作品タイトル不明
コミックス2巻発売記念短編 モヒカン達、最大のピンチ2
『ようやく封印が解け、地上に戻ることが出来た上、さらに生け贄の獲物まで居るとは――。本音を言えば子供か、女の柔らかな肉が良かったのだがな。まぁいい。この際、贅沢は言っておられぬか』
『レベル1500 外れ冥府の魔術剣士』が、距離を取り木の陰に隠れているモヒカン達に視線を向ける。
冥府の魔術剣士は、ゾンビ、ゴースト系モンスター達のように生きている人間から漏れ出る生命を感じ取ることが出来た。
故に木の陰に物理的に隠れていても、モヒカン達の存在にすぐ気付くことが出来たのである。
「フラッシュ、 解放(リリース) !」
『ぬぅ!?』
モヒカンリーダーが咄嗟に、『R フラッシュ』カードを使用する。
『R フラッシュ』、一瞬だけ強い光が出る。
目眩ましに使えるカードだ。
応用として夜間、暗い場所を一時的に照らし出すことも出来る。
冥府の魔術剣士は、突然の強い光に警戒心を抱く。
アンデッド化しているため、聖属性が弱点となっている。
強い光に目が眩んだのではなく、『聖属性の可能性』を警戒したのだ。しかし、その僅かな警戒がモヒカン達の命を救う。
『――ッ!? 馬鹿な! 我の前から一瞬で姿を消した!』
一瞬の光から、改めて木の陰に隠れていたモヒカン達に意識を向けると、彼ら×5人の姿は消えていたのだ。
レベル1500の自分、冥府の魔術剣士が認識できない速度でだ。
『隠れていた人種は明らかに我より弱いエサでしかなかった。にもかかわらず、いったいどうやって……』
久しぶりに地上に出た冥府の魔術剣士は、意味不明な状況に思わず考え込んでしまう。
――では、モヒカン達はいったいどうやって、レベル1500のモンスターから逃げ切ったのか?
「さすがリーダー、『R フラッシュ』からの、即『SSR 転移』とか!」
「マジその判断力、決断力、尊敬できますわ!」
「だなぁ。もしあの場面でまごついていたら、レベル差を考えて俺達、即死だっただろうな……」
「リーダー、マジ、グッジョブ!」
モヒカン達はリーダーが『R フラッシュ』を使用後、すぐさま『SSR 転移』で『奈落』最下層、訓練場へと転移した。
この即座の決断がなければ、彼らの言葉通り、レベル差から一瞬で死亡も有り得ただろう。
リーダーは九死に一生を得ながらも、安堵せず動く。
「オマエら、まだ終わりじゃないぞ。あのモンスターの対処をしなきゃ不味いだろう。近くには町があるんだから。あんなあからさまに敵意を持った高レベルのモンスターを放置したら、下手をすればその日のうちに町が滅ぶぞ!」
リーダーは肩に乗せている小鳥に向かって連絡を開始。
緊急事態でも、いちいち直接ライトに報告など出来ない。
故に小鳥経由でアオユキに緊急で連絡を取っているのだ。
小鳥経由で緊急事態を報告後、数分で直接、モヒカンリーダーにライトから念話が届く。
『もしもし、アオユキ経由で報告は聞いたよ』
「ら、ライト様!? お疲れ様です!」
『お疲れ様です!』
念話はモヒカンリーダーにしか聞こえないが、念話でライトと繋がっていることを知ると他モヒカン達も挨拶せずにはいられなかった。
ライトが挨拶の返事をせず、すぐさま本題へと切り込む。
『昨日、地震があって、その影響で未発見のダンジョンらしきモノを発見して、高レベルモンスターが姿を現したらしいね。近くに町もあるから、被害が出る前に始末しよう。そのために対処できる人材を、現場に送って欲しいんだ。危険度は高いけど、お願いできないかな?』
「もちろんです! 問題ありません!」
ライトが心配する声に、モヒカンリーダーは元気に答える。
『SSR 転移』は、使用する本人が一度行った場所でなければ転移できない。転移場所をイメージする必要があるからだ。
つまり、現場にいたモヒカン達しか、『SSR 転移』で即座に高レベルモンスターを倒せる人材を送れないのだ。
他の方法として空を飛べる者に、急ぎ送ってもらう方法はあるが……。
『SSR 転移』に比べるとどうしても遅くなってしまう。
遅くなった分、被害が――それこそ近郊にある町が滅びましたでは目も当てられない。
それを理解しているのと、ライトの申し訳ない気持ちを払拭するためモヒカンリーダーは『大丈夫』と、言外に込めて元気に返事をしたのだ。
ライト自身、彼の気遣いに気付き声を柔らかくしながら、話を続ける。
『ありがとう。既に討伐に送る人材には指示を出しているから、合流後、すぐに向かって』
「畏まりました! お任せください」
念話が切れる。
同時に、モヒカン達が居る訓練場に『レベル1500 外れ冥府の魔術剣士』を討伐する人材が姿を現した。
その人材とは――。
☆ ☆ ☆
