作品タイトル不明
20話 竜神帝国側マスター セスタの過去と現在
セスタは気付くと、この異世界で孤児になっていた。
彼の記憶が確かならば、元居た世界ではただの学生で、趣味は猫、野鳥、ネズミなどの小動物をナイフで殺害、解体して遊ぶごく普通の一般人だった。
特に爆竹を大量に小動物の体内、体に巻き付けて着火、爆発する姿を見るのが大好きだった。
着火前、自身の死を感じ取り、懇願してくる瞳。
着火後の派手な音に飛び散る血、臓物、焦げた肉の臭いなど。
なぜかそれらが彼の琴線に触れた。
とはいえあまり派手にやると元居た世界の法律に引っかかり、補導されてしまうため、隠れてこそこそ小規模におこなうのがストレスといえばストレスだった。
しかし、現実世界では出来ないこともゲームではおこなうことが出来た。
ゲーム内部でならどれだけ派手に爆破させても捕まることはない。
お陰でモンスターや人、建物など生物、無機物関係なく、とにかく爆破させてきた。
ただ爆発だけではない。
限界一杯まで爆発物を投入し、どれだけ派手に吹き飛ばすことが出来るのか。
生物の場合、飛び散る血、臓物、骨など現実世界と遜色をなくすため、彼は独自にプログラミング等の技術を学びこだわった。
気付けば彼同様、爆発に魅せられた同好の士が集まり、わいわい楽しく交流を重ねることが出来た。
お陰で元いた世界では一度も人を殺害することはなかった。
だが気付くと見覚えの無いファンタジー世界で『セスタ』という名前で孤児院生活を送っていたのだった。
元居た世界ではゲームをしていた。
翌日、起きたら学校に向かうはずだったのに……。
さらにこの世界はレベル、ステータス、魔術などまるでファンタジーゲームのような要素が大量に存在した。
最初、『自分は頭がおかしくなったのか』と疑ったが、気持ちを落ち着けて自身の状態を確認するが、狂っている認識はない。
……狂人が自身を『狂人』と判断できる訳がないと言われたらその通りだが。
とりあえず、気持ちを落ち着けた後は、状況の確認、検証をおこなう。
( 恩恵(ギフト) 『爆弾魔』……?)
自分のステータスを確認すると、 恩恵(ギフト) というモノが存在していた。
恩恵(ギフト) について調べると……この世界は10歳になると、極稀に 恩恵(ギフト) が与えられるらしい。
(自分は運良くその 恩恵(ギフト) を得ることが出来たのか)
『爆弾魔』は名前の通り『爆弾』に関する力を持つ。
セスタは元居た世界では『爆発』に関して、趣味が高じ技術書籍などを読みあさり、専門家に負けないほどの知識を得ていた。
お陰でこの世界で自分以上の『爆弾魔』――爆弾、爆発などを上手く扱える者は存在しないという自負がある。
恩恵(ギフト) 『爆弾魔』に関しては、孤児院の誰にも告げなかった。
そして最初は孤児院を抜け出し、ネズミ、小鳥、虫などを捕まえて『爆弾魔』の実験をおこなう。
恩恵(ギフト) 『爆弾魔』は、セスタの魔力を『爆発物』に変化させることが出来る力だった。
虫に魔力をしみこませ、爆破。
最初は爆竹のような威力だったが、虫は粉々に飛び散った。
この最初の爆破を目にしてセスタは感動に震える。
「この力はなんて素晴らしいんだ!」
