作品タイトル不明
30話 ゴドーの思惑
「チッ……やはり埃臭いな……」
クロー第一王子派閥のゴドー次期子爵嫡男が顔を顰めて、口元を絹のハンカチで押さえた。
彼の配下を含めて約100人が、人種王国王家が郊外へと脱出するために作られ秘匿されていた通路内部にいた。
彼らが通路に踏み入ると、作られてから一度も使用されていないこともあり、埃が溜まっていた。
誰かが一歩足を動かすたび、埃が舞う。
彼らはなぜ、健康に悪そうなこんな場所に足を踏み入れたのか?
時間になったのと、遠くから黒い煙――彼らが手配したマジックアイテムの爆発を確認したため、予定通り作戦『リリス王女暗殺計画』を実行に移したのだ。
ゴドーが口元をハンカチで押さえつつ、配下に指示を飛ばす。
「ここは王家が使用する脱出通路のため罠の類はないだろうが、慎重に向かえ。狙うはクロー殿下を卑劣な罠に陥れたリリスの首だ! 我が子爵家の浮沈はこの作戦の如何にかかるものとしれ! 奮起せよ! リリスの首を落とせば、褒賞は思いのままだぞ!」
彼の掛け声に、子爵家臣団、集められた民兵達の目の色が変わる。
リリスの首を落とせば自分達が、貴族として家を興せるかもしれない。
多額の褒賞金を得て、多数の女を抱くことが出来るかもしれない。
暗い地下にある王家脱出経路で、約100人の男達の目に、欲望の炎が灯ったのをゴドーが改めて確認する。
彼自身、欲望にまみれた笑みを浮かべ、指示を飛ばす。
「では事前に決めていたとおりの隊列で向かう。ここからは時間との勝負だ!」
『了解致しました!』
すぐさま男達が動き出す。
先頭は軽装の子爵家私兵で、一応の罠を警戒して、斥候として進む。
次に軽鎧を身につけた子爵家私兵が続き、ゴドーもその中に混じる。
一番最後に子爵領から連れてきた農村の男手が後へと続く。
ゴドーが居る真ん中が一番の安全地帯で、戦力も高い。
彼らは足早に王家の脱出経路を逆走し始める。
走ると言っても、競歩程度の速度だ。
約100人が固まったまま、全力疾走で移動などできない。
脱出経路の幅も成人男性が2人、横に並んで腕を広げた程度しかなく、罠の警戒もあるのと、全力疾走でリリス暗殺前に体力を失いすぎる訳にもいかないからだ。
少し先を進む斥候の後に続きゴドーが思考を巡らせる。
(人種王国首都は、マジックアイテムの爆発で混乱中。その混乱に乗じて、地上から王城を襲撃するよう、金で汚い仕事も躊躇いなくおこなう下賎な傭兵共に依頼した。今頃、王城内部は混乱しきっているだろうな。リリスが傭兵達に追い立てられ、この通路を使うもよし。そのまま首を切り落とされてもよしだ。結果的にリリスが死ぬなら、我々の勝利だからな)
ゴドーの口元が歪む。
(今回の計画が成功すれば確実に宰相の地位を手に入れることが出来る。さらに今回は敵対してしまったが、『巨塔の魔女』と交渉し、互いに手を結び合えば、より広い範囲の権力を手に入れることが出来る! 『巨塔の魔女』からすれば、裏から操作しやすいリリスを選んだのだろうが、第一王子であるクローだって十分その代わりになり得る。なにより今回の救出劇の恩を着せれば、頭が悪い分むしろリリスより操りやすくなっているだろう。その点を強調すれば十分、交渉の余地はあるはずだ)
ゴドーは『なぜ魔女はリリスに肩入れをするのか』ずっと疑問を抱いていた。
『巨塔の魔女』は今までエルフ女王国、獣人連合国、ドワーフ王国、魔人王国を撃破、または友好国として影響下に置いてきた。
それらと比べれば、人種王国など吹けば飛ぶほどの弱小だ。