『まさかあれほど弱き者が一瞬で我の前から消えるとは……。転移のマジックアイテムを使ったのか? まさか我が地中深く封印されている間に、地上のマジックアイテムは転移を使用できるほど進んでいたとは……』
過去、強すぎて大勢の者達の協力で地下深くに封印された『レベル1500 外れ冥府の魔術剣士』が戸惑いの声をあげる。
彼にとって 人種(ヒューマン) 、獣人種、 竜人(ドラゴニュート) 種、エルフ種、ドワーフ種、魔人種などエサでしかない。
にもかかわらず、その中でもっとも弱い人種を取り逃がしてしまったのだ。
明らかに相手は自分より低レベルだった。
なのに逃した。
レベルではなく、何かしらの力、マジックアイテムなどの力だろう。
長い時間、封印されている間にマジックアイテム技術が『転移』を気軽に使えるまでになったと判断するのは自然な流れだ。
『……長い封印で飢えておるが、近くにある町を襲うのは少々早計か』
冥府の魔術剣士は、近くに町があることに当然気付いている。
その方角に視線を向けながら漏らす。
種から溢れ出る生命の多さから、推測しているのだ。
レベル1500の彼なら、向かおうと思えば、すぐに辿り着く。
さらに、この森に若い生命を溢れさせる者達――若い冒険者が複数居ることも把握していたが、先程の奇妙な髪型をした者達、モヒカン達を逃がしたことで慎重に行動する思考が生まれ出たのだ。
『もう一度、罠にかけられ、長き間封印を受けたくはないな。ここはまず最も近くにいる者を捕らえて情報を聞き出すのが先決か』
外れ冥府の魔術剣士は熟考の末、そう呟く。
だが、その判断は間違っていた。
彼が今すぐすべき事は、その場から全力で逃走することだ。
『?』
冥府の魔術剣士が、振り返る。
一瞬で近くに複数の生命が姿を現したからだ。
「…………」
振り返った先に、モヒカン達と、1人の少女が立っていた。
現れた男達は、変な髪型から最初に取り逃がした人種に間違いない、と冥府の魔術剣士は考える。
次に興味を引いたのは、新しく追加された少女だ。
背丈はそこそこあり、服の上からでも分かる通り胸も大きい。
金髪を背中まで伸ばし、緩くウェーブがかかっているため、動くとふわふわと天使の羽根のように揺れる。
肌は初雪のように白く、大きな瞳に薔薇色の唇。整った顔立ちと陽にさらされた金髪が風に踊る姿は非常に神々しくあった。
あまりの美しさに、外れ冥府の魔術剣士ですら見とれてしまったほどだ。
彼女の名前は、『レベル3333 育ち過ぎたノーム アリア』。
その神々しくもある美しい表情が歪む。
「――うぇぇえぇぇえぇぇッ!」
「ちょ!? アリア様! しっかりしてください!」
アリアは、『転移』の一瞬で切り替わる風景に耐性が低く、さらについ先程まで自室で酒を飲んでいたせいで、二重に酔って耐えきれず吐いてしまう。
モヒカン達はどう対処していいか分からず、アリアの周囲でおろおろするばかりだ。
アリアもアリアで吐きながらも、片手に握った酒瓶は決して離そうとしない。
そんな混乱するモヒカン達を、冥府の魔術剣士は馬鹿にしたように笑う。
『……くっくっくっ、 転移のマジックアイテムを頻繁に使うことには驚いたが、頭は足りないようだな。まさか獲物が戻ってくるとは。しかも極上のエサを連れて! 望み通り、貴様達のぬくい臓物を生きたまま腹を切り裂き、喰ろうてくれ――』
「うるしゃい!」
アリアの拳が唸る。
冥府の魔術剣士と彼女の間には、相応の距離が開いている。にもかかわらず、彼女が空いている片腕を振るうと、冥府の魔術剣士の胴体に穴が空く。
『?』
冥府の魔術剣士が現状を理解できず、驚きの表情を浮かべる。
アンデッドのため痛覚はないが、自分の胴体になぜか穴が空いている、ダメージを受けている事実が理解できなかったのだ。
アリアは不機嫌そうに口元を拭い、外れ冥府の魔術剣士を睨みつけた。
「折角のお休みで、お酒を楽しく飲んでいたら、ライト様々からご連絡があって、危険な存在の貴方を倒しに行かないといけなくなった。もちろん、ライト様々のご命令だから喜んで倒しに向かうけど、楽しいお酒を飲む時間を邪魔するだけじゃなく、転移したせいで折角、飲んだのを吐いちゃうし。絶対にゆるしゃない!」
普段はゆるゆるの言動をしているが、よほど休日に酒を飲む時間を邪魔されたのが腹に据えかねているのか、アリアは珍しく怒った態度を示す。
そんな彼女に冥府の魔術剣士が冷静なツッコミを入れる。
『我のせいで休日を潰されたのは理解できるが、吐いたのは酔っぱらった状態で慣れない転移を使用した己自身のせいではないか? 自己管理の範囲ではないか』
「うるしゃ~~~い!」
『ぐがぁぁぁっ!?』
アリアは一瞬で間合いを詰めると、酒瓶を握らない空いた片腕を高速連打!
