作品タイトル不明
コミックス2巻発売記念短編 モヒカン達、最大のピンチ1
「マジ、昨日の夜の地震はやばかったよな」
「おう、マジやばっていうか」
「急にガツンと来たからな」
人種王国領内にある小さな町。
その町の宿屋で、『奈落』最下層出身であるモヒカン達が、食堂で朝食を口にしながら昨晩、揺れた地震について会話を交わす。
深夜――ほぼ明け方近く、ベッドで眠っていると、地震が起きた。
揺れはすぐに収まり、建物が倒れた訳ではない。
しかし、地震など滅多に起きないため、町の住人達も殆どが起きだして、一時騒然となった。
たいした被害もなかったので、騒然となった町人達もすぐに収まった訳だが……。
朝、少々眠い目を擦る皆は、夜に起きた地震について話題を交わし合う。
モヒカン達だけではなく、宿屋の従業員、行商人らしき商人達など、今一番町内で話されている話題といえた。
とはいえ、いつまでも雑談もしていられない。
『奈落』最下層の食事と比べると圧倒的に不味い朝食を胃に入れて、モヒカン達は宿屋を出る。
向かう先は冒険者ギルドだ。
「それじゃ今日もゴブリン狩りでいいな?」
「もちろんです、リーダー」
「俺達の実力じゃ、その辺りが無難だよな」
モヒカン達は冒険者をしながら、その筋でしか入らない情報を入手し、『奈落』最下層へと報告するのが役目だ。
当然、冒険者としてクエストを受注するが、彼らの実力的に強いモンスターを相手にすることは出来ない。
高レベルの者達とは、それこそ『奈落』最下層に行けば出会えるが……。
レベル差がありすぎるので模擬戦をしてもすぐに倒されるだろう。
モヒカン達は自分達の実力を理解しているため、無理をせず、身の丈にあった安全度の高いクエストを受けることを信条にしていた。
もちろん、もう少し強い敵と戦いたいという思いがゼロとはいわないが、これも冒険者でしか得られない情報を得るため、ひいては彼らが敬愛する『ライト』のためである。
故に今日も自分達の身の丈にあった、常駐クエストの『ゴブリン退治』を選択。
受付で許可をもらい、装備を既に調えているモヒカン達は、早速町の近くにある森へと向かう。
――ちなみにゴブリンは繁殖力が高く、放置し過ぎると増えすぎてスタンピードが起きる可能性もある。
それを防ぐため、冒険者ギルドでは、常駐クエストとして『ゴブリン退治』が常に存在していた。
モヒカン達は森に入り、ゴブリンを捜して狩る。
当然、レベルが高いモンスターが居る森奥まで行かない。
浅い部分をうろつくだけだ。
例えレベルが低い人種冒険者でも装備を調え、連携し、経験を積めば安全にゴブリンを狩ることが出来る。
ただし何事にも例外は存在した。
「……なんだこれ? 何かの出入口か?」
モヒカン達が森の浅い部分でゴブリン退治をしていると、一部不自然に土が崩れた場所を発見する。
そこは元々緩やかな斜面で、森の奥へ向かうなら昇る道の一つだが、今回は目的が別で、たまたま通りがかっただけだ。
問題はその斜面の土が崩れて、ぽっかりと穴が空いているのだ。
しかも、穴の先には地下に続く階段らしき物があるのが遠目でも分かった。
モヒカン達が状況を理解すると、若干興奮気味に会話を交わす。
「あれってもしかしてダンジョンか?」
「たぶんな、昨日の地震のせいで土が崩れたんだろうな。しかも、まだ踏み荒らされていないことから俺達が第一発見者ってわけだ」
「つまり、未発見のまだ誰一人、足を踏み入れたことがないダンジョンを発見したってことだよな?」
「ヤバイ、ちょっとテンション上がるわ!」
冒険者にとって未発見のダンジョンは非常に美味しい。
未発見ということはまだ誰にも荒らされておらず、高価なお宝を手に入れることが出来る、一攫千金の可能性が高い場所だ。
子供時代、『冒険者が未発見のダンジョンに挑み、高レベルなモンスターを倒し、罠を潜り抜け、仲間達と助け合い金銀財宝を得る。その金銀財宝で、仲間達は皆、幸せに暮らしましたとさ』と聞かされる定番のお話だ。
そんな幸運を得られる冒険者は極々僅かだが。
また先程の物語にも出てきたように未発見のダンジョンは高レベルのモンスター、極悪な罠などがあることが多く、危険度も非常に高い。
なので冒険者ギルドに報告して、報告金を得る安定志向の冒険者も少なくない。
大抵は物語の冒険者の如く報告せず、最低でも一度は挑む冒険者達だらけだが。
だがモヒカン達は別にお宝などには興味がない。
