軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24話 エリオの初恋

エリオが謎の美少女姉妹に声をかけられ、『疲れたので、ゆっくり休める場所はないか』と尋ねられた。

その姉に一目惚れしてしまったエリオは、浮かれつつ、緊張感に縛られながらも自身が寝泊まりしている宿へと案内した。

「この宿屋は一見すると外観がボロボロですが、中は出来る限り綺麗にしようと頑張っているんで清潔なんです。一階には食堂があり、大通りからも外れているので、騒ぎに疲れて休むにはちょうど良いですよ!」

行商人ヨールムの説明を姉妹に聞かせ、外観が酷い宿屋への説明をしつつ、中へと案内する。

「けけけけ! 確かにおにいちゃんの説明通り、外はボロボロだけど中は想像以上にマシだね」

「(コク)」

エリオが扉を開き、姉妹を中へと案内する。

中は木製の使い込まれたテーブルや椅子が並ぶが、『汚い』印象は無い。しっかりと磨かれ、掃除もきちんとされているため床に食べこぼしが落ちているなんてこともなかった。

美人姉妹、メラ、スズからすれば地上の建物など、『奈落』最下層内部に比べればどれも清潔とはいえないが、この宿の涙ぐましい努力は認めた。

エリオに案内され適当なテーブルに腰をかける。

ロリメラは帽子を被ったままだが、スズは礼儀としてフードを取る。

「……ッ!」

フードを取ると、絹のような黒髪がかすかに揺れ、隠れていた素顔が完全にさらされた。

スズの顔を正面から捉えたエリオはあまりに理想そのままの姿に心臓が止まりかける。

「?」

「けけけけけ!」

スズはエリオの驚き意図が分からず、小首を傾げた。

相手は戦力的には低く、スズ自身の脅威とはいえない。

ただ彼女が敬愛し、仄かな恋心を抱く主、ライトがお世話になった相手だ。

粗相があってはならないと、気を配っているが……。

いまいち相手の反応が意味不明で分からず、若干戸惑いを覚えてしまう。

一方、ロリメラはエリオがスズに一目惚れしていることに気付いているため、二人のすれ違った態度が面白く、愉快そうな笑みをあげる。

とはいえ笑ってばかりもいられない。

彼女達にはまだライトからの指示が残っている。

『彼がどこに寝泊まりしているのか、位置を把握する』というものだ。

さすがに直球で尋ねる訳にもいかず、世間話から距離を縮めようとする。

ロリメラがキョロキョロ周囲を見回す。

「けけけけけけ! 本当にアタシ達以外いなくて静か。おにいちゃん、良い穴場に連れてきてくれてありがとう」

「いや、これぐらいなんてことないよ」

「けけけけけ! なら場所代として何か注文しないといけないけど、何かお勧めはある?」

「行商人の護衛でこの宿に寝泊まりしているけど、期間が短いからそこまで詳しくないんだ。でも基本的なモノは揃っているし、俺が奢るから好きに注文していいよ」

「けけけけけ! ありがとう、おにいちゃん! 太っ腹!」

流れでライトから命じられていた『エリオの宿泊場所』も把握することが出来たが、彼に『奢る』と言われて、スズは戸惑う。

自分達は一方的に相手を知っているが、表面上は互いに初対面だ。

そんな初対面の相手にお金を出させるのは違うと思うが、ロリメラは素直に喜んでしまっているし、まさか布で隠しているロックを取り出しスズの代わりに弁明させる訳にもいかない。

スズ自身が口を開いて奢りを断るのは、恥ずかしいため最初から考慮に入っていなかった。

スズが気後れしてわちゃわちゃしている間に、ロリメラが果実水と簡単なお菓子を注文する。

エリオは好意的な笑顔を浮かべたまま、内心で実妹へと謝罪していた。

(ミヤ、すまん! 仕送りするお金を貯めるつもりだったが、今回ばかりは見逃してくれ。男には張らなければならない見栄があるんだ!)