武力をもってすれば1日とかからず陥落させることが出来る。
にもかかわらず、わざわざリリスの女王就任を後押し。今回も彼女の女王就任を周知するため、わざわざ足を運んできた。
なぜか『巨塔の魔女』は、リリスに対して過剰なまでに甘いのだ。
ゴドーは出回っている『巨塔の魔女』の情報を集め、一つの推論を出す。
『魔女は人種の地位を上げるため、リリスを裏から操っているのでは?』
『巨塔の魔女』はその姿を現してから一環して、人種の地位向上に動いている。
一番分かり易いのは『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』だ。
人種奴隷を禁止し、違反する者達はたとえ同種が相手でも、問答無用で罰している。
このことから、ゴドーは『巨塔の魔女』の目的が、『人種の地位を上げること』だと結論付けた。
なぜそこまで人種の地位向上に拘っているかは分からない。
ただリリスを押しのけて魔女が人種の女王としてトップに君臨しないのは、政治的問題がつきまとうからだろう。
いくら人種王国が弱小国でも民の愛国心はゼロではない。
元々の王族を押しのけて、魔女がトップに立っても反発心が出るのは必至。
故に『巨塔の魔女』は操りやすいリリスを魔術か何かしらの褒美などで裏から操り、最終的に彼女自身が人種王国トップに立つのが目的だろう――と、ゴドーは結論を出していたのである。
(ファイト次期子爵は『巨塔の魔女』がリリスを担ぎ上げたせいで、クローが幽閉、実妹を暗殺させる決断をさせたことから『巨塔の魔女』を嫌っている。実際に手を結ぼうとした際、説得がやや面倒だが、所詮は筋肉馬鹿だ。どうとでもなるだろう)
駆け足で通路を逆走しながら、ゴドーはほくそ笑む。
(これから上手く立ち回れば、魔女と協力して、より広い範囲に影響力を及ぼし、世界すら支配し得る国家の宰相になれる! 人種王国国王の地位に『興味が無い』と言えば嘘になるが、魔女と敵対してまで望むモノではないからな)
ゴドーは脳内で薔薇色の将来を描く。
まだ城内に到達すらしていないのに、もう確定した未来を手に入れたように喜びを噛みしめていた――が、その足が止まってしまう。
少し先を行く斥候が足を止め、『停止』の合図を出したからだ。
(リリスが家臣達を連れてこちらに来たのか?)
ゴドーは街中で爆発事件、城内に傭兵達が雪崩込み、慌ててリリスが命からがら逃げてきたのかと予想したが、まったくの大ハズレだった。
斥候の合図と共にゆっくりと、彼らと距離を縮める。
お陰でゴドーの目でも確認できた。
「……なんだあれは? 鎧、いや、彫像か」
王家脱出通路のど真ん中に、一体の人影を発見する。
約190cmの黒色の甲冑に赤いマフラー。
武器は無いが両手の指は、暗がりでも分かるほど鋭く尖り、鉄でも楽に切り裂けるような雰囲気を感じ取る。
『…………』
「なっ!? う、動いた!」
黒色の甲冑はゴドー達の存在に気付くと、赤い両目が点灯。
関節の固まりを解すように動き出し、動くたびになぜか関節部分から白い煙を吐き出す。
『UR 近接戦闘魔術ゴーレム ダークナイト レベル5000』
過去、『奈落』ダンジョンを最下層から地上へ向けて逆攻略をしかけた。
その内の一つのパーティメンバーが、ゴールドが盾役、ネムムが索敵&罠看破で、そしてアーミラが魔術担当、『UR 近接戦闘魔術ゴーレム ダークナイト レベル5000』が主力攻撃担当だった。
魔術すら使用することが出来るレベル5000級では最強の攻撃能力を保有する『ダークナイト』が、王城への侵入者排除に動き出す。