に来たファイト達は驚きで愕然としてしまう。
驚き過ぎて足が止まってしまった兵士達を代表して、ファイトが声をあげる。
「き、貴様! 魔女の手先か!」
さすがにメイド服に袖を通している人種王国兵士はいない。
またファイトは人種王国に在席しているメイドの顔を全員知っている訳ではないが、これほど奇抜な髪色で、美しい顔立ちの美女なのだ一目見れば絶対に忘れない。
何より投擲したマジックアイテムを関所鉄門に衝突、爆発する前に凍り付かせた実力から『巨塔の魔女』の部下と考えるのが自然だろう。
ファイトがすぐさま指示を飛ばす。
「相手は一瞬で投擲したマジックアイテムを凍り付かせることが出来るほど実力がある魔術師だ! しかし魔術師は近接戦闘に弱い! 弓持ち、撃って魔術を使わせる隙を与えるな! 他は抜剣! 間合いを詰め反撃の隙を与えず斬り殺すのだ!」
ある意味、指揮官としては妥当な判断だった。
対魔術師戦の王道である。
しかし、相手は『UR 炎熱氷結のグラップラー アイスヒート レベル7777』だ。
彼女は目の前を飛び回るコバエを追い払うように左手を動かす。
「アイスヒートの邪魔をするな」
『!?』
左手を軽く振るうだけで、ファイト達、約100人が一瞬で氷漬けになる。
右手のイフリートで焼き払わなかったのは、一応、ファイト達から情報収集をするためなるべく生かして捕らえるように指示を受けているからだ。
今回、アイスヒートに与えられている指示は、『人種王国第一王子クローを奪われないよう守ること』である。
人種王国王城内部、護衛メイド達を守るために『レベル5000 雷鳴の統括者 ウルシュ』が、地下王族秘密通路の監視に『UR 近接戦闘魔術ゴーレム ダークナイト レベル5000』が配置された。
そして、アイスヒートは、念のためクローとそれを奪いに来る者達へ対処する役目で『隔離塔』に配置されたのである。
先程まで『隔離塔』の内部でクローの近くに居た、関所鉄門近くの森で妙な気配に気付き念のため確認に訪れた。
遠目でファイト達が集まっているのを確認し――こちらはどうでもいい。所詮、ミミズが森に何匹潜んでいたといてもたいした問題ではない。
問題は――ファイト達から隠れることだけを優先し、気を抜いて気配を消し切れていなかった竜人国側『マスター』のセスタだ。
アイスヒートは既に念話でライト達に状況を通達。
また下手に騒がれたりしても嫌なため兵士達を氷漬けにして一時無力化し、セスタの足止めに姿を現したのだ。
なのでずっとアイスヒートの意識はファイト達ではなく、セスタに向けられ続けていた。
彼女がやや張り切り過ぎているのも、事前にライトから『「ますたー」、それに近い者が姿を現す可能性がるため、対抗できる存在として高レベルの者を配置する』と言われて、アイスヒート、ウルシュ、ダークナイトが選抜されたからだ。
あくまで可能性であって、本当に『ますたー』やそれに近い者がこの場所に姿を現す確率は低いとアイスヒートは考えていたのだが……。
まさか自分でも自覚できるほど運が無いアイスヒートの下に明らかに高レベルの『ますたー』やそれに近い者が姿を現すとは想像しておらず、『彼を捕らえれば、ご主人様へ忠誠心を示すことが出来る』と彼女は非常にテンションを上げてしまっているのだ。
アイスヒートは凍り付かせたファイト達を乗り越え、セスタが身を潜めている木に視線を向けつつ、声を掛ける。
「今更、息を潜めても無駄だ。既に貴様の位置は捉えている。大人しく姿を現し、降伏して拘束を受け入れるなら痛い目に遭わずに済むぞ」
(……チッ! はったりじゃなく僕様ちゃんの位置を完全に把握されているな)
セスタは内心、面倒そうに舌打ちしながら、自身の失敗に気付く。
ファイト達から姿を見せない程度でしか気配を消すことを考えていなかった彼自身のミスだ。
アイスヒートの指摘通り、今更気配を消そうとしても位置を特定されている以上、無駄な行為でしかない。
セスタは内心で悪態を吐きつつ、気持ちを切り替え身を潜めていた木の影から怯えた様子で姿を現す。
見た目だけなら美少女のように顔立ちが整っているセスタは、庇護欲を刺激するような表情を作りつつ、媚びた上目遣いでアイスヒートに声をかける。
「か、隠れていてごめんなさい、お姉さん。で、でも兵隊さん達が一杯いて、怖くて、つい隠れていただけなんです! 僕は、」
「――左手に宿れ、コキュートス!」
「!?」
ファイト達に先程放ったような手抜きの冷気攻撃ではない。