早い話エリオは一目惚れしたスズの前で格好をつけたかったのだ。

実妹の仕送りのための貯金より、男として一目惚れした相手に見栄を張ることを選ぶ。

注文した商品はそこまでかからずテーブルに並べられる。

ロリメラは果実水を美味そうに飲みつつ、焼き菓子を大き過ぎる口で遠慮無くバリボリ食べ出す。

その様子をスズは申し訳なさそうに縮こまっていた。

エリオは自身の分のお茶を口にしつつ、笑顔でフォローする。

「そこまで気にしないでください。護衛代に色を付けてもらっているので懐は温かいですから。なので、えっと……」

「けけけけけ! そういえば自己紹介がまだだったねおにいちゃん。アタシはメラ、こっちはおねえちゃんのスズっていうんだ。おにいちゃんは?」

「俺はエリオ。メラちゃんとスズ――さんと呼んでもいいかな?」

メラは実妹ミヤより年下のため、『ちゃん』呼びで問題ないが、さすがにスズを呼び捨てにする勇気はないため『さん』を付けた。

スズは『こくり』と黙って頷き了承する。

エリオとしては自分の言葉に頷く姿を見られただけで、天にも昇る気持ちになってしまう。

(スズさん……スズさん……なんて綺麗な名前なんだ。本当に女性の中の女性のような清楚な彼女に似合う名前だな!)

胸中でスズの名前を知ることが出来て、有頂天に乱舞する。

実際は『UR 両性具有(ダブル) ガンナー スズ レベル7777』という名前から分かる通り、『女性の中の女性』という訳ではないが……。

「俺は行商人の護衛で村から街に来たんだけど、二人は地元民ではないよね?」

「けけけけ! アタシ達は公国出身だよ。人種王国首都でお祭りが開かれるって聞いたから、おとうさま達と一緒に来たんだ」

メラの返答は事前にライト達と決めていたカバーストーリーだ。

実際、シックス公国にはライト傘下の商人が店を開いている。

もし公的に問い合わせがあった場合、この商店に務める従業員の娘としてメラとスズは扱われることになっていた。

「公国出身なんだ! 今、妹がシックス公国の魔術学園に通っているんだよ」

「けけけけけ! 公国の魔術学園に通っているなんて凄い!」

「俺はともかく、妹は努力家で――」

共通点を見つけてエリオとメラは楽しげに会話をする。

彼としてはスズと話をしたいが、彼女は妹メラ曰く、『けけけけけ! おねえちゃんは恥ずかしがり屋で、人見知りが激しいから。だから、人混みも苦手で外に出るときはフードを被っていたの』と説明した。

そのせいで彼女に『趣味』や『好きな食べ物』などいくら話題を振っても、碌に返事がもらえなかったが、エリオ的には『そんな所も可憐で可愛いな』と疑問も抱かず納得する。

完全に惚れ込み『あばたもえくぼ』状態に陥っていた。

注文品の果実水を飲み、お菓子もロリメラが一人でぺろりと平らげると、席を立つ。

「けけけけけ! そろそろおねえちゃんの気分も落ち着いたようだし、アタシ達も自分達の宿屋に戻ろうか」

「(こくり)」

ライトからの指示である『エリオの宿泊場所の把握』も済んでいる。

注文品も飲み食いし終えたので、これ以上、この場に居る意味は無い。

「な、なら近くまで送っていくよ。お祭りで警備兵士が多いとはいえ、女の子二人じゃ危ないだろうし」

エリオは親切心からもあるが、もっとスズと一緒に居たいがため、また彼女の宿泊場所を知りため護衛を買って出る。

しかし、スズ本人が首を横に振った。

メラが台詞を付け足す。

「けけけけけ! こう見えてアタシもおねえちゃんも強いから、心配しなくても大丈夫だよ」

「(こくこく!)」

スズは手に持った布のロックをエリオへ見せるように掲げる。

実際、彼女達が本気を出せば、彼女達に勝利できるモノなど僅かしかいない。

しかし見た目は幼い、華奢な少女達のためエリオは彼女達の言葉を退けて護衛しようかとも考えたが、『がっつき過ぎて嫌われてしまうかも』という怯えが出て言い出せなかった。

まごついていると、メラがひらひらと裾を揺らし告げる。

「それじゃごちそうさま、おにいちゃん」

スズがごちそうしてくれたお礼を込めて頭を下げた。

顔を上げるとフードをかぶり直し、メラとともに宿屋を出て行ってしまう。

残されたエリオは暫し呆然とした後――スズと再会するためシックス公国へ向かう計画を独自に立て始めたのだった。

決して報われないエリオの初恋が始まってしまう。