わざわざ爆発物を用意せずとも、魔力があれば爆破でき、爆発の威力も調整可能で、ある程度起爆をコントロールすることも出来るのだ。
爆発マニアからすれば垂涎の力と言えるだろう。
恩恵(ギフト) 『爆弾魔』の力に魅了されたセスタは、気付けば孤児院を飛び出していた。
成人になるまで待てず、セスタは孤児院という殻から抜け出したのだ。
さっさとレベルを上げて、 恩恵(ギフト) 『爆弾魔』でもっと派手に生物無機物問わず爆破したかったからだ。
セスタと 恩恵(ギフト) 『爆弾魔』の相性は良すぎた。
孤児院を飛び出して、数日でゴブリン、オークなどモンスターを爆破、殺害。
1年かからず、盗賊等をおこなう極悪人とはいえ人を楽しげに爆破するようになった。
さらに問題はセスタが『マスター』で、人やモンスター等を殺害するとレベルが面白いぐらいに上がったことだ。
レベルが上がると、 恩恵(ギフト) 『爆弾魔』の力も増大し、出来る幅が増えていく。
それが楽しくてセスタは罪人かそうでないかを問わず、大量に殺害するようになってしまった。
――結果、『C』によって殺害される。
殺害された後、彼は再び孤児として目覚める。
文明は以前に比べて退化していたが、 恩恵(ギフト) 『爆弾魔』はしっかりと引き継がれていた。
(さすがに前世は派手に遊び過ぎたか……。今生は目立たずレベルを上げるとしよう)
『C』という存在に殺害されたが、記憶はあやふやで、ただ『殺害された』という実感だけが残っている。
しっかりと恐怖心も覚えているため、以後、セスタは慎重に行動し、レベルを上げていった。
そして彼は竜人帝国側マスター達と偶然接触した。
彼らもセスタと似たり寄ったりの境遇だった。
また『C』の目的を聞かされて、セスタは竜人帝国側マスターの考えに賛同。
竜人帝国側マスター側も、セスタの 恩恵(ギフト) 『爆弾魔』の能力、何より彼が所持する『爆発についての専門知識』を欲した。
以後、彼は竜人帝国側に所属するようになる。
まずは恩恵の力によって水中行動に強い力を持つルカンの協力で、レベル上げをおこなった。
とくに海中のモンスターは地上のと比べて圧倒的にレベルが高い。
理由は不明だが。
長い時間をかけたこともあり、セスタのレベルは約8000を超える。
そして対『C』の作戦である『プロジェクト・A』が一段落し、セスタの担当分は一応の目処がたった。
お陰でこうして、『人種王国女王就任式典』開催中のお祭り騒ぎをしている人種王国首都を気兼ねなくぶらぶらふらつくことも出来た。
ぶらぶら歩きながら、出店や商店などを確認する。
(思ったより『巨塔の魔女』の動きが早いな。まさかランダムに配置した爆弾に気付いてもう対処しているなんて)
セスタが軽く口笛を鳴らす。
商人を通して、彼が爆弾付与した商品が街にランダムに配布されて、時間が来ると爆発。
それを合図に待機しているゴドー子爵嫡男が王城へと乗り込む手はずになっていたのだが……。
まさか気づかれて既に回収済みとは、セスタとしても想定外だった。
(これじゃいくら底上げした ゴドー&ファイト(馬鹿共) を使っても勝負は見えちゃって面白くないな……。しかたない、ちょっとてこ入れするか。やっぱりゲームは一方的では面白くないからね!)