完全な殺意に満ちた氷結攻撃に、セスタは弱々しい少年演技を止めて、高速でその場から移動。
セスタがいた周辺の木々が一瞬で凍り付き、粉々になって砕け散る。
「演技が臭すぎる。出来れば情報を引き出すために捕縛するよう命じられているのに、媚びた表情が気持ち悪すぎて殺したくなるから止めなさい」
「僕様ちゃんの美貌が気持ち悪いとか、美的感覚イカレてるんじゃない? 折角適当に誤魔化して見逃してやるつもりだったのにさ……。もういいや、死ねよ――ダストプレス」
「!?」
セスタが風属性の攻撃魔術『ダストプレス』を放つ。
『ダストプレス』は、圧縮した風の塊を敵単体へと当てて吹き飛ばす攻撃魔術だ。
吹き飛ばすと言っても、無防備な状態でヒットすれば骨の数本程度楽に折ることが出来るほどの威力を秘めているが、相手はアイスヒートだ。
彼女のような高レベルにとって『ダストプレス』など何のダメージも与えられないそよ風のような攻撃である。
もちろんセスタ自身、その事は理解していた。
だから、『ダストプレス』に自身の 恩恵(ギフト) 『爆弾魔』によって、爆発属性を付与。
結果、高レベルにも通用する『見えない爆弾』を作り出す。
「隙だらけだよ!」
セスタが満面の笑みを浮かべるのと同時に『見えない爆弾』が爆発し、地面を抉り爆炎と衝撃が奔る。
並のレベルの者なら、装備どころか、肉片一つ残さない高威力の爆発だった――が、
「右手に宿れイフリート! 左手に宿れ、コキュートス! 重なり混ざり爆炎を奏でろ!」
「!?」
爆煙を切り裂き、響く声。
セスタは背筋に寒気を覚えて、慌ててその場から退避する。
同時に彼が立っていた場所にセスタの攻撃同等以上の爆発が起き、『隔離塔』に繋がる関所街道を大きく抉り取る。
煙が晴れると、セスタの攻撃にダメージを受けるどころか、汚れ一つついていないアイスヒートが挑発するように声を出す。
「まさか今の攻撃を回避するとは。逃げるのは得意らしいな。やれやれ、貴様を捕らえるのは骨が折れそうだ」
「……炎熱と冷気をぶつけ合って爆発を起こす、か。高レベルなだけじゃなく炎熱と冷気どちらもにも熟達しているとか。こっちこそ相手をするのが面倒な相手なんだけど」
アイスヒートに言葉を返しながらもセスタは冷静に彼女の能力を分析する。
セスタは 恩恵(ギフト) 『爆弾魔』によって生命、無機物にかかわらず爆弾化させることが出来る。
アイスヒートは炎熱と冷気をわざとぶつけることで爆発を起こした。セスタの爆発とは似て非なるモノである。
セスタはもちろん、正面から戦ってアイスヒートに敗北するつもりは微塵もない。
しかしレベルは自分と同等か、若干自身の方が上だとなんとなく理解できるが、彼女の炎熱、冷気特化で能力の応用幅の高さに面倒さを覚えてしまう。
一方でアイスヒートはというと……。
(『白の騎士団』を相手にして以来、一番輝いている! ご主人様のお役に今、ものすごく立っている!)
本来、敵が来て、さらに強敵で気を抜けば自分の命を奪うかもしれない相手と戦っているのだ。
恐怖を感じてもおかしくない状況なのだが……。
アイスヒートはむしろ喜びを感じていた。
エルフ女王国最強の『白の騎士団』との戦い以後、ドワーフ王国と獣人連合国、魔人国側『マスター』の1人であるミキを捕らえる作戦でもアイスヒートには出番が無かった。
彼女はその事を気にして、親友であるメラに愚痴り、開運アイテムを蒐集する新しい趣味まで見つけ出す始末だった。
にもかかわらず、今回は彼女担当の場所に高レベルの『マスター』かもしくはそれに近い者――セスタが姿を現したのだ。
『ようやくアイスヒートにも活躍の場が来た! 運が巡ってきたのね!』と内心で狂喜乱舞し、テンションが上がって、やる気に満ちているのも仕方ないだろう。
――しかし、彼女の輝きはここで中断されてしまう。
アイスヒート、セスタの間に宙から落ちる隕石のような勢いで落下し、着地する人物が居た。
「「!?」」
意識外の突然の闖入者に2人とも驚き、身を固くする。
闖入者は勢いよく地面に降り立つと、心底不機嫌そうな表情で大剣を片手にセスタへと向き直った。
予想外の人物登場にアイスヒートが驚きの声をあげる。
「な、ナズナ様! どうしてこちらに!」
「…………」
『SUR 真祖ヴァンパイア 騎士(ナイト) ナズナ レベル9999』が、アイスヒートの声に反応せず、怒りをたたえた瞳でセスタを睨みつけるのだった。