下手なお宝など足下に及ばない物など、『奈落』最下層に行けばそこら中に溢れているからだ。
例えばナズナが背負っている大剣など、神話に登場してもおかしくない一品である。
とはいえ、モヒカン達も冒険者だ。
『未発見のダンジョン』を前に興奮してしまうのは仕方のないことだろう。
「リーダーどうします? 冒険者ギルドに報告します? その前に、一度もぐります?」
「できれば俺達だけで最初に潜りません?」
「だよな! 浪漫的にも潜ってみたいよな!」
「……オマエら、落ち着け。冒険者ギルドに報告云々の前に、何か聞こえないか?」
「聞こえる?」
モヒカンリーダー以外の4人が、彼の言葉に首を傾げた。
リーダーは耳をダンジョン出入口に向けつつ、彼らに告げる。
「斜面の崩れ具合から、俺達が第一発見者で間違いないだろう。しかも、遠目だが、ダンジョン出入口の階段は埃が積もっている。恐らく旧文明の遺跡が土に埋もれていて、昨晩の地震で露出したんだろう。にもかかわらず、ダンジョンの地下から何か階段を上がる音のようなモノが聞こえてくるんだが……」
『…………』
言われてモヒカン達が黙り込み、リーダー同様耳を澄ませる。
澄ませると――『コツ、コツ、コツ』と確かにゆっくりとだが、誰かが歩く音が聞こえてきた。
歩く音だけではない。
他にも金属が擦れ合う音が反響し、お陰で遠くまで音が聞こえる。
モヒカンの誰かが喉をごくりと鳴らす。
「……全員、静かに距離を取れ、木の陰に隠れろ。場合によっては『戻る』ぞ」
『…………』
全員が黙ってリーダーの指示に従い出入口から距離を取り、固まって木々の影に隠れる。
『戻る』は符丁のようなモノで、自分達が死ぬほど危険な状況になった場合、ライトから託されている『転移』カードで、『奈落』最下層へ撤退することを指している。
(階段の埃の積もり具合から考えて、数日とかのレベルじゃねぇ。下手すれば数百年レベル。そんな長期間閉じこめられていても存在でき、未だに動けるなんて高レベルのモンスターと考えておくのが無難だろうな……)
リーダーが冷静に判断を下す。
一番楽なのは、今すぐカードで『奈落』最下層に転移するか、脇目もふらず逃げればいい。
しかし、地上へ上がってくる存在を確認せず放置した場合、最悪、近くにある町が滅ぶ可能性がある。
そのため階段を上がってくる存在を確認しなければならない。
どの程度の脅威なのか?
もし、地上の冒険者ギルドで倒せる程度なら、任せる。
もし駄目なら、報告して秘密裏に処理する必要があるのだ。
なのでどうしても一度はその存在を確認する必要があった。
『――久方振りの地上か』
怪物が姿を現す。
顔がミイラ化しており、頭髪も斑に抜け落ちしている。
身に付けている鎧や左腕の丸い盾、腰から下げている剣はどれも鈍い黒色で、一目で『呪われている』ことが分かった。
リーダーは思わず舌打ちしそうになる。
(ほぼ最悪のモンスターだな……)
階段を上がる音から、二足歩行なのは理解していた。
ゴーレムや、空っぽな鎧が動く系のモンスターならまだ良かった。
下手に近付かず、距離を取れば、積極的に襲われることが少ないからだ。
冒険者ギルドに報告して対策を練るなりする時間が得られる。
しかし、相手はミイラ化しているにもかかわらず、知性があり、喋って、動いている。
見るから積極的に人を襲い、命を奪うことに強い欲望を持つアンデッド系モンスターだ。
放置すればすぐにでも近くの人種を襲うだろう。
さらに最悪なことに――。
(リーダー、『レベル1500 外れ冥府の魔術剣士』)
モヒカンの1人が役割として『鑑定』カードを使用。
相手のレベルと名称を看破する。
地上に存在してはならないほどの高レベルモンスターだった。
近くにある町がこのモンスター1匹で滅ぼされるレベルだ。
まだ最悪が続く。
『外れ冥府の魔術剣士』が、距離を取り、隠れているモヒカン達へと視線を向け、心底見下した声をあげる。
『ようやく封印が解け、地上に戻ることが出来た上、さらに生け贄の獲物まで居るとは――。本音を言えば子供か、女の柔らかな肉が良かったのだがな。まぁいい。この際、贅沢は言っておられぬか』
『!?』
相手はレベル1500。
距離を取り隠れていたが気付かれてしまったようだ。
しかもその口ぶりから、人種を好んで喰らう極悪モンスターである。
モヒカン達が地上で、最大のピンチを迎えてしまう。