作品タイトル不明
33話 クロー救出作戦、実行
「……時間だ」
人種王国第一王子クロー派閥の子爵嫡男ファイトが厳かに告げる。
ファイトは振り返ると、自領から連れてきた兵士達へと向き直った。
彼らは武装し、その表情は皆、使命感に燃えていた。
その中で一番、使命感に燃えているのはファイト自身である。
彼は最初、低い声で語り出す。
「我々は今、人種王国第一王子クロー様が囚われている隔離塔の近くに集まっている」
ファイトの言葉通り、高貴な身分の犯罪者を捕らえておくための監獄――通称『隔離塔』の近くにある森に彼らは身を潜めていた。
ファイトはだんだんと自分の言葉に興奮して、声の熱量を上げていく。
「なぜ次期国王陛下であらせられるクロー王子殿下が隔離塔に幽閉されているのか? 『巨塔の魔女』が自身の野心を世界に知らしめるため、リリス様を唆し、長幼の序を無視して、人種王国女王へと押し上げ、自分が裏から操らんとしているためだ! 結果、リリス様は愚かにも魔女に踊らされて、実兄であるクロー王子殿下を隔離塔に幽閉なされた! 今まで王家の禄を食んできた我々が成すべき事はなんだ!」
身長が2mあり、現在は甲冑を身に纏っているファイトが剣を抜き、『隔離塔』へと尖端を向ける。
「本来、冠を頂くはずのクロー王子殿下をお救いし、人種王国を正しき道に戻すことではないのか!」
ファイトの熱に兵士達も取り憑かれて、一層瞳を燃やし出す。
唯一、集団から距離を取り、熱に踊らされることもなく、滑稽な喜劇を観劇するようにニヤニヤと楽しげに笑みを浮かべている者がいた。
竜人国側『マスター』の1人であるセスタだ。
彼は人種王国首都での孤児爆弾化を終えた後、クロー奪還作戦側に付いてきた。
ファイト達はセスタに気付いていない。
彼は黙って彼らの側にいるのだ。
ではなぜ首都に引き続き滞在せず、こちら側に来たのか?
(いやー、やっぱりこっちに来てよかったな。地下道なんて埃っぽいのは嫌だっていうのもあったけど、こっちに参加して確実にクローを救出した方が、絶対に『巨塔の魔女』への嫌がらせになるしね)
セスタの目的はクローの救出でも、ファイト達に協力する訳でもない。
あくまで『巨塔の魔女』にちょっかいを出すのが目的である。
人種首都混乱に注力するより、ファイト達に協力して確実にクローを救出。リリスとは敵対する臨時国家を樹立した方が『巨塔の魔女』が嫌がるだろうと考えたからだ。
ファイト達に気付かせずにその側に居るのは、彼らの手でクローを助け出した方が後に引けなくなるだろうからなのと、『同行したい』と申し出てもゴドーならともかく明らかにセスタを見下しているファイトが了承するとは思えなかったからだ。
無事にクローを助け出して臨時国家を作った際、『巨塔の魔女』がどのような表情を作るのか想像するだけでセスタは心底愉快そうに笑みを作る。
……とはいえ、その笑みはあまり長続きしなかった。
(というか、こいついつまで無駄な演説を続けるんだ? さっさと助けに行けよ)
ファイトは兵士達を鼓舞するため過剰に演説を続けていた。
セスタは気付かれないように隠れて様子を窺っているため、『早く行け』と声を出す訳にもいかない。
(アホってどうして無駄に長く話をしたがるのかな……)
セスタは身を隠しながら、溜息を漏らす。
しばらくして、ようやくファイトが号令を下す流れになる。
「現在、首都は我々の策により、混乱に陥っている。故に『隔離塔』が助けを求めたとしても増援が到着する心配はない! その間に疾風のごとくクロー王子殿下をお救いするのだ! 今こそ我々の武を以て王家に忠誠を示す時!」
ファイトが改めて身を潜めている森から、『隔離塔』へと剣先を向け号令をかける。
「王家に忠誠を誓う勇者達よ! クロー王子の元へ!」
彼の掛け声で子爵兵士達が森を抜けるため、駆け出す。
その後に指揮官であるファイトが続く。
ようやく動き出した兵士達の後ろから、気配を消しながらセスタも続いた。
