作品タイトル不明
22話 お祭り1日目、的当て2
ユメ達と『人種王国女王就任式典』――お祭りを見て回っている最中、ナイフ投げ屋で遊ぶことになる。
ユメが一本、ナズナが三本的に当てた。
(兄として、主として下手な所は見せられないよね。……とはいえレベル9999になっているから、この程度の距離から的に当てるなんて簡単なんだけどね)
オヤジさんから3本ナイフを受け取り、的へと向き直る。
的までの距離は10数メートル程度。
器用な人なら的の真ん中に当てるぐらい難しくないだろうが、それでは商売が成り立たない。
投げるナイフは絶妙に重心が狂っているため、まともに投げても的へ当てるのすら難しくなっていた。
(とはいえレベル9999もあると、たとえナイフの重心が狂っていても微調整すれば問題ないけど)
だから、ナズナもまるでボールを投げる気軽さで、ナイフをポンポン投げて的へと当てていたのだ。
もちろんレベルだけではなく、戦闘技能が高いというのもあるが。
ナズナほど戦闘特化ではないが、僕でもこれぐらいの曲芸は出来た。
「オヤジさん、決まり事に三本同時に投げるのは反則とかになりますか?」
「いや、そういうのはないが……。いくら、なんでも三本同時に投げるはお勧めしませんよ。下手すれば一本も刺さりませんから。個人的にはちゃんと的を狙って一本ずつ投げるのがお勧めです」
「教えてくださってありがとうございます」
僕がお礼を告げると、改めて的へと向き直る。
左手に杖を持ち、右手だけで三本のナイフを持つ。
右腕を軽く上げて、振り下ろす!
トン!
三本のナイフが軌跡を描き、的の中心に同時に刺さる。
同時に刺さったため、音も重なり一つになった。
一瞬、観客達が驚きで黙り込むが、すぐに爆発したように拍手を送ってきた。
僕は照れくさくなりながらも、軽く手を振り答える。
ユメ、ナズナが興奮気味に僕へと抱きつく。
「凄い、にーちゃん! まるで曲芸師みたい!」
「さすがごしゅじ――ダーク様だぜ! めっちゃかっこよかったぞ!」
ユメの『にーちゃん』呼びは、年上の男性に向けてということで誤魔化せる。
ナズナはギリギリ『ご主人様』と呼ばず耐えて『ダーク様』と口にした。
観客達が雨あられと拍手を送っているため、その音で他者に聞かれることはないが、ナズナの対応力にはどうしても冷や汗が出てしまう。
「お客さん凄いですね。どこかでナイフ投げの曲芸師でもやっていたんですか?」
「いえ、ただ運が良かっただけですよ」
「いやいや、運でナイフを同時に刺さるとかありえないでしょ……」
オヤジさんの冷静なツッコミを笑顔で受け流しつつ、ナズナ同様に参加料と、賞金の合わせた倍額を受け取る。
「さて……次は自分の番ですね」
僕が一通り観客から拍手を受けると、次はネムムが自信ありげにオヤジさんへ参加料を支払う。
(自信ありげもなにも、ネムムは『奈落』最下層随一の暗殺者でナイフの扱いには長けているからな……)
僕の場合レベルのお陰で、ナイフを一度に的へと当てることが出来たが、ネムムはレベル以前にナイフの扱いに長けている。
なので当然、僕がやったように三本同時投げで的へと当てるなど造作もないが……。
彼女はオヤジさんからナイフを受け取ると、なぜか的へ背中を向ける。
さらに目を閉じて視覚を完全に塞いでしまう。
これには観客達も、
「おいおい、あのお嬢ちゃん、なんのつもりだ? まさかあの状態で投げるつもりかよ」
「しかも目を瞑っているぞ。変な所に飛んで危ないじゃないか?」
「めっちゃ可愛いけど、危ないから距離をとるか?」
「むしろ、あの連れの女の子達マジでレベル高くないか?」
ひそひそと観客達がざわめき出す。
ネムムは彼らの言葉を無視して、『はっ!』とかけ声と共にナイフを投擲!