ボクシングでいうジャブのように拳を何度も唸らせる。
『ぎゃぁぁぁぁあァっ!』
距離があるにもかかわらず、呪われた頑丈そうな鎧に風穴があく。
接近し連打によって、冥府の魔術剣士の上半身が物理的に消滅してしまう。
冥府の魔術剣士はレベル1500だが、相手は『レベル3333 育ち過ぎたノーム アリア』だ。
倍以上あるレベル差によって、為す術もなく消滅させられてしまう。
当初こそぐだぐだだったが、結果は被害者が出ず、迅速に勝負を決めることが出来た。
アリアの戦いを見届けたモヒカン達は……。
(酒瓶で殴ったりして倒すんじゃないんだ……)
つい、全員が胸中で考えてしまう。
むしろ、なぜいつまで酒瓶を仕舞わず、片手に握り締めているのか?
モヒカン達でもツッコミは入れづらかった。
とりあえず、リーダーが話を進める。
「お、お疲れ様です、アリア様! とりあえず、残骸は俺達で処理しますので、アリア様はダンジョンのチェックをお願いします」
「んくんくんく! ぷはぁ~! えっ、なんですって~?」
コップを取り出し勝利の美酒を味わうアリアが聞き返す。
モヒカンリーダーは、根気よく相手をした。
「モンスターの死骸の処理はこっちでおこなうので、アリア様はダンジョンのチェックをお願いします。ライト様曰く、基本的に無かったことにするためダンジョンを埋めることになりますが、もし何か貴重なモノがありそうなら外部から発見されないように処置する必要がありますので」
「ああ、もちろん、分かっているよ~。ライト様々のご指示だもの。アリア、がんばっちゃうんだから~」
アリアはお酒を飲んだお陰で機嫌が良くなり、ふらふらとした足取りでダンジョンへと向かう。
アリアが選ばれた理由として、もし第三者に目撃されても人種の姿に見えるのと、敵である『レベル1500 外れ冥府の魔術剣士』よりレベルが高いというのもあるが、彼女はノームだけあり手先が器用で、土属性に精通しており、『奈落』上層部のトラップ関係を担当していた。
なので土木関係は得意分野のため、ダンジョン――今回のは階段の作りから、旧文明遺跡のようなので、第三者の目に触れないよう、他のモンスターが住み着かないように埋め戻す。または貴重なモノがあるなら、確保する必要があった。
その場合でも第三者に見られないように必要がある。
自然な形で斜面を修復するためにも、アリアの力は有効だ。
故に彼女が選ばれたのである。
アリアは上機嫌で酒瓶を握った腕を突き上げた。
「それじゃ早速、ダンジョンチェックに行ってきます~。ライト様々のためにも頑張らないと~」
『…………』
モヒカン達はふらふらとした足取りのアリアに心配そうな視線をつい向けてしまう。
だが腕は確かだ。
ライトの命令に従い、仕損じることはないが……。
とりあえず、モヒカン達は、森に来ている他冒険者、近くの町に被害が出ず『レベル1500 外れ冥府の魔術剣士』を倒し、下手な騒ぎを起こさぬように隠蔽することに成功する。
こうしてモヒカン達が地上で迎えた最大のピンチを無事に乗り越えることが出来たのだった。