兵士達は森を抜けると、整列し、盾を構えて早足で前進を開始する。
いくら『隔離塔』近くの森とはいえ、すぐ側という訳にはいかない。
『隔離塔』へ向かうためにはまず街道から関所を通る必要がある。まずこの関所を攻略し、道を進むとクローが幽閉されている『隔離塔』が姿を現すのだ。
関所は『隔離塔』へ向かう不審者を排除するのが目的で建設されている。石材を積み上げ、鉄扉に武装した兵士達がいる。ここを抜けるだけでも、かなりの被害が出るのが想像に難くない。
ファイト達は関所から降り注ぐ矢を警戒し、盾を掲げて接近していく。
後方にいるファイトが兵士達を鼓舞するように声を張り上げる。
「関所に近付き、マジックアイテムを投擲できる距離まで近付けば我々の勝ちだ! 例え雨霰と矢を降り注がれても決して臆するな!」
セスタが人種王国首都にばらまくマジックアイテムを用意した際、関所の扉を破壊するためのモノも用意した。
セスタが自身のギフトで作り出したマジックアイテムで、野球ボールサイズの球だ。
投擲し、何かにぶつかると爆発を起こす。
関所の扉を破壊するには十分な威力を込めていた。
後は混乱している最中に関所を半数で制圧、または押し止める。
残り半数で『隔離塔』へと雪崩れ込み、クローを助け出す――という作戦だ。
夜間に極秘に潜入し、クローを救出する案もなくはなかったが……。
ファイトや領の兵士達に、そんな高度な要人奪還作戦など出来るはずもなく、すぐに却下された。
結果、今回のようなごり押し作戦が採用されたのである。
とはいえ、『巨塔の魔女』に対する嫌がらせのため、セスタが影ながらクロー救出を援助するため、万が一にも作戦失敗はありえない。
――が、その『万が一』が既に関所で起きていた。
最初に気付いたのはこの中で最もレベルが高いセスタだ。
(? 関所の兵士達が攻撃を未だにしかけてこない? いや、気配が殆ど無いっぽい?)
武装したファイト達が接近することで、牽制のためにも矢の一本でも放ってくると考えていたが……。
未だに矢どころか、敵兵士達のざわめき一つ聞こえてこない。
ファイト達は興奮から関所の異変にまだ気付かず、盾を掲げ身を守りながらマジックアイテム投擲距離までとにかく近付こうとする。
セスタが不審感を抱いていると……彼はようやく、一つの気配が動くことに気付く。
「アイテム投擲距離、到達しました!」
ファイト達は真剣な表情で作戦通りに動く。
第三者からするとまるでごっこ遊びのようだが、本人達は至って真剣なのがまた逆に滑稽だった。
ファイトの掛け声に合わせて、投擲に自信のある兵士がマジックアイテムを取り出し、ファイトの合図を待つ。
「投擲、よーい! ――放て!」
ファイトの掛け声と同時に、兵士がマジックアイテムを関所鉄門に投擲!
投擲に自信がある兵士だけあり、マジックアイテムは理想的な弧を描き、関所鉄門へと衝突――。
だが、その寸前にマジックアイテムが凍り付き、鉄門にぶつかる寸前でその動きを止めてしまう。
マジックアイテムを鉄門と一緒に氷漬けにしたため、まるで前衛芸術のような光景が出来上がる。
「……まさかアイスヒートの忠誠を示す機会が巡ってくるとは。ようやく運が回ってきたようね」
気付けば凍り付いた関所鉄門前に、1人のメイドが降り立つ。
彼女は長い髪をツインテールに結んでいる。
頭部を中心に右半分が炎のような真っ赤な色、左半分が氷のように冷たい真っ青な色をしているのだ。
奇抜な髪色のメイド――アイスヒートがファイト達など眼中に無く、心底嬉しそうに気配を消すセスタへと視線を向け、両手に纏う手っ甲をガンガンとぶつけ合う。
「アイスヒートの忠誠を示すため、貴様には手柄になってもらおう」
念のため『隔離塔』の護衛についていた『UR 炎熱氷結のグラップラー アイスヒート レベル7777』が、嬉しそうに獰猛な笑みを浮かべてセスタへと視線を固定していたのだった。