ナイフを両手に持ち、ほぼ一斉に投げる。
ナイフは空中で大きく弧を描き、最初に一本がど真ん中に的へと刺さる。
さらに刺さったナイフの柄にナイフが刺さり、最後の一本も刺さった柄の上にさらに突き刺さった。
ナイフが押され、最初の一本の根元が深く突き刺さる。
まるで定規で引いたように3本のナイフが刺さって一直線に並んだ。
ネムムは投擲態勢のまま、キメ顔でしばらく動きを止める。
(す、凄い技術ではあるし、僕のようにただ高レベルだから的へ刺すことが出来た者と違って、ネムムのようなマネは出来ないけど……。最後の一本以外、ナイフの柄に傷をつけるようなマネをしてもいいのかな?)
最初の一本と次の持ち手部分が、結果的に壊れてしまっている。
商売道具を壊されたオヤジさんが怒らないか心配していると、ネムムが僕に対して得意げな表情を向けていた。
僕はそんな彼女に対して、どう反応していいか分からず困惑していると、オヤジさんが声をかけてくる。
「お、お客さん、よろしいでしょうか……」
背を向けていた状態のネムムは、どや顔のまま改めて向き直った。
「壊れたナイフ代を弁償して頂けませんかね」
「!?」
参加料と、賞金の合わせた倍額を受け取る気満々だった彼女は、驚きの表情を作った。
その驚き顔に店のオヤジさんが正論を告げる。
「的には確かに三本とも当たっていますが、商売道具のナイフを壊されたら困りますよ。こっちもこれじゃ商売になりませんから」
「確かに道理だな。済まぬ亭主、迷惑をかけた」
ゴールドが彼の発言を認めて謝罪し、相手から提示された金額を素直に支払う。
的からナイフを抜き、予備を取り出して、改めて店を再開する。
ちなみに三本的に当てた者がもう一度参加するのは禁止されているため、僕、ナズナ、ネムムはもう出来ない。
僕達は大人しく店から離れた。
ネムムは悔しげに歯がみする。
「ぐぬぬぬ……ナイフが壊れることまで想定していなかったとは……。これは完全に自分のミス!」
「『ぐぬぬぬ』ではないだろうが。今回の依頼は彼女達の護衛。主は姫様がお連れしたからともかく、護衛者であるネムムが率先して参加してどうする」
「くっ!」
ゴールドの指摘にネムムは悔しいが、まっとうな意見のため反論もできず悔しげに黙り込む。
そんなネムムにユメが声をかける。
「でもさっきのナイフ投げ凄かったよ。背中を向けて投げたのにナイフが、ぐにゃぁ~って曲がって的に刺さって。しかもナイフが一直線に並ぶなんて!」
「妹様の言う通り、ネムム、凄いな。あたいでもあんな繊細なナイフ投げなんてできないぞ」
「ユメ様、ナズナ様……ッ!」
ユメ、ナズナの励まし台詞にネムムが感動の面持ちを向けた。
その態度にゴールドが肩をすくめ、メイはメイドらしく控える。
僕は彼女達のやりとりを前に微苦笑をしてしまう。
――そんな僕の視界の端に顔見知りの人物が写る。
(!? エリオさん!?)
盛り上がるナイフ投げ屋に興味を抱き、ドワーフ街のダンジョンでお世話になったエリオが興味を抱き近づいてくることに気付く。
あちらはまだ僕達に気付いていない。とはいえゴールドは目立つため、すぐに気付かれるだろう。
(まさかお祭りに彼が来ているとは知らなかったな……。ユメ達が側に居る時に声をかけられるのは不味い)
ユメ達は護衛対象者だと説明は出来るが、知り合いのエリオと今出会ったら、今後どのような影響が出るか分からない。
僕は彼との接触を避けるため、近くにいるスズ、メラに念話で指示を出す。
(スズ、メラ、こちらに近づいてくるあの少年を遠ざけてくれ。後からゴールドに接触させるから出来れば宿泊場所などの特定も頼む。あくまで出来ればだ。知人だから、力尽くで聞き出すなんてマネはしないでくれ)
一応の念押し。
別にエリオを傷つけてまで宿泊施設を知りたいわけではない。
二人からの返事を聞いて、僕は満足そうに頷く。
とりあえず、二人が動いてくれるお陰で、僕達がエリオに気付かれることはないだろう。