彼は鼻歌交じりに祭りで賑わう表通りから裏道へとそれる。
セスタが向かった先は――
「おにいちゃん、これ本当に食べていいの?」
「もちろん。遠慮なく食べていいんだよ」
セスタは路地裏に入ると、孤児達を集め食事を振る舞った。
彼は人好きがする優しげな笑みを浮かべながら、告げる。
「今日は人種王国リリス様が、女王陛下だと皆に伝える大切なお祭りなんだ。折角のお祝いの日、君達も今日ぐらいはお腹いっぱい食べてもバチはあたらないよ」
「ありがとう、おにいちゃん!」
「ごはん、いっぱい!」
孤児院にも入れず、路地でたむろしている孤児達はセスタが並べる食事を遠慮なく口にしていく。
相手がいかにも悪そうな相手ならともかく、一見するとセスタは美少女のような容姿をしている細身の男性だ。
人好きする笑顔と、並べられた食事を前にお腹を常にすかせている孤児達が誘惑にあらがえるはずがない。
「君は体調が悪そうだね……。ならこれを飲むといいよ」
「けほ、ごほ……これは?」
「体の調子を良くするマジックアイテムだよ」
セスタは小さなアメ玉のようなマジックアイテムを差し出す。
「これを飲めば、体調が良くなるから。噛み砕かず、そのまま飲み込んでごらん」
「…………」
体調が悪い孤児に選択肢などない。
セスタの言葉を疑いつつも、このままでは後が無いため孤児はマジックアイテムに手を伸ばし口へと入れ、飲み込む。
――飲み込んですぐ、体調を崩していた孤児の顔色が見る見る良くなっていった。周囲で様子を窺っていた子供達も、その効果に驚きの表情を作る。
もっとも驚いているのは、服用した本人だが。
「か、体が痛くない! それどころか、すごく元気になってきた!」
「マジックアイテムのお陰で、君はもう二度と苦しい思いをすることはないから安心してね。さっ、皆と一緒にご飯を食べるといい。ご飯を食べ終わった子達も、今後、病気にならないためにもこのマジックアイテムを飲み込むといいよ」
先程まで体調が悪そうに咳き込んでいた孤児が、元気よくその場で飛び跳ね自分の変化に驚く。
その子の様子と、与えられる美味しい食事に孤児達はセスタへの警戒心が完全に失せてしまう。
彼の言葉に従い食事を摂り終えた後、今後病気にならないため、小さなアメ玉サイズのマジックアイテムを飲み込んでいく。
飲んですぐに活力が腹の底から湧き出て、元気になっていくのが実感できた。
お陰でより一層セスタに対する警戒心が薄れる。
彼は食事、マジックアイテムだけではなく、アドバイスもくれる。
「さっきも話した通り、今はお祭りの最中だから、元気になった子達はお花なんかを摘んで売るといいよ。お祭りの最中は財布の紐が緩むから、買ってもらえる可能性が上がるからね。お金はあって困るものじゃないでしょ?」
「ありがとう、おにいちゃん!」
「色々、教えてくれてありがとう!」
「気にしなくて良いよ。好きでやっていることだから」
セスタは嘘を一切ついていない。
子供達が飲んだマジックアイテムは、彼の 恩恵(ギフト) 『爆弾魔』で作り出した物だ。
飲めば一時的に活力が湧いて、気分が良くなり、元気にもなる。
さらに人体内部のため物理的に察知されにくく、本人の流れる魔力に隠蔽され、取り出すには外科的手術が必要になる。
こうして『一定時間経つと、またセスタの命令で爆発する人間爆弾』の完成だ。
(爆発死すれば二度と病気にも怪我にも苦しむこともなくなるから、嘘はついていないもんね)
またわざわざ孤児を狙ったのも、少し良い顔をすればマジックアイテムを疑い無く飲み込み、ちょっと唆せば、街中に散らばって花などを売るからだ。
これで『巨塔の魔女』に回収された爆弾代わりになる。
(さらに言えば、目の前で幼い子供が爆発死した場合、物理的被害の他にそれを見た人達の精神に傷を負わせることが出来る。そういう意味では本当に子供って便利だな)
少年兵士のメリットとして、『子供を殺すことによる精神的傷を負わせることが出来る』点が上げられる。
幼い子供の壮絶な死を強制的に見せられたら、通常の精神の持ち主なら心に傷を負ってしまうのは当然だ。
セスタはその点も狙って、孤児達を人間爆弾化させたのである。
(この子達だけじゃまだまだ足りないから、他の場所に居る孤児達も爆弾化するか。さて『巨塔の魔女』側はこの事態に気付くかな? 気付いてどんな反応をするんだろう。今から楽しみだな!)
セスタは表面上は非常に良い笑顔を浮かべつつ、さらなる孤児達を探すために歩き始めたのだった。